ルナの冒険2章~素直さの種~ 

≪1話→http://slib.net/22066
≪章と話を入れ替えました!混乱を招いたらすみません…。≫

木々が太陽の光に照らされ、キラキラと光る。

時折吹く風が、その美しさを際立たせていて…
なんとも、幻想的な光景を生み出していた。

そんな森の中で、うごめく無数の影たち。
しかし影という表現は、あまりにも彼らに不釣合いであろう。

…たった一人を除いては。

1話~孤児~

暑い。
とてつもなく暑い。

じりじりと肌を焦がすような日差しだ。
慣れない馬に長時間乗っているのも疲れたし、
こんなに城の外に出たのも初めて…。
あの日、リルタ村を出発してからもう1週間以上たっただろう。
なのに…

「まだ目的地に着かないの?」

何度目にもなる質問を二人にする。

「姫様…。
さっきその質問してから5分も立ってないっすよ?」

あきれ顔で後ろから言ったのは従者のアルト。
すごいバカのアルトにこんなこと言われると、余計に腹が立つ。

「あと半日ほどですわよ。」

隣の馬から聞こえてきた涼やかな声に、ふっと横を向く。
風になびく黒髪が太陽の光を浴びてきらきらと輝いている美人さんは、
私の侍女であるレイヤだ。
レイヤは私の後ろのアルトを、キッと睨み付ける。

「ルナ様は初めての遠出なのですよ!もっと気を使ってあげなさい!」

「そういってレイヤがこいつを甘やかすから、
食料も水も、もうなくなっちまったんだろ?!」

「うっ…」

レイヤは何も言えなくなったのか、
黙ってしまう。

「…ちょっと、待ってよ。アルト?」

私は後ろに乗っている、
アルトの方に体を向けた。

「うわっ、急に動くなよ!」

「食べ物が、ないっですって?!」

馬に乗せてもらっているから、私は自由に動ける。
でもアルトは手綱を掴んでいるから抵抗できない。
それをいいことにそのまま、アルトの手首を掴んで問い詰める。

「どういうことよっ?!」

「ひ、姫様のためってレイヤのやつが…」

私の迫力に押されてか、
ちょっとのけぞり気味で答えるアルト。

「ご、ごめんなさい、ルナ様!
私、昨日アルトと料理をしていたら、なぜか爆発させてしまいまして…。」

…何をしたのよ、何を。
手綱をぎゅっと掴み、
今にも泣きだしそうな顔をするレイヤ。

「そして、食料が入ったカバンごとドカンと…。」

だから今日の荷物が少なくなっていたのね。
シュンとするレイヤを怒れず、
…でもお腹も減って、のども乾いて…。
やり場のないイライラに、両手で頭をかきむしった。

「それで、もうなにも食べ物はないの?」

「や、3人の2食分くらいなら何とか残ってる。」

「この先に大きな街がありますから、そこで何か買いましょう。
お金なら沢山ありますもの。」

アルトが手綱を掴み、馬をさらに急がせた。
レイヤも後についてくる。


でも、そのすぐ後で、アルトがいきなり手綱を思い切り引っ張った。
馬は当然のごとく、勢いよく止まる。

「アルト!?何するのよ!?」

思い切り
馬に鼻をぶつけてしまったじゃないのよ…。

「ひぃあ?!」

という、後ろからレイヤのかわいらしい声も聞こえてきたので、
後ろでも同じようなことが起こったらしい。

でもアルトの目線は私より前を見ていた。
ふと、私もその視線の先を見る。
すると呆然として、鼻を押さえていた手をふっと離してしまった。
目の前には少年が倒れていた。
でも様子がおかしい。

ボロボロの布地を着ているけど、泥まみれでところどころ破れている。
息はか細く、放っておくと死んでしまいそう。

「あれは…?」

目を離せず、
呟くように尋ねる。

「孤児、だ…。」

アルトもまた、少年から目を離せないようで
…呟くように答えてくれた。

『孤児』。

小説や、話には聞いたことがあったけど目の前で見るのは初めてだ。
確か、両親がいなくて生活に困っている子供たちのことよね。
じゃあ、この子も家族がいない…。

「この様子だと、あと半日の命ってところだな。」

「ど、どうして?」

「腹減ってるんだろ?たぶん。
呼吸の様子とかで判断するとそんなものだろ。」

アルトはいつの間にか、少年の近くに行ってじっと顔をのぞき込んでいた。

「ま、俺たちには関係ないことだ。
第一こういうやつを全員助けてたら、身がもたねえよ。
山ほどいるしな、孤児は。」

そんな…。
その時、ふとある人の言葉が浮かんできた。

『この国中の人を幸せにするなんて俺にはできない。
けど、俺は俺の周りの人間を笑顔に…幸せにすることならできるだろ。
それは時間がかかるかもしれない。
でも俺は人が傷つくのは嫌いだから、全力を尽くす。』

そう、ユエの小さい頃の手紙のこの言葉…。
周りの人を笑顔にするために全力を…。
私は慣れない動きで、馬からそろそろと降りた。
そして後ろの荷物を運び出す。

「ルナ様…?」

レイヤが怪訝そうに私を見つめてくるのが分かる。
アルトも、同じように私を呆然と見つめていた。
私は鞄から数少なくなった食べ物を取りだして、
すべてを少年の前に並べた。

少年が虚ろな目で食べ物を見つめ、その瞬間ばぐばぐと食べ始めた。
いや、吸い込み始めたという方が正しいかもしれない。
素晴らしい食べっぷりで、思わず見とれてしまう。

そうして3人の2食分の食料は、
あっという間に少年の胃袋へと吸い込まれていってしまった。

「ねえ、大丈夫…?」

私は、ずっと俯いたままの少年の顔が見えるようにしゃがみこむ。
やっと、少年は虚ろな目をこちらに向けた。
初めてしっかりと少年の顔を見て、思わず息をのむ。

虚ろではあったが、吸い込まれそうな深緑色の瞳。
髪の毛も、土や砂ぼこりで茶色がかってはいるけど深緑色。
ちゃんと手入れすれば輝いているだろう。

そして…何とも言えないのがその顔…。
なんて整っているんだろう。
同じ年くらいであるけど、
美しくかわいらしい様子に思わず見とれてしまう。

「ありがとう」

鈴を転がしたようにかわいらしい声がした。
少年はそのまま私の方をみてにこりと笑うと、両手を合わせた。
すると、急に地面からゴゴゴゴという地響きが起こる。
馬も立っていられなくなり、フラフラとし始めるほどの威力だ。

「地震か…?!」

アルトが、私をかばうように横に立ってくれる。
レイヤも馬から降りてきて、私の方に近づいてきた。

「ごちそうさまでした、バカなお嬢さん♪」

突然、地面から大きな植物がたくさん生えてきた。
足を固定され3人とも動けなくなる。
そして、丈夫な蔓が私たち3人の周りを囲み、
視界が完全に覆われる。

最後に私たちが見たのは、
その少年の悪魔のような微笑みだった。


―☆―☆―☆―☆―☆―

その30分後くらい。
やっとのことでアルトが持っている短剣を使い、
蔓で作られた檻から出れた。

「あのガキ…。許さねえ!ふざけんな…!!!」

アルトだけ体全体に蔓が巻き付いていて、
花が…まるで女子の洋服に見えるように咲いていたため、
女装したように見えていたからか。

アルトは残った蔓をぶちぶちと引っ張り、
粉々にしている。

「ご、ごめんなさい…。」

私はいたたまれなくなって、ふっと下を向く。
私が少年にあんなことをしなければ…。

「いいえ、ルナ様のせいではないです。あの少年が悪いのですから。」

「過ぎたことをグチグチ言っててもしょうがねぇ!どうするか、考えないとな。」

そう、私たちの馬は1匹盗まれていて
…しかも荷物は全部なくなっていたのだった。

「お金は全部、私がポーチに持っていたので助かりましたが…。」

食べ物も飲み物も、すべて奪われてしまった。
それらや馬などは、お金を払えば次の街で何とかなるかもしれない。
でも、本当に困るものがある。

「…ねえ、あの少年を見つけるのって、大変かしら?」

「そりゃ、あいつの顔はちゃんと見てないし」

「どの町に行ったかなんてわかりませんものね。」

やばい。
非常にまずいし、やばい。


「ぺ、ペンダント…も奪われちゃったんだけど…?」

鞄に入れていたから…あの王位継承のためのペンダントも、
盗まれてしまった。


「あ」


2人はふと顔を見合わせ…

「っきゃあああああああああ?!」

「くっそおおおおおおおおお!!!」

絶叫が草原に響き渡った…。

2話~エジャンドン~

私たちはそれから、すぐ南下してエジャンドンという街に着いた。
幸いなことに近くに街があってよかったわ。
レイヤによると、エジャンドンは商業が盛んでとても大きな街らしい。

沢山の商店が道に立ち並び、いかにも旅人らしき人も大勢いる。
こんなにたくさんの人がいて、よくもみんな迷わないわね…。
ま、これだけの大人数がいれば、
あの少年の手がかりを探すのにはピッタリかもしれないわ。

私は先ほどの少年の濃い緑色の瞳を思い出し、複雑な気持ちになる。
『ありがとう』
と言ったあの声はとても澄んでいて、嘘には思えなかったのに…。
それと同時に、
『ごちそうさまでした、バカなお嬢さん♪』
という憎たらしい顔も頭に浮かんできた。

「あー!あのガキ!!!むっかつくわね!」

「る、ルナ様!街の中ですので、
声をあまりあげないでくださいませ…。」

「いいか、姫様。絶対にフードとるなよ?
特に金髪って目立つんだからよ。一応『追われてる身』なんだから。」

「分かってますよーっだ!」

私は、フードを目深にかぶりなおす。
アルトが言ったように、
金髪って王族か光の魔法使いくらいしかいないものだから目立つのよね。
もし普通にしていたら、ユエにすぐに見つかってしまうわ…。
この金髪は気に入っているけど、こういう時は邪魔なのね…。

それにしても…。
私はあたりをもう一度ぐるりと見回した。
空にまで届きそうな大きな建物に、どこまでも続いていそうな道。
数え切れないほどあるお店の数々。
更に、道には端から端まで、人がひしめき合っている。
みんな何か忙しそうにしていたり、大声で何かを言っていたり
…圧倒されてしまう。

すると、いきなり後ろから
ドンッと突き飛ばされそうになる。

「オラオラ、そこどきな、お嬢ちゃん!怪我すっぞ!!!!」

「ひゃ?!」

怖いおじさんに睨まれ、思わずすくみあがる。
思わず、開いた口が塞がらない…。
この国に、こんなに人がいたなんて…。

「ルナ様は、初めてのお出かけですものね。
…商店街などは特に。」

「迷子にはなるなよー?」

2人はこんなに人がたくさんいるのに、
ぶつからずに…スイスイと進んで行く。


っていうか!ちょっとは私のことを、気遣いなさいよ!
待って…!と、言おうとして今度は前から何かが私にぶつかってきた。
思わず、尻餅をついてしまう。

「っいったああい!」

「うひゃ!?」

フッと前を向くと、
かわいらしい男の子が私と同じように尻餅をついていた。

「ご、ごめんなさい!お姉ちゃん、大丈夫?」

つぶらで透明な瞳が、
私を上目づかいで見てくる。

…っ!かわいい…!
10歳くらいかな?でも、もっと幼くも見える…。
まんまるの大きな黒い瞳とフワフワの髪の毛、
それに私の胸くらいの身長。
華奢で細い手足と小さい顔は、きっと私よりも女子らしいだろう。

私は思わずぼおっとしてしまう。
すると、その男の子が近づいてきてブンブンと肩を揺さぶった。

「お姉ちゃん?どこか、痛いの?」

返事をしなかったから、
心配させてしまったらしい。

「う、ううん!大丈夫よ。平気。それより、君は?」

「ボクは男の子だから、全然平気だよ!」

両手の平をぎゅっと握り、一生懸命に言う姿もかわいい。
いい子なんだろう、と直感で分かった。

「そっか、強いね。」

私は思わず、男の子の頭を撫でる。

「えへへ。」

男の子はさらに笑顔になる。
澄んだ瞳にこの笑顔、
きっと何も『闇』を知らないんだろう。

だからこそこんなにキレイで…。
キレイ過ぎて、少し不安になる。

「ボク、急いでて…お姉ちゃんにぶつかっちゃったの。…ごめんなさい。」

「ううん、お姉ちゃんもぼおっとしていたからさ。」

シュンとしている男の子を見ると、
こっちからとても申し訳なくなってきた。
…何かお詫びがしたいな。

私は何かいい案がないかと、
レイヤに相談しようとして…ハッと気づく。

2人がいないことに。


―☆―☆―☆―☆―☆―

信じられない!

従者が私を置いていくなんて!
まあ、この人ごみの中だし
仕方ないのかもしれないけど…っ。

どうしよう。
この町のことは知らないし、お金も少ししか持ってないわ。
魔法も使えないし、家来もいない。
周りに私の知っている人は、誰もいない。
手が震えだすのが、自分でもわかった。

「お姉ちゃん?どうかしたの?」

「う、ううん!何でもないよ。」

私は内心焦りながらも、必死に笑顔を作った。
年下のこの男の子に、
これ以上迷惑をかけられない。

「お姉ちゃん、もしかして…迷子?」

…。
図星をさされて、
おもわずビクッとしてしまう。


「わーっ!ボクもだよっ!」

とっても明るい声で、元気よく言う。
…。
そっか、迷子なんだ。
2人で、迷子なんだ。

「そっか、じゃあ…一緒に、友達を探そうか。…えっと、ボクの名前は?」

「ボクの名前は『ルイ』っていうの。
ライお姉ちゃんとカイお兄ちゃんを探してるの。」

「そう。じゃ、何か…手がかりは?」

「んとね。カイお兄ちゃんは緑色の髪と瞳をしてるの。」

…えっ?!
それって、まさか…。
私の鼓動が早くなる。

「ボクは、『カルラ怪盗団』の1人なの。
カイお兄ちゃんは一番偉い人でね。ぼくより少しお兄ちゃんで16歳!
盗むのとっても上手だし、お腹が減った人の演技も上手いの!」

声がおもわず出なくなる。
…心臓が止まるかと思った。

絶対あの私たちから荷物を盗んだ少年だ!
まさか、こんなに早く手がかりを見つけられるなんて…。
超ラッキーだわ!ついてる!

…これで、レイヤとアルトがいたら、どんなにいいか。

「あ!!…これ…秘密だった。内緒にしてね?」

あわあわとして、
人差し指を口に当てて『シーッ』のポーズ。
…ルイくん、嘘とかつけないんだろうな。とっても優しく育てられたんだろう。
でも、ごめんね。内緒にはできないや。
胸がちくりと痛む。

「と、とりあえず、もっと広いとこに行こうか?
人から見つけてもらえそうなところ。」

「うん!…あ、そうだ!」

カイくんは、ふと私の手を握る。

「はぐれないよーにっ!えっと、お姉ちゃん、名前は?」

「…ルナっていうの。
でも、お姉ちゃんって呼んでくれないかな?」

迷った末に、私は自分の名前を明かした。
まあ、ルナという名前も少なくないだろうし。
ルイくんはこの国の姫の名前なんか知らないよね?

「いいよ!でも、今だけ名前…使わせてね?」

小首を傾げて、また上目づかいをしてくる。
私が「どういうこと?」と尋ねる前に。

「ルナお姉ちゃん!
短い旅ですが、このひと時の間はボクとおつきあいくださいっ!」

ふわりと、優しい笑顔を向けられる。

頑張って、少し慣れていなさそうな言葉をいうルイ君を見ていると、
なんだか心が温かくなった。

2人からはぐれてしまったのに、のんきだと思うけど…。
ルイ君が繋いでくれた右手が、
じんわりと温かくなるのを感じていた。

―☆―☆―☆―☆―☆―

「このあたりで、
緑色の瞳と髪の毛をした少年の盗賊を知りませんか?」

この質問を、さきほどから何十回も繰り返している。
でもみんなそろって答えは変わらない。
知らない。
聞いたことない。の繰り返しだ。

でも、こうやって聞きまわるほか…
手がかりはないのだから。

「レイヤ、そっちはどうだ?」

東通りで聞き込みをしていたアルトが帰ってきた。
顔を見るとあまり芳しい様子ではない。

「私は収穫ゼロです。
やはりこうも人が多くては聞き取りも、しにくいです…。」

「俺もほとんどない。つーか!さっきなんて、警察に職質されてよ…。」

「な?!大丈夫でしたの?」

「ああ。
警察の中でも超下っ端の連中だったから、俺の顔は知らないだろ。
…ま、それでも一応姫様の顔は知ってるか。
お前達が職質されなくてよかったぜ…。」


ん?
ふと、今の会話に違和感を感じて
私はアルトに問う。

「ルナ様は、そのとき別行動をしていたんですか?」

「は?」

アルトが目を丸くしてこっちを見てくる。

「…姫様は、
おまえと一緒に行動してるんじゃないのか?!」

…。
な、なんてことを!!!
私たちは一瞬で理解した。
ルナ様が迷子になっていることを。

ああ、気づかないなんて。
…いつからでしょう?

「…俺の言葉がマジで当たって、迷子になるとはね…!」

「ルナ様ったら、
あんなにはぐれないでって申し上げたのに!」

ルナ様は本当に世間知らずの姫だ。
こんな人ごみに慣れていないうえに、1人ぼっちなんて…。
ああ!
私としたことが、申し訳ありません!

私たちは、
とりあえず最後にルナ様と会話した記憶がある、中央広場に向かった。

―☆―☆―☆―☆―☆―

「お姉ちゃんはいくつ~?」

「17歳だよ。」

「ボク、10歳!好きな食べ物は~?」

「えっと…。」

「ボク何でも食べる~!好きなお花は~?」

「う、と…。」

「ボク何でも好き~!好きなおやつは~?」

「あっ…と」

「ボク何でも好き~!んと、じゃあねえ…」


あれから、何十分もこんなやり取りを繰り返していた。
それにしてもルイくん、ずっとこの調子だし…。
っていうか質問してからの回答時間、
短すぎて何も答えられない…。

「あの、ルイく…」

「あ、お姉ちゃんはこの街何回目~?」

「え?!…はじめて、かな。」

「ボク、覚えてないや!じゃあねえ~…。」

覚えてないんかい!
さっきからルイくんの答え…テキトーだなあ。

「ルイ君!
ルイ君についてもっと教えてくれないかなあ?」

「ボク?」

まんまるの目をさらに丸くさせるルイ君、かわいすぎっ!
でもそんなルイ君を今から騙さないといけません…。
あああ!心が、痛い。

「カイお兄ちゃんのこと、もっと教えて?」

「いいよ?お兄ちゃんはかっこいいんだよ!」

それはもう聞いたってば。

「でね、何でもできるの。
それに植物が大好きなの!」

おおざっぱすぎて伝わらない!

「あ、『カルラ盗賊団』って?」

恐る恐る、
一縷の希望を込めて尋ねるけど…。

「正義のミカタ!」

分からないってばああ!!!
落ち着け、私…。
まず絶対に聞かないといけないのは…。

「ルイくんは日頃どこに住んでるの?」

「木がたーくさんあるとこ!」

森…かな?
このあたりに木なんてなさそうだけどな。
ここ、エジャンドンは結構都会よね?

「それ、どこにあるの?」

「うんとね!」

ルイ君が満面の笑みで、
私の質問に答えようとしたその時だった。

「ルイ、ストップ。」

鈴を転がしたような涼やかな声が、
私の後ろから聞こえた。

…間違いない。この声は…!

「結構卑怯なんだね?」

声音では、その人物の表情は読み取れない。
私はゆっくりと、でも確実に後ろを向く。

「カイ、くん?であってるのよね?」

濃い緑色の瞳が、
私をいたずらっぽく見つめる。

「お久しぶり。
また出会えて光栄ですよ、バカなお嬢さん♪」

3話~カルラ盗賊団~

「またお会いしましたね、お嬢さん♪」

カイ君は、ニヤリと唇の端を少しだけ上げた。
そんな顔を見て、腹立たしくなる。
キッとカイ君をみつめ、しっかりとした声で言い放つ。

「私たちの、荷物を返して!
…大切な、大切なものが入ってるの!」

そう、あのペンダントがないと…国が成り立たなくなってしまう。
ユエが王になるにしても、あのペンダントがなければ…。
私は、すがるようにカイ君を見つめる。

「お姉ちゃん…?」

ルイ君は私の言葉を聞き、ぴくっと動いた。
私から1,2歩…ゆっくりと離れる。

「お、お姉ちゃん…もしかして。
…ボクを、カイお兄ちゃんの事を聞き出そうとして、利用した…の?」

悲しい瞳。
こんな純粋な子を騙そうとした、自分が恥ずかしくなる。
それに、今にも泣きだしそうなルイ君をみて…私まで悲しくなった。

「ご、ごめん…ね。
でも、最初はそんな気ぜんぜんなくって…。」

ルイ君の前にしゃがみ込み、頭を撫でようとしたけれど。
ルイ君は、ビクッとして…カイ君のもとに駆けていく。

「本当に、ごめんね。
私の命よりも大切な者を…盗られたから…、私…っ。」

カイ君の後ろに隠れ、ルイ君は目も合わせてくれない。
…どんなに言葉を紡いでも、
純粋な子を傷つけたことに変わりはないのだ。
そう、分かる。
それでも、先ほどまでのルイ君の笑顔が消え、
瞳いっぱいに涙をこめた顔をそむけられて…私は謝らずにはいられなかった。

「…ねぇ。」

頭上からよくとおった声が聞こえた。
ふっと上を見ると、カイ君がじっとこちらを見下ろしていた。
先ほどまでの口元の笑みは、もうない。

「…ルイを…仲間をきずつけるヤツは…。僕、許さないんだよね。」

冷たい声。
深緑色の瞳は吸い込まれそうなほど…さらに暗くなっていた。
ゴクリと唾を飲み込む。
繁華街にいるのに、周りの人の声が遠のいていく。

すべては一瞬。
カイ君の瞳がキラッと光り、私の体は自由がきかなくなっていた。
両手足に、ぶっとい蔓が絡みついている。
いつの間にか、周りは植物で作られた壁で覆われていて
…周りの人の姿もみえず、助けも呼べない。

背中に冷たい汗が流れた。
カイ君は、そんな私をみてゆっくりと近づいてくる。

「例え、小さな子供でも。女でも、大人でも、年寄りでも。
誰だって何者だって、僕は許さない。」

蔓がギュッと、きつくなる。

「う…。」

口もふさがれ、息ができなくなる。

「苦しみなよ。」

そして数十秒…経過した。
目の前が虚ろになっていく。

死んじゃう…のかな…。苦しいっ…!
私、まだ…死ねない…。
ユエのことを明らかにするまで、死ねないのにっ!
嫌っ…。
でも、このままじゃ。

あきらめかけたその時。

「か、カイ兄!もう、いい!
僕、お姉ちゃんのこと嫌いじゃないの!
だから、殺さないで!」

ルイ君がカイ君の手を強く、強く引っ張った。

「…チッ。」

カイ君は、数秒ルイ君を見つめ…舌打ちをした後、
目を再び光らせる。

その途端、周りの植物や、蔓は一気になくなった。
私は地面に倒れこみ、大きくせき込んだ。
息ができなかったので、意識はもうろうとしている。
でもふっと見ると、2人が立ち去ろうとしていることが分かった。

「ルイ…君、ごめんね。
でも…ペンダント…返して欲しくて。
…お、お願い。」

荒い息の中で、私が言えたのはこれだけだった。
でもルイ君はふっとこっちを見て、すこし寂しそうにしていた。

ごめんね、ルイ君。
本当に、ごめんね。ふっと気が遠くなる。

ルイ君が私を呼ぶ声が聞こえたけれど
…私に返事をする力はなかった。


―☆―☆―☆―


優しい匂いで目が覚めた。
私は、見慣れないベッドに横になっている。
…ここは、どこだろう?

