Deep

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 [Deep]



 暮嘴影留展
 一人の少女が小首を傾げて看板を見ていた。その子は15の年齢であり黒いワンピースに白いタイツ、エナメル紫の靴に紫のポーチを斜め掛け、ピンク色の爪を唇に当てていた。
「暮れの嘴は影に留まるって読むのかしら」
 ペールパープルとホワイトに色抜きされた髪は彼女の白い顔立ちを少し大人っぽく見せていた。毛先だけが淡いピンクだ。アカンサス模様の銀のサークルピアスが大きく覗き、顔を上げた。
 ここは閑静な住宅街であり、お洒落な自宅を一部改造してカフェにしているお宅が多い隠れスポットだ。その一角にはよくギャラリーがあるのだが、この看板もその一部だろう。少女は白い壁にこげ茶色のドアの前に来た。窓は無い。白い猫が木の横から出てきて彼女を見ると去って行った。少女は金のノブをひねった。
「………」
「こんにちは」
 クラシカルな空間は落ち着き払い、素敵な男の人が笑顔で立っている。
 少女、宗方琉璃は引き寄せられて入っていった。何か、素敵な香りがする。天然のグラス系だろうか。
「くれくちばしかげとめって読むんですか?」
「え?」
 男性は一瞬二重の目を開いてから微笑んだ。
「ああ、くれはしかげるです。一目で読める方もいらっしゃらないんだが」
「かげる? 素敵。それは人の名前?」
「僕の名前です」
 琉璃は「ああ」と納得して暮嘴を見た。
「何の個展なの? それとも演劇や演奏? ここには何も無いのね。作品とか、いろいろ」
「ええ。奥にご案内しますよ。僕は人形を製作しているんです」
「人形って可愛いの?」
「どうぞ……」
 漆喰の壁の先を見て、小さなドアを抜けた。
「わあ……」
 一瞬、琉璃は飲み込まれて足が止まった。
 そこはとても美しい魅惑の世界だったのだ。精巧にして繊細で、そして西洋的な球体間接人形達がいる。完璧な程にそれだからこそ魔が潜んで思えた。
「凄い……」
 琉璃は呆然として進んで行き、暮嘴はその背を微笑み見た。
「どちらからいらっしゃって」
「あたし……あたしはベルギーから。伯母がこの街にいて、よく日本には来るのよ。お菓子つくりが大好きな人で今は春休みでしょう? だからまた逢いに来たんだ。薔薇の時期も近いから、このあたりってどのお宅も凝った庭園で巡るのも楽しいの」
「ええ。確かに」
「暮嘴さんはこの街の方?」
「いいえ。普段はブルゴーニュに」
「フランス! 近いんだ」
「ええ」
「父がベルギーでギャラリーをいくつか持ってるんだけど、来てもらいたいわ。本当に素敵な作品なんだもの」
「それは良い。今度の機会を作ることが出来れば」
「あたし、琉璃。宗方琉璃っていうの」
「改めてよろしく」
「こちらこそ。伯母様は、人形には?」
「どうかしら。もしかしたら耽美な音楽とかが好きだから、好むかもしれないわ。それに、様々な悪魔の絵画もコレクションしているの。変わってるでしょう? 鉄のシャンデリアも好きで」
「それは興味深い方だ」
 琉璃はi-phoneを出すと暮嘴に見せた。
「アドレスとあたしのホームページを教えるわ。何かあったときはアクセスして」
「よろこんで」
 琉璃は可愛らしく笑ってから人形を見ていった。
 来る毎にギャラリーは内容を変えるから面白い。


