ドラえもん最終回『Trace of memores~思い出の軌跡~』(4)

Trace of memores(4)


のび太の乗る飛行機が丁度出発した頃、地球から遠く離れた場所で、ある一つの事件が起こっていた。


そこは大気も無く、生き物一つ居ない荒れ果てた荒野の星。


赤い土砂だけが広がる広大な大地に、ポツリと見える一つの建築物。


それは未来の世界(タイムマシンが創られた時代)に新しく作られた新法、『航時法』に違反した者が入る刑務所であり、その内部で起こった事件である。






ゥウ〜ゥウ〜ゥウ〜



《緊急特別事態発生》



関内全域に特別警報が鳴り響く。



「いたぞ! こっちだッ!」



「クソッ!!」



バババババッ……!!



関内通路にマシンガンの銃声が響き渡る。



『全隊員に次ぐ! 奴等、旧式の銃を所持しているもよう! 気を付けてあたるんだッ!』



隊長の一人が小型通信機で各班に注意を呼び掛ける。



「クソッ! それにしても、なぜ囚人の奴等が武器を所持しているんですか!?」



隊員の一人が声を挙げる。



「分からん! 取り合えずその事は後回しだッ!」



隊長は直ぐ樣、緊急対応の指示を各班に送る。



『応戦の為の武器使用を許可する! 各班は各ゲートを固めろッ! 常に連絡を取り合って行動するのを忘れるなッ!』



バババババッ……!!

ビビビ-----ッ!!



旧式の実弾銃にレーザーガンと、互いの銃撃が狭い通路内を飛び交う。



「第一班は、俺に付いてこいっ! 奴等の銃撃が終わったら突入する! いいかッ! 何がなんでも逃がすんじゃないぞッ!」






バババババッ……!!



「アニキっ! これじゃ、いくら撃ってもキリがないですぜッ!」



一人の脱走犯が隊員と撃ち合いながら声を挙げた。



「なぁに、俺達ゃ少しの間奴等の足止めが出来りゃいいんだ……」



「──だが……まあ、確かに何時までもここで奴等とジャレ合ってるわけにもいかねえがな……」



アニキと呼ばれる長身の男は、そう言いながらポケットの内を探り、手榴げ弾の様なモノを取り出した。



「よし、取り合えずコイツを投げたら例の地点に向かうぞ! 多分、フリークのジジイも先に行ってるはずだ」



男はポケットから取り出したモノを、その手にしっかりと握り込む。



「了解しやした……って、アニキ!? ソイツは《こけ脅し爆弾》じゃないですか。 そんなオモチャじゃ、奴等は倒せませんぜッ!」



ビビビ-----ッ!!



「だから、別に奴等を倒すのが目的じぁない。 それじゃいくぞッ!」



男は相棒が撃ち終わるタイミングに合わせて、爆弾を投げつけた。


強い閃光と爆音だけが通路内に響きわたり、思惑通り隊員達の足止めに成功する。






その頃、別の場所では管制システムにハッキングを仕掛けている囚人服を着た初老の男がいた。



カタカタカタカタッ…



(クソッ! 流石にセキュリティが堅いな……。 しかし──)



カタカタカタカタッ…



(フッフッフッ! わたしにかかればこれぐらい……)



カタカタカタカタ……タンッ!



[エラー]



(なにッ!? クソッ、もう時間が無いな……。 ならばせめて……)



ピッピッ…

カタカタカタカタッ……



男は残り時間で出来るだけの入力を試みる。  


──だが、その時である。



ガタッ!



背後から物音がした。



(チッ! 見つかったか……)



とっさに内ポケットから銃を取り出し、振り向くと同時に銃口を正面に向けた。



「おっとッ!? 私ですよ……」



そこには両手を上げ、囚人服を着た男が立っていた。


先程まで時間を稼ぐ為に通路内で隊員と撃ち合っていた男の片割れだ。



「なんだ、お前か……」



「どうです? そちらの首尾は?」



「……いや、流石に時空警察が管理しているシステムだけあって、中々一筋縄ではいかん代物だ」



「まさかッ! まだ準備が出来ていないんじゃ……」



「いや、それはもう終わっている。 ただ、もう1つ土産を置いて行きたかったんだがな……」



ビビビ-----ッ!

バババババッ……!!