辺り一面、若々しい青葉に囲まれていた。
耳をすませば、小鳥の鳴き声や川のせせらぎが聞こえてくる。
温かい太陽のにおいと自然の優し匂いも広がっていて…どこかの森…?

寝起きの頭でいろいろ考えようとしたけれど、私には見当もつかない。
必死に記憶をたどっていると、知っている声が横から聞こえた。

「お姉ちゃん!目、覚めた!!!」

笑顔でこっちを向いたのは…。

「ル、ルイ君?!」

その瞬間頭の中で、何かが光った。
ここは、もしかして…。

「カルラ盗賊団の秘密基地にようこそっ!」

私のベッドの横に、ルイ君は座っていた。
状況を理解しようと、改めてゆっくりとあたりを見回した。
私の寝ているベッドは木で作られていて、とても可愛らしい。
掛布団は少し短いけど温かくて、フカフカ。
周りは木で造られていて…ログハウスのようだわ。

盗賊団の基地というにはあまりにも、爽やかで清潔感溢れる素敵な場所。
…ここがカルラ盗賊団の、秘密基地…?

でも何よりもビックリしたのは、
何人もの子供たちが、ベッドを取り囲むようにして私を見下ろしていたことだった。
みんな、まだ幼くて…大きくても10歳の子くらいしかいないだろう。
真っ黒の瞳はきらきらと好奇心でいっぱいだ。

「お姉ちゃん、はじめましてぇ~!」

「髪の毛、触るー!」

「どうして、おめめが青いの?」

「いくつなの?どこから来たの?」

いきなり、質問攻めだ…!
私はどうすればいいのか分からず、オロオロしてしまう。
小さい子にあまり免疫もないし…どうすれば?!

みんなが私にとびかからんとする勢いで質問するのを制したのは、
なんとあのルイ君だった。

「みんな、ストップして!1つずつ、聞くの!」

言い方は、幼かったけど…効果は絶大でみんなとてもおとなしくなる。
ルイ君は満足そうにみんなを褒め、そして私に向かい合う。

「だから、お姉ちゃん!質問、答えて~!」

…あれ。
さっきまでのカッコよさはどこに…?
みんなをまとめていたルイ君とは全く違う声音が、同じルイ君から出てきてまた驚く。
二重人格なのかしら?

でも、私はルイ君をさっき傷つけてしまった。
せめてものお詫びをしないとね。

「私の名前は、ルナ。
でも、みんなはお姉ちゃんって呼んでね?
髪の毛と目の色は生まれつきなの。
年は17歳。えっと、リルタ村っていう小さな村から来たのよ。」

さっき聞こえた質問に、出来うる限り答えた。
でも、みんなはキョトンと数秒私の顔を見つめた。

…通じてないの?
ちょっと心配になり、ルイ君に顔を向ける。
ルイ君はにっこり笑っているだけだ。

そして、きっかり10秒後。
部屋の中は大歓声だった。
私は大歓声の意味が全く分からず、みんながハイタッチして喜ぶ姿を見ていた。

すると、ルイ君がさっきよりも、さらにかわいらしい笑顔をむける。

「カルラ盗賊団って、国中で嫌われてるから。
盗賊団以外の人はみんな、ボクたちを無視するの。
だから、優しい人に逢えてすっごく嬉しいの!」

な…?!
私は思わず絶句する。
こんな小さな子たちを無視するなんて、この街はどうなっているのよ?!
エストレア王国は平和で、誰もが幸せの国のはずなのに。
私が知らないこの国の内情が…初めて見えた気がした。
姫って、随分頼りないのね。

「お姉ちゃんって、文字読める?」

子供たちの明るい声に、私はハッと我に返る。

「読めるわよ?どうして?」

「あたし、この本大好きなの。
でも、読めないから。
カイ兄がいれば読んでくれるけど…。」

「バカ。
『びょーにん』に本なんか読ませちゃダメだろ!」

「だって!」

子供たちが言い合いになりそうになる。
…本当、見れば見るほどなんら普通の子たちと変わりはない。
本当に盗賊団の一員なの?

っていうか、うっかり静観してる場合じゃないでしょ、私!
年上なんだから、止めないと…。
でもどうやって?

「やめなさーい。ユイ!ナイ!」

ルイ君の鶴の一声で、再びみんなが静かになる。
…すごい。
口調こそ、ふんわりした柔らかい言葉だったのに。
みんながどれだけルイ君を信頼してるかが、一目瞭然だ。

「お姉ちゃん、読んでもらえる?
ボクもこの本好きだし、聞きたいな。」

ふわっと、笑顔でこう言った後。
もちろん、具合が悪くなければ。とルイ君は慌てて言い直す。
その様子があまりに必死で、少し吹き出しそうになる。
なんて可愛いんだろう。
母性愛とか聞いたことあるけど…そういう感情に近いかもしれない。

「うん。
ルイ君には何かお詫びしたいし、
私にできることならなんでも言ってね!」

子供たちが、わぁっと歓声をあげた。
ふふ。一気にお母さんになった気分ね。

私は自分が今置かれている立場もすっかり忘れて、
借りた本を読みだした。


「『シンデレラ』かあ。懐かしいなあ。」


誰もが知ってるストーリー。
意地悪な継母と義姉に虐められている女の子が、
魔法使いの手によって舞踏会に行けるようになり、王子さまと幸せになる話…。

そうして読み始めていくったんだけど…。
あれ?
私が知っているシンデレラと…この話、違う?

『そうして魔法使いが、シンデレラに魔法をかけると…。
シンデレラは次の瞬間、素晴らしい武器を持っていたのです…?!』

「シンデレラ、やっぱりカッコいい!」

え、シンデレラってかっこいい話だっけ?!
あれ、私の知っているシンデレラの方がマイナーなのかしら?
いやいや、そんなはずは…。

『…さらに、シンデレラは魔法使いに言います。
「武器だけでなく、共に戦う仲間が欲しい。
それと鉄壁の鎧があれば、必ずやお義姉様たちに仕返しをしてやれます。」
魔法使いは大いに頷き、杖を一振り。
シンデレラは3人の頼もしい犬、サル、キジのお供をつれ
…鎧を身にまとい、剣を掲げ城へ向かいました。
「幸せは、私がこの手で掴んで見せる!」
…。』

わーっと、みんなが一斉に拍手をする。
シンデレラ…確かになんてカッコイイの?!

…いやいやいや!
おかしいから!
犬、サル、キジは違う話だしっ!?

そんな私の心のツッコミをすべて回避し、順調にシンデレラは続いた。
シンデレラは舞踏会に乗り込み、武道会にしてしまった。
義姉や継母を切り殺し、返り血を大いに浴びる。
そしてその勇敢な姿に王子は惹かれ…2人は幸せになった。

『めでたし、めでたし…。』

私に心残りがたくさんあるのだが、
子供たちはとっても笑顔で拍手をした。

「私たちも、
シンデレラのように幸せを掴もう!」

なんか、すごくカッコいいことをみんなで言ってるし。

私は意を決して、みんなに話しかけた。

「ねえ、
私の知ってるシンデレラの話をしてもいい?」

そして、おそらくポピュラーである
『シンデレラ』の話をもう一度…話したのだけど。

「嘘だー!」

「シンデレラはみんなに仕返ししないの?!」

「王子様は、そんなシンデレラ好きにならないよ!」

不満と反論の嵐を浴びてしまった。
ルイ君までも、みんなを止める気配がなく…。
私自身の力でなんとかしなければならないみたい。

「みんな、よく聞いて。」

出来るだけ、落ち着いたトーン。
真剣な顔で、私は子供たちの目をまっすぐに見た。
みんな…根がいい子なのね。
すぐに静かになって丸い目をじっとこちらに向けた。

「みんなが知ってるシンデレラのように不幸になっても、
誰かのせいにしたり…仕返ししちゃだめ。
恨むことをしないで。幸せになる努力をして。
…時間は戻らないから。
その人のために自分が犠牲になることはない。
自分の大切な時間は、自分のためだけに使おうよ?」

そして、何よりも。

「何よりも、人を殺すことだけは絶対にダメ。死ぬことは…本当に恐ろしいことだから。」

難しかったかな?
でも、このシンデレラをカッコいいって言ってることは…
殺人や恨む気持ちを肯定してるという象徴。
こんな純粋な目の子を…そんな風に荒んだ子供にしたくない。

みんなは、真剣に私の言葉の意味を噛みしめていた。
みんなとても暗い…真剣な表情で下を向いていた。
沈黙が続く。

でも突然、
ルイ君がばっと私の両肩を掴んだ。

「お姉ちゃんは、人を恨まないで…生きていけるの?」

その瞬間、私の脳裏に色んな人がフラッシュバックした。

お父様、お兄様、ユエ。そして、リーちゃんにおばあちゃん。
…そしてアルトとレイヤ。
目を閉じれば、いつだって…私のそばにいる。

「…無理かもしれない。」

私の大切な人を殺した人がいたら。
そんなの、許されない。
あの事件だって、犯人がユエじゃなかったら、
私は、その犯人を…どうしていたんだろう?

ホラ!というように、
ルイ君は私の顔を見て…何か言おうとした。
でも私はその言葉を待たずに、続けた。

「でも!
…でも、人を恨むのって疲れることだからさ。
悲しい気持ちしか、生まれないから。」

思う節が何かあったのか、
肩に置かれたルイ君の手が微かに震えた。

私はそっとルイ君の手を肩から外して、
両手で握りしめた。

「人を好きになる、努力をしよ?
人のいいところを沢山見つけることができれば、
世界は綺麗になると思うの。
きっと、ルイ君や…みんなみたいに優しい子ならできる。」

みんな、ポカンとして私を見ていた。
ハッとなる。
この子たちはとても小さいのに、
…なんてわかりにくい説明をしたのかしら、私っ!

「…む、難しいかな?」

みんな、まばらに返事をした。
少しでも、誰かの考えが変わるといいけど。
私はハーとため息をもらし、下を向く。

そしてルイ君の手の震えが、
一層増していることに気づいた。

「ルイ君?」

「お、お姉ちゃんは、幸せだから…そんな風に言えるんだ!」

ルイ君はそう叫ぶように言い残し、
部屋から文字通り飛び出していった。

私はあまりに突然の出来事に、何もできなくて…。
ただぼんやりと手の中から、
温もりが消えていくのを感じていた。

―☆―☆―☆―☆―☆―

ルイ君がいなくなると、
みんなはどうしてよいのか…分からなくなったらしく、オロオロしていた。
私の方をじっと見たり、シンデレラのストーリーを読み返そうと努力したり
(実際は挿絵だけしか見てないのだけど)、
みんなバラバラに行動している。

もしかして、私余計なこと言ったのかな?

「ふーん。
結構大人みたいなこと言うんだね?お嬢さん?」

頭上から、綺麗な声がした。
ハッとして頭上を見ると、そこには緑色の瞳が私を見つめている。

「カイお兄ちゃん!」

みんなはカイ君の登場にワッと笑顔になった。
子供たちを見つめるカイ君の微笑みは、とても柔らかい。
とても仲がいいことが即座に分かった。

カイ君が子供たちに一言二言何か小声で言うと、
みんなは散り散りにどこかに行ってしまった。

みんながいなくなったのを確認すると、
カイ君はこっちに向き直った。

「お嬢さんは、本当にバカなんだね。」

子供たちに向けられていた声と、同じ声なのに…口調が全く違った。
思わず背筋が凍る。
緊張で肩をこわばらせていると、
カイ君がその私の両肩をギュッと掴んだ。

「幸せな者は、他人の痛みも感じとれないのかい?」

幸せ…?
私は、自分のお兄様とお父様を
…弟に殺されたかもしれないのに。

「私が幸せなわけないじゃない!」

両肩の手を振り払う。
ついそう言ってしまった。
カイ君は何も関係ないのに八つ当たりしてしまった自分が嫌になる。
想像通り、カイ君はさらに不満そうな顔になった。

「君が、どれだけ恵まれているか…教えてあげる。」

そう言って、カイ君は近くの椅子に腰を掛け
…ゆっくりとした口調で語りだした。

~・~・~・~

もう5年前の話。
この街はそのころから既に発展していて、
沢山の人が行きかう立派な街だったんだ。

発展してたからこそ、治安は悪かった。
荒れ狂う人々、昼間っから酒を飲みまくる大人ども。
貧富の差はドンドン加速していく。

そんな中で、僕はライっていう幼馴染と一緒に、
毎日生きるためだけに動いてたんだ。

あれは、ある歴史的大雨の日だった。

僕らが住んでる公園の前に、子供が捨てられてた。
子供は当時5歳の男の子で、寒い日だってのに裸同然の薄着。
動けないほどの高熱を出して、ぐったりとしてたよ。
意識がもうろうとしている中、アイツはずっとか細い声で母親を呼んでた。

僕はライと一緒に、そいつを看病した。
ライが13歳、僕が11歳。
しかも頼れるやつも薬もないから、めちゃめちゃ大変だったなあ。
でも、何カ月もたって…そいつは目を覚ましたよ。

そして第一声は。
「ボクは誰?」だった。

…全部、忘れてたんだよ。
5年間の母親との記憶。
自分のこと…全てを。

僕らはそいつをルイと名付けて、カルラ盗賊団をつくった。
僕の力で巨大な森をつくり、ルイの帰る場所を作ってやった。
そして、そういう親に捨てられた奴らをドンドン仲間にして
…カルラ盗賊団は大きくなっていったんだ。

ルイ、たぶん10歳くらいだろうけど
…どう見ても幼いだろ?

まるで5歳児のような…。
それはルイの記憶が5年しかないせいだって、僕は思ってる。

~・~・~・~


声が出なかった。
孤児という言葉の重さが、初めて分かった気がした。

あのかわいらしいルイ君が…。
目の前にいるカイ君が。
そんな壮絶な人生を過ごしてきたなんて。

私は、今でこそ不幸かもしれないけど…今までの人生はとても幸せだった。
大好きなみんなに囲まれて、望めばなんでも手に入って。
…恵まれていたんだ。

カイ君に申し訳なくなって、
グッと唇を噛みしめる。

「これで分かった?…人を恨まずにいられるなんて、できっこない。
お嬢さんはとても恵まれてるし、そんな理想論はただの空想さ。
ああ、でも『可哀想』とか言わないでね?
それこそ最悪な言葉なんだから。」

ぶっきらぼうに放たれたその言葉は、なんだか寂しそうに聞こえる。
確かに、今の話から…恨むなって言われれば難しいかもしれない。
だけど、それでも私は…!

「そんなこと、言わないで。
お願いだから、誰かを恨むのはやめて…。」

「僕の話、聞いてなかったの?…っ!?」

カイ君がギョッとして私をみる。
私の頬には一筋の涙が伝っていた。

「なんで、泣いてんのさ…?」

「つらい過去があるなら、なおさら!」

カイ君の洋服にしがみつき、
私はありったけの声で叫ぶ。

「幸せになってほしい‼‼」

人を恨む気持ちは、とても苦しいものだ。
自分がドンドン汚れて行ってしまう気がする。
その愛が深ければ深いほど…。
小さなころの思い出が、そう私に教えてくれていた。
『恨み』からは悲しみしか生まれないし…幸せを捨てることだって。

私はそのまま、嗚咽をあげて泣き始める。
涙を止めようと思っても、なんだか止まらなくて。

この涙は同情なんかじゃない。
この国の姫として何もできない自分への悔し涙と、
今までのうのうと恵まれて生きてきた…自分へ腹立たしくての涙と、
カイ君とルイ君の心境を思うと胸が痛くての涙。

…止まらなかった。


そんな私をカイ君がぼんやりと眺めているのがなんとなく分かった。
そして、少したって…なぜかニヤリと笑う。

「ねえ、名前は?あと、年は?」

あまりに唐突でポカンとカイ君の方へ顔を向けた。
…自分からやっておいてなんだけど、
カイ君の洋服にずっとしがみついたままなので、すごい距離が近い。

綺麗な瞳にドキンと心臓が音をたてた。
思わず離れようとして、顔をそらし手を離そうとする。

「質問に答えなよ。」

勢いよく、腰を引き寄せられる。
涙は自然と止まっていたけど、
今度は違う意味で目が熱くなってくる。

「あ、え…とっ!」

何がなんだか、分からず頭が混乱する。
っていうか、何の脈絡もないよね?何なのよっーーー!

「早く答えてよ。襲っちゃうよ?」

「ひゃあっ!?る、ルナ!17歳!」

カイ君の反対の手が、私の顎を捉えた。
動揺して、正直に答えてしまう。
…しまった。姫だってばれたかも。

でも、そんな不安とは裏腹に
…カイ君は私の顎を捉えている親指で、そっと私の唇を撫でた。

「年上なの…?!
ふーん、見えないね。身長も僕の方が大きいし。」

「は、はなして!」

「ねえ、カイって呼んだらいいよ?僕はルナって呼ぶ。」

「そ、それは嫌。」

挙動不審になりつつも、それだけはお願いする。
だって、姫だってばれる可能性を少しでも減らさないとだから。
それに、その呼び方…ユエと同じで…嫌。

「わがままだなー。
…じゃ、ねーさんって呼んであげる。」

…カイ君のさっきまでの冷たい様子とは変わり切った態度に、唖然とする。
何なのよ、この子はーーーっ!

「何か魔法とか使えるの?
あ、あとさっきの連れは、まさか彼氏とかじゃないよね~?」

「彼氏っ?!」

「あ、違うね。」

分かりやす~い、と笑ってくるカイ君。
…年下なんだよね!?
というか、この体勢を何とかしてー!

私がアワアワしているのを一通り眺めてから、
笑顔で聞いてくる。

「ペンダント、返して欲しい?」

「…!も、もちろん!
私にできることなら…何でもするからっ!」

即座に、頷く。
すると、カイ君はさらに口の端をニッと上げた。


「じゃあ、カルラ盗賊団に入ってよ。」

…へ?

「そうしないと、返してあーげないっ!」

えええっーーー!?


―☆―☆―☆―☆―☆―

「ということで、コイツはルナ。
名前じゃなくて、お姉ちゃんとかなんとか呼んで。」

カイ君は、みんなに本当に軽く私のことを説明した。
ワッと、みんなが笑顔になる。

「よろしくね、お姉ちゃん!」

「今度は『白雪姫』読んでー!」

…どういうことよーーーっ!

私は、あの後有無を言わさずに、
カルラ盗賊団本部(カイ君談)に来させられた。

本部といっても、
さらに森の奥深くに連れてこられただけなんだけどね。

なんか、洋服も着替えさせられたし。
まあ、可愛い服だし私の好みだったからしぶしぶ着たんだけど…。

よく考えたら、顔丸見えだし金髪普通に晒しちゃってる!
でも周りを見ると、私の正体に気づいた様子はなくて安心する。
…みんな子供でよかったー。

さっき様子が変だったルイ君は、
最初なんだか機嫌が悪かったけど…カイ君に何か言われてから、百面相。

最初はすごく申し訳なさそうで、
少したってから出会った時のように笑顔を見せてくれた。

…それはよかったんだけどね。
ここまではいいのよ、うん。
でも…。

「どうして、私がカルラ盗賊団に入ることになってるのよ!」

了承してないわ!
無理やり入れるなー!

「ペンダント、返して欲しんじゃないの?
何でもするって言ったじゃん?」

「うぐっ。」

「本当に心からカルラ盗賊団の一員になったって、
全員が認めたら返してあげるよ。」

もーーーっ!
年下のくせに、超生意気っ!

…年下、か。
ちょっと、ユエのことを思いだしそうになり慌てて頭を振った。

すると、突然カイ君が私に話しかけてくる。

「ねーさん、僕とお話しよ?」

「な、によ。」

「僕が姉さんを守ってあげるからね。」

「…へ?」

唐突な台詞に、思わずどきっとする。
でも、そんな私の気持ちを知ってか知らずか、
カイ君はさらに別の質問をしてきた。

「ねーさん、さっきも言ったけど。
確か2人ほど従者を連れてたよね?」

「アルトとレイヤのこと?」

そうそう、とカイ君が笑顔になる。

「じゃ、そいつらちょっとぶっ飛ばしてくるね♪」

「へっ!?」

次の瞬間、カイ君はいなかった。
すごい速さで、森の木々を伝って…街の方に駆けていく。

「ど、どういうこと?!」

完全に混乱した私は、ルイ君に説明を求めた。

「カイお兄ちゃんは、きっと。
『迷子のお姉ちゃんを助けるため』に2人を探してるんだよ。」

…。嘘だ。
あの口調と態度は絶対に違う。

「それか、『お姉ちゃんは貰ったぜっ!』って宣言しに行くんだよ。」

それだーーっ!
でもでも、それなら2人に私が今どんな立場に陥っているか分かるはず。

ちょっと、チャンスかもっ!
気づいてーっ!
私がそうやって、念じていると。

「お姉ちゃん…。カイお兄ちゃんのこと、嫌い?」

ルイ君が、ふいに上目づかいで私のことを見上げてくる。
…可愛いものに超絶弱い私には、目の毒だわ。
そんな顔されて反論する方が難しいわよっ!

「嫌いじゃないけど、生意気かな…。」

苦々しい笑いで、言う。
でもルイ君は生意気っていう言葉も嫌だったらしくて、
一生懸命に話し出した。

「カイお兄ちゃんは、素直じゃないだけで…本当はすっごく優しいの。
だから、嫌わないであげて。」

…優しいかなあ?
私がさらに考え込んでいるのを見て、ルイ君は続ける。

「カイお兄ちゃんがどうして文字を読めると思う?」

でも、全く違う話になり、
私は一瞬混乱する。

「え、勉強したから…?」

「うん、そりゃそーだよー!」

…ですよね。

「うちのみんな、文字なんて読めないんだ。
ボクたちが、ここに来た理由は聞いたんでしょ?」

コクリと頷く。
みんな孤児だっていう話のことよね。
でも…何が言いたいか、いまだに分からない。

「ボクたちは勉強するお金も、時間もないから。」

「つ、つまり…?」

「カイお兄ちゃんは、ボクたちを養うために盗みを働いて…。
ボクたちに本を読んでくれるために、
数少ないカイお兄ちゃんの時間を削って、勉強してくれたんだ。」

ハッとした。
カイ君の行動は、すべてカルラ盗賊団のために行っていることなんだ。

あんなに自分勝手そうなのに…。
こんなに大勢の子供たちを養うの…大変なはずなのに。
私より年下だけど、私より遙かに立派で…大人なんだ。
そう思うと、なんだか悔しいような温かいような気持ちになる。

「だから、カイお兄ちゃんのこと嫌いにならないでね!」

そう言ってルイ君は、おねがいっ!と両手を合わせた。
一生懸命に言葉を探すルイ君は、本当に愛らしい。

でも…。

「むしろ、カイ君の方が私のこと嫌いなんじゃないの?」

「ううん、そんなことない。
カイお兄ちゃん、すごく楽しそうだから。」

…。
それは私をからかって、楽しんでるんだと思うの。
まあ、おもちゃみたいな感じなのかも。
そういうところは子供っぽいな。

今のルイ君の話を聞いて、
私の中の感情の何かが変わっていくのを感じる。
どす黒い、人間の汚い感情が…浄化されていくみたい。

ルイ君って、本当…不思議な子。
純粋で子供っぽくて、でもしっかりしてて。
…そして。

「ルイ君は、カイ君のこと…とっても大事なんだね。」

誰かのこと、一生懸命に考えられる優しい子なんだ。

「うん、ボクの自慢のお兄ちゃんなの。
世界で一番、優しくてキザでカッコよくて不器用で照れ屋で。
それにわがままで嘘つきで…。」

「それ、褒めてるの?」

クスクスと、思わず笑ってしまう。

その後、カルラ盗賊団のみんなも、
口々にカイ君の褒め言葉…という名の悪口を思いっきり言うものだから、
私はお腹を抱えて笑った。

盗賊団なんていうけど、なんて温かいんだろう。
みんな、とっても幸せそう。

笑顔があふれるこの森の木々は、とても明るくて…綺麗。
ザワザワと葉っぱたちが風に揺られる。
その音はとても優しくて、なんだか癒される。


カイ君は、根っからの悪人じゃない。

私の心にはそんな確信が、
いつの間にか生まれていた。

4話~宣戦布告~

「あー!もう、どうしましょう!」

エジャンドンの賑やかな通りの中、
私は盛大にため息をついた。

あれから数時間ルナ様を探しているのですが、全く見つかりません。
ルナ様の正体がばれるといけませんから
…大っぴらに聞き込みもできませんし。

あんな世間知らずの、
筋金入りのお姫様が見知らぬ街をたった一人で出歩いたら…。
考えただけでも、ゾッといたしますわ。

ましてや、あんなに可愛らしく素直で愛くるしいのですから!
心配で心配で…胸が張り裂けてしまいます!