 琉璃は伯母の邸に戻ってきた。
 門を潜って薔薇の蕾が色づき始めた庭園を進んでいく。洋館が聳え、そのエンタブラチュアに囲われた観音扉のベルを鳴らした。
 しばらくしてベンチに座っていると扉が男によって開かれた。未亡人の伯母がもつ愛人で、伯母と同じベルギー人の青年だ。彼は25の若さであり伯母は46だった。美しさは変わらないのだが。
「やあ。ルリ。どうやら誰にも浚われずに帰ったらしいね」
 フレンチで言う。
「ええ。さっきは素敵な人に出会ったばかりだったんだけど、王子様っていうのは微笑で姫を毒の杯のテーブルまで誘うものよ」
「ハハ」
 琉璃はエントランスホールを進んで行く。
「カフェ レ・デルンと古川さん宅の薔薇園近くに角のギャラリーがあったんだけどさ、そこですっごく綺麗で妖しげな人形展やってたんだ」
「暮嘴ね」
「………」
 琉璃は冷たく澄んだ声音に振り返り見上げた。二階欄干に手を当てた伯母ル・ミーシャが微笑して佇んでいた。群青と黒の間の衣服はゆったりとしていて裾が足元を隠す。金髪は小さくうなじ上で纏められていて、美しい口はしに生クリームがついていて可愛かった。
 ぺろりと彼女は生クリームを浚い舐め、歩いてくる。階段を下りてくると可愛らしい姪っ子に優しく微笑んで頬に手を当てた。
「彼の展示場へはあたくしも興味があるの。悪魔的な美をあなたも感じ取ったでしょう?」
「悪魔の人形か?」
「露骨にそれは表さないわ。それでも、彼自身がきっと人形にそれを重ねることもあるのでしょうね」
「生きて死んだ人形……か」
 琉璃は伯母の愛人シャルフを見た。
「聴いたことはあるよ。フランスの人形作家だろう。彼の人形は生きているって聴いたことがある」
「夜に喋り出したり動き出すの?」
「どういう意味かは分からない」
 シャルフは男らしくウインクして二人を庭の見渡せる場所にあるミニダイニングへ促した。
 エントランスには無いが、そこには美しい悪魔の絵画が飾られていた。いまはまだ緑の蔓の棘が鋭い薔薇がよく似合う悪魔で、光りさえも味方付けて制しゆるく微笑んでいた。向かいにはバルドゥング・グリーンのエヴァと蛇の絵画が飾られ、林檎の木も庭園にはあった。もっとも庭の林檎は小さくて普通に食べることは難しい。
 既に伯母が作るお菓子が並んでいて素晴らしい香りがする。彼らはそれをいただき始めた。
 琉璃は伯母こそは魔法使いなのではと思っていた。彼女がお菓子をつくる姿は今まで一度も確認したことはなく、伯母の趣味や姿からしてお菓子つくり、というものがどうも浮かばないから、不思議なところだった。
 琉璃はぼうっと庭と共に悪魔の絵画を眺めていた。容易に浮かんだのはあの人形たちだった。生きた人形。それはどういう意味だろうか? 薔薇の咲き乱れる庭園に彼女たちが微笑み白馬にのったり踊ったりする幻想。美しかった。それは昼の宴であり夜宴だった。
 琉璃は微笑んでいて、伯母がくすりと微笑んだ。


