shadow of the summer
2年間眠り続けていた少年リド。
目覚めたときには、ある夏の日以外の記憶がなかった。
知らない病院。知らない街。
「僕はいったい何故こんな場所に?」
自分の過去の目的を探しにリドは旅に出る─────。
登場人物
主人公:リド
大人しい性格でいつでも冷静な少年。
2年間眠り続けており、ある夏の日以外の記憶が残っていない。
登場人物1:リズ
はじめの街で会った女性。
おおらかで明るい性格。リドの恩人。
登場人物2:ドグ
リズの旦那。
無愛想だが、心優しい。
登場人物3:謎の少年(名前は小説中で出します)
リドと写真に写っていた少年。
登場人物4:謎の男(登場人物3と同様)
謎の男。
リドの運命を変えることになる。
※特に重要な登場人物だけ書いています。
1.目覚め.
どれくらい眠っていたのだろう。
窓の外を見ると、真っ白な雪が降り積もっている。
僕はベッドの上で寝かされていた。薬の匂いが漂ってくる。病院のようだ。
「なんで僕はこんなところに…」
ふと、枕元に目をやると写真が1枚置かれていた。
僕と知らない男の子が小さな箱を2人で持って微笑んでいる。
知らない男の子。いや、僕が忘れてしまっただけなのだろうか。
確かに、僕の記憶は2年前の夏で止まっている。止まっていると言うか、そのことしか覚えていないのだ。
───────2年前の夏。
僕は家を出た。
両親が居たかなんて覚えていない。
独りで色々な場所を周り、自由を体験したかった。
何日も何日も歩き続けて、ヘトヘトになった僕に誰かが声を掛けてくれた。
「お守り」。そう言って僕にネックレスを渡した。
何の変哲もないネックレスだったが、何か普通と違う気がして、大切にしようと決めた。
僕の記憶はそこで途切れている。
「そういえばネックレスは…」
僕の首にネックレスは掛かっていない。辺りを探してみるが見つからない。
捨てられたのだろうか。
「まあ、2年も前だしな…」
コンコン)「失礼します。っ!!目を覚ましたんですね!!先生を呼んできます!」
…………………ガララッ
「失礼します!やっと目を覚まされたんですね。良かった…」
「あの、どうして僕はここに?」
「…2年前、男性から連絡を受けましてね。頭を強く打ったみたいで倒れている、と。私たちが駆けつけた時には男性は居ませんでしたが…。」
「頭を打った…?あの、先生。僕、ある夏の日の出来事以外覚えていないんです。それと関係あるんでしょうか?」
「その可能性が非常に高いですね。」
「…。た、退院っていつ頃になりますか?」
「少なくとも、後一週間は必要かと。」
「記憶は、元に戻りますか?」
「何か、忘れている記憶に関係があることをすれば戻る可能性はありますが…」
「忘れている記憶に関係があること…。分かりました。」
「あまりお力になれずすみません。」
─────────一週間後。
僕は病院を出た。とても寒く、街は真っ白だった。
「僕は何故ここへ?写真の子は?電話をしてくれた人は?………忘れている記憶を取り戻さないと。」
記憶がないのがこれ程不便だと、身を持って感じた。
「手がかりは少ない…。けど、探すしかない。」
──────────こうして、僕の新たな旅が始まった。
2.過去の望み.
この街はとても賑やかなところだ。市場への道を多くの人が行き来している。
「とりあえず、役場にでも行くか…」
写真の場所知ってるかもしんないし。
「ブツブツ)役場ってどこにあるんだろ…」
?「そこのあんた!」
「ひっ!え、は、はい!なんですか!」
「うちの街に役場はないよ!」
「え。あ、え!?そうなんですか!?」
「あぁ(笑)いきなりごめんね!なにか調べごとかい?」
「あ、はい。少し…」
「ふーん。…あんたが調べてることを知ってるかは分かんないけど、この街一番の物知りなら紹介できるよ」
「ほんとですか!?全然大丈夫です!ありがとうございます!!」
「…ついてきな(笑)」
物知りかぁ…。そう言う人って、少し現実離れしたことも色々知ってそうだな。逆にありがたいかもしれない。それで僕の記憶が元に戻るかは分からないけど…。
「あんた、どうしてこの街に?」
「あ、えっと、入院してたんです。2年前から。」
「そうなのかい。病気か何か?もう大丈夫なの?」
「自分でも良く分からないんですけど、なんかずっと眠ってたみたいで(笑)」
「へえ…。大変だったんだね。」
「まぁ…」
「今日泊まるとこあるのかい?」
「いえ、まだ決めてないですけど…」
「じゃあ、うちに来るかい?何もないけど、風呂と食事と寝床くらいなら準備できるよ。」
「え、いいんですか!?…いや、でもちょっと迷惑掛け過ぎな気が」
「いいのよ。うちは旦那と2人暮らしだしね。」
「ほんと、何から何まですみません…(汗)」
「あ、ここだよ。」
裏路地を抜けたところに、古びた小さな家があった。周りは雑草だらけで、本当に人が住んでいるのかと疑う程だった。
「あたしはここで待ってるから。」
コンコン)「あの、すみません…」
返事はない。
僕はドアノブに手をかけた。
「お邪魔します…」
部屋の中は薄暗く、埃が舞っていた。人は居るのだろうか。勝手に入ってしまったけれど…。
「お、お聞きしたいことがあってきました。どなたかいらっしゃいませんか?」
「…何の用だ。」
声がした方に目をやると、一人の老人が椅子に腰掛けていた。
「どうも。勝手にお邪魔してすみません。えっと、カサッ)この写真の場所、知ってますか?」
「…!君はどうしてこの場所を…?」
「えーっと。僕、記憶がないんです。それに、2年前の夏からずっと眠っていたみたいで。多分、その時に行ったんだと…。」
「…隣の少年は?」
「分かりません…。その子もそのときに会ったんだと思います。」
「この場所はな、古くから伝えられる神秘の場所だ。心からの望みを持っている者しか辿り着くことが出来ない。…君は、何か望みがあったんだな。」
「…望みが?」
「ただの望みではない。強力なものだ。」
「そんなに…?どこにあるんですか?」
「隣町にある洞窟の中に出現するらしいが…。私もよくは知らない。ただ、分かることは、そんじょそこらの心構えじゃ行けんということだ。」
「…僕には今、何もありません。記憶もなければ、両親の居場所もわからない。それなら、過去の自分の目的を果たすしかないと思うんです。本気です。」
「…少しまってなさい。地図をあげるから。」
そう言うと老人は椅子から立ち上がり、腰を曲げて、辺りに散らばっている紙を拾い始めた。
「これだ…」
老人が手渡してくれた地図は、かなり古いもので、いくつかの街が記されていた。この街はクリスタント。隣町はラピスグリ。
「迷わずに清い心を持って向かいなさい。君なら辿り着くことができる。」
そう言うと老人はまた椅子に腰を掛け、静かに目を瞑った。
「ありがとうございました。きっと、辿り着いてみせます。」
僕は家を出た。
幻の場所。僕はそんなところに、どんな望みを叶えてもらいに行ったのだろう。
「お、やっと来たね。」
「あ、待たせちゃってごめんなさい。」
「いいよいいよ。いい忘れてたが、あたしの名前はリズ。あんたは?」
「リドです。」
「リド…。よ、よし。じゃあ、うちに行こうか。」
───────僕はこの時、リズさんの動揺に気づいていなかった。
shadow of the summer