朝顔観察日記
自由研究だ!
自由研究といえば、朝顔の観察日記。
半ば強制的に。
全然自由ではないのだ。
では、スタート!
種をまいた。
そして、なななんと、水をやった。
この私の優しさに、朝顔もいつもより2~3日早く芽を出そうと、すでに体作りから始めている事だろう。
さらに、あろうことか日当たりのいいところに置いた。
素晴らしい、素敵過ぎる私。もはや朝顔は私に一生尽くしてくれることだろう。
観察日記1日目終り。
これの凄いところは、何の変化もない時も観察結果を書かなければならないということだ。
ただ土があるだけ、しかしそこに何物かを見出し、自らの人生と照らし合わせなければならない。
土か、そう言えば、昔、土偶に会った事がある。
その時は土偶とは気が付かず、宇宙人だと思っていたのだが、今思い返してみると土偶だった。
あれはある晴れた午後、私は部活動を終え、帰宅の途についた時だった。
田んぼのあぜ道を、バスケでへろへろになった体で歩いていると、突然田んぼの中から現れたのだ。
「いや~おつかれ~、よかったよあのシュート~」
土偶は言った。
「もう一人のほうのもよかったんだけどね~、やっぱりきみのが数段上だな~」
土偶は私の斜め後方から話し掛けてきた。
「やっぱりこう手首の使い方って言うかな、あと、滞空時の姿勢とかね、うまいよね~」
何なんだ、何で私がこんな目にって思って、全力で走った。
でも、土偶は表情を全く動かすことなく付いてきた。
その時。
キキー!
自転車が横から突っ込んできたのだ。
「危ないっ!」
と気が付くと、私は土偶に抱えられて田んぼの中に浸かっていた。
「ああ~、ごめんね、汚れちゃった」
と土偶は言った。
「いや、ありがとう」
自転車は、いつのまにか立ち去っていた。
「それじゃ、これから会合だから、またね」
と言って土偶は去っていった。
家に帰っても、「田んぼに落ちた」とだけ言って土偶の事は言わなかった。
言っても信じてもらえないと思ったし、なんか私だけの秘密にしておきたかったから。
以上、観察日記2日目終り。
もう芽が出てしまった。
残念だ、まだ土偶にまつわるエピソードがたくさんあったのに。
双葉が、ぷりっと開いているのだ。
この双葉を見ていると、昔、頭からプロペラが生えた事を思い出すなぁ。
頭からプロペラと言っても、ムックみたいなやつではなく、もっとキュートな感じのやつだった。
なにせ、大学受験を控えた時期だったので、きっと気晴らしのために生えたんじゃないだろうかと思う。
最初は回し方がわからなかったので、手で回したりしてたんだけど、ふとしたことで回し方が判明したのだった。
確か、ちょっと小雨がぱらついた朝だったな。
その日、目覚し時計が、知らない間に小人に止められていた。
やばい、遅刻する、やばいよやばいよ。
と思ったら、プロペラが回っていた。
慌てていたから、すぐには気付かなかったけど、宙に浮き始めてから気が付いた。
やばい、と一回思うごとに一回回っていた。
速く思えば、速く回る。
よし、これでダッシュを加速だ。
と思ったけど、結局遅刻した。
むしろ浮いちゃって、うまく走れなかったから、かえって遅れたのだ。
そんなこんなで、プロペラを回しながら受験勉強をしていたわけだけど、周りに焦っているのがわかるので、親にはまじめに考えていると思われて、あまり文句も言われなかった。
実際は、別の事で焦っている事もあったわけだけど。
トイレに行きたかったりとか。
でも、大学の受験に受かって、ほっと安心したら消えてしまった。
きっと大学に落ちて、やばいよやばいよと思ったら、成層圏まで飛んでいただろう。
その意味でも、2重に安心したものだ。
以上3日目終り。
今日はなんと、とんでもないことに本葉が出た。
そんなに早く出るわけがない、と普通なら思うところであるが、現実を受け止めなければならないのだ。
そうでなければ、またプロペラの話を書く羽目になる。
そういった意味でも、本葉がにょっきりと生えてきたのである。
本葉はハート型。
ハートと言えば、バイト先でハートの形をした生命体を飼っていた。
あれは、大学1年生の時。
私は近所の駄菓子屋でバイトをしていたのだが、その店先にハート型の生命体が飼われていた。
名前は確か、ポン太とかポン助とかいったような気がする。
「これはなんていう動物ですか?」
と、店主のおじいさんに聞いたが、
「あ~、昔のお得意さんに頂いたもんでね~、かわいいじゃろ~」
というだけで、種類とかはわからないというか、気にしてないようだった。
駄菓子を差し出すと必死でほお張るので、子供達が店で買った駄菓子をあげたりしていた。
私は駄菓子屋の看板娘と同時に、ポン助(仮)の飼育係としての仕事もこなしていたのだった。
バイトの最終日、私がポン助(仮)にとんがりコーンをあげていると、店主のおじいさんが話し掛けてきた。
「いやはや、ご苦労様、助かったよ。どうだったかね、駄菓子屋は?」
私は、
「最高でした。できればポン助(仮)のことを卒論にしたいのですがどうでしょうか?」
と言った。すると、
「なにーっ! いかーん! それだけはいかん! ポン助を漬物にしたり、鍋で煮込むだなんて、いかーん!」
と激怒されたのが印象的だった。
結局まだ1年だったし、卒論は他の事を書いたわけだが、そのときは必死で説明して、どうにかわかってもらったようだった。
おじいさんは、大学はそういうところだというイメージを持っていたらしい。
まぁ、バイト代は結構よかったけどね。