「アルト!まだ、ルナ様の声は聞こえてこないのですか?」

先ほどから、特殊聴力を使ってルナ様の声を探しているアルトに声をかける。
アルトは難しそうな顔をして、コクリと頷いた。

「なんか、ザワザワっていう音にかき消されててさ…。
ルナ様がこの街の近くにいるってことは分かるけど、
どこにいるのか全く分からねえんだよ。」

焦った声で、そういうアルトの額には大粒の汗が滲んでいる。
無理もないですわね。
魔法を使うのは、とても体力がいることですから。

でも、アルトには頑張っていただかないと!
休んでもらうわけには、いきませんわ。
アルトより、ルナ様の方が…何十倍も大事です!

「アルト、もっと神経を集中させてください!」

「んだーっ!うっせえ!
レイヤ…お願いだから静かにしててくれ…。」

わしゃわしゃと、頭を掻くアルト。
そうとう、イライラしてますわね。
…まあ、私もですが。

そうして、私たちが焦ってルナ様を探していたその時だった。

「あんたらが、アルトとレイヤ?」

いきなり、澄んだ声が聞こえた。
この声。もしかして!
私たちは顔を見合わせ、コクリと頷く。

アルトも気づいたようですわね。
この声は、ルナ様を騙し、
…私たちからペンダントを奪い取った張本人の声ですわ!

でも、辺りをキョロキョロと見回すけど誰もそれらしき人はいない。
確かに聞こえたはずですのに…。

「鈍いなー。
そんなだから、ねーさんを迷子になんかさせちゃうんだよ。」

ぐっ…!
あなたにそんなこと言われる筋合いなどありませんわ!

「出てきなさい、どこですか?!」

「そーだ!
姿を現さねえ卑怯者で臆病者の面、拝んでやるよ!」

「あーやだやだ。
単細胞のバカじゃん、アンタ。
ねーさんも、どうしてこんなやつを従者にしてんの?」

そう、小バカにしたように言いながら店の屋根から飛び降りてきたのは、
とても美しい少年だった。

本当に先ほどの少年?!
緑色の髪と瞳。動きと容姿は完璧なほどの王子さまだった。
でも…発している言葉は全く美しくない。

「ねーさんって…まさか、姫様のこといってんのかよ?」

「…?! バカアルト‼」

バカだバカだとは思っていましたが、
自分からルナ様の身分を教えてしまうなんて!

さっと、アルトの顔も青ざめた。
あああ、もう最悪ですわ…。
私は頭を抱えて、うずくまりたい気分に陥った。

でも、その少年は全く動揺すること無く、
淡々としていた。

「なーんだ。ねーさん…やっぱりこの国の姫だったのか。」

…え?!
『やっぱり』ってどういうことですの?!

「ねーさん、分かりやすいよねー。単純だしバカだし?
腰までの長い金髪で青目、ルナっていう名前で、世間知らず。
…さらに従者まで着いてたら、普通は気づくし。」

ま、確証が欲しかったからよかったけど。
と、少年は続けた。
な、なんですの、この少年――!?

「僕の名前はカイ。カルラ盗賊団の団長さ。」

と、盗賊団!?

「ばれちまったもんは、しゃーねえ!
お前、姫様がどこにいるのか知ってるのかよ!」

アルトが開き直って、
カイという少年につかみかかる。

「やだなー、野蛮人。
暴力しか能力がないの?」

「ガキがなめてんじゃねえ!」

「そのガキに、
ねーさんを奪われたのはお前だけどね。」

なっ?!

「ルナ様の居場所を知っているのですか!?」

思わず声を張り上げ、2人の間に割って入ってしまいました。
そういえば、カイは私たちの名前を知っていました。
ルナ様から聞いたに違いありませんわ。
…ということは、
カイがルナ様の居場所を知っているとみて、間違いありません。

しかし、このままアルトをほっておけば、
何も聞けなくなるまでボコボコにしかねませんもの。

すると、カイはこっちを見て目を見張る。

「ふーん、なかなかの美人さん。
ごめんね、気づいてあげられなくて、お嬢様。」

カイはすっかり態度を変えて、私の手を取る。

「僕、女の人には優しいっていうのがモットーなの。」

特に美しい人には。と付け加える。
…そんなこと言われても、全く嬉しくないです。

でも、にっこりとした笑顔が、
少しだけ…美しい顔のユエ様を思い出させた。
容姿は全くの別物なのに…。
どうしてでしょう?
お二方とも、美しい顔…だから?
そんな疑問を考える暇もなく、カイは続ける。

「でも、カルラ盗賊団が一番大事っていうのが…
僕のモットーでもあるわけでさ。」

笑顔が、一瞬で違う種類のものに変化した。
敵を挑発する瞳だ。

「ねーさんは、我がカルラ盗賊団の一員になったのさ。
アンタたちみたいな、バカや無能と一緒にいるより遙かに幸せだよ。」

バカで…無能!?
バカアルトはともかく、私も?!

言い返そうと、アルトと私が身構えた途端。
街路樹の枝が急激に伸びてきた。
そのまま、私達を縛り上げる。
キツく締め上げられ、全くと言っていいほど動けませんっ!

…突然のこととはいえ、
私はおろか…運動神経の良いアルトまで捕まってしまうなんて。

「ホーラ、やっぱり超無能~!
ねーさんは僕らのものだから、手出ししたら許さないよ。
それに、僕のこんな攻撃も避けきれないやつらに、
…ねーさんを守ることなんて…できないでしょ?」

カイはそう、笑いながら捨て台詞を残し、
植物たちの力を借りて屋根に上り…そのまま駆けて行ってしまった。


―☆―☆―☆―☆―☆―


その後、私たちは街の人たちの力を借りて、
何とか枝から脱出できた。

でも…。

「あー!あのガキ何なんだよ‼‼」

私たちの怒りは収まらない。
そもそも、カルラ盗賊団って何なのでしょう…?

「あんたら、
また大変な奴に目をつけられちゃったんだねえ。」

助けてくれたうちの1人、
商店のおばさんが、私たちをみてため息をついた。

大変な…?もしかして!

「カルラ盗賊団は、ここ一帯では有名なのですか?」

おばさんは、大いに頷きながら言う。

「勿論さ。あいつらはこの街の嫌われ者だよ。
商店の中でも特にいい品ばかり奪っていきやがるんだ。
まだ16歳のカイっていう、さっきのが団長でね。
植物の能力だか魔法だかを使うから、
誰も捕まえられやしないんだよ。」

おばさんというのは、
やはりおしゃべりが大好きなようで…沢山話してくれる。
中でも色んな情報が気になったのですが、
一番気になったのは…。

「魔法を、使うんですの?」

「ああ、なんでも後天性の魔法使いだそうでね。嫌だねぇー。
魔法っていうのは偉い方が持ってこそ、お国のために使われていいのにさ。
カルラ盗賊団のためだけに使って、しかも犯罪のために使うんだから、
たまったもんじゃないのよー。」

「カルラ盗賊団は、
どんな組織なのでしょうか?」

「この街の嫌われ者って言ったろ?
だから、皆自分からペラペラと話したがらないだろうねえ。
町の奴らに聞いたって、『知らない』の一点張りだったろ?
まあ、…私はアイツら怖くないけど。
だって、みんな10歳にも満たないようなガキばっかりの集団だしねぇ。
でも、町の人は一斉にそいつらを無視って決めてるのさ。
カルラ盗賊団に関わって、万が一にでも盗賊団のガキ1人の機嫌を損ねたら、
団長のカイがその家や親類の家とかをぶっ壊すから。
あんたらも精々気を付けることだね。」

…。
一気に情報が入りすぎて頭が痛くなりそうですわ。

私はおばさんにお礼を言って、
アルトに向かい合う。

「結構、面倒なことになってきているようですわね。」

カイという少年からルナ様を助け出すのは…骨が折れそうです。
しっかり作戦会議を…。

「…って聞いてます?!」

アルトがぼんやりと地面を眺めていたので、
私はムカムカしてアルトの腕を振りまくる。

「ルナ様の一大事ですわよ!
先ほどのお話を聞いていましたわよね?!」

「…かった。」

アルトがぼそり、と呟いた。
地面に伏せた目線、そして真剣な面持ちに…私は一瞬動揺する。

まさか、私が気づかなかった何かに気づいたのでしょうか?!
生気を失った瞳が、潤んでいる。

私は少し緊張して、
アルトの次の言葉を待った。

「…分からなかった…んだ。」

「…。」

はあ?!

「だーかーらー!
あのおばさんが言ってたこと、ワケわかんねー!」

すっかり忘れていました。
コイツはバカアルトでしたわ。

「いいですか、端的にまとめます。
ルナ様はこの街で有名な…子供だけで設立された、『カルラ盗賊団』に捕まっているのです。
その団長がさっきのカイ。植物の魔法の後天性の魔法使いです。
だから厄介なんです!」

分かりましたか?!と、息を荒げて言う。
も~!
早くルナ様奪還作戦を計画し、
実行にうつさないといけませんのに。

…ルナ様は美しい姫。
あの少年に何かされていたら…。
考えただけでゾッといたしますわ。

「なんとなく、分かったかも?」

「なんですって~~~!」

「あ、いや…違う!
あの、後天性の意味が分からねえだけなんだけど。」

…つくづく、無知な方ですわね。

「いいですか、魔法使いといっても2種類に分けられますの。
1種類は先天性魔法使い。
親が魔法使いだと99%の確率で、子供も魔法使いになるんです。
これが先天性魔法使い。」

アルトが頷くのを見て、私は続ける。

「そしてもう1種類は後天性魔法使い。
親や血筋に魔法使いがいないのにも関わらず、
何かの衝撃や出来事に応じて魔法に目覚めるタイプです。
このタイプは非常に珍しく、
この国の人口の0.3%にも満たないのですわ。」

まあ、そもそも魔法使いが珍しいですしね。
ちなみにこの国の人口の約3%が魔法使いです。

「なるほどー。」

「後天性魔法使いに目覚めたものは、
そのまま貴族にのし上がることが多いのです。
魔法が使えるということは一般より優位に立てますしね。」

「そんなこと言ったら、貴族ドンドン増えるじゃん?」

「…私のように力が目覚めない1%がいますので、
平気でしょう。」

少し、暗くなりつつ私が言うと、
アルトはすごい驚き恐怖した様子で…。

「あ、いや…そんなつもりなくて…!わ、わりぃ。」

「いえ、本当のことですもの。」

安心させようといった言葉は、余計にアルトの不安を煽ったようだ。
手足をジタバタさせて、何か言おうとするアルト。
…私は、心底あきれました。

「今はそんなこと、どうでもよいのです。
…ルナ様を助け出さなければ。」

「…お、おう。」

アルトは、今度は路地裏に行き、髪の毛を逆立てた。
…全力で魔法を使っているときの様子ですわ。

「見つけたっ‼‼」

え?!
先ほどまで、全く見つからなかったのに?!
早すぎませんか?!

「だって、植物の魔法使いなんだろ?…森に隠れてるに決まってるじゃん?」

だから、森を探したんだ!
と、満面の笑みでいうアルト。

別に、決まってないでしょう…。
でも、その発想は悪くはありません。
今は何の手がかりもないですし…アルトの野生のカンを信じましょう。

「では、そこに…行きましょう!」

「おうっ!」

私たちは、ルナ様の無事を願いながら
…全力で森の方へ走っていった。

初夏の風が、私たちにとっての追い風となる。
…なんだか、本当にルナ様に絶対に会えるであろう確信を持ちながら。


―☆―☆―☆―☆―☆―

しばらくして、カイ君が帰ってきた。

「おかえりー!」

盗賊団のみんながカイ君を出迎える。
…この光景だけ見ると、カイ君ったらお父さんみたいね。

「ねーさん。
待ってた?寂しかった?」

カイ君はみんなにひとしきり挨拶をした後、
私にいきなり飛びついてくる。

「ひぃあ!?」

「ねーさん。本当にウブだね♪可愛いー!」

「う、ぶ…?」

「可愛いって意味だよ。」

…絶対に違う気がするんですけど。
私は、必死にカイ君の腕の中から離れようとする。
でも、ビクともしない。

「あ、レイヤさん…と赤いバカのことなんだけど。」

…赤いバカ…?

「アルトのこと?」

「正解っ!
やっぱり、ねーさんもアイツのことバカだって思ってるんだね。」

…否定はしないわ。

「宣戦布告、してきたよ。」

「何よ、それ?」

「ねーさんは、
僕の…僕たちのモノだって言ってきたの。」

「え?!」

「ふふっ。カルラ盗賊団の誇りにかけても、
ねーさんは絶対渡さないから!
覚悟しておいてね、ねーさん♪」

カイ君は本当に楽しそうにそういうと、
ギュッと私を…体に押し付ける。

…どうして、こんなことになったんだろう…?
私は、カイ君の腕の中で、
…小さくため息をつくことしかできなかった。

5話~爆発~

「めぼしい森って言ったらここら辺かな。
大きくてしかも音がやたら聞こえる。
…まるで森の奥に何かを隠しているみたいだ。」

アルトはそう言って、木の幹にそっと触れる。
あの後、私とアルトはこのあたりで一番大きな森に来た。
木の高さはそれは天にも昇れそうなほどで…確かに立派な森ですわ。
しかし…。

「本当にルナ様は、こんなところにいらっしゃるのでしょうか?」
「んなこと、知るかよ…。でもじっとしてても何も始まらないし、とりあえず行ってみようぜ。
なんか手がかりがあったらラッキー!
なかったら、ここはハズレって理解できてよかったなあってことになるしさ?」

…な、なんて前向きな考え方。
ルナ様の身に危険が迫っているかもしれないこの状況で、
そこまで冷静かついつも通りでいられるアルトは…
やはり兵士なのですわね…。

「それに…姫様のことだし、
いつものわがままであのクソガキを困らせてるんじゃねーか?」

…やはり、アルトはただのバカなのでしょうか?
誘拐されて、そんな悠長に構えていられるものなどおりませんわ!
ああ、ルナ様が心配でなりません。

私が頭を抱え、尚もルナ様をどうにかして
…一刻も早く救い出せないか思案していると、
アルトが急に腕をぐいぐいと引っ張る。

「な、何を…」
「しっ。」

反論しようとして、アルトに口を覆われる。
先ほどのバカさは消え、視線が鋭くなる。

視線の先に目を向けると、女の人が横たわっているのが見えた。
黒い髪を持つ…20代後半くらいの年齢の女性。
遠すぎてよく見えないのですが、中々上等の洋服を着ているように見えます。
でも、なぜそのような人が、こんな街はずれの森に倒れているのでしょうか?

アルトも同じように疑問を抱いたらしく、そっと女性に近づく。
私も後ろからアルトにくっついて近づいて行った。

近づくにつれて、女性の容姿が徐々に明らかになってくる。
年上だというのに…目を閉じているのに、とても可愛らしい。
地面にうつぶせになるように寝転んでいて、顔だけが横を向いている。
薄汚れている白のワンピースからのびた華奢な体は、
見ていて折れてしまいそうで不安になる。
そしてやはりワンピースの生地は、
どう見ても貴族しか着れないような超高級品であった。

アルトは、そっと女性の首筋に触れる。
そしてホッとした顔をした。
…女性は生きている。
そう、アルトの表情だけで理解できた。
本当、単純な男ですわね。

でもこの女性が何かの罠かもしれないですわ。
私がそう思い、アルトに伝えようとした瞬間。
女性の瞼がゆっくりと開けられた。

「カルラ盗賊団の人?」

女性は起きてすぐにもかかわらず、
私たちを見た瞬間に…勢いよくその質問をしてきた。
その勢いで思わず頷いてしまいそうになる。

「い、いいえ。私たちは旅の者ですわ。
訳あって…カルラ盗賊団を探していますけど。」

「この森にいるの?!」

「え、いや…それを調べに来た所でして…。」

「…リーダーの『カイ』という少年について教えてくれる?」

「ああ、知ってるぜ!くっそ生意気なガキだ!」

…今、この女性としゃべっていたのは私だったのですけど。
アルトはお構いなしにカイの悪口を言いだす。

「子供のくせに妙に大人ぶったしゃべり方しやがるのも、
大人をバカにするあの態度もウザさでは世界で1番だ!」

「…悪い、やつなの?」

「まあ、犯罪者だしな!
俺がぎったんぎったんに懲らしめてやる!
ま、といっても一回しかあったことないから、
全然詳しくは知らねーけどな。」

女性はその言葉を聞き、
複雑そうな表情ですぐ近くの大木を見上げた。

「…犯罪者…。」

その囁きは、風に消えそうなくらいのか細い声で。
木を見つめる瞳が微かにくぐもっている。

「あの、失礼ですが。
あなたのお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?
あなたとカルラ盗賊団とのご関係もお聞かせいただければ。」

女性は、その瞬間、ビクッと肩を震わせた。
…そしてガタガタと震えだす。
何か聞かれたくないことだったのでしょうか?
女性のその様子を見たアルトは、
私に人差し指を突き出し堂々と言った。

「レイヤ、おまえそういうのはもっと…こう、ビブラートにいうべきだっての!」

「…それを言うなら、オブラートです。」

ビブラートって…声を震わせて言うのですか?!
アルトのバカさに、肩の力が抜けてしまう。まったく、もう。
でも、反対に女性は私たちをじっと見つめていた。

「リュミスカ。」

また、小さな声がした。
私とアルトはふっと女性を見る。

「リュミスカ・イーラルト。」

声を震わせ…囁く。
私は戦慄した。

『イーラルト』。
その言葉で心臓がとまりそうになる。
一方アルトは私の気も知らず、イーラルト様を見てニコニコとあいさつを交わす。

「俺はアルトです。
カルラ盗賊団を探してるなら、一緒にどうっすか?」

バカなアルトは知らないでしょうが…私は知っています。

「アルト、逃げますよ。」

アルトにしか聞こえないように、そっと耳うちする。
でもアルトは不満そうにこっちを見下ろしてきた。

「なんで?」

ムッとしているような口調だった。
これは理由を説明しないと…動かないでしょうね。
私は仕方なく、事情を説明する。

「イーラルト家といえば…貴族の中の名門中の名門。
王家に最も近い五貴族のうちの1つですわ。」

アルトの顔も、さっと青ざめた。
…この人よりも先に、カルラ盗賊団を見つけ出し…ルナ様をお救いし逃げなければ。
ルナ様が姫だとばれてしまえば…。
私は、それだけアルトに言うと女性と逆方向に、森の奥深くに走り出した。
アルトも私も、一応姫の側近だとばれてしまう可能性もあるのだ。
一刻も早く逃げなければなりません。
しかし、リュミスカ様がひときわ大きな声をあげる。

「待って!」

懇願するような声に、思わず立ち止まりそうになる。
…いけません。情をかけてはいけませんわ。

「なあ、レイヤ。おかしくねえか?」

アルトは、その声に反応したかのようにフッと立ち止まる。
…何がおかしいのでしょうか?

「だってよ、名門『イーラルト家』のお嬢様がどうしてこんなところで
…しかもボロボロでいるんだよ?」

ハッとする。確かに…おかしいですわね。
イーラルト家は確かに謎に包まれてはいますが。
貴族のお嬢様がこんな森に。
しかもあのカイという少年について尋ねてくるなんて。

疑問が渦巻く。
しかし、次の瞬間。

その疑問さえも吹っ飛ばすように森の奥から爆発音が鳴り響いた。
耳をつんざくような大きな音。森林中にこだまする。
空を見ると、黒い煙が立ち上っていた。

「…アルト!!!」

私達は身をひるがえし、
森の奥深く…煙があがっているところへと駆け出した。

イーラルト家のお嬢様がそこにいることなど、もうどうでもよいです。
今は…今は。
ルナ様のご無事が、何よりも最優先。

ちらりと、後ろからかけてくるアルトを見ると、
やはり考えていることは同じようで苦い顔をしていた。
ルナ様が…爆発に巻き込まれているなんてことが、万が一にもございませんように。

祈るように、私は心で願い続けた。

―☆―☆―☆―☆―☆―

木の幹の中の小部屋で、私は子供たちとカイ君とあれからずっと話し続けていた。
みんな素直でいい子ばかりだし。
そのみんなに慕われているカイ君はそう悪い人ではないことも分かる。
他愛もない会話がなんだか楽しかった。

「おねえちゃんはカイお兄ちゃんの彼女なの?」
「え?!」

思わぬ言葉に吹き出しそうになる。
そう突然尋ねてきたのは、5歳くらいの女の子だった。

うわあ…。
綺麗なそんな期待に満ちた目で、私を見ないで―っ!

「ちが…」

「そう見える?
ふふ、ねーさん。僕たちお似合いみたいだよ?」

反論しようとすると、
カイ君がサラッとそんなことをサラッと言う。

「ちょっと…」

「ねーさんは照れ屋だから『ちがう』っていうけど
…本当は僕のこと好きで仕方ないんだー。」

「か、勝手なこと言わないでよ!」

顔が真っ赤になるのが分かる。
もう、なんてことを子供に言うの…。
恋愛経験ゼロの私には、刺激が強すぎる話だわ…。
顔を思いっきり下に向ける。
しかし…。

「ねーさん、僕のこと…嫌い?悪い奴だと、思ってるの?」

カイ君の指が、私の顎を捉えた。
いつの間にか、カイ君はすごく近くに来ていて…。
心臓の鼓動が早くなる。

緊張で喉が渇き、何も言えなくなった私を見て
…カイ君はさらに距離を縮めてきた。

「ねーさんってやっぱり、可愛いよね。
もっと近くで見たいな…ねーさんの、いろんな顔。」

「あの、えっと、いや、じゃなくてえっとその…。」

みんなの視線が、私達2人に注がれている。
そのことを自覚して、さらに恥ずかしさが増してきた。

「ねぇ…。
僕みたいなやつじゃ…ねーさんの相手にならないのかな?
…だめ?」

…っ。
私の中で何かがはじけそうになる。


その瞬間だった。
すぐ近くで爆発音がなった。


「?!」

カイ君だけでなく、
ルイ君やみんなも一瞬で真剣な顔つきになる。

「敵の襲来だ!布陣B作戦で行くぞ!」

カイ君はサッと私から離れて、みんなに指示らしきものをだす。
子どもたちはすごく慣れている様子で、
ラジャーっというポーズを示すとそのまま散り散りに駆けて行く。
…ってか私はどうすれば。

「ねーさんは、その幹の中の部屋…つまり俺の部屋にいて!」

え、カイ君の部屋?!
私が聞き返そうとしたときには、もう誰もいなかった。

「ちょっと…。」

男の子の部屋に入るの、初めてなのに…。
ポツンと取り残された私は数分ぼおっとしていたが…どうすることもできず、
すごすごと部屋の中に入った。

そして、感嘆の声をあげる。
目の前には全体的に若草色が広がっていた。

若草色といってもそれは家具のこと。
木の中だから…床や壁は茶色いのだけど…。
二つの色が綺麗にマッチして…とってもおしゃれだ。
カーテンも爽やかで可愛らしい柄…これはクローバーかな?

