花弁落つる、華【終わる世界の戦闘少女】
twitter企画の終わる世界の戦闘少女の中でダウト(@DDDDoubt)さんのところのイリヤさんと藍里(@nhairi___n)さんのところの亜莉紗さんをおかりして小説を書きました。死にネタがあるので苦手な方はご注意下さい。
「花って綺麗ね」
道端で、路地裏で、瓦礫にまみれたこの世界で、小さな花を見つけると彼女はそう笑った。もしかしたら彼女は自分に感化されたのかもしれない。スナイパーと言うのは視線に敏い生き物だから。
そしてそう微笑う彼女もまた、綺麗だと。――そう思ったが、そんな言葉を口に出せるはずもなく。イリヤはそうだね、と重ねて笑った。
※ ※ ※
酷い惨劇だった。
羽化した蝶が一斉に羽ばたくように、鳥が一斉に渡りを始めるような。そんな光景だった。
しかし、そのモノはそんな美しいものではなく。
この世界で、まだこんなにも生きていたのかと、嘆くように。
見渡すかぎりのオス、オス、オス。
スコープ越しで見える世界の内の生き物たちは全て、戦っていないものなどおらず。ほかには瓦礫と死肉だけが散らばるようなそんな世界で。
暴言を吐くだけ吐いて、無線を使って、仲間たちと情報を共有しながら、だんだん前線が下がっていくのをこの目で感じるだけなことは、もどかしく。そんな焦燥が少しだけ引き金を早く引かせてしまう。それが結果としてオスを倒し切れず、それが更に焦燥へとつながっていた。
<どうしたのよ!今日はらしくないわね!>
叱咤を装った自分を心配する日本語に、イリヤは笑って、絞った的を撃ちぬいた。的は倒れ伏す。前線で戦っていた戦闘少女がお礼を言うように片腕を上げ、次の目標へと駆け出していった。
「いや…大丈夫なようだ…有難う。亜莉紗」
焦燥も震えも止まった。まずい戦況は何も変わっていない。このままでは自分の命すら危うい、とそんなことを理解はしている。それでも、掛けられた言葉が嬉しくて。紛れも無い自分だけに向けられたその言葉をイリヤはそっと心にしまう。
「……部隊が後退するようだ。――いけるな?」
Yea.と間髪置かず響いた彼女の言葉に後押しされて、装填した弾丸を放つ。
※ ※ ※
どうしてこうなったのか。それはそういう運命だったのか、ただの不運だったのか。
オンナたちの防衛戦は実際の所、勝利、といっていいだろう。副詞をつけるなら、辛くも、というところか。
討ち漏らしたオスの群れ――それもまた不運と言うべきか、素早いモノ達で――が逃げ場を求めるように、その健脚で塔へと登ってきたのだ。そして選ばれた塔は、自分が居たその場所で。
壁を伝って登ってくる十数体の群れの内の数体を撃ち抜き、それでもまた登ってきたそれらを相手にするために、"念のため"持っていた刀を引き抜く。――前線はまだ戦っている。増援は見込めない。
何故か恐怖はなかった。選ばれた建物が"彼女"の場所でなかったからか。
ありがとう、と何処かに祈り亜莉紗は刀を"それら"に向ける。
――覚悟は決めた。
最後くらい綺麗に散ってやる。そう笑って、亜莉紗は自棄糞のように刀を振るった。
※ ※ ※
イリヤがその異常に気がついた時、もうすでに変えられない運命がそこに存在していた。
スコープ越しに見える彼女は、長い黒髪をなびかせながら小型の素早いオス達と戦闘していた。前線はもう大丈夫、と判断し、彼女の増援に向かうようにと無線に理不尽に言葉を吐きかけながら、銃弾を放つ。立ち止まる事無く動きまわるそのオスと狙撃銃は相性が悪い。
案の定、その弾丸は獲物を捉えることがなく、彼女の塔を過ぎ去った。
「亜莉紗!!…聞こえるか!亜莉紗ッ!!」
彼女の無線からは、オスの喚き声ばかりが届いて。彼女の声は聞こえない。スコープ越しに見る限りだと、すでに無線は彼女の手の届く範囲にはないのだろう。
引き金を引く。
倒れない。
彼女の一線がオスを捉える。
倒れない。
引き金を引く。
一体仕留める。
彼女の髪にオスが噛み付く。
次の瞬間、何も惜しむ様子も無く、彼女は大切に伸ばしていたはずの髪を切り落とす。
数束の黒髪が風に乗って、塔を離れる。
その間にも数発の弾丸を撃って、ソレでも更にオスを倒せることはなく。イリヤの顔は苦渋に満ちる。――見ているしか、できないのか。
最後の弾丸。これを撃ってしまえば装填に暫くの時間をとられてしまう。
そう思うと、また手が震える。
スコープ越しの彼女がこちらを振り向く――スナイパーと言うのは視線に敏いものだ。
まだ十体程残っているその状況。それ以上倒せるはずもなく、亜莉紗は屋上の端に追い詰められていて。――後がなかった。
お願い。
そう言っているように見えた。
何を…、と乾いた喉が鳴る。
お願い、と。
自分に何を頼むつもりだ、と浮かんた答えをかき消すようにイリヤは思考する。
お願い、イリア。
私を、撃って。
「――あああああああああああああああああああああああ」
赤い花弁が墜ちる様を、イリヤは確かにその目で確かめたのだった。
それすら――綺麗だ、と。その思考が脳裏をかすめ。
しかし、イリヤは”綺麗”を言う相手を永遠に失ったのである。
花弁落つる、華【終わる世界の戦闘少女】
亜莉紗さんの死にネタについては、藍里さんご本人に特別に了解をとった上で書かせて頂いてます。亜莉紗さんに関しては「欠損、死亡、著しいキャラ崩壊を避けて頂ければ基本的にフリー」がデフォルトらしいのでご理解ください。