そんな二人のやり取りの中、外部からの銃撃音がその場を急かす。



「アニキっ! そろそろズラからないと、ここももう持ちませんぜッ!」



長身の男と初老の男フリークはチラリと通路の方を一瞥した。



「旦那……まあ、そう言うわけなので、私達もそろそろこの場所からお去らばと行きましょうや」



「ああ、その様だな」



そう言うとフリークは、システムに最後の入力をすると、二人を更に奥へと繋がる部屋へ行くよう促した。






「隊長! 奴等、どんどん地下深くに向かってるようです。 このまま順調にいけば、追い込み捕らえるのも時間の問題かと……」



「ああ、その様だな……。 だが、何かが引っ掛かる。 なぜ奴等は下へ向かうのだ……?」



「それは我々が下層階へ追い詰めているからでは?」



「……だが、逃亡に必要な船は全て上の地上部分にしかないのだぞ?」



「普通ならなんとしてでも上に向かい、船を手に入れ様とするハズ……。 しかし、奴等からはその素振りが一切感じられない」



「それ処か、自ら地下深くへ向かっているように感じる……。 何故だ!?」



「多分それは、奴等囚人達にはここ監獄の特殊な構造を知らされてはいません。  なので地下に居るとは知らず、更に下へ向かってしまっているのでは……?」



「いや……多分それは無いだろう。 普通なら事前に全てを調べ、脱走可能と判断した時、始めて行動に移るものだ。 なんの考えも無しに脱獄を企てるとは思えん!」



「でしたら奴等の目的は一体……?」



「わからん。 しかし──」



囚人達の狙いを考え始めるも、直ぐに別の隊員から声が掛かる。



「た、隊長ッ!!」



「どうした!?」



「奴等にサブ管理システムルームに侵入され、内側から扉をロックされてしまいました!」



「なんだとッ!? そんなバカなッ!! あそこは何重にもセキュリティが掛かっていて絶対に入れないはずたッ!」



「で、ですが現に……ッ!」



「こ、これは一体どうゆう事だ! あの部屋に入るなど絶対に不可能なはずだ!」



隊長は握りしめた拳を、横手に壁へと叩きつけた。


そしてその瞬間、ある思いがフッと脳裏を横切る。



「…………まさか、内通者……か!?」



「えッ!  まさか……!?」



隊長の言葉に部下の一人が驚く。



「だが、もしそうだとすれば奴等の行動や武器所持の理由にも納得がいく! 確かあの部屋にはアレが在ったはずだ!    やはり奴等の目的は上にある巡視船だったということか!」



隊長は己の遅い気付きに、苦渋の表情を浮かべた。


だが、その後の行動は迅速であった。 すぐ様、近くに居る隊員にサブ管理システムルームの扉を急いで開けるよう促し、別の指示を小型通信機にて全体へ送る。



『総員に次ぐ! 奴等の目的は地上部にある巡視船の強奪による脱獄と思われる。 もしかしたら隊員の中に内通者がいる可能性がある為、近くにいる隊員は厳戒体制で対応せよ!』






「クックックッ! 今頃内通者に気付き慌てても、もう遅いわ」



扉の閉まった向こう側から警備隊の騒ぎ声を聞きながら、脱獄者三人はそれらを落ち着き眺めていた。


隊員達は扉を強制的に破ろうと必死である。



「フッ、無駄な事を! 貴様らご自慢のセキュリティ強化扉だろう? そう簡単には破れやせんわ!」



初老の男フリークは扉の向こう側に群がる隊員達を鼻で笑ってみせる。



「やりましたね、アニキ!」



小太りの男は勝ち誇る様に声をあげた。



「……まぁな。 俺達が時間を稼ぎながら奴等を下層階におびきだし、その間にフリークのダンナがシステムに細工をする……」



「そしてこの『物体転移装置』で手薄になった地上部にワープし、奴等の巡視船を戴く……。 流石はダンナの作戦ですぜ!」



アニキと呼ばれる長身の男は、そう言いながら転移装置を撫でるように触り、それを見上げた。



「だが全てはこの男が居なければ作戦処か、脱獄しようなどとすら考えもしなかった事だがな。 フッフッフッ!」



フリークはそう言うと、隣に立つ一人の若い隊員に視線を送った。


自ずと皆の視線も集まる。



「いえ……私は元Oenu,s社(オーエンズ社)の幹部だったフリーク様には恩義がありましたので……」



彼は遠慮がちにそう一言言うと、物体転移装置の作動準備を忙しそうに進める。



「──そんな事よりも早く装置内にお入り下さい。 もう時間がありません」



三人は若い隊員に薦められるまま、装置内に入り込んだ。



「ダンナ……ヤツは一所に行かないんで?」



「ああ、ここでお別れだ。 それに、この装置はここで誰かが操作しなければ作動しないからな」



「そうですか……」



装置内に入った三人は、操作する若い隊員を見つめながら、そのまま光の渦に巻き込まれていった。



(つづく)

ドラえもん最終回『Trace of memores~思い出の軌跡~』(4)

ドラえもん最終回『Trace of memores~思い出の軌跡~』(4)

  • 小説
  • 短編
  • 冒険
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-12

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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