短編・超能力の部屋 『梨緒と整形』

短編・超能力の部屋 『梨緒と整形』

 今日もなんでも屋「possible」には、ゆったりとした空気が流れていた。悪く言えば閑古鳥が鳴いていた。

 従業員の三人がこうやって揃うことはそう珍しくもない。依頼が大量に来る日もあれば、めっきり来ない日もある。今日はどうやら後者のようだ。

 「暇ですね…」思ったことを率直に言う。

 「そうだな~…」弦さんが回転椅子にだらんと座りながら応える。

 「まぁ、忙しいよりはいいよ」梨緒が携帯電話を見ながら応える。

 「そういえば、中西さんはどこ行ったんすかね?」ここの社長である中西のみが不在なことは珍しいことだ。

 「お得意先だと思うよ」

 「へぇ」

 …暇だ。仕事がない。

 事務所の扉が急に開いて、ものすごいやりがいのある依頼が来ないかな…。

 そう思っていると、その考えを悟ったかのように扉が開いた。

 「いらっしゃいませー」弦さんが姿勢を正して言う。
 
 入ってきたのは制服を着た女子高生だが、顔は厚化粧をして、髪は茶色く染め、スカートは膝の遥か先まで上がっている。想のあまり得意ではない部類の人間だ。

 「ここってなんでもやってくれるの?」女子高生がすこし不機嫌そうに尋ねてきた。

 「限度はありますが、なんでもやりますよ」弦さんが定型文で返事をする。
   
 「じゃあ私を整形して。」

 急な注文に一瞬聞き間違えたのかと思った。しかし、確かに『整形して』と、女子高生は言った。

 だとしたなら、何故ここに来たのだろうか…。もっと良い選択はなかったのか…

 「えっと、もう一回いいっすか?」梨緒が苛立ちのムードを放ちつつ聞き返す。

 「だから、私を整形して。なんでも屋なんでしょ?それぐらいやってくれるよね?」女子高生は威圧的に梨緒に言った。

 たまに来る迷惑な客である。「なんでも屋」というものを大きく捉えて、自分たちにできないようなことを依頼してくる客である。これだけなら、まだ可愛いものだが、できないと答えたら顔を真っ赤にして責め立てて来る、いわゆるクレーマーの類の客もいる。前は弁護士を頼まれて、断ったら「訴えてやる」と脅してきた客もいたらしい。

 その言葉を言われた梨緒は「とりあえずこちらに座ってください」と、応接スペースのソファーに誘導する。

 女子高生が座ったとたん、梨緒は「まず、何で整形したいんですか?」と、質問をした。

 「綺麗になりたいからよ、当たり前でしょ?」女子高生が当たり前のように応えた。

 その応えを聞いて梨緒は頭を掻いた。梨緒は苛つくことがあると頭を掻くらしいが、そういうことなのだろうか。

 察知したのか、女子高生が「何?なんか文句あるの?」と、ふてぶてしく言った。

 「いいえ、何でも」平静を装っているが、よほど鈍感でなければ苛ついているのが分かるほど梨緒は苛ついていた。

 警察の取り調べを彷彿とさせる雰囲気になってきた。

 応接スペースから少し離れた自分のデスクからやりとりを聞いていた弦が「おぉ、久しぶりに来るか?」と呟く。

 「久しぶりって、何がっすか?」弦さんに目を向ける。

 「まぁ見てなよ」弦さんはなんだか楽しそうだが、本当に大丈夫なのだろうか?

 「いい加減にしなさいよ…」

 うっすらと聞こえた声に嫌な予感を感じ、梨緒がいる応接スペースに向き直る。

 梨緒は素早く腕を女子高生の顔に向け、そこで指を鳴らした。

 止める隙を与えないスピードで能力を使ってしまった。

 「ちょっと、何やってんの!?」止めに入る。

 「あんたは黙ってて」一言で制された。

 弦さんに助けを求めようとしたが、弦さんはこの状況を良しとしているようである。

 女子高生は状況が読み込めず、不安と怒りと驚きの混じった表情をしている。

 「ちょ…ちょっと何よこれ…」女子高生が手探りで梨緒を探すが、全く見当違いな場所を探している。どうやら視覚を奪われたらしい。

 「いい?今あんたが体験している状況をずっと抱えて生きている人もいるの。確かにあんたの自由かもしれないけど、どれだけそれが贅沢なお願いかって分かってるの?」

 その言葉を聞き、女子高生は黙った。何を考えているかは分からないが、話は真面目に聞いていているようだ。

 「整形整形言ってないで、もっと自分から変われるもの探しなさいよ」

 「余計なお世話だっつうの…」女子高生は、またふてぶてしく応えた。



 女子高生は視覚が回復すると「もう、あんた等には頼まないわ」と言って、そそくさと帰ってしまった。彼女がどう感じたかは分からないが、多分納得してくれたのではないだろうか。そう信じたい。

 「梨緒ォ、くっせェ~なァ」弦さんが笑いながら梨緒に言う。

 「うるさい」梨緒はぴしゃりと言った。

 「あれって本心なの?」と梨緒に訊いてみると、梨緒は鼻を一つ鳴らして「んなわけないじゃないの」と、意外な返答をした。

 「あれねぇ、断り文句みたいなもんよ。高校生のときにあぁいう事言われたのよねぇ」

 「は、はぁ…」唖然とする。

 さっきの感動を返してくれ。

短編・超能力の部屋 『梨緒と整形』

 「ただし、あぁ言う奴は嫌いかな」

 「で、ですよね~」何故か敬語になった。

短編・超能力の部屋 『梨緒と整形』

なんでも屋の日常のようなものです。 本編も読んでいただけると幸いです。

  • 小説
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  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-14

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