 毒蛾に麻痺させられたのだろうか、それらの舞う下に少女がいた。金の麟粉はきらきら落ちて、滑らかな頬を光らせる。丹念にウェーブかかる金髪にも。
 個室は真四角の空間で、漆喰は古びていた。椅子が一脚置かれて少女が魂が抜けたが如く座り、そして天井から吊る下がるランタンには大きな蛾が大量に乱舞している空間。部屋の隅には蛾が溜まり羽根を動かしたり止まったりしていた。
 明かりの燻る明暗は影を蛾が創作している。少女はただただ虚空の瞳は床を見ていた。涙が一筋鱗粉をまとって流れていく。
 ここに閉じ込められてどれほどだろうか。上方からは絶え間なく響く波の音とそれに紛れた微かなオルゴールと共にちくたくという時計の音。目の前の四角い硝子の板の先には見知らぬ世界が広がっていて、巨大な恐ろしい目がここぞとばかりに覗いてくる恐怖。その瞳孔が闇の吸い込まれる風に見開かれては彼女を吸い取ろうとしてくる。ここより暗い瞳へと取り込もうとしてくる様に思えた。それは普段は閉じ切り暗闇やもっと他の何かが訪れるときでなければ開かれない、水晶体という透明な隔たりで内側から叩いても出ることの出来ない眼球という名の檻なのだ。だが、誰もが悦として美しい少女を眺めて行ってはしあわせに微笑み見世物小屋から歩いていくのだ。
 彼女は名前をグランダと名づけられ、トゥシューズを履いていた。レースの衣裳は水色と灰色と白の薄い生地がふわりと幾重にも重ねられ、シルバーと水色の縦縞模様のコルセットはアカンサス模様が入っている。手首に青いシルクのリボンが巻かれて美しい手元を空間に添えていた。
 床から時々視線を上げて硝子越しの向こうに広がる世界を見つめる。それは緑が蒸す美しい世界に蝶が飛び交うときもあれば、薔薇の季節ここまでは香らない甘い香りを連想させるときもあれば、凍てつく真冬の雪世界を見せることもあり、秋の森を見せてくれることもあった。そのときはグランダもしあわせな気持ちになって風景を見つめ愉しんだ。問透明な泉がこぽこぽと湧き出て青を称え、そして緑が枝垂れる美しさに動物たちが現れることもある。青や銀の星がきらめく夜はクリスタルのような空気を感じ取ることもあった。
 時にサーカス団の道化師たちが演目を妖艶に魅せ、エレガントな巨大テントが炎に照らされ大きな影が揺れるときは心地よい魔を感じる。毒蛾はそのとき悦として空間を乱舞して舞い少女の視野を鱗粉で埋め尽くすかに思われた。それが振り切ると実に澄んだ情景を見せる。
「グランダ」
 どれかの蛾に話しかけられ、グランダは返事をした。
「はい」
「お前を見に来る虫の知らせを聞いたよ」
「どなたが?」
「美しい婦人と若い恋人の二人。あたし等も好きな感じの二人さ」
「へえ……」
 オルゴールの音に紛れて聴こえる声は、少女を木霊して取り巻いてくる。だから、全ての蛾が声を揃えていっている風にも思えた。
 硝子の向こうに巨大な蜘蛛が現われ脚を移動させ始める。また巣をはるつもりだろうか。
「だから涙を時にはお拭きよ可愛い子ちゃん」
「でも……」
 少女の腕はいつでも伸びずに、そして待つ。彼が来ることを。そのときは心から安心して、放って置かれすぎていることを訴えるのだ。彼、影留は彼女に優しくしてくれて彼女は彼が大好きだ。いつでも金の取っ手で硝子の扉はあけられる。金の鍵をさして。
 暮嘴はギャラリーの照明をつけると、二人のベルギー人を案内した。
 深夜にやってきた彼らはどうやら琉璃の伯母とその彼氏らしく、彼においしい菓子を持ってきてもくれた。香りの高い紅茶葉も。彼らは話をしながらアンティークのカップでそれらをいただき、そしてここへ進んできた。
「琉璃さんからは伺っておりました。本日も彼女にお礼のメールをお渡ししたばかりなんですよ」
 フレンチで言い、暖色照明のつく空間を歩いていく。
 琉璃の伯母は噂通りの魅惑の空間に感嘆のため息をつき、進んでいく。
「素敵よ。この世界観」
「ありがとうございます」
「本日はね、あなたの作品をうかがってお仕事を頼もうと思ったのよ」
 マダムは微笑んで振り返り、その恋人の青年は口端をあげて微笑んだ。彼女の腰を引き寄せる。
「あたくしはシャンデリアのコレクターでもあるんだけれど、そのシャンデリアに様々な形でドールたちを共演させたいの。だから、一度来て頂いてからね。硝子の箱に閉じ込めて斜めに鎖に吊るしてもよろしいの。それに明かりの間に座らせることも、ペガサスと共に跨らせることも」
 グランダは「閉じ込めて」という言葉に視線を落とした。美しい西洋のマダムは冷酷な声音をしている。姉妹は作り出されて閉じ込められるのだと。
「薔薇園の間に金の籠に入れられることもよろこばしい。白い石の東屋があってね。その場所だけは金色のシャンデリアが下げられているの」
 暮嘴はグランダの箱の前まで来ると、マダムが彼女を見て瞳孔が開いた。
「……この子、泣いている」
 マダムが言い、暮嘴も頷いた。
「出たがっているのですよ」
 マダムの恋人が首をかしげて覗き見る。
「声が聞こえるのか?」
 青年の目には人形は愛らしく俯いて見え、じっと母の帰りを待つお利口な子に見えた。それか踊りつかれて休んでいるときにも。箱の上部についている時計の上にペガサスが何体も回転して下部に回転するオルゴールはバレエ曲のもので、もしも黒髪で泉に立ち柳に囲まれる人形なのならジゼルが流されたことだろう。
「生きているのね」
 マダムは囁き、グランダはその言葉で思い出す。自分の作られたその理由を。
 あの時、影留は泣いていた。その心で作られた。人の感情を読み取ってしまう影留は感情が苛まれては苦しんで、一瞬で読み取ってしまう個人の苦しみを記憶から消し去ることが出来ずに人形にすることでしか開放をされなかった。子供を失った悲しみを抱えた女性が泣きくれて、そして哀願する教会での後ろ姿。そして横顔から覗いた瞳はどこまでも純粋にして透明だった。わが子を神の優しい国へ受け入れてください。どうかあの子を。祈り続ける母の肖像は、娘へのそこはかとない悔やみと悲しさと失うことになったやり場の無い感情と、そしてその女性の心は閉じ込められて見えた。祈りは光りをもって言葉が柔らかかった。それでも少女を失った心は同時に彼女自身のことも少女の心に帰してしまい死に捕らえられてしまった娘と悲しみに囚われてしまった彼女が一体化した。影留は教会でその女性の背に触れた司祭を見て、彼女はその司祭の腹部に泣きくれてしがみつき、そこはかとない救いを娘の魂へと送ってくださる様に願った。影留はその場を静かに去り、心には暗い闇だけが残った。
 そしてグランダは彼によって作り出された。開放のときを望めるのは、硝子の先に美しい情景や自然の世界を見せてくれるとき。
 他の多くの影留の人形たちはそれぞれ会話が出来るらしいが、硝子に隔たれたグランダはそれが出来なかった。時々、青い芝の上に箱から出されてレースのリードに手首からつながれた状態で座らされるときは楽しかった。人形としては俯いて芝を歩く昆虫を見ている。そして他の人形たちと会話をした。箱にいつときよりも大きく聴こえるオルゴール。それはペガサスがメリーゴーラウンドで回転して針金で繋がる蝶が飛び他のものの視線を愉しませていた。そのときは一目を盗んでグランダはトゥシューズの脚でくるくる踊った。曲に合わせて、踊った。金髪や裾を広げて優雅に舞える。
 グランダはマダムを見た。
「………」
 マダムは一度身を引き、グランダに微笑むと、グランダは彼女が不思議な方だと思った。まるで影留以外には見えはしないはずの彼らの動向が手にとって分かるかに思えたからだ。人は言う。影留の人形たちは生きているのだと、それを実感できるのは彼ら自身が感じ取った極致に陥った心と、脳裏と、それに取り巻かれた全身であり、記憶に雁字搦めにされたことと、そして恐怖であり悦びであり全ての彼ら自身の感情でもある。生きている意味は人により様々であり、実質的になにかを感じることもあるらしい。
 グランダは悟られまいとしてまっすぐを見た。マダムはグランダが気に入り、顔を上げる。
「あたくしには子供はいないけれど、なんとなく分かるのよ。様々な絵画を見ているとね、次第に分解されていくの。画家の感情、描かれたものの感情、時代や背景、薫りまでもが取り巻いて解き明かされて語りかけてくる。悪魔の絵画はどれもが人の心底から紡ぎだされた邪と美と背徳と全感情であって、悦と絶望と望みと空虚と闇と透明。影に潜む小さな小さな綻び。この子はきっと望みから作られた子なのね」
「泣いているのに」
「望みの裏側には涙があるわ」
「ああ。確かに」
 青年が顔を上げると暮嘴を見た。
「人形を数点作ってもらえるのか?」
「期間を要すしますが、フランスへ戻ってからの構想にもなります。お邸へ伺わせていただいて、それらを練りましょう」
 マダムは微笑んだ。
「どうもありがとう」



