ニセモノの星に願いを
即興小説で書いたものです
ニセモノの星に願いを
あおと
例えば、携帯電話の画面には星座を映し出してくれるアプリがある。それは星座を確認したり、星座の由来について調べるとき、有効に使える。
「そんなものをとるくらいなら星を見なさいよ」
成平に向かって、由美は言った。
「いい? 星座アプリとほんものの星の違いを教えてあげる」
「何?」
「星座アプリの星にお願いしたところで願い事は叶わない」
「確かに」
成平は昭和に由美のことが好きであることを打ち明けていた。と、同時に、その密かな想いを果たすつもりもないことも打ち明けた。
「愛することに苦痛は感じない。愛されることには警戒を感じる」
「それで、僕にどうしろと?」
「誰かに聞いてもらいたかっただけだよ」
そんなわけあるか、昭和は成平に笑いかけたが、成平の顔は薄く閉じたままだった。
「現実の星を眺めることに願い事を叶える力があるというのは、少しおかしいものだね。願いごとが叶うこと自体は迷信だろ」
由美は成平のiPhoneをひったくると、闇夜に光る点を結んでバツ印を作った。
『あなたも好きな星座をつくってみよう!』
広告の真下に、ピンク色の崩し文字で説明文が表示されていた。
「なんていう星座?」
「かにざ」
「蟹座はもうあるよ」
「この星座に願いをかけたらその願いを受け入れてくれる、そんな星座」
「長い名前だね」
「でも、受け入れてくれるだけで、叶えてはくれないそんな星座」
成平は由美からiPhoneを受け取ると、その作成された新しい星座に、密かに「弓」の名前をつけていた。
「星座の成り立ちは不思議なものだよな」
昭和と成平は二人並んでアスファルトに寝転がっている。
人の気配のない夜の学校の駐車場だった。
体を横に向ければ、間近に白線があり、背には冷えた固いつぶの感触がある。
「何を思って星座なんてものを作ったんだろう」
昭和は何も答えなかった。
男二人でどうして星なんて、はじめはいやがっていた昭和だったが、何かを察してくれたのか、急にまじめくさった顔をして了承をしたのだった。
「なんにでも物語にすることができる。物語を込めることができる。祈りなのか、願いなのか、それはよくわからないけれど」
昭和はやはり何も答えなかった。
「お前は弓座みたいなやつだ」
昭和は成平をみて、何かを計りとろうとしたが、結局あきらめてため息一つだけをついた。
まだ秋になったばかりだというのに、その息は少しだけ白く濁った。
今から二人で星を見に行こう。
話を持ち出したのは由美の方だった。
成平はそれは昭和に悪い、と固辞したが、由美の方が強引に取り付けた。
「あいつには怒っているんだよ」
「昭和はどんな悪いことをしたんだ?」
「どんな、じゃないんだよ。そりゃあ、それはダメでしょ、ってことはあるけれど、それを直してもらいたいわけじゃないんだよ。そう、昭和に悪かったことがあるんじゃない。私が怒りたいってだけで」
これってわがままかな?
「よくわかんねえけど、いきたいっていうならいこうか」
成平は由美を自転車の後ろに乗せた。
「俺も由美のことが好きだよ。いくら勘のにぶいお前でも、これくらいはわかってくれよ。今日は埋め合わせなんだ」
「何に対しての?」
昭和はすでに目を閉じていた。無理矢理にでも呼吸を落ち着けようとする、そういう胸の動きが聞こえた。
「星に願ったことに対しての」
「願いだけなら別に悪くはないだろう」
成平は答えなかった。
ただ、
「あれが弓座だ」
と、昭和にもわかるように、バツ印を結んで見せた。
作り物の星座だからこそ、かけられる願いもあるんだよ。
成平はふと、そんなことを思った。
ニセモノの星に願いを