それに、何より本がいっぱいだった。
圧倒されるほどの本たちは、本棚に綺麗に整頓されておかれている。
そして机の上にも数冊の本が開きっぱなしで置いてあった。
どれも薄汚れていて汚いものばかり。
机の上の綺麗めな本を取り、ページをそっとめくってみる。
そこはいくつもの赤いラインや、『ここは重要』などの文字が書いてある。
本の題名は…。『誰でもできる!文字のお勉強』。

みんなの言葉を思い出す。

『カイお兄ちゃんは、ボクたちを養うために盗みを働いて…。
ボクたちに本を読んでくれるために、
数少ないカイお兄ちゃんの時間を削って、勉強してくれたんだ。』

…本当に勉強してたんだ。
そう、皆のために。
ここにある本はきっと盗んできたか、拾ったものばかりなのかもしれない。
ぐるっと本棚を見渡す。
私でも読めない様な難しそうな本から、国でとてもポピュラーな絵本まで…。
バリエーション豊富。
『絶対に攻略できる恋の技』なんて本もあり、自然と笑みがこぼれた。

「こんなの、いつ使うのよ…。」

でも、なんだかすごいな。
そっと本棚にある背表紙をなぞる。

「ホント、すごいな…。」

思わず声がこぼれた。
独り言のつもりで発した言葉だったんだけど…。

「『すごい』の一言で済ませないでよね。オヒメサマ?」

ドスが聞いた声が上からふってきた。
完全に一人だと思っていた私は、変な声をあげてしまう。

「…ぶりっ子。」

軽蔑したように、言われついイラッとする。

「だれ?」

辺りを見回していると…女の子がストンと天井の柱から降りてきた。
黒い髪の毛を肩よりも短く切っていて、鋭い目つき。
体中から…敵意が伝わってくる。
その圧倒的威圧感に、思わず後ろに一歩下がる。

「…あの。」

「ついてきな。
カイからアンタを違う場所に移動させろって…頼まれてんだから。」

その女の子はそういうや否や、すぐにドアから出て行ってしまう。
…カイ君のことを呼び捨てにした?
…もしかしてこの人…カルラ盗賊団の人なのかしら。
少し私より背の高い彼女をそっと見やる。

じゃあ…人質だし…いうこと聞いた方がいいのかも。
慌てて彼女について行く。

「あの、爆発音って…。」

「日常茶飯事だから。」

「…どういうこと?」

「頭の悪い女だね。
…カルラ盗賊団を殺そうとしてる大人が、毎日攻撃してきてるの。」

…あっ。
そうだ、このカルラ盗賊団は嫌われてるんだっけ。
でも、みんなとってもいい子だし…。
子どもに大人が手を出すなんて。

「…そんなの、ひどい。」

「まあ、うちにはカイがいるから…絶対に負けないよ?」

彼女は、フフンと鼻をならして続ける。

「カイの植物の力は無敵だし、何よりカイ自身が魔法を使う天才なのさ。
それに頭もいいし演技もうまいし。
それだけじゃなく、優しくて…顔もまあイケメンで…」

そう言ってから、ハッとしたようにこっちを見つめる。
どうしたのかな?
小麦色の肌がほんのり赤くなっていた。

「な、なんでアンタにこんなこと…。」

それから短い髪の毛を、
わしゃわしゃとかき乱す。

「とにかく、アンタはこの木の真下にいて。」

彼女はやけくそのように言い、
スッと私の後ろを指さした。

ふと振り返ると、いつの間にか見たこともないよな大木がそびえたっていた。
きっと、この森で一番大きい大木。
まるで天に届きそうな…荘厳さ。
自然の力に圧倒される。

というか、ここなんか神聖な雰囲気も出てるし
…カルラ盗賊団の大切な場所なんじゃないかしら?

「ここで待ってて…本当にいいの?」

そう振り返ったとき、
彼女はもういなかった。

―☆―☆―☆―☆―☆―

「ルナ様!」

遠くから懐かしい声が聞こえたのは、
彼女と別れた5分後くらいだった。
私をそう呼ぶ、あの可愛らしい声は…。

「レイヤ!」

漆黒の髪を1つに縛り上げ、動きやすそうな格好は、
いつもの見慣れたレイヤではなかった。
けれど、潤んだ瞳はいつも通りで…なんだかほっとする。
レイヤは私に駆け寄ると、ギュッとしがみついてきた。

「ご無事で…何よりでしたわ…。
ルナ様…。」

その強さに目を白黒させながらも、少し嬉しくもなり…申し訳なくもなった。
だってそんなに怖い思いもしてないし…
どちらかというとみんなと楽しんでいたから。

「ごめんね、ありがと…レイヤ。でも、そろそろ苦しいわ。」

レイヤはハッとして、私から飛び退く。
…そんなに急激に逃げなくても…。
レイヤはあわあわと顔を真っ赤にしている。
…やっぱり可愛い。

でもそれも数秒のことで、
すぐにいつもの冷静なレイヤに戻る。

「ルナ様、逃げましょう。」

「え、うん…。でもどうしてここが分かったの?
アルトは?」

「それは後ほど。
アルトは、ペンダント回収係りですわ。」

…え、場所分かるの?

「大事なものというのは、
大体隠し場所が決まっているのですよ。」

私の疑問に答えるように、レイヤがニッコリと微笑んだ。
その時、大きな木の中から突然アルトが出てきた。

「きゃああ?!どっからでてくんのよ!」

思わぬ登場に、小さな悲鳴を上げる。
…全く、レイヤとの感動の再会とは大違いなんだから。
まあ、アルトらしい…かしら?

「いやいや…しゃーねーだろ。」

そう呆れ顔のアルトの手には、しっかりとペンダントが握られていた。
そこは腐っても兵士ね。
バカアルトでもちゃんと任務は果たしてくれる。

「んじゃまー…詳しい話は、部屋に戻ってからってことで。
走るぜ、姫様。」

「ひゃああ?!」

うんうん、と感心したのも束の間。
いきなり、アルトにお姫様抱っこされてしまう。

「バカアルト!何するのよ!離して!」

「アルト!もっとルナ様へ丁寧に接しなさい!」

「姫様、走るの遅いから…。だめ。」

「ちょっとー!ひ、姫のいうこと聞きなさいよー!」

私の悲鳴もむなしく…アルトはそのまま宿に帰った。
2人のこの雰囲気。少ししか離れていないのに…懐かしいな。

でも、同時に…カイ君やルイ君、そしてみんなことを思い出し
…私は後ろ髪を引かれる思いに駆られた。

みんな、私がいなくなったら…悲しむかしら?
せっかく仲良くなれたのに…。

「…ごめんね。」

森を去る前、
私が発した言葉は…2人には聞こえていなかったみたいで。

木々だけが私を優しく見下ろしていた。

6話~母なる願い~

「じゃあ、姫様…怪我とかは本当にないんだな?」

「うん。」

「酷いこともされていませんのよね?」

「平気だったよ。」

むしろ、子どもたちが可愛くて楽しかったの。
…と思わず言いそうになり、あわてて口を紡ぐ。
さっきからレイヤとアルトに質問攻めになっていた私は
…『大丈夫』という言葉を何度言ったのか…。

ようやく、私のカルラ盗賊団での経緯を大雑把に話し終えた。
次は、こっちが質問する順番よ!

「聞きたいことはたくさんあるわ。まあ1つずつ質問させてもらうわよ?
まず、2人はどうして私があの場所にいるって知っていたの?」

あの時、レイヤは一直線に私の方に向かってきていた…。
私を目視した後の勢いはともかく、それ以前にも辺りを見回す様子はなかったし…。
まるであの大木の下に、私がいるのを知ってたかのように。

「短い黒髪の…ワンピースを着ていたので女性でしょうね。
目つきが鋭い男勝りな人が教えてくださったんですわ。
まあ、半信半疑でしたが…。」

目つきが鋭い…?
フッと顔に浮かんだのは、あのちょっとムカつく女の子…。

「もしかしたら私をあの大木に連れて行ってくれたのも、その女の子かも。
でも、どうしてだろう…。その子はカルラ盗賊団の人だよ?
カイ君のことを『カイ』って呼び捨てにしてたし
…重要な役の人だと思ったんだけど。」

謎は深まるばかり。
さっき教えてもらった『リュミスカ・イーラルト』さんのことも…。その女の子のことも。
そして何よりも…。

「この街、『カルラ盗賊団』を目の敵にしているらしいの。
…でも『カルラ盗賊団』の団長カイ君は16歳だし…、私が見た団員たちはみんな幼い子供だった。
皆は元々孤児で、カイ君が友達のライさんと一緒にみんなを助けて。
それが今の『カルラ盗賊団』になっているんだって。」

2人もコクリと頷く。

「確かに生意気だけど、大人でよってたかって虐めることはないぜ。」

「誰か保護してくださればよい話ですのにね。」

「うん、爆弾を使ってまであんな小さな子供たちを
…殺そうとしているのかな?」

純粋で、みんな綺麗な瞳をしていたのに。
大人たちはきっと、子どもたちを…カルラ盗賊団を誤解しているんじゃないかしら。
ちょっと生意気で意地悪なカイ君もルイ君も、他のみんなもとてもいい子なのに。

誤解を解きたい。
みんなを安全に暮らさせてあげたい。
もっと大人を信用させてあげたい。
…力になりたい。

心臓が脈を打つ。
私に今、できることを…。

「ルナ様、お言葉ですが。」

考え込んでいる私の顔を、
レイヤがスッと覗き込んだ。

「大変、申し訳にくいのですが…。
この街に『イーラルト家』の方がいるとなると、一刻も早くここを離れなければなりませんわ。
ペンダントも無事戻ったのですから、この街に滞在する必要はないですもの。
…子どもたちのことが気になっているようですけど…。
でもルナ様は、ご自分のことを一番に考えて行動してくださいませ。」

「…子どもたちを見捨てろっていうの!?」

「そうではありませんけど…。」

レイヤの長い睫が儚げに伏せられる。レイヤの言い分は正しい。
自分が助かるためには、早くこの街を出ないといけないのは分かってる。

「…分かってるよ。私が命を狙われてて…早く逃げないといけないって。」

レイヤが反論しようと口を開くけど、アルトがレイヤを手で制す。
…ありがとう、アルト。

「だけど、国民を捨てて逃げのびる姫なんて、私は嫌なの。」

目の前にいる人だけでも、苦しみを減らしてあげたい。
例え死ぬことになっても。

「る、ルナ様は勝手ですわ!」

漆黒の瞳に、ぶわっと涙が浮かんできた。
嗚咽を漏らしながら、すすり泣く。

「もしも、それで。万が一にも、ルナ様を失ってしまえば…私は生きていけませんのに!
この私の気持ちは…考えてくださらないのですかっ!」

ああ、レイヤを泣かせるのはいつも私だ。
…ごめんね、どうしたらいいんだろう。
レイヤは私の大切な人なのに、心配かけてばっかりで…目の前の涙を拭いてあげることしかできない…。

私がここに…2人と居ることは、やっぱり不幸しか呼ばないのかな…。
私が死ぬということは、2人も危険にさらすということだから
…本当はこんなことしちゃいけないんだ。
それに、私は2人のために生きなくちゃいけないけど。
でもそれでも、みんなのために何かがしたいという気持ちが、頭から離れない・・・。

私、どうしたらいいんだろう。
いろんな思いが駆け巡り、頭がごちゃごちゃし始めた時だった。

「おい、レイヤ!お前、超バカだな!」

突然ふってわいた声に、私たちは肩を震わせた。
ふと、横を見るとアルトが爽やかすぎるような笑みを浮かべていた。

「コイツは、知らない街で迷子になったのに今もピンピンしてる。
絶対死なねえって。
それに…絶対に殺させねえからよ。」

グッと親指を突き上げられる。
…どこからその自信は湧いてくるのやら。
でも、単純に嬉しい。
さっきまで考えていたことが、なんだかバカらしく思えてきた。

…アルトは、死なない。
だってこんなにバカなんだから。

「うううっ。知っていますわ。
ルナ様が超お人好しで、子どもたちを放っておけない性格だということも…。
ドジでおっちょこちょいで、優しいルナ様だから…私はお仕えしてるのですもの。
何よりも頑固ですから、これ以上の説得は無駄だと…分かっているから、
悔しいのですわー!」

うわーんと、更に泣き始めるレイヤを前に
…少し複雑な気持ちになった。

「褒められてるの…?というより、迷子にしたのは2人のせいなんだからねっ!
姫なら敬いなさいよっ!」

「いやいや、いろんな意味で尊敬してるよ。」

「どーいう意味か詳しく教えてもらいましょうか?」

1人が泣き、1人が苦笑いで睨み付け、
もう1人が笑顔でいる…なんとも異様な光景だった。

「ま、俺がいるから、姫様は好きなように生きればいいよ。」

「どんなことがあっても、私はルナ様から離れませんわ。」

…。
ありがとう。
温かい気持ちが胸いっぱいに広がった。

私は、1人じゃないんだ。
2人は絶対に私から離れたり…先に死んでしまうことなど、ない。
妙な安心感で、ふうっとため息をついた。

「じゃあ、これから『カルラ盗賊団の誤解を解いちゃうぞ☆』作戦を練るわよ!」

「作戦名、なげぇし…。」

いつも通りの笑顔が部屋に響き渡った、
そのすぐあと。


「…お話し中、申し訳ございません。」

温かい気持ちを吹き飛ばすかのように、唐突に綺麗な声がした。
ふと、ドアを見ると女の人がドアを開けて立っていた。

…なんて綺麗で可愛らしい雰囲気の人だろう。黒髪で20代かな?
髪の毛でよく見えなくても分かるほどの長い睫。透き通るような白い肌。
細すぎる体は儚いという言葉がピッタリだ。
前髪が目を覆うほどの長さであることと、薄汚れた白ワンピースがその白さを一層際立てていて、
足が見えなかったら幽霊と勘違いしそうなくらい。
しかも、さっきの言葉も小さく恐る恐るといった口調で尋ねてきたから、
最初は空耳かと思ったもんね。

「ああああ!貴方様は!」

レイヤとアルトは、一瞬で私の前に立った。
何よ…?
こんなか弱そうな人にまで殺気立つことないじゃないのよ…。
過保護すぎると文句を言おうとしたのだが、
レイヤの次の言葉に遮られた。

「リュミスカ・イーラルト…様。何のご用でしょうか?」

この人が、イーラルト家の…?!
でもそれにしては痩せすぎな気がするけど。
それにオドオドしていて、頼りないわね。
お嬢様なんだからもっと高飛車で傲慢な人を想像していたのに、
随分イメージが違っていたので驚きを隠せない。

「あの、えっと…。違うんです!」

やっとのことで、彼女が発した言葉は否定の言葉だった。
…主語がないから分からない!

「何が違うんだよ…?」

アルトもいぶかしげに、そしてちょっと面倒くさそうにした。
確かに、アルトが嫌いなタイプの人種だ。
でも、だからってあんなに睨みつけたら…!

「ひぃっ!」

…ほら、ビビッて喋れなくなっちゃうじゃないのよ。
こんなにビクビクして、敵だったら無防備すぎでしょ。
というか、ユエがこんな子をスパイにするなんて思えない。

「わ、わたくしは!リュミスカと申すものですわ、姫様…。
リュミスカは…姫様にお願いがあってきたのです。
決してスパイとかではないので、えっと。」

「どうして私の身分を知っているの?」

「能力で、知り…ました。勝手にすみませんっ!」

…会話するの疲れそう。ため息をつこうとして、あわてて口を閉じる。
この人の前でそんなことしたら、また話が続かなくなりそうよね。

「じゃあ、私の境遇も分かっている…その上でのお願いでいいのかしら?」

「も、もちろんです。」

「ルナ様、どうして信用してしまうんですか?!
この方はイーラルト家の…。」

「確かに、リュミスカはイーラルト家の一人娘。
でも、違うのです。イーラルト家は確かに地位は素晴らしいものですが…近年能力が弱まってきています。
はっ!長話になってしまいますので、お座りください。
もしリュミスカが敵と疑っているなら、裸で話しますわ!」

…それは、
こっちが集中できないだろうからやめてもらいたい。

私はレイヤとアルトに挟まれるようにして、小さなソファに腰かけた。
その向かいの床に…リュミスカさんは正座をする。

「なぜ、正座…?ソファに座れよ…。」

「ででで、でもっ!」

「アルト、突っ込むとまた話が続かなくなるから黙っててよ。」

リュミスカさんはとても低姿勢のまま、話を始めた。
しかし先ほどとはうってかわり、とても落ち着き…まるで何かが憑りついた様に淡々としていて。
不気味だ…。
二重人格なんじゃないかと疑いたくなる。


「イーラルト家の能力は弱体化しました。
父はそれを大いに嘆き、イーラルト家と血のつながりが強い分家のご子息と私を結婚させました。
父の願いであり、一家の復興のためでありましたので、
結婚自体は私は苦でないと…そう思っていたのが甘かったのです。
私の夫は酷い男でした。
浮気や暴力などは当たり前でしたし、私を『モノ』のように扱いました。
実質、分家の方が能力が強くなっていたので私から離婚を切り出すこともできず、玩具の様に…私は使われました。
それも復興のため…愛する父のため。…母は亡くなっていて、愛する家族は父だけだったのです。
そう思えば、苦ではありませんでしたし…平気でした。」


一気にまくし立て、彼女は天井を見上げた。
目が微かに潤んでいる。

…平気だったはず、なかっただろうに。
彼女の境遇を聞き、息が詰まった。


「そんなある時です、私のお腹に小さな命が生まれたのは。」

優しい瞳だった…。
窓の外から青緑の木々を眺め、深呼吸をしてから彼女はさらに続けた。


「嬉しかった…。これで父のために私は役に立てるって…本当に嬉しくて。
でも、生まれた子供は黒の瞳に黒の髪の毛でした。
つまり能力を持たずに生まれてしまったのです。
父はショックで寝込んでしまいました。夫はさらに暴力になり、ついに子供を殺せとまで言われました。
でも、自分の子どもを殺すだなんてできなくて…。
あの子がある程度成長すれば能力が生まれるかもしれない!
と夫に言い聞かせ数年だけ猶予をもらえました。
しかし一向に、髪の色は変わりません。
このままでは殺されてしまうと思い、子どもを連れて逃げ出そうとしましたが、牢屋に押し込められてしまい。
何年たったのか分からないくらいの年月を…自分の屋敷の牢屋で、過ごしました。」


イーラルト家は確かに、最近交流がないとお兄様がおっしゃっていたけど…。
まるで知らない小説のような話から、
真実なのか疑いたくなるような話から、抜け出せない。


「牢屋に入れられている間、子どもは捨てられてしまったんです。
でも、私は生きていると信じています。
牢屋から出て…沢山調べましたわ。
そしてカルラ盗賊団では孤児を引き取って育てていると…そう耳にしました。
団長が植物の能力者であることも…。」

…まさか。
ある予感が心に浮かんだ。

彼女はスッと立ち上がり、近くに合ったバケツの水をかばっと頭から被った。
スッと、黒のインクが落ちていく…。
彼女の髪の毛はエメラルドグリーンへと変わっていく。

「私の家、イーラルト家は植物の能力をもっております。」

彼女は前髪をサッと後ろにかきあげた。
綺麗なエメラルドグリーンの瞳が、美しい涙とともにこちらを見つめていた。

「カイという少年に、会いたいのです。」

よろしくお願いします、と綺麗な土下座をする。
髪の毛から滴り落ちる滴の音が、静かな部屋にやけに大きく響く。

その懇願するような物言いは、『お嬢様』であるリュミスカさんのものではなく、
紛れもない『母親』の声だった。

―☆―☆―☆―☆―☆―

「どうぞ。」

レイヤが温かいココアをリュミスカさんに差し出す。
彼女は黙ってそれを受け取り、一口すすった。

「お見苦しい話をすみませんでした。
しかし、ここまで話さなければ…私の想いを伝えることはできないと思ったので。」

…痛いほどに、伝わりました。
でも、この上品で儚げな方が本当にカイ君のお母さん…?
失礼だけど似ていないような気もする。

「『カイ君』は、どのようなひとですか?」

「え、私に、聞いてるの?」

「ええ、ルナ様はカイ君と一緒にいらっしゃったんですよね?」

「…えと。意地悪でわがままで
年下のくせにとっても生意気でちょっと大胆で…。」

スラスラと、言葉が出てきたけど…。
「悪い、子でしたの?」

「あああっ!ご、ごめんね。でも、団員の子どもたちにとっても慕われていて…優しい子だったかも!
能力もとても強くて、文字を読む練習もしてたなあ…。頭もいいんだなって。」

「ふふっ、姫様を困らせる気はなかったのですけど…。
ありがとうございます。元気そうで何よりでしたわ。」

…素直で素敵な人だなあ。
もっと前に出会っていれば、よい友達として舞踏会で話し合ったりできたかもしれない。
そう、心地よい気分に浸っていると。

「リュミスカは、もう行かなければならない時間です。」

唐突に、リュミスカさんが立ち上がる。
小さな鞄の中から真っ黒なクリームを取り出して頭に塗り始めた。

「イーラルト家とばれると、いろいろ面倒なんですの。
だから洋服もわざと汚く用意させまして…。
森に倒れていたのは、盗賊団の誰かが気づいてくれるのを期待していたんですが…、
世の中上手くいきません。」

苦笑いをしつつ、彼女は髪の毛を真っ黒に染め上げた。

「では、姫様。そしてレイヤ様にアルト様。
何か私にお手伝いできることがあれば言ってください。…彼らを救ってくださるのでしょう?」

…ああ、そう話していたのを聞いていたんだっけ。
というか、最初のオドオドした雰囲気は何処に行ったのかしら…同一人物…?
私たちを油断させるための演技だった…とか?
…まさかね。

「あの、リュミスカ様。
聞きたいんすけど…どうやって牢屋からでたんっすか?」

聞かないようにしていたことを、サラッとアルトが聞いた。
デリカシーないんだから。

「夫が亡くなったの。お酒の飲み過ぎで。」

そう答えた彼女の顔は複雑そうだった。
自分の夫が亡くなったことを、素直に嬉しいとは言えないのだろう。
世間体とかもあるだろうし…と勝手に解釈していたんだけど。

「息子のお父さんが亡くなってしまったのは、少し申し訳ないかしら。」

予想を上回る答えだった。
母親って…なんて強いんだろう。
自分のことはすべて…後回しなんだ。

「よって、当主は私ですので…金銭面やカルラ盗賊団の保護なども致します。
ただ、彼らの説得はできないと思いますので
そこをお任せするようになってしまうんですが。」

「任せて!
姫の名に懸けて、カイ君をリュミスカさんに会わせるわ!」

「ありがとう。姫様。では、ごきげんよう。」

お城でしか聞かない様な挨拶を久しぶりにされ、
懐かしくなる。

「ええ、ごきげんよう!」

元気いっぱいの挨拶を彼女にして、私は満足だった。

それはきっとレイヤもアルトも同じだと思っていたんだけど…。
2人は考え込むような形で、
閉められたドアを見守っていた。

7話 ~誘拐~

小鳥がさえずり、青空が広がる良い天気。
でも私は、リュミスカさんの話について夜遅くまで考え込んでて
…まだ起きる気にはなれなかった。

「おい、オヒメサマ!」

突然、声がする。
朝にめっきり弱いので、目をこすりながら…ぼやいた。

「あと…5分…。待ってよ、レイヤぁ~!」

「ったく。おい、ブス!起きろって言ってんだよ。」

…ブス?