 グロッタは見られないがニンファエウムがある薔薇の蕾の庭園。
 月は水面に写っていた。
 マダムは恋人と共に宵を過ごしている。
 彼女は深い青の衣裳を着ていた。とても美しく薄いヴェールのエンパイアで金の縁取りがなされている。白い肩が出てはしなやかに伸びた。ゆったりとしたⅤはなめらかな白い肌を月光に晒させていた。

   蒼い陶酔を 貴方へ手向け
   あたしの指を 逸らさずに受け
   翳ることない 月の籠は
   幻想乗せ 扉開く 扉開く

   サライの窓 懐古 踊る
   波動受ける 彼の涙
   うれしくて泣く 嗄れぬ想いは
   サロメの愛 月の踊りに
   ロマの踊りは 蠍の毒を
   消して惑わす 虜になって

   暁の空 恋に唄って
   誉れの剣は 月に光って
   抱く男の 首に口付け
   雫の血潮 愛の雄たけび
   あげて微笑む 魅惑と影に

   ああ 近づいて
   さあ ここへと

   ああ 重なる
   この 共鳴             

 マダム、シュラウ・ウラガンジ・セトーは月に唄って若い恋人の顎を微笑み指でさすった。彼は微笑み指をふっと捉えるとなめては上目になった。可愛い彼にマダムはベンチに両肘をつき伏せ目で視線を落とし「さあ」と微笑んだ。
 シュラウは銀月の美しさが似合う。白い宮殿で蒼い夜、黒髪を流し横たわって手腕を掲げて月光を受ける様だった。蠍の毒ではない、薔薇の蜜を滴らせる様に。美しさに従えて
シャルフは足を急がせる青年みたいだった。笑顔で息せき切って。
 時間をゆったり過ごす。
 一瞬、影のいたずらか彼女の頭部に大きな悪魔の角が見えた気がした。
「古代の神々は、女神の美貌に熟れたものたちを称えては悪魔的に介してきたわ。神話での悪魔は全てが巨大な力を有するが為に神化されてきた。どの世界にも悪魔とも言うべき魔神は存在したということよ。それを生んだのは人が感じるそこはかとない巨大な物事への不安や恐怖。それを快楽に変え利用するものまでもいる。過去に起きた恐怖、心に抱える不安、それらが形を変えて人形師暮嘴の心を掴んで離さないのね。彼自身が虜になっている。人の心に住まう一瞬で覗きとった悪魔の肖像に。それを収めて創り出される」
「泣いていた乙女が印象的だった」
「もしも微笑んだ顔の彼女を作っても心は、オーラは泣いているわ」
「読み取られた人が将来笑っていても」
「その瞬間というのは、涙がある裏に大切な存在がいたということ。それを暮嘴は忘れはしない。彼の感情の記録簿の様なものなのではないのかしら。あの人形たちは。その存在が生きていた過去がある限り抜けはしないのね」
「古代のギリシア人が過去の恐怖を神々の話や女神たちに重ね合わせたことと同様に」
「神々は自然界への畏怖や敬愛の象徴。女神たちは人々の心の変化を如実に表す存在。だから女神や乙女には純粋もいれば怒りもいる。神話は教育材料でもあるわ」
「ラテンの国では不動の物を男に例えて移り変わるものを女で例えることからも古来からの女体、男体のなんたるかが位置づけられていたみたいだ」
「男は広く大きく巨大なもの。そして女は移ろいやすい感情であるからこそ堂々と構えた男が守り内包し、それでも女の懐の深さに人は海を重ねては胎児の頃の心地よさに女神の称号を与えるの」
 シュラウは早咲きのピンクの薔薇を浮かべたグラスの花を指先で回し微笑んだ。
「人の世界の女サロメは悦楽と誘惑と誘導と恍惚、そして動の存在であって魅惑の存在、女というものの素直な一面が表されているの。オスカー・ワイルドが彼女を幻想の踊り子にして魅了させた」
「彼は誰の心も掴むことが得意だ。悲しみの王子の話は少年の頃心を奪われたことがある。あの一途さと望み続けること、純愛と純粋さ、儚さに見た昔の面影と追憶の夢に見果てぬツバメの気持ちが分かるよ。失った過去の愛を掴み取りたいんだろう。その目下にある争いを知らずに上空から人を見下ろしてもツバメの世界は崩せないんじゃないか」
「感情の力はすごいのよ」



