泥棒サンタ

今日は12月25日。部屋の中で一人思い出にふける。

「お兄さん、だあれ?」
「お兄さんはね、サンタクロースだよ」

 幼いころの記憶をたどるといつもあの人の顔が出てくる。

「サンタさん?」
「そう、サンタさん」

 ずっと部屋で一人だった私の初めての友達。

「サンタさんっていい子のところにしかこないんじゃないの?」
「そうだよ。お城ちゃんはいい子じゃないのかな」
「私は悪い子だから、サンタさんはこないんだよ」
「そうか……。だけどね、お兄さんはサンタだけどサンタじゃないんだ」
「? どういうこと?」
「お兄さんはね、泥棒サンタなんだよ」

 今思えば、幼い私をあやかすためのウソだったのかもしれない。

「泥棒さん?」
「そう、泥棒」
「だけど、サンタさんの格好してるよ?」
「そう、サンタの格好をしている泥棒だから、泥棒サンタ」
 
ウソだったとしても、あのときの私は嬉しかった。

「じゃあ、何か盗んでいくの?」
「そうだよ」
「何を盗むの?」
「君かな」

 私を盗み出すと言ってくれたあの人。

「私……?」
「そう。俺は泥棒サンタだからね、欲しいものは何でも盗んじゃうんだ」
「サンタさんなのに?
「サンタさんなのに」
 そこで会話は一度途切れた。
 しばらくして、泥棒サンタは口を開いた。
「俺は今から君を盗み出す。それは泥棒としてだ。だけど、俺はサンタでもある。君の願いを何でも叶えてあげよう」
「なんでも……?」
「なんでも」
「じゃあ、――」
「……そんなのでいいのか」
「うん!」
「そっか。では今から君を盗み出そう」

 あれから、10年の月日が経った。
 幼かった私は、成長し歳も10を半分越えたところだ。
「……今年も来ないのかな。サンタさん」と呟いたその時だった。
キィと窓が開く音が聞こえた。
「泥棒サンタ、10年の月日を超え、あなたを盗みに来ました」
「約束きちんとまもってくれたんだ」
「約束はしっかり守る。でなければ、泥棒もサンタも失格だろ?」
「えぇ、そうね」
「今日はどんな願いをするんだ」
「……ずっと私だけを盗み続けて」
「いいだろう。その願い叶えてやる」
 そう言って彼は、私の顔に近づいてきて――、
 コツコツ。
 廊下を誰かが歩く音が聞こえる。
「……残念だが、この続きはまた別の場所で」
「本当に残念ね。でもそのほうが盗まれがいがあるってものよね」
「なかなか言うようになったじゃねぇか」
「あの頃の私とは違うわよ」
「そりゃそうだ。では、行きますか」
「えぇ」
 そうして、私は彼に盗み出された。


「じゃあ、私をここから連れ出して」
「……そんなのでいいのか」
「うん!」
「そっか。では今から君を盗み出そう」

「……これが外。これが雪。これが家」
「初めて見るのかい?」
「うん、ずっとお部屋の中で一人だったから」
「そっか……。じゃあ、少し高いところまで行こうか」

「ここは……?」
「屋根の上」
「屋根……?」
「そう。ここからならいろんなものが見えるだろ」
「うん!」

 ゴーン、ゴーン。

「……12時か」
「どうしたの……?」
「すまないが、俺は帰らなくてはならない」
「……どうしても?」
「あぁ、どうしてもだ」
「そっか……。じゃあ、もうひとつだけお願いしてもいい?」
「あぁ、いいとも」
「それじゃあね、またいつか




私を盗み出して

泥棒サンタ

泥棒サンタ

少女は部屋の中で一人だった。彼が現れるまでは…。 サンタの格好をした泥棒の彼が現れるまでは

  • 小説
  • 掌編
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更新日
登録日
2013-12-14

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