ドラえもん最終回『Trace of memores~思い出の軌跡~』(8)

Trace of memores(8)


場所は変わり、時代は約30億年前。 地球から遠く離れた監獄の慌星。


見渡す限り荒れ果てた広大な大地にポツリと見える建築物。


小さな上物からは想像出来ない程、大きく広がる地下の監獄所では、今だ混乱の渦中にあった。


内部では緊急警報が関内全域に鳴り響き、混乱をきたした隊員達は右往左往と走り回っていた。


監獄内の地下最上部には、全てのシステムを管理しているメインシステムの管制エリアがあり、その一室で声を荒立せて指示を送り続ける者がいる。


それはこの時空犯罪刑務所の責任者であり、この監獄所の所長であった。



「まだ現場との連絡はとれないのか!!」



所長は管制官の一人に向かって声を荒立たせる。



「はいッ、申し訳ございません! 先程から地下エリアとの交信を呼び掛けているのですが……」



「どうやら何者かがシステム内にウィルスを混入した様で、通信網を含め、各セレクションに支障がきたしています」



「復旧の目処は?」



「今、全力で対処に当たっていますが、まだ多少の時間が掛かります。 正直これ程に複雑なウィルスプログラムは見たことがありません!」



「とにかく通信の復旧を最優先に急がせるんだ! 現場の状況が判らない事には何も始まらん! 早急にだッ!」



システムオペレーター達はそんな所長に了解と返事を返すと、一秒も無駄に出来ないと言わんばかりに素早い手付きで端末を打ち続けた。


所長はそんなのオペレーター達を一度見渡し、その視線を横へ振った。



「それと副所長。 少し間、後の指示は君にまかせる」



そう言って所長は扉の方へと踵(きびす)を返した。



「……所長? 一体どちらへ?」



「私はこれから最悪の事態を想定して、地球本部へ連絡を取りにいってくる」



「本部……ですか? ……なるほど、通信ルームですね。 たしかにあそこの時空通信網は完全な個別システムになっていて、ウィルスの干渉は受けてはいないはず……」



「そういう事だ。 私だってこの様な失態を報告するのは遠慮したいのだがな。 しかし、こういった早期対応こそが最重要であり、創設以来、脱獄率0%という歴史を創って来たのだ」



「それを我々の代で奴等の脱獄を許す事など……その歴史に汚点を残す事など決して許されんのだ! 今日まで歴史を創って来てくれた歴代の職員達の為にも! その為には今、我々は何としてでも奴等の脱獄を阻止しなければ成らんッ!」



冷静さを繕おうとしているものの、その拳は強く固く握りしめられている。


そんな彼の言葉からは、職務に対する絶対的な責任感と、強い決意の表れがひしひしと伝わり、副所長をはじめ、その場に居た所員全員がその気迫にゴクリと喉を鳴らした。



「……とにかくだ、私が戻って来るまで、後の事は頼んだぞ」



所長は副所長の肩をポンと一叩きし、先程迄の表情とは打って変り優しく微笑んで見せた。


副所長もそんな彼の意志に応える様に顔をグッと引き締め直すと了解しましたと返答する。


所長もそれに対し無言の返事を返すと通信ルームへ足を急がせた。





ここ時空犯罪刑務所は幾つかの施設エリアに分けられている。


大きく分けると、地下10階以下の8割近くは受刑者の監獄エリアとなり、それ以外の上階層部や地上部分が刑務官による居住エリア、管制エリア、工場・港エリア等となっている。