 トッカータとフーガに乗せて歌っている男がいた。それはゆったりと、しっとりと小さく爪弾く引き語りだった。元のトッカータとフーガのテンポも浮かばないほど優雅である。どこかそれの為に寂寥としてそして美しかった。

鏡に映る世界 星の夜は訪れ
純白の花が見る乙女の指先から
紡ぎ出されたはあの恋する人の及ぼす愛

泉に移る世界 白の太陽と青
木漏れ日の緑揺れ 柳が二人を見る
引き寄せあうのは 待ち焦がれた時間のきよらかさ

ゆらり揺られるのは……
影が及ぼすのは……

夜を通り越す愛 朝の光りにキスと
夜の内の秘め事 朝のヴェールに溶ける
ゆるやかに揺られ 声を囀らせる鳥の様に

 相手は白人でありさわやかな印象がある。甘い顔立ちをしていた。
 暮嘴はフェンスから見ていたが曲が続いたので聴くことにした。男の横には女がいる。黒紫のストレートヘアの女で美しい白人だった。毛先はペールパープルにしている。白いゆったりした衣裳が花の精霊の様だった。
 隣の宅には庭に小さな愛らしい女の子がシャベルで遊んでいる。白い太陽に照らされ微笑み依然歌う。
 少女が振り返り白い柵と柔らかな緑の潅木から来た。
 二人の白人が顔を見合わた。
「あなた、お歌教えて差し上げる」
 少女がうれしげに柵を潜って笑顔でやってきた。
「なんの歌?」
「いろいろ知っているのよ。覚えやすいの、教えてあげる」
 訛りのないフランス語で女は男に曲名を伝えて男はベルギーフレンチで受け答えて「ゆっくり弾くよ」とまで言った。意味を知ったら嘆くだろうか。それとも二人とも承知の上だろうか。
 女が美しい声でゆっくり歌い始めた。

 木の梢に揺れ動く三日月が
 泉に映ったあの世界から
 白鳥飛び星たちを目指すのだろう
 月光り受けてる羽根は柔らかく
 蒼い夜には
 春の記憶
 純白の花
 甘く薫りて
 月に並び羽ばたいた白鳥は
 夢の霧に霞む彷徨う雪原
 揺れる記憶は
 森のなかに
 揺れる葉陰は
 永久の緑