以上4日目終り。
今日は、あろうことか、つるが伸びてきた。
あまりの成長ぶりに、ただのあさがおではなくスーパーあさがおと命名したいところだ。
はやくも、つるがくねくねと支柱に巻きつき始めている。
巻きつくと言えば、以前巨大なイカに巻きつかれた事があるな。
あれは、大学3年の時。
私はゴールデンウィークを利用して、南の島のバカンスを楽しむことにした。
私が友人と共に、こじんまりした船で目的地の無人島に着くと、巨大なイカが出迎えてきたのである。
「ようこそ、イカっしゃいました」
確かに、イカがいるからといって無人島ではないということはない。
イカは、胴体が30mくらいはあって、絶えずどれかの足は畑仕事をしていた。
かなりの働き者のようだ、さすがにペンションを経営しているだけのことはあった。
私達は、とりあえずイカのペンションに入っていった。
と言っても、イカはもちろん入れないのである。
なかなか小洒落たペンションで、管理人の居住スペースがないので、事実上の貸し別荘状態だった。
ただ、いたるところに足を入れるための扉が設けられていた。
食事などは、この扉から運び込まれ、掃除などもここからしていた。
イカはとても気さくで、一緒に沖で釣りをしたり、ダイビングをしたりしてくれた。
そんなこんなで、快適な無人島ライフを送った私達。
あっという間にお別れの時が来てしまった。
「また来るよ」と言うと、イカは「イカないで~」と言って巻きついてきた。
微妙な締め付け加減が心地よかった。
そして、「またイカっしゃいな」と言って、笑顔で見送ってくれた。
素敵なバカンスをありがとう。
以上5日目終り。
ぬおおおおお、なななんと、つぼみができた。
さすがの私も、この成長ぶりに眉毛を抜く指にも力が入ってしまう。
つぼみがぐるぐると、ドリルのように巻いている。
ドリル、そうだ、あの時もドリルだったな。
あれは、私が会社に入社した時だった。
新しい生活に期待と不安とさりげなさを一杯に詰め込んでいた私は、ちょっと張り切って食べ過ぎてしまった。
そんなとき、ドリルマンが現れたのだ。
出会いは突然だった。
とある日曜、私が部屋の掃除をしていると、携帯がなった。
「外を見てみろ! 今すぐに!」
電話はすぐに切れ、ベランダを見てみると、ドリルマンが立っていたのだ。
「初めまして、ドリルマンと申します」
とドリルマンは言った。
「何か用ですか? 突然こんなところに来て」
と怒り気味に尋ねると、ドリルマンは、
「実は、耳寄りな情報があるんですよ」
と言って、カタログを広げ始めた。
中には、数々のダイエットグッズが紹介されていたのだった。
「これなんかどうですか?」
指差したのは、懐中電灯のような器具だった。
「実は今日持ってきているんですよ」
と言うと、ドリルマンはポケットからその器具を取り出した。
「この光を浴びると、あっという間に脂肪が燃焼するのです。今なら大特価3000円、しかも高級財布をお付けします」
なかなかいい財布だわ、と思った私は購入する事にした。
「毎度あり~」
ドリルマンはドリルをぐるぐる回して大喜びで帰っていった。
買ったからには試さねば、とライトを照射すると摩訶不思議、みるみるうちに痩せてしまったのである。
そんなわけで、私は窮地を乗り切ったのだった。
でも、すぐに電池が切れてしまい、入れ方がわからなくて捨ててしまった。
痩せたからいいかって。
財布はまだ使ってるけど。
以上6日目終り。
とうとうこの日が来てしまった。
恐れ多くも、花が咲いてしまったのだ。
ピンクのラッパ型の花が、ふんわりと開いている。
これで、この観察日記はピークを迎えたって訳だ。
あとは枯れるだけ。
種ができて、また植えて、その繰り返しだ。
ところで、ラッパと言えばパンダ、つい最近パンダの霊に取り付かれたことがある。
あれは、ほんの数日前の出来事だった。
盆休みで、実家に帰って寝ていると、ふと巨大な影が枕元に現れたのだ。
やばい、これはやばい、とその瞬間金縛りになった。
と思ったけど、よく見ると子パンダに取り押さえられていたのだ。
どうやら、親子で旅行に来ているようだった。
パパパンダ、ママパンダと子パンダが5匹いた。
少子化が言われる中、なかなか大したものだと思った。
パパパンダは言った。
「結構こってますねぇ、お仕事大変ですね」
ママパンダは言った。
「爪も痛んでますねぇ、手先を使うお仕事ですか?」
なかなか快適な感じだ。
一通りマッサージとネイルケアが終わると、パパパンダは、
「ご利用ありがとうございました」
と言って、サービス券を渡してくれた。
次回は、足つぼもサービスされるとのことだ。
子パンダは、お駄賃にさとうきびをもらっている。
私は痛いのが嫌いなので、「足つぼはいいですよ、足つぼは」と、言っている間に、パンダは消えてしまった。
残ったのはサービス券一枚。
券を持って中国の方角に祈ると、また出てくると書いてある。
でも、痛いのが嫌なので使わないことにした。
ちょっぴり、子パンダが気になるけどね。
以上7日目終り。
朝顔は枯れてしまった。
なんて早い一生の朝顔。
だけど、ちゃんと真っ黒い種をつけている。
この種を来年蒔けば、再び観察ワンダーランドが繰り広げられるわけだ。
ともあれ、これで観察日記もおしまい。
これからは、またごく普通の日々を過ごすのだ。
今まで書いてきたような、普通の日々。
退屈だなぁ。
もっと、とんでもない事は起こらないものだろうか。
以上観察日記終り。
朝顔観察日記