「ちょっと、レイヤ。言っていいことと悪いことが…」

って、礼儀正しさの塊のレイヤがそんなこと言うはずない。
一気に目が覚めて、声の方向に目を向けた。
そこには見覚えのある女の子がいた。

黒い髪の毛を肩よりも短く切っていて、鋭い目つき。
圧倒的な威圧感。私とレイヤたちを引き合わせてくれたであろう、
あのムカつく少女だった。

「なんで、ここにいるのよっ!?」

「うっさいなー。」

彼女はひょいっと私を担ぎ上げた。
背丈はあまり変わらないのに…すごい力だ。
ぶっちゃけると、
私はそんな軽い方とは言えないのに、まったく重そうなそぶりも見せない…。

「カイに言われて、アンタを盗りに来たの。」

…私は物じゃないんですけど。
降ろして!と、言おうとしたけど…。

「ぜ、絶対に降ろさないでよ!?」

サッと私は彼女に捕まった。
嫌な予感がしたんだもの。

彼女のは窓枠をひょいっと軽く乗り越えて…勢いよく飛び出した。
スッと、商店街の屋根に飛び移る。

「っきゃああああ!?」

な、なんなのよーっ!この子…信じられなーいっ!
まあ、ちゃんと着地してるから最初っから飛び降りる気だったんだろうけど
…最初から言っといて欲しい。

恨みがましい目で見ていると突然目が合う。
彼女はそのまま、ギロリと私を睨みつけた。

「喋って暴れたり、うるさい時は落とすから。」

マジだ…。
この目は本気で私を殺しても構わないって思ってる!

…もうっ!カルラ盗賊団ってばなんなのよーっ!!!

心の中で叫ぶけど、
何もできないまま…ただ空しくなるだけだった。

―☆―☆―☆―☆―☆―

「ライ!ありがとうな!本当にお前はいつも仕事が早いぜ。」

またこの森に来てしまった…。
カイ君は満面の笑みで私を見つめてくる。

「逃げ出せると…思ったの?」

微笑みが、怖い。

本当にあのリュミスカさんの息子!?
リュミスカさんの笑顔はとっても温かくなるような…天使の微笑みだったのに…。
雰囲気とか全然違うじゃないのよ!
…ま、お父さんは怖い人だったらしいから、
お父さんに似たのかもしれないしね。

って、待って…。

「ライ?」

確かに今、カイ君…この女の子のことを…。
そう呼んだ。
「ライ」さんって…、カイ君と一緒にルイ君の面倒を見たり、
カルラ盗賊団を一緒に創った人だったわよね?

「あたしはライだけど?なんか文句あるの?」

鋭い目がさらに吊り上げられた…。
こわっ!

「な、ないです!でも、カイ君の口調から男の子だとばかり思ってて…。」

まさかこの口悪い&柄悪い&意地悪な女の子が、
心優しいカルラ盗賊団のトップ2だとは…思いもよらなかったわ。
確か、ライさんは…私より一つ年上って言ってたかな。

ワンピースを着ていなければ、女とわからないような人。
髪の毛も、短くって…オシャレとかには興味はないんだろうか?

「ま、ねーさんにライ。落ち着けよ。」

私はケンカ売られてる側なんだけど。
とは、言えずそっとライさんから離れた。

「ねーさんは、一応文字も読めるし、
それになんか見ていて飽きないから…この盗賊団の一員にすることにしたんだ。」

「え…?!ちょっと、カイ!あたしは認めないよ!?
お嬢様でバカでのろまで…なんでこんなやつを入れるの?
カイの人を見る目も衰えたんじゃないの!?」

「確かにねーさんはのろまだけどさ。
話してみると案外面白いし…役に立つと思うんだよ。」

「どこが?!
さっきから話してたけど、重いし怖がりで最悪。
たいして可愛い容姿でもないくせにさ。」

確かに私は世間知らずなお姫様だけど、
そこまで言うこと無いのに。
私はムッとしてライさんに向かい合う。

「ちょっと、言っていいことと悪いことが…。」

「アンタは黙ってな。」

サラッと流されてしまった。
言い返そうとさらに口を開こうとした瞬間、カイ君の手が私の口をふさいだ。

「コイツのことを、ルイが…気に入ったから。」

風が…さあっと森の奥深くから流れてきた気がした。
太陽の光に反射して…ここからライさんの顔はよく見えない。
しかも、カイ君の口調はさっきまでの雰囲気とガラッと変わっていて、
ひどく真面目な声色だった。

…というか、後ろから抱きかかえるように口をふさがれた私は、
身動きできないし…恥ずかしい。
あわあわとカイ君の手を離そうとしたけど、びくともしない。

太陽に雲がかかって…ライさんの顔が見えるようになった。
私たちの方をみて、酷くつらそうな顔をした後…目を慌てて逸らした。
唇を強く噛んで、顔色が悪かったけど…平気かな。

「本当に、ルイのため?」

「は?どういうことだよ?」

「カイが、そのバカ女を気に入ったからでしょ!?
だから、無理やり仲間にしようとしてるんじゃないの!?」

彼女の目が、潤んだ。…ように見えたけどすぐに後ろを向いてしまって分からない。
しかし問い詰めるようなその口調に、カイ君は目を見開いて反応した。

「な…?!違っ…」

なんだか妙に焦っていて、私は首を傾げた。
『私』を気に入ったのは…ルイ君でしょ?
ちゃんとそういえばいいのに。

でもカイ君が言おうとしていただろう言葉を遮るように、
ライさんはこっちを振り返った。
先ほどの顔がウソみたいに晴れやかだ。
口角をキュッとあげ、目をこれでもかというほど…下げていた。
少しやり過ぎだと思うくらいの笑顔。

「冗談だよ、ばーか。
別に、カイの好きなようにすればいいよ。
ここは『カルラ盗賊団』。
団長はカイだし、ルイのためならしょうがないから。」

一瞬であんなに、人間の表情が変わるのかな…?
どっちが本当のライさんの気持ちなんだろう?
唐突に変わったライさんに驚く。
…こういう性格の人なのかもしれないけど、知り合って日が浅い私には分からない。

というか、レイヤ達と私を会わせてくれたのはライさん。
カルラ盗賊団にまた連れてきたのも、ライさん。
…彼女のしたいことがわからない。

空にある太陽を覆っている雲が、再びスッと晴れていく。
ライさんの顔はドンドン見えなくなって、
相変わらず気持ちは全く読めなかった。

「…ありがと、ライっ!」

そんなライさんにカイ君は、とても勢いよく飛びついた。
離れろよ!と言いつつも、顔を赤くしているライさんは、
なんだか初めてちゃんとした女性に見えた。


―☆―☆―☆―☆―☆―


「「「かんぱーいっ!」」」

色とりどりのグラスが、カーンと音を立てた。
目の前には豪華…とは私から見たら言えないのだけれど、
カルラ盗賊団の子どもたちが大きな歓声を上げるくらいのごちそうが並んでいた。

グラスの中身はオレンジジュースだし、
小規模なパーティーにはオーケストラもドレスも…何もないけど、
これは紛れもない『パーティー』というそうだ。

「おねえちゃん、カルラ盗賊団にようこそっ!」
「新しい仲間に、かんぱーいっ!」

みんな小さな声を張り上げて、とても嬉しそうに飲食していた…。
言いだしづらいな…。

カルラ盗賊団に入れないってことを、
言わなきゃ言わなきゃとカイ君に話しかけようとするのだけど
…その度にルイ君や小さな子供に話しかけられてしまって…。
こんな嬉しそうにされると、心が痛む…。

いやいや、そんなこと言ってる場合じゃないし!
カイ君にリュミスカさんのことも聞かないといけないんだから。

私は意を決して、
カイ君に向かって話しかけようと進みだしたんだけど…。

「ちょっと。アンタ、来なさいよ。」

と、ライさんに連れ出されてしまう。
…これ、いつカイ君に言えるんだろ。


ライさんは私を腕を掴み、
茂みの中へと入って行った。
…というか、私カツアゲとかされちゃうのかしら!?
…カツアゲって何なのか、実は知らないけどさ。

「ねえ、アンタはカイのこと…どう思ってんの?」

ライさんは、唐突にそんなことを聞いてきた。
周りに誰もいないことを念入りに確認してからだったから、こ
れが内緒の話なんだなってことがすぐにわかる。
でも…。

「どうして…そんなこと聞くの?」

「っ!ち、違うから!
別に、あたしはカイのことは…弟みたいに思ってるっていうか。
…大事だけど、そんなんじゃなくて!」

「そんなんって何?」

ライさんの顔は、どんどん赤くなっていく。
私、そんなに変な質問してないと思うんだけどなあ。

ライさんのさっきほどまでの態度とは全く違うので、面くらう。
この人は、さっきから何がしたいの?
本当に気持ちは、何なの?

「と、ともかく!私の…大事な…カイを。
泣かせたら絶対に許さないから!」

ライさんはカイ君の父親のようなセリフを吐いて、
どこかに消えて行った。

分からない。なんだったんだろう?
…カイ君が私のせいで泣くことなんてあるのかな?
…逆に泣かされそうな気がするんだけどな。

疑問が頭を踊りまくる。世の中って…難しい。
私は今までに感じたことのない違和感を感じ、空を仰いだ。


ぼんやりとしていると、
後ろからツンツンと指でつつかれる感触があった。

フッと後ろを見ると、2人の黒服を来た男がニタリと笑っている。
その笑顔は素晴らしく気持ち悪さを感じるものだった。
嫌だな、と思うと同時に違和感を覚える。

…『大人』の男が、カルラ盗賊団の基地に?
…おかしい。

私は警戒心を強めて後ろに後ずさりした。
しかしドンッという衝撃音と共に、何かにぶつかる。
思わず声をあげようとしたその瞬間、手首をものすごい力でねじこめられた。
抵抗する間もなく口に布を当てられ、意識が遠のいていく。

「おい、なんで2人も盗むんだ?
誰でも1人盗めばいいって、ボスは言ってたじゃんか。」

「バカ。さっきの会話聞いたろ?
この女、もしかしたら…カイの野郎の女かもしれないだろうが。」

「そうだ。男3人で、
子どもを2人運ぶなんて大した重さじゃねえだろうがよ。」

薄れゆく意識の中で…そんな会話が聞こえたような気がした。

―☆―☆―☆―☆―☆―

酷い油の匂いで目が覚める。
頭がガンガンと痛み、目の前がくらくらする。

ここ、どこ…?

私はぼんやりした目であたりをゆっくりと見回してみた。
薄暗く、周りはコンクリート製で固められている。

何もない、部屋。

私はこの部屋の奥の中央の柱に括り付けられていて、身動きは取れない。
縄も頑丈で噛み切ることもできなさそうだ。
靴は片っぽなくなっているし、なんだか肌寒いし…。

『誘拐』という二文字が、私の頭の中をよぎった。
ゆっくりと、記憶が蘇ってくる。
そうだ、私。変な男に捕まったんだ。
背筋がひんやりとした。
でも同時にもっと大切なことも思い出す。

あの男たちは「2人捕まえた」って言ってた。
もしかしたら、他にも誰かが捕まっているのかも。
みんな10歳に満たないような子供ばかりのカルラ盗賊団。
誰が捕まっていても…おかしくない。

「誰かー、いるー?!」

すっかり乾燥してしまっている喉で、出来るだけ声を張り上げてみる。
しかし、私の声はこの薄暗い部屋に反響するだけで…何の返事もなかった。

…誰も、ここにはいないのかも。
そう諦めかけたとき。

「お、お姉ちゃん…?」

恐怖に震えていたけれど、
この可愛らしい声は…。

「ルイ君!?」

あの天使のような、ルイ君だ。
しかも、声はとても近くから聞こえてきた。
…もしかして。ある予感が胸をよぎる。

「ルイ君、私…ルナだけど…。
もしかして柱に縛り付けられてるの?」

「う、うん。」

予感は的中した。
私とルイ君は、この大きな柱に同じように縛りつけられている。
背中合わせの状態なんだ…。

「ここ、どこなのかな…。」

「…わかんない。」

重苦しい沈黙が続いた。
きっと、ルイ君も分かってる。
この状態が非常によくないことだってことは。

私はルイ君を何とか慰めようと、必死に考えたんだけど…。
何も浮かばない。
というより、恐怖で頭が動いてくれなかった。
私より幼いルイ君の方が怖いんじゃないかな。
と、一生懸命世間話を振るけど、ルイ君の声色は浮かないままだった。

どうしよう、どうすればいいんだろう。
レイヤ、アルト…っ!
一番頼りになる、信頼している2人のことを思わずにいられない…っ!
思わずパニックになりかけた時だった。

「お姉ちゃん、ボク…平気だよ?」

ルイ君の落ち着きを払った声が、
背中越しに聞こえた。

「どんなことがあっても、カイお兄ちゃんが助けに来てくれるから。
だから、お姉ちゃん。…怖がらないで。」

驚いて、情けなくて、感動した。

出来るだけ怖くなさそうに話していたつもりだったのに、
私が怖がっていること…ばれちゃったな。
年上なのに、気を遣わせて申し訳ないけど、
その心遣いと真っ直ぐにカイ君を信じるルイ君がステキに思えた。

「お姉ちゃんは、ボクたちに出会う前に…何かあったんでしょ?」

「どうして、そう思うの?」

「…うふふ、秘密だよ~。」

「えー、教えてよ。」

「…お姉ちゃんも、秘密を全部話してくれれば、ね。」

な~んちゃって~!
っと、おどけたルイ君の声が聞こえた。

秘密…か。
もし、私がここで殺されてしまったら…。
ルイ君に一生嘘をつくことになるんだ。

ぼんやりとそう考えて、すごく嫌な気分になった。
ドロドロと渦巻く初めての感情に呼吸が苦しくなっていく。

「実は…私、この国のお姫様なんだよ。」

「へ…?」

ついに言ってしまった。 …信じないかな。
でも、もう嘘をつくのが心苦しかった。
嘘を突き通すのって…こんなに苦しいんだ。
初めて感じる胸の痛みに戸惑いを隠せない。
でも、今…真実を言うことで、とても心が軽くなっていく。

「私のお父さんとお兄さん…王様と王子様が、
私の弟の2人目の王子様に殺されてしまったかもしれなくて。
私も殺されそうになったから、逃げてきたんだ。」

初めて、自分の口で説明した。
ああ、そうか…本当のことなんだなって。
ぼんやり思っていたことを自分で整理して言うことが、こんなに辛いなんて…。
唇がわなわなと震え、歯もガチガチと音を鳴らし始めていた。
でも涙だけは流したくなくて、必死で真っ暗な天井を睨みつける。

「…ごめんなさい。」

ルイ君の一言目はそんな言葉だった。
てっきり、質問をガンガンされるんじゃないかと思っていた私は思わず拍子抜けする。
自分でも驚くくらいに涙も引っ込んでしまった。
それくらいルイ君の声音がへこんでいた。

「あんな、酷いこと…言ってごめんなさい。」

酷いこと?
…ああ、思い出した。シンデレラのお話を読んだ後のことか。

『お、お姉ちゃんは、幸せだから…そんな風に言えるんだ!』

確かに、私の身の上話は不幸かもだよね…。
でも、ちゃんと謝ってくれるの…本当に偉いなあ。

「気にしてないよ?
むしろ、私こそあんな風に偉そうなこと言ってごめんね。
カイ君に怒られちゃったよ。」

ルイ君の方が…もっとつらかったんでしょ?
…そう言おうとして、あわてて言葉を飲み込む。
人の不幸に順位なんて…つけられないよね。

再び、沈黙が下りた。

ルイ君の表情が見えないから不安になるけど…大丈夫なのかなあ?
でも、強がっているようにも聞こえなかったし、平気なのかな?

私はふうっとため息をついた。
どうすればここから抜け出せるか、
…もう一度周りの状況を整理しようと、辺りを見回す。

そしてふっと気づいたことは、
…吐く息が白いことくらいだった。
ここ、冷蔵室か何かかもしれない。
まあ分かったって何の意味もないんだけど。

その時、凛とした声が聞こえた。


「ボク、強くなりたいんだ。」


ルイ君の澄んだ声…。
雰囲気が違いすぎて、
一瞬誰だかわからないくらいにまっすぐに響く声。

ルイ君の表情は見えないけど、きっと真剣な表情なんだろうな。

「もう、自分に嘘をつくのはやめたい…。」

嘘…?
聞き返す前に、ルイ君は矢継ぎ早に決意を語っていく。

「カルラ盗賊団のみんなをもっと安全に暮らさせてあげたいし、教育も受けさせてあげたい。
カイお兄ちゃんの本当の夢を叶えさせてあげたいし、
ライお姉ちゃんも幸せにしてあげたいし。
ボクに力がもっと…もっとあればいいのに。
ボクが大きく…もっと強くなれば、みんなを幸せにする手助けができるかもしれないのに
。…もちろん、お姉ちゃん…ううんルナ姫も助けてあげたい。
ボクは、もっともっと大人になって強くなりたいんだ。
ううん、ならなくちゃ…ダメなんだ…!」

溢れ出る欲望は、
すべて他人…ううん、『家族』へのものだった。

優しい、この子は本当に…いい子に育ったんだ。
カイ君とライさんの愛情をたっぷり受けて、『幸せ』に育っている…。

「ルイ君なら、大丈夫。
だって、カイ君とライさんの弟なんだから。」

これは慰めじゃない。予感だ。
きっと、ルイ君はすごい人になるという…絶対的な確信が私の中にあった。

この感覚は…なんだろう。
過去にも一回感じたことがあるような気がするけど…思い出せない。
体中から自信が溢れ出るような、血が脈打つ…不思議な感覚。

「うんっ!」

ルイ君の元気のいい返事に私まで嬉しくなった、その時だった。
ドアが開け放たれる音がした。

ドアは、ルイ君が縛られている方にあったらしい。
光が差し込んできている。

私は背中越しに確認しようと体をよじらせるけど、
ずっと暗い中にいた反動もあって眩しくて…よく見えない。
ドアを再び閉める音で、ルイ君と男たちの会話もよく聞こえない。

ドアが閉まり切り、
ようやく静寂が訪れたとき、ルイ君の泣き叫ぶような声が聞こえてきた。

「お姉ちゃん!早く、逃げてええええ!」

切羽詰まった声。
でも、逃げたくても縄で縛られてビクともしない。

ルイ君のその泣き叫び声が余計に不安を煽っていく。
足音が複数、私の周りに立った。

先ほどの黒い服を着た男たちが3人と、もう一人…少し年老いていたが、頑固そうな雰囲気を持つ中年男性がいた。
しかも、黒服の男の1人はルイ君を掴んでいて…首元に当てているのがナイフだと分かり、ゾッとした。

「ルイ君から手を離しなさい!」

キッとその中年男性を睨む。
きっと、コイツが黒幕だ…。ボスっぽさがあるし、何より…。
周りの男の態度がそう告げていた。

彼はニッと口の端をあげた。
その微笑みだけなのに、背筋が凍るように恐怖の二文字が体を支配する。

「…流石、一国の姫は生意気だな。」

渋く低い声の高笑い。
ひ、姫って…!?

…どうして姫だとばれているんだろう。
この人は誰で、どうしてこんなことをするんだろう。

心臓がドクドクと脈打つ…。
こんな恐怖を感じたのは…初めてかもしれない。
分からないことが、余計に怖さを倍増させていた。

「疑問に満ちた顔だな。いいでしょう、お答えしましょう…姫君の疑問に。」

彼はわざとらしく馬鹿丁寧にお辞儀をしてから、
また不気味な顔で笑う。

「まず、先ほどの会話…途中のこのガキが『強くなりたい』とか言うあたりから
聞かせていただきまして…姫だと分かったのですよ。」

ああ、うかつだった…。
私の金髪がそれを証拠づけることもすっかり忘れていた。
自分のバカさにあきれ果てる。
ルイ君にこのことを話さなければよかったのかもしれない、だって今彼は危険な目に遭わされている。

本当、もう…レイヤにあれほど注意されていたのに…。

「次に、わたくしめは…カイというガキに深い恨みがありまして、2人を囮にさせてもらいました。
でも!何という幸運でしょう!
こうして…一国の姫君にお会いできるとは…!」

彼のわざとらしい丁寧な口調が、癇に障る…。

「じゃあ、そこのルイ君には何の恨みもないのよね!?
じゃあ、私が囮をするからこの子を解放しなさい!」

怖さよりも怒りが増す。
こんな小さな子供を囮に…なんて許せないやつなの!

どれだけ偉いか知らないけど…超ムカつくわ!
でも、その言葉を聞いて…男はさらに唇の端をあげた。

「姫が、囮に…ですか。」

「そうよ、早くルイ君を解放して。
一刻も、早く…っ!」

「…立場が分かっていないようだな。」

いきなり、男の声が低くなった。
目つきも先ほどまでのふざけた態度はなくなっている。
でも、私の怒りは収まってくれない。

「何よ、立場って…関係ないわ。早くいうことを聞きなさい。」

「はっ…、これだから世間知らずのお姫様は。
…誰がお前のいうことなど聞くものか。」

「…!」

「いいか、このガキを助けたければ…おとなしく言うことを聞くんだな。
さもなければコイツを殺すぞ。」

「なっ…?!」

どうして!
ルイ君は…ルイ君は関係ないのでしょう!?

「誘拐犯に命令口調なんて、本当…バカな姫だ。」

彼は、そう冷たい目でこっちを見下ろした。
そしてちらっとルイ君の方を見やる。

ルイ君は布で口をふさがれていて、腕も足も縄で縛られている…。
何とか助けてあげたいけど、私はこいつらのいうことを聞くことしかできないのかな…?
なんて、私は…。

「何を、するの…?」

絶望的な感情に、私は思わず下を向き…そう答えるしかできなかった。
周りの下っ端の男たちが縄を外した。
ずっと縛られていた腕が痛い。

…覚悟を決めよう。

ルイ君を助ける。
そのために…私にできることはこいつらのいうことをおとなしく聞くことだけなんだから。
武力も知力もない、私の無力さを改めて痛感する。

でも、もしもお金とかだったらどうしよう。
姫とはいえ…今はもうそんな地位も権力もないのに。

そんな不安がよぎった時、
彼はいきなり私の上着を破いた。

「きゃあ!な、何するのよ!」

中にもう一枚着ていたからいいものの…女子の洋服を破くなんて。
なんて失礼で無礼で…。

私は壁際ギリギリまで後ずさりをした。
コンクリートの壁が、ヒンヤリとして…冷や汗が出る。
逃げられない。と、まるで言われているようで…手が震えだした。
でも、彼は私をゆっくりと追いかけてくる。

「動くなって…言ったよな?あのガキがどうなっても知らねえぞ?」

ルイ君はずっと泣いていた。
『逃げて』という単語をずっとくり返しながら。

ああ、私が姫だと明かさなければ…。
後悔しても、もう遅い。
唇をグッと噛みしめる…。

彼は、私の両手首を左手で壁におさえつけた。
なんて、強い力っ…。
振りほどけない。足で抵抗を試みても…すぐに抑えつけられてしまった。

ああ、なんて無力なんだろう。男の顔が迫ってくる。
気持ち悪くて、怖くて…体が動かなくなる。

「や…っ!」

「…俺は、気づいたんだよ。
お前に俺の子どもを産ませれば…俺が王族になれるってな!」

な…っ!

絶句する。
ああ、もう駄目だ…。

思わず目をつぶった。
レイヤ、アルト…っ! 

…ユエっ!