「綺麗なお声! ママもオペラが好きよ。お姉さんお名前なんていうの?」
「あたくしは、ヴィクティア・ル・トワ・グランジュランよ」
 難しい名前に少女は首をかしげていたが、男が言った。
「とわ、呼ぶと楽です。お嬢さんは?」
「私も斗羽(とわ)よ! ママが斗羽を産んだとき、夜で満月が羽根を広げたみたいに光がすごかったって。後輪っていうみたいなの」
「同じね」
 ヴィクティアが微笑み、少女斗羽も微笑んだ。
「お友達の親戚の子でね、ルリというお姉さんがいるのよ。深くて綺麗な瑠璃色の石みたいな瞳の母から生まれた子というお話」
 暮嘴はル・トワ・グランジュランが同姓同名なのか、親戚連では見たことがなく、そして寄り付かなくなった事から知らないだけなのかと思って女を見た。
「お兄さんはなんていうお名前なの?」
「私は、ブレウリいいます」
「いらっしゃい。甘いお菓子をどうぞ」
「ありがとう!」
 斗羽が椅子に促されて紅茶ポットから注がれると男、ブレウリが砂糖とミルクを入れてあげた。
 マダムシュラウの友人らしいので、きっとブレウリもシャルフも友人ではないだろうか。
 暮嘴は実は大の甘党で贓物という党賊を引きつれあの甘い甘いケーキの城に襲撃を掛けたかった。
 ヴィクティアが男に気づき顔を向けた。
「誰かいらっしゃってよ」
 フレンチで言い、ブレウリも見てきた。
「こんにちは」
 暮嘴が先に言いはにかんだ。
「まあ、こんにちは。あなたもいらっしゃい。庭を見にいらしたのね」
 暮嘴が改めて庭を見るとエレガントなつくりをしていた。
「素敵な庭だ。オペラをたしなんで?」
「ええ。趣味でね」
「しかし、フランスいるとき自分で舞台やる、素晴らしいです。アルテミス、サロメ、サド、カルメン、ボードレールや、サッフォー」
「どれも素晴らしいだろうな」
「わたしも見たいわ」
 斗羽が言い、車の音に振り返った。
「斗羽?」
 窓が開けられ銀のベントレーから母親らしい女が自宅の庭を見回している。出てくると頬に手を当てきょろついた。
「ママよ」
 斗羽が手を振り、彼女は驚いてから微笑んだ。
「マダムヴィクティア」
「おかえりになったのね。こんなに可愛らしいお嬢さんがいただなんて、初めてよ。知ったの」
「3日前まで寄宿舎に預けていたの。それで」
「なるほど」
「お邪魔していたのね。挨拶はしたのかしら」
「ええ。お名前を斗羽ってしっかり言ったのよ」
「それはお利口さん。この子を見てくれていたのね。どうもありがとう」
「ええ」
 隣の家族は娘をヨーロッパの寄宿舎に預け、月単位で旦那の出張でヨーロッパを飛びまわりヴァカンスや長い休みに日本に帰ってくる以外では滅多にこの家にいない。日本の自宅が別荘化していた。出張地によっては出来るだけ娘と過ごそうとその期間中寄宿舎から娘は家族とよく過ごした。
 母親が暮嘴を見ると微笑んだ。
「こんにちは」
「こんにちは。可愛らしい娘さんで」
「どうもありがとうございます。何か迷惑掛けなかったかしら」
「いいえ。とんでもない」
「それは良かった」
 ヴィクティアが言った。
「よろしかったら、今宵は宴をやるの。友人を募ってね。みなさん、いらっしゃらない」

