闇のなかに見えるのはたった一つの希望

ここは日本。
ただ、過去よりかなり変わってしまっている。
貧富の差が激しくなったのだ。
数百年前に起きた、地球温暖化のせいで農作物がすべてやられ、人類……いや、地球上の全生物が絶滅しかけた。
そうして、何年も過ぎていった。
人類は滅亡などしていなかった。
しかし、貧富の差だけが激しくなった。
そんなある日のことである。
豊でも貧しくもないこの町に住む、一人の少女の行方が分からなくなった。
人々は探した。しかし、少女は見つからなかったのだ。
それもそのはず。少女は強制労働施設に連れられていたのだ。
なぜそのようなものがあるのか。
貧富の差が激しくなった日本では犯罪が激増していた。
窃盗、強盗などだ。中には人攫いもいた。
そうした犯罪者は、金持ちに不法な値段で売りつけたりしていた。
ただ、人攫いに関しては少し違った。
彼らが金を手に入れる方法は二つあった。
一つは、奴隷として売り出すこと。
もう一つは、強制労働施設に連れて行く方法。
大概の人攫いは、施設に連れて行った。
そっちのほうが、金になるからだ。
だがしかし、施設からでてきた人攫いはいままでに何人、いや何百人といるが全員戻ってきたことはなかった。
少女もまた、人攫いにさらわれ、施設へと運ばれた。
最初は家に帰りたいとわめく少女だったが、数か月もすると何も言わなくなった。
そして今日もまた、チャイムが施設内に鳴り響いた。
施設に運び込まれる人数は、月に五十人前後。
男女関係なく運び込まれる。
そして、男は力仕事、女は手仕事といった風に割り振られていた。
少女は手仕事の中でも裁縫関係だった。
いつものように、決まった席に座り、仕事を始めた少女だったが、突然一発の銃声が鳴り響いた。
しかし、少女は気にもしなかった。よくみると周りも気にはしていなかった。いや、むしろ聞こえていないと言ったほうが正しいか。
銃声は日に何度も響き渡る。
人攫いが戻ってこない原因もこれだった。
外に施設のことを知られるわけにはいかなかったからだ。
少女はなれた手つきでただひたすら働く。
自分の与えられた仕事だけをこなしていく。
そんな日々がいくつも続いた。
何年も過ぎた。
新しい労働者が来ても、なにもしない。
ここでは、周りのことなど気になどしていられない。
そして、新人が来るたびに、一人、また一人と消えていった。
まるで交代するかのように増えては、消え、増えては、消え、そんな日々が続いた。
少女はそんなことには目を向けずに、ただひたすらに仕事をこなしていった。
それからまた何年も過ぎた。
幼かった少女は、大人へと変わっていった。
ただ、目の色だけは変わらなかった。
光など見えない、真っ暗な目だった。
少女はどん底に落ちていた。
暗いくらい闇の中。
光など見えず、希望など持てず、明日は自分が消されるかもしれない。
そんな日々を過ごしていた。
そんなある日。
突然、施設の扉が開かれた。
入ってきたのは、制服を着た警官たちだった。
何が何だか分からない状況だった。
ただ、少女たちは助かったのだ。
なぜ彼らがここに来たのかというと、
年々増加する行方不明者達。
その理由を探っていたところ、ここにたどり着いた。ということらしい。
なにはともあれ、少女たちは助かったのだ。
施設の責任者たちは逮捕された。
そして、ようやく、彼女たちは家に帰ることができたのだ。
少女は、自分の家の前に立っていた。
ずっと、変わらないままそこにあり続けた。
いつ少女が帰ってきてもいいようにと。
少女の目に新たな光が浮かんでいた。
それは、希望だった。
今、少女がいるのは、暗い闇のなかではなく、明るい未来が待ち望む希望だった。
少女は、玄関の扉をつかんで、とびっきりの笑顔であの時言えなかった言葉を出した。
「    !」

闇のなかに見えるのはたった一つの希望

闇のなかに見えるのはたった一つの希望

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-09

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