…けれども、いつまで待てども
洋服の破れる音はしない。

それどころか、私に覆いかぶさってきた影も、
手をおさえつけていた手も無くなっていた。

「よお…おっさん。久しぶりだな。」

恐る恐る目を開くと、
そこには先ほどまでルイ君の首に押し付けられていたナイフを持った
…カイ君の姿があった。

おらよっ!と声をあげて、男の頬に右ストレートを打ち込む。

「ねーさん、ルイ。
…待たせて…巻き込んで、ホントごめん。」

彼は、手を払いながら…本当に申し訳なさそうに背中越しに言った。

「お姉ちゃん!」

縄をほどかれたルイ君が私に近寄り、背中をさすってくれた。
私はというと、痛みと恐怖でうまく立ち上がれない…。
ルイ君に思わずしがみつく。

「うっ…。」

「…お姉ちゃん…。」

「ルイ、ねーさんのこと…任せた。
遠くに行け。」

「…うん!」

カイ君は、私たちを背に…男たちに向かって言った。

「カルラ盗賊団に手を出したこと、
死んで後悔させてやる。」


いつもの悪戯っ子のような子供ではなく、立派なお兄さんでもない
…怒り狂った少年がそこにいた。

8話~暴走~

いつもの深緑色の瞳が燃えるように赤く見えた気がした。
ぼんやりとした意識の中、
その瞳を見て…なんだか安心する。
…不思議だ。
そしてこの感覚も…昔、どこかで感じたことのある気がするんだけど…。

でも、今はどうでもいい。
私はかぶりを振ってカイ君を見る。
状況は最悪なのに。カイ君の背中がとても頼もしくて、
そして、私たちのために怒ってくれていると分かって嬉しかった。

でも、だからこそ
…ここから立ち去ることはできない。

「ルイ君だけでも逃げて。」

「?!おねえちゃん、何言って…」

「カイ君に人殺しなんて、させちゃダメでしょ。」

「…!で、でもっ…!」

させない。
そんなことは、絶対にさせない。

あの瞳は、本気で相手を殺そうとしている恨みがこもっている。
サッとフーくんの瞳が思い出された。
あの、身震いがでるような瞳が。
もっとも、フーくんの瞳は別の意味もこもっていたけれど。

ルイ君が私の腕を力いっぱい引っ張る。
私はできるだけそっと、ルイ君の手を外した。
困っているのは分かるけど、ごめんね。
私は、カイ君たちの方へと目を向けた。

「よお、待ってたぜ。カイ。」

ボスの男は不機嫌そうに、口から血を吐き出す。
さっきのカイ君の攻撃で…唇が切れてしまったのだろう。
そしてイライラはマックスだ。
でも、それ以上にカイ君は静かに怒っていた。

「おっさん、あの時に殺っちゃえばよかったな。」

ボソリと呟くと、手に持っているナイフに空中にほおり投げる。
その途端、天井から植物が大量に飛び出してきた。
彼の瞳が深緑色に強く光っている。
…カイ君の本気の魔法だ。

「…な!?コンクリートの場所で植物は生み出せないんじゃ…」

男達がうろたえるけど、
カイ君は全く応じずにさらに目を光らせた。

男たちを植物で縛り上げ…、ナイフをまた違う植物の先端で持つ。
そしてそのまま…ゆっくりと彼らの腕や足に傷をつけていく。
彼らの叫び声が、地下室にこだました。
しかし、カイ君は攻撃をやめない。
それどころか植物をギリギリとしめつけ…さらに傷をつけていく。

カイ君の表情は、全く変わらない氷のようで。
魔法を使うためにまっすぐ延ばしている手だけが、
攻撃の度に小刻みに震えるだけ。
体をピクリとも動かさずに、立っているだけ。

「カイ君、ちょっと待って!」

最初は呆然といて言葉を発せなかったけど、ハッとして声をかける。

…カイ君自身が傷ついてるように見えて、
とてもほっておけないと思った。

怖い…。
カイ君がカイ君じゃなくなっちゃう!

カイ君はよほど集中していたからなのか、怒っていたからなのか。
部屋の入り口付近で私たちが見ていることに気づいていなかったようで、
こっちを見てから…ゆっくりと口を開けた。

動揺している。
私たちが見ていたという事実に。

その隙にボスの男が、何か呪文のような言葉を叫ぶ。
一瞬、ただ男が狂ったのかと思った。
それほどに訳の分からない言葉を叫びあげる男の姿は…異様で、
何者かにとりつかれているかのよう。

でも…植物たちが一瞬で消え失せたことにより、
『何か』を男がしたことに気づく。
彼が、カイ君の魔法を消した…!?

それからはもう、あっという間の出来事だった。
仲間の一人が落ちたナイフを拾い上げ、私たちの方に猛突進してくる。
他の仲間の2人は同時にカイ君に襲いかかった。

カイ君はどんなに強くても…16歳。
体格が違う成人男性2人に真っ向勝負で敵うはずもなかった。
それに、私たちの方を見て気を取られていたから…尚更だ。

そして、私たちはもちろん…!

「きゃっ…!」

「おねえちゃん!くっ…。」

ルイ君がサッと目の前に立ち、手で私をかばった。
目の前がモノクロに変わった気がした。

やだやだやだ。
誰でもいい!
お願いだから…助けてっ。

男は、笑い声をあげながら半分狂ったようにこちらに向かってくる。
そして次の瞬間、想像もしなかった人物に倒される。

「ラ、ライさ…」

「ボケっとしてんな!
カイの足手まといになるなら、どっかいっちまえ!ブス!」

彼女は成人男性をぶっ飛ばした後で、
こっちを睨みつけてきた。

…ひっ!迫力満点!
ってかライさん、強い…。

ルイ君もホッとした様子で、その場にしゃがみ込んだ。
…ああ、私って…本当に役立たず。

「あんたら、カイに手ぇ出したなら、
どうなるか分かってるんだろうな?!」

私が思わず下を向いていると、
ライさんのドスのきいた声が地下室に響き渡った。

ハッと前を見る。
カイ君が男二人に抑えられて…しかもなぜかすごく苦しそうに呻いていた。
更に、近くにいたルイ君までもがその場に膝をつく。

あ、あいつら…何をしたのよ!?

「疑問にお答えしましょうか、姫君?」

すっかり形勢逆転した男たちは、ニヤニヤと私たちの方へ近づく。
先ほどの恐怖が…蘇ってきた。
グッと唇をかみ、ルイ君の前へと歩き出す。
そして庇うようにして、私は男たちを睨みあげた。

「おい、カイを離せって言ってるだろ!?
てめぇらの仲間をどうにかしてもいいのか!?」

ライさんは、倒した男を片足で踏みつけながら言う。
そうだ…こっちにも人質がいる。
あまり気持ちのいい方法ではないけれど…こうするしかないもの。

私たちはきっとしばらく男たちを眺めていたが、
男たちは私たちとは対照に笑い出した。

「お好きに、どうぞ?…野蛮なカルラ盗賊団の『姫』?」

ライさんの目が絶望を映し出していく。
握っていた拳への力が、フッと抜けていく様子が目に見えて分かった。

逆に私は、怒りが込みあがってくる。
…仲間のことなど、どうでもいいということ?!
なんて、非道。
…じゃあ、今私たちはカイ君を人質に取られていて…。
遠くから見てもドンドン青ざめていくカイ君の顔。

どうしたら、どうしたら…いいの?!
状況は、刻一刻と悪くなる。
…助けて、誰か…。

スッと、ナイフがカイ君の首筋にあてられた。
ライさんの顔が更に一変する。

「やめてええええええええええええ!」

そのまま、カイ君の方に突進していく勢いで
…彼女は3人の成人男性に立ち向かっていった。
あまりに無謀で唐突な行為に、唖然とすることしかできなかった。
想像通り、彼女も捉えられてしまう。

「なんでも、なんでもするから…っ!
カイだけは、カイだけは助けてよ…。」

彼女の頬に涙が光った。
暗い地下室の中でも分かるほどの美しい涙。
黒くて鋭い目にいっぱいにたまり、ボロボロと無限に零れ落ちていく。

…ああ、私のせいで。
ライさんが泣いている。ルイ君が怖がっている。カイ君が苦しんでいる。
私の、せいで。

「では、そこにいるルナ姫を貰おう。」

…あっ。
突然のことがたくさんで
話についていくことで精いっぱいだった私は、体を震わせた。

カイ君を、助けたい。
自分は無力で、だから…でも…こうする以外に助ける方法が私にはなくて。
カイ君がいないとカルラ盗賊団みんなが困るし、
私がいなくなるだけなら…喜ぶ人の方が多いだろうし。
無力だけど、目の前の人の幸せを考えたい。
だけど、私にも使命が…ユエにもう一度会わなくっちゃいけなくて。
もとはといえば私のせいだけど…。

頭の中でグルグルといろんな情報がまわる。
そして繰り返し思ったのは、「自分の無力さ」だった。

…本当に、私は根っからの『お姫様』なんだなぁ。
自分はアルトとレイヤがいるから平気って思ってたし、
2人も私のために戦ってくれるから平気って思ってた。
でも、周りの人への迷惑とか…考えていなかったみたい。
理想ばかりを口にして…、結局何もできない。

思わず、涙が出そうになる。
ひどく醜く、汚い涙が。

その時、
とても透き通った声が私の心を照らした。

『おねえちゃん、時間を…稼いで。
話をして、できるだけたくさん!
おねえちゃんは何もできなくても…おねえちゃんにはまだ仲間がいるんでしょ!?』

スッと、脳内に直接響いてくる言葉。
仲間…。そうだ…信じよう。
私に殺されても構わないといってくれた人たちを。
無力な私にできることは、それだけなんだから。

「ねえ、カイ君はどうして具合が悪くなっているの…?」

疑問に思っていることをぶつけようと思った。
少しでも時間稼ぎになるのなら、いくらだってしゃべってやる。
相手が応じてくれるか不安だったけど、
男たちは相当余裕らしくて…ゆっくりと語りだした。

「はは、姫様がこんな時にそんなことが気になるのか…?
いいさ、これからイイコトするんだから教えてやるぜ。
世の中には、『魔法無効石』という代物があるんだ。」

男達は、ニタニタしながら話し始めた。
もちろん捕まった2人を抑えつける手は緩まらない。

「ボスは結構な身分の男でいらっしゃるから、簡単に手に入るのさ。」

「魔法を使っている者の魔法を無効にする石、別名『死の石』。
その空間に充満している魔力の主に多大にダメージを与える
…魔法使いと戦うときの超便利且つ卑怯なアイテムってわけさ。
さっすが、ボスは頭がいいっすよね!」

「はっ!我々がカイに勝てないことは、1度目の対戦で分かっていたからな。」

…さっきほどの変な呪文は、
石へかけていた封印魔法を解くためのものだったのね。

「質問を変えるわ。
あんたたち…じゃなくて。あなた方はどちら様ですか?
身分は高そうなのに…」

とても無礼で最悪なのは、どうして…?言いたくなるが、我慢した。
だって、時間を稼がないといけないものね。
怒らせちゃいけないんだった。
つい、姫の口調が出てしまう。
…冷や汗がスッと背中に伝っていく。

「我々は…イーラルト家の者だよ。」

彼らはたっぷりと時間をかけて、
この言葉を話した。

い、イーラルト!?
じゃあ、リュミスカの親戚?!

え、でも…。
じゃあ、カイ君はイーラルト家の子息かもしれないって知っているんじゃないのかしら。
どうして、こんなことしてるの!?
ううん、息子かもしれないから…?
こんなことをしてるの…?

「カ、カイ君。…カイ君への恨みって何?」

「…私の兄を殺されたんだ。」

男は、カイ君を憎々しそうに蹴り飛ばした。
カイ君は青ざめて、抵抗せず…うめき声すらも出さなかった。

また、ライさんの叫び声が空間を切り裂いた。
暴れまくって、大の男2人になんとか抑えつけられていた。

「さ、姫。お遊びはここまで。
コイツを殺したいのはやまやまだが…姫を手に入れたほうが余程利益があるからな。」

…ああ、時間稼ぎはもうできないかもしれない。

「待って、まだ聞きたいことが…」

「ベッドの上でゆっくりお聞かせしますよ?」

「…っ。」

露骨なことを言われて、
思わず全身の毛が立った。

「姫君という点で、あなたはとても価値のある女だ…。
まあ、その何も知らなそうな体にイロイロ教えるのも悪くはない…か。」

そっと、肩に手を置かれる。
絡みつくような視線が気持ち悪い。
心の底から振りほどきたかった。

でも、奥にいる二人の顔。
後ろでうずくまっているルイ君のことを思うと、何もできなくなる…。
だって、この状況全てが私のせいだから。
抵抗しても、無意味だと分かっているから。

「大丈夫、やさ~しくしますよ。」

男達が一斉に笑い出す。
その笑い声が、スーっと遠くに聞こえた。
本日何度目になるか、分からない絶望感。

でも、もう今度は逃げられない。
2人の人質がすべて私のせいで捕まっているのだ。
それにもう「希望」は間に合わない。

都合のいい時にだけ、こんなに頼るなんてやっぱりむしがよすぎるわ…。
でも、もしも出来ることなら…。

もう、誰も…。
私のせいで傷つかないで。

「おらよっ!!!!」

バターンというドアを勢いよく開け放つ音と共に、
ハツラツとした威勢の良い声が聞こえた。

目の前に横切る、燃えるような赤茶色の髪。
ニタッといつも通りの笑顔にホッとする。
彼の鋭い右手が、私の目の前を明るくしてくれた…。

「ア、ルト…っ!!!」

思わず涙が溢れそうになり、唇を強く噛みしめた。
助けに、来てくれたの…?

「姫様、遅くなってすみませんっ!…おらよっと!」

アルトはそういうよりも早く、
敵の目の前に行き…ナイフを高く蹴り上げた。
カイ君の命を脅かすものがなくなると、
男が1人になったこともあり、ライさんも全力で反撃しだす。
先ほどまでは、カイ君のために力をセーブしていたらしい…。

そして、2人の動きに見とれていると
…アルトが蹴り上げたナイフが、私の目の前へと転がり落ちてきた。

「それで自分の命は守っててくれ!こいつら、結構厄介だ。」

アルトはそういいつつも、
敵から一撃もくらわずに相手を壁側に追い詰めていく。
ライさんも時々加勢して、4対2という圧倒的不利な状況にもかかわらず、優勢なのはこちら側だった。
まあ、そもそも4人のうち1人はライさんにすでに倒されていたし
…ボスの中年男はアルトの最初の攻撃でほぼKOだったから実質は2対2だけど…。

そして、5分もたたないうちにあっけなく勝負はついた。

「アルト…!ううっ。…遅いじゃない、バカ。」

「悪かった。マジでやばそうだったな。
つーか、あいつがいなければ…もっと遅かったと思うから感謝しねえとな。」

アイツ?
私が聞き返す前に、レイヤが地下室に飛び込んできた。

「持ってまいりましたわ!『対・死の石』です!」

息を切らしながら、彼女はその場に崩れ落ちた。
その瞬間うずくまって…さらに3秒後私の姿を確認するとマッハで飛びついてきた。

「いったーーい!」

「ごごご、ごめんなさいませ!つい…。」

レイヤは頭で私の顎をついてきただけでなく
…手に持っていた固いもので私の背中をグリグリしてきたために、
余計に鈍い痛みが体中を駆け巡る。

死ぬわ!痛いっての!
…とは、レイヤの泣き顔を見てから言えなくなる。
ああ、もう…かわいいなぁ。

「別にいいわよ…。って、その石って何?」

「ああ、これは『対・死の石』。
正式名称は『魔法無効無効石』でして、例の方からいただきましたの。
効果はもちろん死の石の効果を消すこと。
また魔力を増幅できる石でもありますので、『魔力増幅石』『万能石』ともいわれておりますわ。」

…丁寧な説明を、どうもありがとう。
ということは…!

辺りを見回すと、カイ君は元通りの元気な姿を取り戻していた。
…立って手をグーパーグーパーと開いて閉じ手を繰り返しているあたり、
まだぼんやりしているのかもしれないけど。

「ルイさん、大丈夫ですか?」

続いて、レイヤがルイ君に声をかける。
…そういえば、どうしてルイ君まで具合が悪くなったんだろう?
魔法を使っているわけでもなく、ましてや魔法使いですらないのに。

ルイ君の方に目を向けると、
なんだか物悲しそうに微笑み返される。
…先ほどまでの笑顔との違いに、面食らってしまう。
なんだか急に大人びたような…?

心配になって、彼のもとへ近づこうとした。
けれど、ライさんの悲鳴で私の動きは停止する。

「カイ!待って、何をっ!?」

ハッと、さらに振り返ると
…カイ君が先ほどまで私の持っていた包丁でボスを刺そうとしていた。
あまりに突然のことで、
アルトもレイヤも…近くにいるライさんも…私も追いつかない。

いやだ…カイ君に人殺しなんかさせたくない…!

誰もがそう思ったであろうその瞬間、
…地下室に緑が一面に広がった。

何?!
誰もが驚き、硬直する。
カイ君が出した草木とは比べ物にならないようなほんの小さな草たち。
それらが、そっと男の体を動かしてカイ君のナイフは彼に当たらずにすんだ。

…よかった。その場の空気が一気にほどけた。
虚ろだったカイ君の目にも、同様と驚きの表情が見える。
そして数秒後に、何とも言えない苦悶の表情でこちらを見つめてきた。
あまりに悲しそうで苦しそうで、
口を開いてはまた閉じるその様子は、自信たっぷりのカイ君からは想像もできない。

一体何が起きたというんだろう?
沈黙がおりる。

カイ君ではない誰かが魔法を使った。
それしか考えられなくて。

でも…まさか。
後ろでハアハアと荒く呼吸する声が聞こえ
、私たちは恐る恐るその声の主の方角を向いた。

エメラルドグリーンの髪と瞳。
可愛らしいけど、少し大人びた表情で『彼』は言った。

「おにいちゃん、もう…もう十分だよ。ありがとう。」

目じりに涙をいっぱいためて、掠れた声だったけれど、
『彼』の声はやはり、『ルイ君』と全く同じものだった。

9話 ~後悔~


それからは、あっという間の出来ごとだった。

レイヤが石を譲ってもらったのはリュミスカさんだったらしく、
リュミスカさんが呼んだと思われる警察が入り込んで4人の男は逮捕された。
ちなみにその男の正体は、リュミスカさんの義理の弟…つまり彼女の夫の弟だったそうだ。

そしてリュミスカさんが来たとき、
カルラ盗賊団の3人はもう森に帰ってしまったようで…。

「やはり、私には会いたくないのでしょうか…。」

と、リュミスカさんは落ち込んでしまった。

…きっとそんな理由じゃないと思う。
でも、上手く説明できなくて私たちはリュミスカさんの悲しむ顔を眺めるだけで終わってしまった。

結局、私もアルトとレイヤと共に警察の事情聴取前に
こっそりと抜け出して…再びあの部屋に戻った。

「…レイヤ、アルト…。どういうことだと思う?」

私はなんとか冷静を取り戻したあとで、2人の顔を窺った。
2人は少しずつ語りだす。
まるで自分たちも情報を整理しようとしているように。

「俺たちは姫様がいなくなったって分かった後から、ずっと森周辺を探していたんだ。
絶対あのガキに連れ去られたと思ってよ…。」

「ええ。しかし、アルトがどんなに音を聞き分けてもルナ様の声が聞こえなかったらしいのです。
途方にくれましたわ。もし彼らでないとしたら…ユエ様にさらわれてしまったのかもしれないという最悪の事態を想定し…」

「おい、レイヤ。話がそれてるぞ。」

「ああ、すみません。そして私たちが途方に暮れていますと…脳内に直接響いてくる『声』があったんです。
『ルナ姫様が危ないから今すぐ助けてください。僕の念波を送り続けるので追ってきて探してください。
あと、敵は死の石を持っています。魔力を使わないでください。』
その後からはルナ様達の声が中継のようにひたすら頭の…中に…。うっ…。お辛い思いをさせてしまい申し訳な」

「もう…。それはもうさっき終わったでしょ。で、その声っていうのは…。」

私もあの時に聞こえてきた。

『おねえちゃん、時間を…稼いで。話をして、できるだけたくさん!
おねえちゃんは何もできなくても…おねえちゃんにはまだ見方がいるんでしょ!?』

そう、私をおねえちゃんと呼ぶのは…。

「あの声の主は、間違いなくルイという少年でしたわ。」

驚きで声が出ない。
だって、彼は黒髪で…黒い瞳。
可愛らしい5歳のような精神を持っていたはずなのに。
だって、ルイ君はそんな素振りは一度も…。

「ルナ様、ルイという少年についてあなたが知っていること…全てをお話し下さいませ。
私たちが知っている情報と整理いたしましょう。 少し…引っかかる点があるのです。」

レイヤが髪の毛を1つに束ね、眼鏡をつけた。
…本気で考えるモードに入る、というレイヤの意思表示でもある。
私はカイ君が教えてくれた情報を出来うるだけ教えた。


「…。」

「へえ、あのガキたちって頑張ってるのか、意外と。」

「…頑張っている、なんてものじゃないかもしれないですわ。」

へ?
すべてを話し終わると、レイヤはメガネをはずしそっと目元をぬぐった。

「これはあくまで推測です。
しかし…可能性の一つでもある、ということをよく肝に銘じてお聞きください。」

レイヤは、その後深呼吸をして…彼女の推理を話し始めた。

―☆―☆―☆―☆―☆―

「カイ君―!」

私は、またカルラ盗賊団のみんながいる森に来ていた。

カイ君のその後が心配だったし、
何より…レイヤからあんな話を聞かされては…真実を聞かないでいられなくって。
2人に黙って、こっそりと抜け出してきたのだ。
まあ、簡単にメモを残してきたから…パニックになることはないと思うんだけど…。

「あ、ねーさん♪」

何時間でもここで待ち続ける覚悟だったんだけど、
カイ君は想定よりもかなり早く出てきてくれた。

その顔はこの前のような怒りも苦しみも…感じられない、
にこやかな笑顔だった。

「僕もねーさんと話したいって思ってたんだよね~。」

彼の軽い言葉には、もう騙されない。
心の中ではきっとちゃんとした狙いがあるはずだ。

でもこの言葉は真実だろう。
私は彼を信じたい。

「うん、お話ししたいな。」

「じゃあ、街のオシャレなカフェにでも行く?デートしようよ!」

ど、動揺するな…私。頑張れ…。

「そ、そういう冗談は良いから、どこかゆっくり話ができるところで…」

「2人っきりで…誰も来ないとこに、行く?」

もう!
2人っきりをそんなに強調しなくてもいいからっ!

その後、カイ君に振り回されつつもようやく、
しっかりと話が出来そうな…なぜか大草原に連れて行かれた。

小高い丘、草木が青々と茂り、辺りがぐるっと見回せる。
誰かが近くに潜んで、隠れることはできないだろう。

「ねーさんが聞きたいのは、どれ?僕の秘密?ルイの秘密?」

その草原の真ん中に、ドカッとカイ君は座った。
そして悪だくみを考えているような…ニタッとして表情で、
下から覗き込むように目を合わせられる。
言い方とは正反対に、瞳は真剣そのものだ。

「…ああ、僕の昔の話ならしてあげてもいいんだけど。
そのかわりさ~。ねーさんが僕のいうこと何でも聞いてくれるって約束してくれたらいいよ?」

なっ、なんでもって。何する気よ!?

