追憶の日々<暁の巻>
はじまりのひ
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ーしろ
ー白い地
私が思ったものは、白
私が立っているこの地は、真っ白に染まっていた。
どうしてここにいるのか。
いつからここにいたのか。
私は誰なのか。
なにも、わからない。
わからないまま、立ち尽くす。
真っ白。
只々、白。
まるで買ったばかりのノートのように、白い世界。
その世界で、たったひとり、孤独にたっていた。
不意に、地面を触ってみた。
硬くもないし、柔らかくもない。
コンクリートのようだったし、砂のようだったし、毛布のようでもあった。
よくわからない感触。
不思議な感触。
でも、害はなさそうだった。
次は、歩いてみた。
どこかに繋がっているかもしれないと信じて。
私は歩いた。
白い世界を、ただ孤独に。
そうしたら、自分の足が目に入った。
なんてことない、普通の人間の足。
何も履いていない、白い足。
続いて、全身を見てみた。
どうやら、私は女性らしかった。
白い世界に溶け込むような白いワンピース。
そこそこ胸もあった。
髪に手をやってみる。
さらさらとした感触。
視界の端に入った髪の毛は、白い世界の異質、黒色に染まっていた。
肩までの長さの髪の毛らしかった。
残念ながら、鏡がなかったから私の顔はわからなかった。
「あ」
と、声を出してみた。
高くも低くもない、普通の女性の声。
声を出してみてわかったこと。
この世界は相当広いらしかった。
自分の声が反響して聞こえず、遠い彼方に吸い込まれていった。
ふむ、と頷いて、再び歩き出す。
とりあえず前に進む。
何も考えず、ただ足を運ぶだけの作業。
何故か苦はなかった。
暫く歩くと。
「あ」
何か「モノ」を見つけた。
白い世界の異質、黒猫を。
「やあ」
と、黒猫は気さくに話しかけてきた。
「どうも」
私も気さくに答えた。
「どこに行くんだい?」
黒猫はその首を傾げながら言った。
「わからない」
私は答えた。
「ふしぎな子。わからない世界を、わからないまま歩くのかい?」
黒猫は意地悪そうに言った。
「意地悪ね」
思ったままに、私は言った。
「正直だね。そんな子、今は珍しくなったからね。大切にすべきだよ。…うん、君、気に入った。案内するよ」
黒猫がそう言った時、
「わ」
目の前に扉が現れた。
白い扉。
「そこを開けてごらん。わからないままじゃ、気持ち悪いだろう?」
確かに。
黒猫に促されるまま、私は扉に手をかけた。
追憶の日々<暁の巻>