 琉璃と伯母シュラウ、それに愛人シャルフと人形作家の暮嘴、ヴィクティアと弾き語りのブレウリ、斗羽の母親、霧と父親の香夜(こうや)が揃う。
「グランジュランの後妻」
 暮嘴は美しいヴィクティアを見てブレウリを見た。
「僕はグランジュランに一時期可愛がってもらっていたんだ」
「まさか人形作家で有名な方がこんなに色男で、しかもあたくしの夫の親族の方だっただなんて、導かれたのね」
 サルヌ香夜を見た。彼は一家で琉璃と話している内容は星に関することだった。星になぞられたオペラの話やオペラの中の天体の表現についてを話している。興味深いことでもあった。サルヌ香夜は父親が中東の出でスペインハーフでもあったらしく、実に魅力的な男だ。名前からも夜の香炉が浮かぶ。それもヨーロッパに昔ながらの製法によるナチュラル系の香水や美しい香水瓶を卸す仕事をしているらしい。
「シャンパーニュのあの夕陽を忘れられないよ。彼は今でも姉と共に立ち寄ると僕を可愛がってくれる」
 そこで初めて彼らが姉弟だと分かる。
「僕の部屋に彼の人形が製作してある。処女作に頭部を最近変更したものだよ」
 シュラウとシャルフは今、二人で庭の泉のところにいた。二人は夜が似合う。
「バレエ楽曲のジゼルには、青や銀の天体描写は欠かせないと思うの。梢の影から覗く夜空の神秘がね。幻想の湖は忘れられてはいない美しい女たちの幻想であって霧の先のロマンスよ。もう叶わない死の世界と男たちの世界を繋げるのは美しい天体、林から垣間見る情景」
「マドモワゼルヴィクティアが得意とするサロメも天体を仰いで妖しげにタンバリンを打ち鳴らして踊るわ。あたし、感動したの。ベルギーに住んでるんだけど彼女の踊りのファンで恋人とも観にいくんだ。その時は鋭い青の星が大粒に瞬いていて、今にも魔の息吹が吹き荒れてららら歌うのよ。サロメが悦に浸って耽美に微笑むの」
「サロメってなあに? 琉璃」
「女の人よ。気に入った男の人を自分のものにするの」
 琉璃はi-phonを斗羽に見せた。サロメが踊っている絵画だ。
「この絵、斗羽知っているわ! 寄宿舎でおなじレーモンの伯母様が好きな絵なの。男の人の生首を火の回りで乱舞したあとに食べてしまったんですって、聞いたの」
「ホホ、その伯母様は面白い方」
「清純のユディトと魔女のサロメは発見の神聖な悲しみと望みの及ぼす恍惚の生首がもたらす愛としての二面性によって頭部崇拝によった画家の性質、ないし物語製作時の背景がある。サロメの時代は既に欲望耽美を花開かせる時代であってユディト伝説の時代は人の生きるうえでの哲学考察と戦があった。悦と悲哀に対するにはどちらも正を貫くか愛を貫く勇者たる強健の男だ。女の及ぼす静と動。静には深い悲哀と愛。動には性欲と歪んだ愛。どちらにも愛なくば生首は求められてはいない。そして軸になるのは生首にされた地獄での魔物たち行いと、生首にさせた魔女アフロディテ。乙女たちはそれらに翻弄されて一方が寂寥に浸り一方が自己の耽美を完成させた。魔物たちは食欲を持って、アフロディテは呪いの達成を持って」
「世の中は欲望快諾型の悦楽なサロメタイプか運命受け入れ型の清純なユディトタイプ、救いを改めさせるヨナカーン型の男と危険もものともしない愛を救う勇者型の男、邪念に満ちて計略的なアフロディテタイプと地獄で好き勝手をする魔物タイプがいるっていうことか」
「俺たちはどのタイプかな」
 香夜が言い、微笑した。エキゾチックな息吹を感じるものだ。霧は娘斗羽が琉璃と楽しげに話しているのを横目をくれて微笑み香夜を見る。
「逸話の様に勇敢な殿方と、マゾッホタイプの女に従うタイプの男もいるのよ」
 霧が囁いて言い、白鳥座の話に夢中の斗羽には聴こえない声音だった。
 及ぼすものは形に表されて自己表現をする程に至る後遺症の欲望だ。歌か人形かの違いだけで、その陶器の肌を打ち割ったり楽器の弦を切れるほどにかき鳴らせば狂おしい望みが渦巻いている。
「ねえパパ。琉璃にあのお話してあげて。薔薇とペガサスのお話。琉璃。薔薇の世界に夜、ペガサスが降り立ったの。風が香りと花びらをのせてペガサスを呼んだんですって。薔薇の乙女は蛇の毒に体内を浸されていたんだけれど、ペガサスが銀色の血を注ぐと彼女は目を覚ましたわ。薔薇と蛇の棘と毒が月光に照らされて乙女がペガサスに乗って満天の星空へ流離ったのよ」
 斗羽がその話がどうやら好きらしく全て話すと微笑んだ。
「ペガサスは女神アテネの怒りをかった美しかった女メドューサが蛇女の呪縛から死を持って開放されたときに流れた血から生まれた白鳥の羽を持つ優美な白馬だが、それは苦しみに生きた女メドューサの生まれ変わりだったんじゃないかな。勇者がどちらにしろその悲しみに幕を下ろしてくれたのかもしれないが、それを思うといずれも女が心の弱さを、男が暴力をもってしても優しさや救いをと神話になぞらせて古代の者たちは言いたがっていたんだと思うよ。男たちはその時代から女の極めて美しい容貌を称えつつも畏怖していたからこそなんだろうね」
「日本には十人十色という話があったり、神秘めいた占いが謙虚に信じられている場合もあるんだよ。西洋ではおおむね、魔女の助言やタロット、ペンジュロムでの方向性が行われているけれど、日本ではとりわけ占星術や血液型、干支や手相などで性格が心理的にも統計的にも図られているんだ。他には欧米では色による性格や右脳、左脳かの違い、他にもオーラから来る判断もされている。人は他の人との争いを避けるためにもそれらが研究されてきたんだろうな。自身のことを知ることで悩みが解決されることもあるからね」