「顔赤すぎ、ねーさん。ま、可愛いけど。」

…今日は温かいからね。
太陽も眩しいくらいに、私たちを照らしてくれてるからね。
そのせい、だもん。

「ま、話してあげるよ。
今回はねーさんも巻き込まれちゃったわけだし?聞く権利はあると思うからね。」

カイ君はそれから一切目を合わせずに語りだした。

―☆―☆―☆―☆―☆―

彼女は…まっすぐに僕の瞳を覗こうとしている。
ああ、この強い力は何なんだろう?
誰からも縛られずに自由に生きてきた『姫』という立場が彼女をそうさせるのか。

この世の中の汚いものを何も知らない様な無垢な少女を、
このままでいさせてあげたいと…いつの間にかそう思っていた。

カルラ盗賊団の一員になれば…なってほしいと思った。
僕にはないものをたくさん持っている彼女に、どうしようもなく傍にいてほしいと思ったんだ。


僕の罪は、この世に生まれてきたこと。

小さなころ、物心つかないころからそういわれ続けてきた。
理由なんて今更どうだっていいし、知りたいとも思わない。

でも、だからこそ、僕を拾ってくれたライは大事な存在だ。
僕に生き抜く術を教えてくれた。

「生きたいなら強くなれ。強いものこそ生きる価値があるんだから。」
今でも胸に、あの言葉が強く残っている。
これが僕の全て。

強く、強くなるために。
僕は必死で勉強して…できることは何でもやった。

そして願ったんだ。
強くありたいんだと願ったんだ。
毎日毎日、日が暮れると必ず祈りを捧げてた。
…神様なんて信じてないのにね。

そうして数年。髪の毛と瞳の色が変化したのは突然のことだった。
驚いたよ。ライは僕が新種の病気かもと疑ったし、僕も怖かった。
でも木々が、いつもより優しく囁いているような気がしたんだ。
心になんだか自信が湧いてきて、僕は次の瞬間植物を操れる力を手に入れた。

…大切な人たちを守り抜ける力を。


僕はそっと自分の右手を見つめた。
もう、何年も前のことを思いだす。
カイが捨てられていた日…どうしてこんなに鮮明に覚えていられるのか分からない。
彼女にこのことを話すのは、本当に嫌だ。

でも、もう逃げられない。
無垢な少女に傷をつけるのは、僕だ。

「僕は…」

ああ、声が震える。なんて情けないんだ。
ダサいしカッコ悪い。

でもそんな僕を彼女は心配そうに、でも温かくまっすぐに見つめている。
決してせかさずに待っていてくれてる。

はは…カッコわりぃ!
嫌われるのなんて慣れっこだろ、カイ。

「ねーさん、僕はね…人殺しなんだよ。」

彼女の目が見開かれる。
口をポカンと開けた表情はなんとも間抜けで。
笑い飛ばそうとして、顔が笑えなくなっていることに気づいた。
やっぱり、ガキだなあ…僕。

「あのイーラルト家の男の中で一番偉い奴…旦那さんってやつを殺したのは僕だ。
昨日襲ってきた奴らはその復讐。 巻き込んで怖い思いさせちゃって悪かったね。
まあ、お詫びといったらなんだけど…カルラ盗賊団に入れなんてもう言わないよ。
ねーさんが、どうしても僕と一緒にいたいって言うなら…別に入ってくれてもいいんだけどね?
そしたら、僕がいろんなことを教えてあげ」

「バカ。」

一気にまくしたてていた僕の言葉を、ねーさんが遮る。
横に座っている彼女が、僕の頭をそっと撫で始めた。

「…それで、どうして?」

「なにが?」

「どうして、殺してしまったの?」

ははっ。単刀直入に聞くなあ。
では、単刀直入にお答えしましょう。

「ムカついたからだよ。」

間違ってないさ。
どう?これでねーさんは僕のことを軽蔑したでしょう?

「どうしてムカついたの?」

「はあ?!酒に酔って、うだうだうるさかったからに決まってんじゃん。
あいつ…本当にうるさくて。」

「それだけじゃないはずよ。
…何か、カイ君の大切な『カルラ盗賊団』の皆に対する悪口でも言われたの?
…それとも、ルイ君について何か言われたんじゃ…。」

「…。」

ねーさんは、バカなのに…察しがいいなあ。
このまま質問に答え続けるのはよくない!
と、もう一人の僕が言うけど…なんだか動けなかった。

「質問を変えるわ。カイ君は植物の…」

「え!…あ、ああ。そうだよ。」

唐突に質問を変えるなあ。
驚いて口を滑らすところだったじゃんか。

つーか、いつまで僕の頭を撫でてるつもりなんだか…。
柄にもなく照れてしまいそうだからやめてほしい。
…でも、口には出せなかった。

「…ルイも植物の魔法使いなんだ。
さすが、僕たちの絆は強いだろ?2人で後天性の魔法使いだなんてさ。
アイツは僕に影響されたんだと思う。」

彼女の目が、真剣に僕を覗き込んでくる。
ぴたりと手が止まって…。
何かを言いたげにしている雰囲気が、見なくても伝わってくる。

やめてくれ。
追い詰めないでくれ。
真実を突き付けないでくれ。

そう思って話まくっていたけど、
なんだか逆効果しか生まない気がする。

「ごめんなさい。私…駆け引きとか苦手なの。
すべて、簡潔に聞いちゃうわ。」

ああ、やめろ。
真実を言わないで。

彼女は僕の真ん前に来て、
しゃがみ込む僕の両肩をそっとつかんだ。
目を否が応でも合わせさせられる。
『嘘はつかせない』と、魔法をかけられている気分だ。


「カイ君が殺したイーラルト家の当時の当主は…ルイ君のお父さんなの?」

…。

「リュミスカさんと男…カイ君が殺してしまった人の子どもが、ルイ君なのね?
ルイ君は…イーラルト家の1人息子で、だから植物の力を!」

「黙れ…。」

認めない。
認めたくない事実が、僕をがんじがらめにする。
呼吸が苦しくなって、肩が震えだす。

「黙れ黙れ黙れ!
何も知らないくせに知った風な口をきくな!
ルイは僕とライで5年間育てた、僕たちの家族だ。
カルラ盗賊団だけが僕たちの居場所で、貴族なんかと一緒にするな!」

畜生…。
ルイは、あんな外道の息子なんかじゃないんだ…。
ルイを捨てたくせに…。
ひどい扱いをしたくせに…今更!

「知ってるよ。」

凛とした声。
肩におかれた手に、少しずつ力がこもってくる。

「ルイ君はカルラ盗賊団の家族。」

「じゃあ、黙っててくれ!
ルイには…ルイにだけは教えたくないんだ!」

アイツがこのことを知ったら、きっと苦しむから。
僕が死ぬまで抱え込もうとした秘密。

お願いだ。
ルイだけは苦しませたくないんだ。
アイツは僕の唯一の光だから。

だけど、ねーさんはそんな僕の言葉さえも首を振って。
更に残酷なことを僕に言うんだ。

「ルイ君は、きっと知ってるよ。気づいてる…かなり前から。」

「な、んで…。そんなこと、分かるんだよ!?」

「ルイ君と地下室で会話したとき。
ルイ君言ってたよ。『強くなりたい』んだって。ならないといけないんだって。
その時の瞳は、いつものルイ君じゃなくて何かを決意していた男の顔だった。
…きっと、気づいてる。」

そんな…。
でも、それだけじゃ、証拠にならないじゃないか…。
ルイには幸せになってもらいたいんだよ…。

「仮に、気づいていたとして…どうするんだよ…。」

「…カルラ盗賊団をイーラルト家のもとにおいてもらおうよ。」

なっ?!
この女…何言いだしやがる?
でも、本気だ。
肩におかれた手が、さらに強さを増してきているのが分かる。

「ルイ君の望みが、すべて叶うよ。
それに街の人たちからの差別もなくなるし、全員に充分な教育を受けさせてあげることが出来る。」

…。
なんていうか、無茶苦茶だよね。
貴族の家に孤児たちを住まわせようとするとかさ。
さすが、世間知らずは恐ろしいな。

でも悪くない案かもしれない。
カルラ盗賊団団員は、予想より人数が増えて結構財政もやばい。
最近は僕への対策として自然の伐採が進んでいるのも心苦しいし…。
何より街のやつらからの嫌がらせが日に日に増して、
危害を加えるものになってきていやがるし。
小さい奴らには危険すぎる。
それに、本当ならちゃんとした教育を受けさせて安全に暮らした方が良いに決まってるしな。

あいつらは、本当は…
僕に拾われない方が幸せだったんじゃないかって。
心のどこかで思っていたんだ。


「そうだな、ルイが万が一気づいていなくても…
イーラルト家を今回の件で脅してみればいけるかもしれないな。」

「ううん。リュミスカさん…当主からの了承は、もう得てる。」

仕事がはやいことで。

「むしろ、彼女からお願いされたの。
カルラ盗賊団全員を引き取って育てたいって。
ルイ君が夫に捨てられて、何年も幽閉されてたから助け出せなかったらしくて、すごく後悔してたのよ。」

…は?あのおばさん…、ルイを捨てたんじゃなかったのか…。
あの男が死んでから、どうやったのか知らないけど権力を取り戻して、
…ルイのために、頑張ってきたってことか?

「信じられないな。」

貴族は信じられない。
ねーさんも、結局は貴族の味方ってこと?

「カイ君は、とっても優しい人だよね。みんなのために行動する、とても優しい人。」

「突然、何言いだすのさ?」

キラキラとした純粋な瞳。
僕がこの世で一番信頼する、ルイのような瞳。
…吸い込まれそうになる。
彼女のいうことが幻想でなくて真実ならいいって…思ってしまう。

「カイ君がその男…ルイ君のお父さんを殺したのは…ルイ君のためなのかなって。」

「ムカついたからだよ。」

「そう、そのムカついた理由ってさ。
…その男がルイ君に対して何らかの悪影響を及ぼそうとしていたから…ルイ君を守るために殺したっていうことじゃないの?」

嫌だなあ。
ねーさんは物事の全てを白日の下に晒してしまう。

「…。」

何も言い返せなかった。

だって真実だから。

あの日、アイツがルイを探し出し、殺そうとしているって話しているのをある路地で聞いた。
どこでとか、どうしてとかあんまり覚えていない。
僕の中にこみあがってきたのは、怒りという感情のみ。
ルイを森に置き去りにして、5歳までの記憶を捨てさせ、
この上、命まで…奪うというのか。

僕のかけがえのない光の存在を、
家族を奪おうとする…傲慢で強欲で汚らしい貴族。
許せなかった。
権力の身を振りかざす、悪党ども…弱者をいたぶり喜ぶ狂人どもめ。

そう、気づいたときには…彼の頭を鉄パイプで殴っていた。
死ぬとは、思ってなかったから…ビックリしたし、ショックも受けた。

でも僕が汚れることでカルラ盗賊団の皆を守れるなら、
構わないと本気で思った。

その日以来、ライが止めるのも聞かずに…略奪・強盗を繰り返した。

もちろん皆には内緒で。
そんな汚い金で食わせるのも申し訳ないと思っていたけど…、
その金を奪う相手は『貴族』と決めていた。
そうして何とか皆を育てていた。

「カイ…君。」

目の前にいるのは、その『貴族』のトップであるはずの王族。
王族の中でも大事に大事に育てられた…お姫様。
それなのに、どうしてこんなに美しく見えるのか。

「『貴族』なんかに…僕の大事な…命よりもかけがえのない存在は、」

渡しなくない。
預けたくない、世話になりたくない。
嫌だ!

でも、それは僕の我儘だ。
彼らにとってより良い選択は何なのか。
それを僕はもう知っている。
どうすべきかなんて分かり切ってることだ。
…僕が、強欲なだけ。

「…リュミスカってのは、優しい奴なのか?」

「もちろん、だって…あのルイ君のお母さんだもの。
今改めて考えてみると…2人の笑顔ってそっくりだもの。
ほんわかしてるとこも。ルイ君はお母さん似だわ。」

「カルラ盗賊団は、安全に暮らせるようになれるかな?」

「なるわ、きっと。」

「幸せにもなるかな…?」

「今も、十分幸せだと思うけどね。そうね、たぶん。」

「じゃあ、ルイにカルラ盗賊団を譲るのは…時期尚早かな?」

「え?」

「だって、僕が当主じゃ…。
ううん、ルイが当主の方が向こうの体面も保たれるさ、きっと。」

「…?」

うん、決心…できた。
ううん、自分自身に決心させることができたよ。

あいつらのためになら、
僕は本気で死んでもいいと思ってるんだ。

「カルラ盗賊団を、イーラルト家に任せよう。」

喉が渇く。
声が震える。

涙が出そうで、強引にねーさんの腕を振り払い
…後ろを向いた。

「あの女に…伝えてくれる?
カルラ盗賊団は僕の命よりも大切な家族だ。
何かあったら容赦しないし、地の果てまで追ってでも復讐してやるから。
…絶対に、皆を幸せにしないと許さない。」

そう、犯罪者の僕は…皆を幸せには、出来ないから。
…幸せにしたいんだ。

「…カイ君が直接言えばいいじゃない?」

…鈍感なお姫様だなぁ。
僕の傷をザクリとえぐるんだから。

「前の当主を殺した僕が?」

「あっ…。」

そう、どんなにいい人でも。
その家の当主であろうと。
前当主を殺した奴を許し、ましてや一緒に養うようなことをすれば
…他の親族たちから大バッシングだろう。

「でも、リュミスカさんはそんなこと気にするような人じゃないよ。」

「バカだなあ。ルイの母親っていう人がどうかなんて知らないけど…周りの人、
貴族の親族たちからは必ず反感をかうじゃんか。」

そんなことしたら、カルラ盗賊団は余計に針の筵となるから。
僕は一緒には行けない。
カルラ盗賊団を守りたいから、僕は皆から離れるんだ。

「ま、放浪の旅でもしようかな~!」

小さなころの夢。
国中を駆け巡る、騎士のようにカッコいいヒーローになりたいなあ。
ま、僕の場合…この美しい容姿に惹かれて女の人が放っておかないだろうから、
ヒーローになるのも簡単だろうし。

長い、長い沈黙があった。
風が吹いて…僕の涙を乾かしていく。


「…じゃあ、私達と一緒に、来ない?」

時が止まったかと思った。
ゆっくりと後ろを振り返ると、少し寂しそうな顔をして…ねーさんが微笑んでいた。

「私を護衛しながら、一緒に旅をしてみない?」

その微笑みは、不思議なくらい…僕の視線を逃さない力を持っていた。

10話 ~素直さの種~


カイ君の瞳が大きく、大きく開かれた。
こっそり泣いていた涙も吹かずに…私を見つめる。

やっぱり驚いたよね…。
私も自分で言ってて驚いてるし。
でも、その寂しそうな背中を放っておけないって思ったから。

まあ、私の全ての事情を知ってから。
ついてきてくれるかどうかは、カイ君が決めること。

「私の…この国に今起きていることを、話すね。
でも、これを聞いた時点でカイ君は国に追われるかもしれないけど…それでもいいなら話したいな。」

「んー、そうだなぁ。
…ねーさんのこと、もっと知りたいから…いいよ?」

こんな時でもニヤリと口の端をあげて、冗談を言う。
カイ君は強いな…。
私が話しやすいようにしてくれたのかもしれない。
…うん、きっとそうだ。

「ありがとう。」

私は、辺りをそっと見渡した。
誰かにまた聞かれてたら…まずいわよね。

「その前に…周りに…誰かいるかどうか、分かる?」

「んー。…いない。」

…そんな簡単にわかるのか…。
魔法使いってやっぱりすごいわ…。

「長くなるけど、できれば詳しく知ってほしいから…。話すね。」

深呼吸をして、ゆっくりと話し出した。
ルイ君に話した時とは違う。
できるだけ、しっかりと伝えたい。

「私は、カイ君が言った通り…この国の、エストレア王国の第一王女…姫よ。
私には王位継承の儀式をするはずだったお兄様と王であるお父様、そして1つ下の優秀な弟…ユエがいたわ。
私には母はいなかったけど、ユエやお兄様としょっちゅう遊んでいたから全く寂しくなかった。
お世話係のヒューリア、大臣たちもとても優しかったしね。」

今も、瞼を閉じればあの温かい日々が戻ってきそう。
すぐに思い出せる。幸せな気分になれる。

「でも、お兄様の王位継承の儀式の日。
私は深夜にお兄様とお父様を訪ねて行って…見てしまったわ。
弟のユエが、2人を殺している現場を。」

喉がヒューヒューと音を立てる。
私は必死に冷静さを取り戻して、続ける。

「ユエは私も殺そうとした。
…助けてくれたのはアルトとレイヤだけ。
私に優しくしてくれた皆は誰も…助けに来てはくれなかった。」

ズキリ、と胸が本当に痛む音がした…そんな気がした。
改めて考え直すと、誰も私を助けに来てくれる人がいない…という事実に改めて気づいて、
本当に泣き叫びたくなった。

「私は、そのまま城を飛び出したわ。2人に連れられてね。
その時偶然持ってきたペンダント…カイ君が奪ったあのペンダントは、代々王族に伝わるもの。
王位継承の儀式に使われる、大切なものでね。ユエはきっとこれがないと王位即位できない。
まあ年齢的にも、20歳にならないと王位は継げないけどね。
そう、それまでにユエが王位を継ぐためにすることは、2つ。ペンダントを取り戻すことと、私を殺すこと。
ユエの王位継承権は第3位。…お兄様がなくなってしまった今、王位継承権を持っているのは私なのよ。
私を殺さなければユエは王にはなれないから…。」


ユエはどんな気持ちで、この事実を受け止めているんだろうか…?
ユエに、どことなく雰囲気が似ているカイ君を見て、うっかり涙が出そうになる。

「…ユエがどうしてこんなことをしたのか、私は確かめたい。
そのためには、お城に行かなければならないけど…力が足りないわ。
力を手に入れるため、私は王位に就く。
そしてユエに事実を確かめたい。」

そう、それが私の全て。
旅をしている目的だ。

「王位に就くには、仲間が必要よ。
自然に関する魔法が使える魔法使いが5人。そういう儀式なの。
…カイ君さえ嫌でなければ…私と一緒に来て、私を助けてくれる仲間になってほしい。」

カイ君は瞬き一つしなかった。
動かずに、こちらを探るように見ていた。

確かに夢のような話だから…信じがたいかもしれないし、
実質王族に刃向うことになるんだから…嫌よね。

「嫌だったら、嫌だといって。私たちは明後日。街の南門で朝9時に待ってるわ。
もしよかったら、一緒に…カイ君と一緒に旅がしたい。」

彼の目が、泳いでいた。
…迷ってるんだ。

「リュミスカさんには話をつけておくわ。そこは安心してね。」

唐突にこんなにいろんなことを言われたら、
驚くのも無理はないだろう。
一気に話しちゃったからなあ…。

「…待ってるわ。」

私は、半分呆然としているカイ君を残し…その場を後にした。
いつもより、何倍も汗ばんだ手のひらをそっと握りしめて。

…カイ君を一人で旅させてはいけないという気持ちだけで一杯だった。

―☆―☆―☆―☆―☆―

あれから…僕が植物の力を皆の前で初めて使ってから。
カイお兄ちゃんとライお姉ちゃんとこうしてゆっくりと話す時間が取れたのは、例の日の翌日だった。
夕方で、太陽が西に傾きかけている…まだ暑い夕方。

カイお兄ちゃんの様子はなんだか少しおかしいし、
ライお姉ちゃんも僕に対してどう接していいのか測りかねているんだろうか?
…僕たちの雰囲気は重い。

…ああ、僕のせいだ。
あのままずっと、気づいていないふりをしていればよかったのに。

…まあ、実際には僕が魔法使いだって、『貴族』だって気づいてなかったんだけど…さ。
心のどこかで、昔の記憶を強引に封じ込めてた。
無意識だと思う。
カルラ盗賊団での暮らしがあまりに楽しかったから…この生活を失いたくなかった。
僕は10歳だから…そうするしか、この暮らしを守る方法を見つけることが出来なくて。
早く大きくなりたいって思った。

でも、それと同時に…この髪の毛がいつ変わるか。いつ皆に貴族だとばれるのか。
心の奥にいる…全てを知ってる僕は、本当に怖かったのかもしれない。
幸せだったから、その幸せがいつか泡のように消えてしまうんじゃないかって…怖くて、怖くて。
必死に子供のままでいたいって思っていたんだろうな。
それが、あの僕を形作っていた。10歳という年齢では幼すぎる雰囲気と、真っ黒な瞳と髪の毛。
記憶を取り戻して、今の生活が変わるのが本当に嫌だったんだ。


でも、カイお兄ちゃんを助けることが出来たから
…魔法を使って封印を解いたことは少しも後悔してないんだ。

これでもし、『貴族』の僕が皆に嫌われてしまっても…後悔なんかしないよ。
だから、最後にお別れだけはいいたいな。
どんなに嫌われてても…いいから。

「ふ、2人とも!」

声が上ずる。
2人がなんていうのか分からなくて、怖い。
思わず俯くけど…僕を呼ぶ声が聞こえてゆっくりと顔を上げた。

2人が、こっちをみている…。
目をそらしたかったけど、目を見て会話できるのが最後かもしれないと思うと
…目をそらすのが躊躇われた。ギュッと、自分の手を握りしめる。
唇がわなわなと震えだすのが分かるけど
…どうしても2人に感謝とお別れだけは伝えたい。

「ルイ。」
優しい声。少し濃い緑色の瞳が…いつもと同じように、温かく僕を見つめていた。

「ルイ。」
温かい手。僕を撫でながら…猫みたいな漆黒の瞳が、優しく僕を見つめていた。

「「助けてくれて、ありがとう」」

全く高さの違う声が、ピタリと重なりあう。
5年間…ずっと僕を見ていてくれた2人の笑顔が、
僕の最後の強がりを解かす。

「っ…!ずるいよっ…!」

嫌だ、嫌だ!

この人たちに嫌われたら、僕は生きていけない!
何度この瞳に、手に、微笑みに、救われたか
…数えるのもバカらしい。

「僕、貴族なんかじゃないよ!
僕は…僕は…カルラ盗賊団の…一員でいたいよ!」

身分なんてどうでもいい。
明日の食事さえ、ままならない状況だって平気だ。
どんなに生き延びていたって、
皆に嫌われてたら…僕は心が壊れてしまう!

