日常

水を一滴。私にできるのはそれぐらい。

 墨を含んだような雲間から金色の液体が滴っている。それは金剛石を陽に透かしたように燦爛としていて、月影とはこのような熱を、輝きをもつものであっただろうか、そのような疑念を浮かべつつ、雨上がりで湿った並木道を歩き行く。雨上がりの、身にしみた冷気が、今夜の月を斯様なまでにさせて居のであろうか。道なりに散り積もっている枯葉に、雫が、幾滴も置かれていて、それは白百合の夜置くのに違うけれど、宝石のように、美しく輝いていて、私は星屑の鏤められた、満天の夜空を歩いてゆく心地であった。
 別に目的があって歩いているのではない。これは習慣なのだ。こうしていると、まるでヤドカリがひっそり外の世界をのぞくよう、自分の生きている世界のいかに矮小なのかを感じ、視界の限りを尽くしても収められない砂漠に、空より降る隕石の一つを探るよう、何もかもが冗談めいてくるのだ。
 コートの襟を立て、ポットに汲んだコーヒーに口をつけるながら、気ままに遊歩する、此の時の、宝石箱を開いてみるような、心躍る感じ、私は、これからもこの一歩一歩を大切にしてゆこうと思う。

日常

日常

日常を顧みて、足りないものを

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-13

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