いつからだろうね。周りに合わせて本当の自分を見せなくなってしまったのは。僕は辛かった。悲しかった。それでも僕たちに優しくしてくれる君が好きで、好きで、大好きで、どうしようもなくて、願ったんだ。どうか、彼女を幸せにする術をください。そして僕は夜の間だけ彼女の前に現れることを許された。夜の間だけといえども、自由に動けることが嬉しかった。彼女に、会える。好きだと言える。あらゆるものから守ることができる。でも、それだけじゃ物足りない。もっともっと彼女のそばにいきたい。もっともっと彼女がほしい。もっともっと・・・
始まりの魔法
-さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。稀代の奇術師、松旭斎天一のマジックショーだよ
真っ紅な月が空を染める夜。少しだけ、不思議なことが起こる満月の夜。魔も人も、すべてを惑わす怪しげな月を背に、僕は彼女の前に立つ。やっと会えたね。この日をずっと待っていたんだ。僕は、彼女をさらうためだけに、今日この舞台を用意した。
-今日はこの摩訶不思議な黒い箱に入れたものを、何でもきれいさっぱり消して見せましょう
僕は、君の目にしか映らない。でもそれを嘆いたことなんてないさ。だって、僕は君だけのものだと思えたから。でも、君は誰のものでもないんだ。それが悔しくて、僕はマジックをかけることにした。確実に、僕のものにするために。
-僕のマジックを手伝ってくださる心優しいお方は・・・
そう言うと彼女に向かって笑いかける。さあ、いよいよだ。怖いことなんて何もない。全てから僕が守ってあげるから。こっちにおいで。君は今日から僕のものだ。君は今からすべてを忘れて、僕と明治時代に行く。そしてそこで、僕と恋をするんだ。
-この可哀想なお嬢さんの運命やいかに!
大丈夫、何も心配しなくていい。
-3
すべて忘れたって、僕は君が好きだ。
-2
そして君も僕を好きになる。
-1
さあ、僕と恋をしよう。