人生でやり直したいことはありませんか?

「人生でやり直したいことはありませんか?我が社の製品で一度だけやり直すことができます。方法は簡単。スイッチを押すだけ。製品をお求めの方は、電話でお尋ねください」
 チラシにはそう書かれていて、文章の下には電話番号が載っていた。
 道行く人はだれも見向きをしない。簡単な話だ。だれも信じていないからだ。
しかし、足を停めた人たちがいた。今回はそんな彼らのお話をしようか。
 嘘みたいで本当のお話。
 皆それぞれの悩みを持っていたのだった。ただそれだけのお話。
 結論を言うと、彼らは失敗した。
 さて、彼らの失敗とは一体何なのか? あなたにはわかりますか?



        一番目のお話



 友達にひどいことを言われた。それが原因で喧嘩をした。
 私は何も悪くない。友達が全部悪い。
 だけど、周りは私が悪いという。なぜ? 私の何が悪い? いつも通りの生活をして、いつも通りの私だったのに。
 けど、私はひどい言葉を言われたが、その内容を忘れていた。
 そんなある日、あのチラシを見た。「やり直したいことはありませんか」そんなことがあるはずない、なんて思いながら私はそのチラシを手に取っていた。
 心のとても深いところで、私が気付いていないどこかで、やり直したいと思っていたのだろうか。
 だから、今こうして携帯を片手に電話しようとしているのだろう。
「はい」
電話に出たのは女性。
「電話をしてきてくれたということは、やり直したいことがあるということですね」
 まるで、私の心を見透かしたような言い方だった。
「何も言わなくていいですよ。ただこちらの質問に答えてくれればそれだけで結構です」
 その後、住所と商品の説明を簡単に受けて電話は切れた。
 数日後、商品が届いた。
 箱を開けてみると、包装紙と緩衝材で覆われた機械が出てきた。
 説明は事前に受けていたので、私はその場で機械を使った。その後、意識を失った。

 眼を覚ました私がいたのは、学校の教室。
私が友達と喧嘩をしたあの日と同じ場所。この後、教室にやってきた友達にひどいことを言われるのだ。
「……あっ」教室に友達が入ってきた。
「私ね、あなたに言わないといけないことがあるの」
「何?」
「私あなたと友達なんて思ったことは一度もなかったから」
 ……えっ? 今何て言ったの?
「正直言って邪魔なんだよね。いつも私の後ろをついてきてさ。私はあなたの飼い主?」
 周りから忍び笑いが聞こえてきた。
 その瞬間私は、飛びかかった。

 すべて思い出した。私は、相手に怪我を負わせて、学校を退学になったんだった。
 今私は屋上にいる。
 私にとって彼女だけが生きがいだった。
 その彼女からそんなことを言われたのなら、死ぬしかないでしょ。
 もう、何も残っていない。
 もう、未練など無い。
 飛び降りようとした、その瞬間に背中を押された。
 落ちてゆく身体、背中を押したのは彼女だった。
 彼女は笑っていた。
 私も笑って、





さよならをした。




二番目のお話



「クソっ! 部長め、自分の失敗を俺に押しつけやがって」
 俺はただのサラリーマン。ほんの一カ月前まで、エリート街道まっしぐらだったのに、今月に入ってから失敗が目立つようになってきた。
調べてみると、自分の地位を俺に奪われるのではないかと思った部長が自分の失敗を全て俺に押し付けていたのがわかった。
わかったところで、何もできやしないんだが。
「俺が何をしたって言うんだよ! ん? なんだこれ?」
俺はあるチラシを見ていた。
「人生でやり直したいことはありませんか、か。そんなもん、できたら今すぐやりたいくらいだよ」
俺はそう言っていたが、チラシを部屋に持ち帰った。

「はい」
俺はチラシの番号に電話をしていた。結局やり直したかったのだ。
「本当にやり直せるのか?」
俺は相手が出るとそういった。
「ええ、もちろん。ただし、一度限りですがね」
相手は一度限りを強めに言っていたが、俺は気にしなかった。
そのあと、住所を教えて、商品の説明を受けて、電話は切れた。
「本当にできるのか」
俺は不安になりながらも、商品が届くのを待った。
翌日、商品が届いた。
商品の大きさは、幅五センチ、縦と横の長さが五センチの小さな箱。その上に小さなボタンがついているだけだ。
「これで、本当にできるのか」
俺は半信半疑になりながらも、ボタンを押した。
その瞬間箱から煙が出てきた。俺は、意識を失った。

気がつくと、商談の最中だった。
ここから、俺は失敗が続いたのだった。もう間違いは起こせなかった。
結果、俺は大成功した。
それからは何をするにしても、成功の毎日だった。

それから、数年後。
俺は取り返しのつかない、失敗をおかしてしまった。
しかし、俺は慌てなかった。
あの機械があれば、俺は何度でもやり直せるのだから。
家に戻り、数年前手に入れた機械のスイッチを押す。
しかし、何も起こらない。
俺はその時初めて慌てた。
この機械さえあれば、何度だってやり直せると信じていたからだ。
それからと言うものの、俺はその機械だけを欲しがった。
会社はクビになった。
俺は最後まで思い出せなかった。





やり直しは
一度限りだと。




三番目のお話


疲れた。
周りに合わせるのが疲れた。

疲れた。
生きていくのに疲れた。

疲れた。
人生に疲れた。

だから、今日やり直す。
人生そのものを。

電話をして次の日、商品が届いた。

すぐさま、スイッチを押した。
私は意識を失った。

目を覚ますと、目の前に知らない人がいた。

「どうもはじめましてだな。早速で悪いけど、あんたやり直したいんだろ? 俺がその手伝いをしてやろう」

次の瞬間、私は包丁で刺された。





さようなら、私の人生。



最後のお話


彼らは最後までわからなかったようです。
あなたならわかりますよね?
さて、お話はここまで。
彼らのことは、誰にも知られないでしょうね。

一度だけやり直すチャンスを与えられたのなら、あなたはどうしますか?

ちなみに、私は彼らに商品を与えた張本人です。
彼らに与えた商品には煙状の睡眠剤が入っていたのです。
あとは、彼らに起こったことを調べ上げ、お金で雇うだけ。
簡単な話でしょ。

さて、一度だけやり直すチャンスをあなたにも与えましょう。
あなたなら、どうしますか?

人生でやり直したいことはありませんか?

人生でやり直したいことはありませんか?

「人生でやり直したいことはありませんか?」そうかかれた広告によって、三人の男女の人生は狂い始める。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-09

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