「血液型で? それは医療的に関わる以外で何かがあるの?」
 ヴィクティアが意外にも言った。向かいの席はヴィクティアが主席にいるのをブレウリ側からシュモアのいた席をひとつ開けて琉璃、斗羽、霧が座っている。
「面白いのは、それらのことは信じるのは基本的なものだけの方が良いわ。あまりに決め付けられた型にはめ込むのは運命を見逃す。直感的に生きることや感じ取ることも大切だけれど、それらに生きてきてやはり行き当たってみると当てはまる場合もあるから。それにね、もしも弱い性質の人でも偽って教えておくことや何もそれらの情報を漠然とでも入れずに育てられることではやはり性質が異なっているの。開放的だったり家庭環境でも違ったり。それらは他の家族の性質に隠されて決められた占いでのキャラクタよりも弱くなる場合もあるわ陽の力が強い家庭では陰の子供も極めて陽であったり、一人だけ異質で疎外感をもったり、極めて陽の性質を持ち合わせているというのに陰の母親の元では性質のマイナス点ばかり引き出されてしまう。けれど陰の存在も世界の落ち着きや静寂、冷静さには必要でね」
 霧が言うとヴィクティアが聞いた。
「あなたはどういった風なの?」
「天秤座のA型、干支というのは12種類の動物に人を12年の間隔で分けた12の月からなる占星術よりもおおまかな分け方の性質の分類だけれど、それは未ね。あたしの場合、衝突を避ける天秤座にも関わらず思ったことは本をただそうと言う性格よ。ただ、猛獣系だと強く人は感じて小動物系だと人は静かだったり弱く感じる。だから元から干支を知らない場合の国とはやはり何かしら違うところもあるでしょうね。干支は一般的に知られていても性質は知るものは少ないし、そして意外にもやはり他でも当てはまるものなのよ。そしてどの性質にもいえることは他の性質も交じっているから信じる人は少ないこともあるの」
「統計というもの? それが決められているのか。じゃあ、ひとつの同じ性質同士が集まってもそこからまたそのエトや占星術で分類して判断することが出来るんだな。衝突をしないためにもそれも必要なのかな」
「へえ。それじゃあ、信じる余りに計算して産む人もいるんじゃないかな。あたし、O型で水瓶座で干支は戌年よ。今までの統計を出してきた人たちって、たとえば古来ギリシャの人とか武将や王ってどうだったのかしら」
「言えることはサダム・フセインやヒトラーは自己の世界を確立して排他的な独裁者だけれど、牡牛座ね。それも、略奪という部分では男でいう美しい物好きのゼウス型ではないかしら。女の牡牛座は一変してエウロパにもいえる様に不動のヨーロッパの大地に帰ったとしても性格にそれが現れて他から動かされる性質。それらが他の性質も重なり合って、千差万別、十人十色にもなってひとつの肖像では計り知れないそれらしくない性質や隠された驚きが見つかるというわけ」
「恐ろしいものね。古来の人はそれらを如実に当てはめていたということは、やはり古来の王や騎士にも牡牛座に凶暴な王もいたのかもしれないわ。天体の星と神話は人が作り出したロマンだけれど、当てはめ方が美しい」
「古代の人はゼウスに様々を当てはめたものだな。彼らのいう望みを全て詰め込んでる」
「ハハ。確かに」
「影留は?」
 一瞬モンマルトルのメリーゴーラウンドの世界で巡り巡るエレガンスがあの静寂の青年、パリの日本人モデル涼を佇ませた。首筋に奇妙で不気味な痣がある青年。呪縛からまだ開放されてなどいない涼。
「僕は……なんだったかな。こだわらないからよく知らないんだ。9月上旬生まれで、パスポートの血液型はAB型だけど干支は知らない。心奪われる色は黒かな」
「影留は乙女座よ」
 琉璃がテーブル上の美味しいお菓子に手を伸ばしながら言った。どれも美しい菓子揃いだ。暮嘴は既に相当量を食べて党員の欲望を充たさせていた。
「乙女か。女々しいからいけないのか」
「ふふ。鋭い繊細さは美を産むかもしれないわね。それに競争の世界でもある芸術では乙女座の隠された性質も必要かもしれないわ。AB型の独創性もあるわけだもの」
「もしもそれが違った、A型で他の星座だと言っても他の部分で当てはめられるのかもしれない」
「だから信じない人もいるの」
「統計というものは、蝶の移ろいよりも不確かなのかもな。人の感情が関わる以上、まとまりが無い」
「スズメ蜂の如く直球さも兼ね備えるのが人だけれど」

 花の蕾が色づいて
 春に咲いたら香るから
 蜜蜂が蜜を吸い上げ
 蜂のお家に入ってく
 ベイビー育てる蜜蜂が
 甘い蜂蜜をあげたら
 女王蜂から褒められて
 それでまた花を愛でに行く
 春のお空は花彩って
 それはとってもいい季節

 蜜蜂の侍女が赤ちゃん育て
 蜜蜂の女兵が巣を守り
 蜜蜂の花娘が蜜を獲る
 蜜蜂の女王蜂の子生んで
 蜂蜜の城を作るのよ

 誰もが隠し持っている懐の短剣しのばせ
 六角形の小窓要塞から上目で
 敵を伺っているのよ鋭い目で

 誰もが同じ黄色と黒の衣裳と
 透明なヴェールめいた羽根に茶色のファーを首に巻き
 舞踏をしている城の周りで音を奏で大きなつぶらな目で

 花びら綺麗に色づいて
 春に咲いたら香るから

 春のお空は花彩って
 それはとってもいい季節……

Deep

Deep

[Doll] の後の物語。

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2013-12-19

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