そんな中、地上部分にある港エリアの航行管制塔内で一つの動きがあった。



「ん? なんだ!? 下の搬入エリアにある物体転移装置が作動しているぞ!?」



「お……おいッ! 誰か何か連絡を受けたやつはいるか!?」



その呼び掛けに対し、他の隊員は首を横に振った。 そして、別の隊員から声が掛かる。



「どこからだ?」



「エリアG3のサブ管理システム室からみたいだ」


その答えに眉をひそめた。



「エリアG3……? たしかあそこはほとんど使われていなかった場所だろ?」



「だけど間違いないくエリアG3からだぞ」



その言葉に他の隊員達も顔を見合わせ、一瞬の沈黙が室内を包み込んだ。



「まさか……」



ポツリと呟いたその言葉が合図になったかの如く、隊員達は一斉に席を立ち上がり、一部の者を残して他の隊員達は小銃を片手に部屋を飛び出した。


装置がある場所へ向かいながらも、周りにいる隊員達に声を掛け合い、来れる者は一緒に、そうでない者も厳戒体制で対応を、と注意を呼び掛ける。


そんな中、現場へ急いで走る隊員の中の一人が隣の者に言葉を掛けた。



「な、なぁ……まさかだよな!? まさか犯人達じゃないよな……」



そう言う隊員の声は微かに震えていた。


実は彼等若い隊員達にとって、今回の事は初めての実戦であった。


もちろん今まで数々の訓練は行っては来たが、実戦と訓練では全く訳が違う。


いくら厳しい訓練であっても、実際に命を落とす事はない。 軽い実戦一回の方が明らかに大変な事なのである。


まして今回は銃機を所持した脱獄犯であり、既に何人かの隊員も撃たれていると聴く。


場慣れした者にとっても緊張を隠せない状況だ。



「いや、無いとは言いきれないぞ。 実際、あの場所から港に直接物が送られて来た事など過去に無いからな。 ましてはこんな時だ……」



そう答える彼の背にも冷たいモノが流れ落ち、それを聞いていた周りの隊員達にも否応なしに表情が強ばる。




走ること一分、装置が視界に入る所まで来ると、各隊員達から声が挙がる。



「お、おい、見てみろッ! やっぱり装置が作動しているぞッ!」



そこには確かに多数の計器類が作動し、赤や緑、黄色といった多色の輝きを灯していた。


十数人の隊員達は直ぐ様、装置の転送口を中心に扇状に囲い込み、小銃を構えて待機する。


そんな中、装置はただ淡々とその機能を果たさんと作動し続ける。


その光と作動音は時間と共に強くなり、転送部に光の幕が浮かび上がった。



「く、来るぞッ!!」



隊員達の緊張は頂点に達し、ゴクリと生唾を呑み込む。


光の幕が下から上へと転送部を完全に包み込み、内部が全く見えなくなった……


──と、その瞬間だった。


その光の幕内部から突然の銃撃が隊員達を襲ったのだ。


そして同時に辺りの隊員達から低い呻き声が挙がる。


“しまった”と、その言葉が脳裏を横切った時には既に遅かった。


周囲に視線を移せば、数人の隊員達が肩や脇腹を抑えて倒れていた。


逃亡犯からの銃撃である。


事前に予期していたとは云え、見えない場所から、ましては転送が終りきる前に発砲して来るとは思いもせず対応に遅れてしまったのだ。



「く、くそぉッ! 撃てぇぇぇッ!!」



その号令と共に残った隊員達での一斉射撃が始まる。


その雨の様に隙間なく撃ち出された銃弾は光の幕に吸い込まれていく。


だが時は遅く、装置内は既にもぬけの殻となっていた。


撃たれた仲間へ視線を離した一瞬の隙に装置内から離脱されてしまていたのだ。



「クソッ! どこ行ったッ!」



その声には悔しさと怒りが込められていた。 予想外の事とはいえ、あそこまで包囲しておきながら犯人におめおめと逃げられてしまったのだ。


その拳は爪が食い込む程に強く握り締められ、唇を食い縛る。



「医療班を呼べッ! それと巡視船の全ての入口を封鎖するんだッ! 奴等は必ず船を狙って来るぞッ!」



その指示が飛ぶと同時に、他の隊員達は驚くほど素早く行動に移る。


その動きは流石タイムパトロールというべきか、迅速な対応と機動力は、警察組織の中でもエリートだけを集めて結成された隊員達であった。


数十秒と掛からず全ての入口を二人一組になって陣取り、武器を構えて封鎖する。


完全な防衛体制に入ったのである。



(つづく)

ドラえもん最終回『Trace of memores~思い出の軌跡~』(8)

ドラえもん最終回『Trace of memores~思い出の軌跡~』(8)

  • 小説
  • 掌編
  • 冒険
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-13

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work