ずっとずっと、我慢してた分…涙が止まらない。
立っていられなくて、その場に泣き崩れた。
…もう2人の顔を見ることもできない。
「嫌いだ。出ていけ。」いう決定的な言葉を言われるのが怖い。

「ルイは、バカな子だね。」

ライお姉ちゃんの少し低い声が、聞こえた直後
…僕はお姉ちゃんに抱きしめられていた。

「ルイはルイだよ。どんなに髪の色や瞳の色が変わろうとも。
誰から生まれようとも。根っからの優しさ溢れる、可愛い私たち自慢の弟。
何があっても、ルイのこと…私たちは大好きなんだから。」

…温かい。
耳元の声がスッと僕の胸に入ってくる。涙も自然と乾いていく。

「僕も…、大好き。」

2人が、皆が…。大好きだ。
大好きで、失いたくない。守りたい。何があっても。

暖かな陽だまりを思い出す。
お姉ちゃんからはいつもおひさまの匂いがするんだ。
優しい、自然の香り。

「僕、ずっとカルラ盗賊団の一員でいる…。」

自然とこぼれた、この言葉。
この言葉がお兄ちゃんに、あんなことをいわせるなんて少しも思わなかったんだ。


「…ルイが、カルラ盗賊団をそんなに大切に思ってくれるなんて嬉しいよ。
うん、そうだ!
…ルイにカルラ盗賊団を譲るよ。」

それまで、カイお兄ちゃんは僕たちを満足そうに眺めていた。
いつもより、少し寂しそうだったけど…愛おしいものを眺める瞳だった。

だから唐突に空からふってくる言葉は、よく理解できないものだった。
ライお姉ちゃんもビックリしている。
…カイお兄ちゃんの独断?それとも…冗談?
本気なら、きっと熱でもあるのだろう。

「カイ…何て?今…。」

「カルラ盗賊団をルイに譲る。」

しっかりとしたカイお兄ちゃんの声。
反対に、ライお姉ちゃんの声は震えていた。
そして、僕を抱きしめていた温もりが唐突に消えていく。
お姉ちゃんの腕から、体から力が抜けていったんだ…。

カイお兄ちゃんは、ライお姉ちゃんを切なそうに見た後。
僕と目線を合わせて、しゃがみこむ。
そして静かに…あくまで「冷静に言う。

「ルイ、いいか?
…これからイーラルト家でカルラ盗賊団を面倒見てもらうんだ。」

カイお兄ちゃんの微笑みは切なくて、
僕の初めて見る顔だった。

「ちょっと!詳しく説明しなさいよ!」

呆然としていたライお姉ちゃんも、
我に返り顔を真っ青にしてカイお兄ちゃんに詰め寄った。

「落ち着けよ、ライ。」

「バカ言わないでよ!どういうこと!?
…カイはどうすんの?!」

「僕は放浪の旅にでも出ようかなって。ホラ、夢だったからさ。
カルラ盗賊団をルイに譲れば、何も心配ないしね~。」

「バっ…バカじゃないの!?あんたがいないカルラ盗賊団なんて…考えられな」

「ルイじゃ不満なのか?」

「そ、そうじゃないけど…。」

ライお姉ちゃんは、チラリとこっちを見て…黙り込んでしまった。
握りしめた手が、真っ赤だ…。
何を言っても、こういう場合のカイお兄ちゃんの説得は無駄だと…僕たちは知っている。
…でも、どうしてそんなこと突然いうの?!
そして、カイお兄ちゃんがまた僕の方に向かい合う。
僕は、一つだけ心当たりがあった。カイお兄ちゃんの心変わりの理由は…もしかして。

「どうして、そんなこというの?…僕が貴族だから、嫌になっ…」

「違う!!」

大きな声で遮られる。
苦しいくらいにギュッと、抱きしめられた。

「ごめん、理由は言えないんだ…。
でも、僕はもうお前らとはいられないんだよ。
でも、変わらずお前らのことは…心から大事に思ってる。」

切なげな声。
そっと、僕から手を離して…真正面から顔を合わせた。

「ルイ。折角お前、貴族だって分かったんだから『正しい貴族』になれよ。
僕たちを今までねじ伏せていた…『権力』で、お前は僕たちみたいな孤児を救ってくれ。
この盗賊団には、小さな子供がたくさんいるんだ。腹いっぱい食わせてやりたいし、勉強させてやりたい。
…幸せにしてくれ。…僕からの一生のお願いだ。」

カイお兄ちゃんは、きっと何か…僕たちのために我慢してくれてる。
わざとここを去ろうとしてる。
彼の瞳がすべてを物語っている。
だって、カイお兄ちゃんはそういう人だから。
自分より僕たちを優先させる人だから。

でも…。

「僕…そんなこと、1人でなんか出来ないよ…」

「大丈夫だ。」

カイお兄ちゃんの今まで見た、どんな顔よりも綺麗で真剣な顔。
西日に照らされて…本当にこの世の者とは思えない美しさ。
そして、切なさも交じっていて…僕は見入ってしまう。

「男と男の約束だ、ルイ。
僕の弟のお前なら、絶対にできるよ。
あいつらを幸せにしてやってくれ。お前なら信じられる。
僕の宝を…家族を、頼むよ。」

ポンポンと、頭を優しくたたかれた。
涙が出そうになったけど、僕は思い切り上を向いて涙がこぼれないようにした。
カイお兄ちゃんの、何度も見た優しい微笑みに僕もとびっきりの笑顔で答えた。

「うんっ!」

カイお兄ちゃんを、心の底から止めたかった。
けど…あんなこと言われたら、もう止められないや。

男と男の約束なんだもんね…?
すごい覚悟と決断が、カイお兄ちゃんのなかであったんだと思うし。
簡単に引きとめていいことなんかじゃないんだろう。
…絶対に約束、守るね。

カイお兄ちゃんが、くるっと背を向けてしまう。
グッと下唇を噛んだ。


「…あの女について行くの?」

ライお姉ちゃんの、
小さな囁きが…カイお兄ちゃんを止めた。

「…実は、誘われてるけど…分からない。」

「…!」

ライお姉ちゃんの顔が悲しみに歪んでいく。
カイお兄ちゃんは、一瞬後ろを振り返り…つらそうな顔をした後。

「明後日、朝7時。
…お前らにはこの時間、ここでまた会いに来るよ。」

そう告げて…そのまま立ち去ってしまった。

―☆―☆―☆―☆―☆―

カイは、いつも勝手だ。

出会った時から、考えたらすぐに行動してしまう。
しかも、それは誰かを想って…自分が傷ついても構わないという考えで。
…こっちからしたら、たまったもんじゃない。
ルイを拾った時、カルラ盗賊団を創るといった時、カルラ盗賊団のために強盗しだしたとき。
いつも、そうだった。

でも、今回はそれだけじゃないはず。
あの姫さんを見る瞳が…いつものカイじゃなかった。
出会った時から、嫌な予感がしてたんだ。
あの女の瞳が…澄み切っていて。吸い込まれそうになったから。

カイは、今回の決断…。
もちろん、あたしたちのためというのもあるのかもしれない。
強情なカイは理由を教えてはくれないだろうけど…カルラ盗賊団のためになるように行動しているんだろう。

…じゃあ、姫について行くことは…?
その決断は、カイが自分の欲望に従って行うことだ。
姫さんのために役立ちたいと思えば…ついて行く。
自分のことを後回しなカイが、初めて自分のために行動するのかもしれない。
あたしたちに対する「家族愛」でなく、「恋愛」として…行動するのかもしれない。

…きっと、カイは姫が好きになる。
これは、予感だ。
まだそうとは限らないし…そうなるかもしれないという推測。
それが何か問題?
…あたしはカイのお姉さんとして、カイの幸せを祈るだけ。

でも…胸が張り裂けそうなほどに、痛い…。
ズキズキと、心が砕けてしまいそう。
器用だけど家族思いで、照れ屋だけど、女性にキザなふりをしてる。わがままで優しい…。
そんな、カイが…あたしはっ…!

でも、そんなのは言葉にしちゃいけない。
フワフワとして可愛らしくて…女っぽい姫さん。
一方あたしは不細工で、つり目で男勝り。
…勝負にもならないし、カイも姫さんの方がお似合いだ。

そんなことは分かっているから…ずっと前から知っていたから。
カイにいつか好きな人が出来ることは想像できていた。
応援はできないと思ったけど、カイが絶対に傷つかないように出来ることは何でもしようと思っていた。
付き合いたいとは…言わないけど、せめていつまでも隣にいたかった。
…カイと一緒に、ずっと。

「カイお兄ちゃん、来たよ!ライお姉ちゃん!」

ルイの声で、ハッと気づく。
旅支度を整えたカイがそこにはいた。
しっかりとした格好で、深緑色の髪をなびかせて…堂々とこっちへと向かってくる。

「カイお兄ちゃん、僕…約束守った!
カルラ盗賊団はカルラ隊って改名して、
イーラルト家のこれから建設する孤児院にみんなで住むことになったんだよ!
もちろん、僕もそこに住むから…安心してね!」

温かい笑顔が、そっとルイを撫でた。
ルイは、あれから一晩で…カイに心配かけないようにって必死に動き回って、
カルラ盗賊団の進退を決めた。
…やっぱり賢くて優しい、自慢の弟さ。

「そっか、さすがルイだな!」

「うん!僕、絶対にみんなを幸せにするんだ!」

キラキラと、男の子たちの世界。
…少し羨ましい。



それから、少しルイと話した後…カイがこちらを向く。
少し緊張した面持ち。
意を決したように話し出した。

「僕、やっぱり…1人で行くよ。あいつらに付き合う理由なんて、ないもんな。」

どう、して…?
絶対にアイツらについて行くっていう選択肢を選ぶと思っていたあたしは、思わず面食らう。
…姫さんが、気になるんじゃないの?!

あたしはじっとカイを見つめた。
下を向いて、少し気まずそうにしているカイ。
そこには草しかないのに。あたしの方を見ようとしていない。

ハッと思い出す。
…ああ、忘れてた。
コイツ、すごい意地っ張りだったんだっけ。
素直にアイツらのところに行けないんだ。

…あたしはね、カイ。アンタの幸せを願ってる。
沢山、アンタに幸せにしてもらったから。
だから…。

「バーカ!」

なるべく強く、彼の背中を突き飛ばした。

「っっっってええええ!」

彼の絶叫が、朝の爽やかな風の中に響き渡る。
あたしの力はかなりのものだから、相当痛いんだろう。
涙目で、カイはあたしを恨ましげに見て何かを言おうする。
でも、その言葉を待たずに大声で言った。

「あんたは昔から、いつもそうだよ!」

一生懸命に、笑顔をつくった。
いつも通り笑えてないという自覚はあるけど。
でも、絶対に泣きたくない。泣いてたまるもんか。
あたしは泣き虫な女らしさなんて持ってない…『ライ』なんだから。

「カイっていう男はね…。素直じゃないし、ひねくれてるし、意地っ張りで…不器用!」

そうめちゃくちゃなヤツだ。
でも、根は本当に優しい素敵なカイ。

「正直になんなさい!あたしには全部分かってんのよ!」

カイは、倒されたまま…そのまま無言で下を向いた。
…あああ、もうっ!

「…あの女が、好きなんでしょ!気になってるんでしょ!?
意地張ってないで、サッサとあの女のとこ行け!
そんで、男なら好きな女を守り抜け!!」

大声が丘の上に響き渡る。
澄み切った朝の空気を、私の怒声が壊す。
少し遠くにある木の上にいた小鳥たちが、何事かと騒ぎ出す。
風も一気に強くなった気がした。

少しの沈黙。

その間、カイは呆然ととしていたけど…唐突に笑い出した。

「さっすが、ライ。超カッコいいな。」

眩しい笑顔に胸が苦しくなる。
でも必死で、カイに調子を合わせた。

「カイがカッコ悪いのよ。」

「そーだね。」

彼の笑顔がドンドン、知らない男の表情へと変わっていった。
好きな女を守るために、彼は今…覚悟を決めたんだ。
キラキラと瞳を輝かせながらの、めいっぱいの笑顔を向けられる。

「ありがとな!2人とも!僕、アイツらについて行くよ!」

ガバッと、ルイと一緒に抱き付かれる。
力強い腕…。もう二度と会えないのかもしれないな…。
切なくなるけど…でも、今だけはこの温もりを感じていたかった。

それから、沢山、無駄な話や大切な話をした。すごく、楽しくて。
でもなんだか、3人とも言葉を探してる。
いつまでも別れたくなくて、『さよなら』を言わずに済むように…。
できるだけ沢山話していたくて。

「あのね、カイお兄ちゃん。僕、カルラ盗賊団にいれて
…カイお兄ちゃんとライお姉ちゃんの弟になれて、本当に本当に幸せだよ。」
「…ありがとう。僕も、みんなに会えて幸せだ。」
「あたしも、すっげえ幸せさ…。」

幸せだ。その言葉を、誰も過去形にしなかったことが…さらにあたしの胸をえぐる。
…そう、今度からは過去形に…『幸せだったよ』になってしまう。

「…。」

沈黙が下りてしまった。みんな、察してる。
その証拠に寂しそうに俯いたり、空を向いたりしていた…。
そう、そろそろ時間だ。

カイとの思い出が、出会ってからの思い出が…走馬灯のようによみがえってくる…。
本当に、お別れなんだな…。

「じゃなっ!ありがとう、大好きだよ、姉弟たちっ!!!」

彼は唐突に…大きな声で叫びながら、勢いよく駆けて行った。
あまりに突然で、泣くこともできない。
「バイバイ」も言えなかった…。

そして、カイは2度とは振り返らず…そのまま走り去っていった。
青空の中で、爽やかに。
とても爽やかに立ち去った。

―☆―☆―☆―☆―☆―

2人に会えて、よかった。

ライは、いつもよりなんだか寂しそうに笑いながら
…今までに見たことがないくらい綺麗に、僕を激励してくれた。
ライの言葉で、胸につかえていたものが全部取れた気がしたんだ。
初めて魔法を使えるようになったあの時のように…ワクワクがとまらない。
冒険したい、と思えるようになった。

それに、ルイもライも「幸せ」と言ってくれた。
僕は、みんなを幸せにできていたみたいだ。
…これ以上嬉しいことはない。


だから、最後に「さよなら」なんて絶対に言わないんだ。
また、絶対に会いたい。
2人からもそんな言葉を聞きたくなくて…つい逃げるように飛び出してきて、ちょっと悪かったなあ。
他の皆は、もっと小さいから…余計にお別れなんてできないしね。
…この旅が過酷で、死ぬようなこともあるって分かってるけど、
皆からはそんなお別れの言葉だけは、絶対に聞きたくなくって。

でも、もしものために。
…最後に伝えるとしたら、感謝と僕の愛だと思うから。

僕はやっぱり…ライがいうように不器用だし、意地っ張りだからさ…。
『僕の相棒達』に、手伝ってもらうね。

そして、僕は絶対に振り返らないで走った。
名残惜しくなって、立ち止まってしまいそうだったし。
何より…泣いてる顔なんて見せられないから、振り返れなかった。

そして、絶対に2人には見えないところまでたどり着く。
地面に手を置き深呼吸してから、ありったけの力を注ぎ込んだ。

…届け…!

―☆―☆―☆―☆―☆―

「…行っちゃったね…。」

「…うん。」

カイの姿は、あっという間に消えてしまった。
本当、急に飛び出すから…最後に顔もまともに見れなかったじゃない。
カイらしいけどね。

「ライお姉ちゃん、もう無理しないで。」

ルイの凛とした声が、隣から聞こえた。
思わず、横を向くと…心配そうな顔のルイがあたしを覗き込んでいた。

「だ、い…じょうぶ。」

顔を思い切り上に向けて、澄み切った青空を仰いだ。
…空がぼやけて見える。
でも、泣かないんだから…!

「カイ、元気でね…。」

何となく、小さな声で祈るように呟いた。
その瞬間だった。辺り一面が、激変した。

何もない草原だったのに…。
あたしたちの真後ろには樹齢100年はあろうかという大木に、
その周り…あたしたちの周囲には色とりどりの花畑が一面に広がっていた。
下を見ていると、上から何かが降ってきていることに気づき、また空を仰ぐ。

「桜…!」

そう、その大木は…大きな大きな桜の花を満開に咲かせていたのだ。
あたしの一番、好きな花。
そして、思い出の花。

この季節に…こんなこと、出来る人。
…あたしはこの世でたった一人しか知らない。

「これ、カイお兄ちゃんが…?!」

「絶対、そうだね…。」

桜は、あたしとカイが出会った時に咲いていた。
彼は初めて会った時に、この位大きな桜の木の下にぐったりとしていて…あたしが助けた。
その時の桜と同じくらい綺麗に満開だ。
あまりに綺麗な彼と、満開な桜のせいで…あたしはカイを桜の妖精かと思ったんだ…。

「このお花畑…僕が捨てられていたところと同じだ。」

「え?」

あたしが感慨にふけっていると…ルイがぽつりと呟くように言った。

「カイお兄ちゃん、
また…ここで会おうって言ってくれてるのかなあ。」

考え過ぎかな?と、ルイが頭を掻く。

「…あたしも、このくらい大きな桜の木の下で…カイと会ったの。」

ルイの驚く顔。
そうだね…。このことを話したことはなかったもんね。
…そっか。カイは『また、会おう』って言ってくれてんのか。
あたしだけじゃなく、ルイもそう感じているなら…きっとこれは正しい解釈だろう。

「バカだなあ…。」

それくらい、口に出して言いなさいよ…。
言葉じゃ証明にならないとでも思ったの?

…本当に、バカ。
これから旅するんだから、体力温存しなさいよ。
魔力、どんだけ使ったのよ…。

またカイとの思い出が蘇ってくる。
出会ったときと同じ桜を見て…余計に記憶が鮮明になっていく…。

「ライお姉ちゃん、もう…我慢しないで。僕、カイお兄ちゃんと約束したんだ。
『みんなを幸せにする』って。僕はカイお兄ちゃんの代わりにはなれないけど…。
慰めることくらいならできるから。だから…ね。」

ルイは、あたしをそっと抱き寄せる。
なんだか、その腕の優しさに…膝の力が抜けてその場に崩れ落ちてしまう。
ルイは意外としっかりとした腕で、あたしを支えてくれた。
そして、覆いかぶさるように…というよりも、泣きながら抱きしめてきた。

その温かさに誘われるように…、あたしの瞳も熱くなってくる。
1つ、2つ…こぼれ出した涙は、もう止められない。
いつの間にか、2人で泣きじゃくって大きな声で泣いていた。


バイバイ、あたしの可愛い弟。

生意気で不器用で意地っ張りな、カイ。

…さようなら、あたしの初恋。

あたしたち2人を、
桜の大木と花々が優しく…いつまでも見守っていてくれた。

11話~新たな仲間~

結局、待ち合わせの場所にほんの少しだけ遅れて、カイ君はやってきた。
穏やかな表情。どこか晴れ晴れとして…。
だけど、いつも通りの意地悪なカイ君だった。

「ねーさんは危なっかしいんだよね~。…仕方ないから、僕が守ってあげるよ。」

生意気な口調だったけど、
そのあと見せてくれた笑顔は期待に満ちた爽やかなものだった。

「こちらこそ…よろしくね、カイ君っ!」

できるだけ大きな声で、私は返事をする。
カイ君の今回の決意はきっと大きなものだったんだろうから…。
少しでも、この旅を楽しんでほしいな。

「おい…?!俺は、コイツが来るなんて聞いてないぞ!」

「私もですわ!」

アルトとレイヤには何となく言いそびれていたんだけど…。
どうやらカイ君が仲間に入ることが気に入らないみたい。
うーん、仲良くしてほしいんだけどなあ。

「ええと…、だって…カイ君は魔法使いだし、心強い仲間になりそうじゃない?」

「「だからって!!!」」

2人が、大きな声でさらに反論しようとするけど…。

「ねーさんが、僕についてきてほしいって、一生懸命にお願いするからさ~。
優しい僕は断れなくなったんだ。
まあ、こんな使えない家来2人じゃ…僕に護衛を頼む気持ちも分かるもんね。
2人じゃ、この先強力な敵に立ち向かえないでしょ?」

カイ君が、サラッと言い返す。
…とても嫌味たっぷりに。

「なっ、ふざけんなよ!このガキ!」

「今回、ルナ様が危ない目にあったのはだれのせいだと…」

「はあ。そもそも、僕に何度もねーさんを攫われてるほうが悪いと思うんだけど。
僕みたいな紳士だったから、ねーさんは無事だったけどさ…。
悪いやつだったら、ねーさんは今頃とんでもない目にあってたかもしれないじゃんか。」

痛いところをつかれたのか、2人はピタリと黙ってしまった。
…せっかく仲間が増えたと思ったのになあ。
目的はとても過酷なものだけど…ううん、だからこそ!
私は皆で協力しあうべきだと…楽しく旅したいと思うんだけど。
3人の様子を見ている分には、先が思いやられる。

「ま、姫様を守るって目的は同じみたいだし?…足だけはひっぱるなよな。」

「はっ!僕のセリフなんだけど?…実際、アンタより強いし。」

「る、ルナ様のため…となれば仕方ないのでしょうか…。はあ。」

でも、今はまだ。このままでいいのかもしれないわね。
彼らの表情を見ていると、決して仲が良いわけではないのに…そんな気がしてくるから不思議だ。
この先、カルラ盗賊団のような結束が、私たちの間に生まれるかどうかは分からない。
でも、それくらいカイ君とも仲良くなれたらいいな。

どこからか、飛んできた…季節外れの桜の花びらをそっと見つめる。
カイ君と出会った、すぐあとに私の目の前に落ちてきたのだ。
何か、大切な思いを受け継いだ…そんな気がして、
私は気づくとそれを拾いポケットの中にしまい込んでいたのだ。
そっと、手のひらで優しく包み込んでみると…心が穏やかになっていく。

「またね、エジャンドン…。」

私はゆっくりと街を見つめながらつぶやいた。

朝日が、東の空に昇っている。
輝きは眩しく、目を開けていられない。
それがまるで未来を照らし出す、素晴らしい光のように感じられて…カイ君が仲間になってくれて本当によかったと…心から思った。
そして、再び…私は旅をつづけたのだった。…頼もしい仲間と共に。

ルナの冒険2章~素直さの種~ 

初めまして~。
紳士淑女の皆様方。
僕とねーさんの甘い恋の物語、見てくれてどうもありがとう~!
今作でねーさんのハートを射止めたカイです。

ふふっ、ねーさんって本当にウブで可愛いよね~。
すっごくいじめたくなるんだ。
ああ、もちろんあなたも魅力的だけどね?

え、なに?
…はあ、せっかくいい気分で話してたのに。
作者からそろそろ本作について話せっていうから話すよ。

今回の話の大筋は、正直1年以上前には出来上がっていたんだって。
グズでノロマな作者でごめんね、僕から謝らせてもらうよ。

んで、僕のキャラは最初…「ド天然の真面目くん」だったらしいんだけどさ。
なんでこんなに変わってるのさ!?
ま、僕的には今の性格が気に入ってるからいいけど…。

は?
作者が構成練っている期間に、甘えん坊でわがままな年下男子がキテたから…?
知らないよ、そんなこと。
何、じゃあ僕は…作者の理想の年下像ってわけ?
…作者はとんだドMなんだね。

は?純粋なルイが理想の弟で、僕は理想の年下彼氏?
あっそ。そんな話、聞いていないから。

ごめんね、みなさん。
作者のどーでもいい理想話なんてしちゃってさ。

ところで、作者の力量不足で…ギャグシーンとシリアスシーンの内容が軽い!と感じた人もいたよね。
本当、不甲斐ない作者でさ。
これから頑張るらしいから、生ぬるい目で見守ってあげて。

あとは、何か裏話とかあるの?
ああ、過剰なエロシーンと感じた場面がありましたらごめんなさい?
…主に、僕?
何言ってるのさ、まだまだこれからだよ。
もっとねーさんをいじめてあげるから、覚悟しててね☆
次回はもーっと、いじめてあげるつもりだからさ!

「ルナをいじめるのは、俺が許さないよ?」

「な、なんと不埒な!…っ///」

ちょっと、おっさんたちは来ないでくれる?
今回は僕の番なんだからさ!

では、次の章でお会いしましょう!
成長して、さらにカッコよくなっていく僕を最後まで見守ってね♪

1章→http://slib.net/22066
3章→http://slib.net/44203

ルナの冒険2章~素直さの種~ 

ルナの冒険1章の続きとなっています。 まだそちらを読んでない方はここからどうぞ♪ http://slib.net/22066 過酷(?)な旅を始めたルナ一行。 とりあえず南の街に向かうのだが、道中に孤児の少年と出会って・・・? 「ねーさんは、僕のモノでしょ?」 生意気年下男子はいかがですか?w 純粋な年下男子もちゃんといますよ← ファンタジー長編、魔法物語第2弾☆ ぜひ、ルナちゃんたちの冒険に付き合ってみてください<m(__)m>

  • 小説
  • 長編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-08

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 1話~孤児~
  2. 2話~エジャンドン~
  3. 3話~カルラ盗賊団~
  4. 4話~宣戦布告~
  5. 5話~爆発~
  6. 6話~母なる願い~
  7. 7話 ~誘拐~
  8. 8話~暴走~
  9. 9話 ~後悔~
  10. 10話 ~素直さの種~
  11. 11話~新たな仲間~