ドラえもん最終回『Trace of memores~思い出の軌跡~』(3)

Trace of memores(3)

Trace of memores(3)


のび太の出発手続きも直ぐに終わり、二人は場所を改めジャイアン達を待つことにした。


のび太が選んだ場所は、やはり飛行機が見える窓際であり、腰ほどの高さの手すりに両腕を立てながら外の景色を眺めた。


二人は特に何かを話するわけでもなく、ただゆっくりとその時間が経過していく……。


どれくらいの時間が経っただろうか……。 のび太は呟く様に語り始めた。



「飛行機って本当に凄い発明だね……」



「昔は何年も掛かって移動していた遠い場所にも、今はたった数時間で簡単に行けてしまう」



「のび太さん……?」



しずかはその言葉に振り向き、のび太の顔を見た。



「僕、思うんだ。 人は努力をすれば本当に夢は叶うんだと……。  たとえ夢にまで辿り着けなくても、それまでやってきた分だけ限り無く夢に近づけるんだと……」



「昔、よく言われたよ。 『未来は必ずしも同じではない。 変わる事もあるんだ』ってね」



「まあ基本的に、そう簡単には変わらないとも言ってたけどね」



のび太はしずかの方にチラリと視線を向け微笑する。



「僕たちさ……今まで沢山の冒険をしてきたよね。 いろんな場所へ行き、沢山のモノを見てきた」



「でも、それって普通に考えるとあり得ない事だと思うんだ。 僕たちがたまたま経験出来た特別な事……。  偶然の出来事……」



「だけどそんな偶然もきっと、あらかじめ決められた歴史の一つなんだと僕は思ってるんだ」



「……のび太さん? 一体何が言いたいのか分からないわ」



「僕がね、科学者を目指そうとする事はきっと、昔に僕が出会ったあの時あの瞬間に決まった事なんだと思ってるんだ……」



「僕らは今までに沢山、未来の便利道具を見て触って、実際に何度も使ってきた。 未来にも行ったよね」



「そんな沢山の経験が出来たお陰で、僕は科学に興味を持つことが出来たんだ」



「だけど、もしそんな僕の想いや考えすらも歴史の一つとして初めから決まっていたのなら……今はまだ、それをそのまま素直に受け入れようと思ってるんだ」



のび太はそう言うと外の景色を広く見渡した。


隣で静かに聞いているしずかもまた、未来に関わってきた人間。 のび太の言わんとする事は何となく分かる。 


しかし、だからといってわざわざアメリカにまで行って、勉強しなければいけない理由にはならない。


しずかには、のび太の行動にどうしても納得出来ない部分があった。



「でも……だからって無理してまでアメリカに行く必要は無いと思うわ! 日本に居たって勉強は出来るし……それに…………」



しずかは言葉を詰まらせる。



「それにね、私……のび太さんを見ていると、とても不安になるの。 もう、このままのび太さんが帰って来ない様な気がしてしまって……。 どうしてそこまでして急ぐ必要があるの……?」



うつ向き視線下げるしずかを横目に、のび太は言葉を続けた。



「……うん。 確かに僕は少し焦っているのかも知れない。 でもそれは後悔したくないからなんだ」



「……後悔?」



「うん。 僕はあの日、一生分の涙を流したと思う……」



「長い間ずっと一緒に生活していながら、心配かけるばかりで、結局僕の成長を何一つ見せられずに別れてしまった……」



「今更頑張って見せても、もう遅いのは分かってるんだけどね。 でもね、これから先もずっと頑張り続けていれば、きっと何時か僕の姿が届くんじゃないかと……なんとなくそんな気がするんだ」



「のび太……さん?」



「それにね、しずかちゃん。 僕が科学者を目指す理由はもう一つ有るんだ」



「たとえ僕の夢が叶わなかったとしても、科学者として何か一つでも僕の名前が未来に残せたら……もし残すことが出来ればきっと……きっと僕の成長が伝わるんじゃないかと思うんだ!」


「だって、そうでしょ? この科学の……この世界が行き着く未来には必ず……」


──必ず……ドラえもんに繋がっているはずだから!




のび太は強くそう言うと、スッと頭を上げ何処までも続く大きく蒼い空を見上げた。



静香は正直驚いた。


のび太の今までの行動が……のび太考えがその様な意味を持っての事だとは思ってもみなかったからだ。


そして何より、それ以上に静香を驚かせたのは、のび太が『ドラえもん』の名前を口にした事だった。


のび太はあの日……ドラえもんが帰ってしまったあの時以来、その名前を一度も口にしていない。 少なくとも静香は、のび太の口から直接聞いたことは無かった。


実際のび太とドラえもんが、どの様に別れたのかは知らない。


ただ、のび太の取ってきた態度を見るからに、決して納得のいく別れ方をしたんでは無いだろうという事だけは感じていた。


みんなもそれが薄々分かっていたからこそ、ドラえもんの話題には触れずに来た。


実際どれくらいの年月が掛かるか分からない……。


しかし、いつの日かきっと時間がのび太の心を癒し、想い出として話せる時が来ると信じずっと待ってきた。


それが今、ついにのび太の口からドラえもんの名前が出てきたのだ。


静香にとって、これ以上に嬉しい事はなかった。


只々、本当に嬉しくて込み上がる感情が抑えきれなかった……。


瞳に溜まった涙が一筋流れ落ちる……



「……の……び…………」



静香は涙で言葉にならない。


のび太はそんな静香をそっと抱き寄せる。



「しずかちゃん……。 今まで本当にゴメン……」



静香はのび太の胸の中で首を横に振る。


のび太はそんな静香を見て心が痛んだ……


今まで自分の事で、みんなにどれだけ心配かけて来たのか……


自分のわがままで、どれだけ気を付かわせて来たのかと……。


彼女の涙がその全てを物語っている。


本来であれば、もっと批判を受けてもいいはずである。


ドラえもんと別れて辛かったのはみんなも同じ……


悲しかったのも……


苦しかったのも……


それはそのはず……ドラえもんは、みんなのドラえもんなのだから……


のび太はそんな優しさを心から感謝していた。



「しずかちゃん……今まで本当にありがとう」



「……そしてみんなも」



のび太はそう言うと視線を横に振った。


その先にはスネ夫とジャイアンの姿があった。



「お……おう……」



「いや……その……別に盗み聞きするつもりは無かったんだけどね……」



二人はのび太に気付かれていた事、そして突然声を掛けられた事に少しうろたえていた。



「いや、別にいいんだ。 本来はもっと早くみんなに言っておくべき事だと思っていたんだけど……」



「ただ、自分の気持ちの整理が中々つかなくて……みんな、今まで本当にごめん……」



のび太は今更ながら、みんなにどの様な顔をすれば良いのか分からなくなっていた。



「バッカヤロー……今更なに言ってやがんだよ! 水臭せぇじゃねえか! 俺達ゃ仲間だろ? 迷惑だなんてこれっぽっちも思ってねぇって!」



「そうそう、それにのび太の迷惑なんか今に始まった事じゃないしね」



「……みんなちゃんと分かっていたわ。 一番辛かったのは、のび太さんだったって事」



みんなはのび太の復活に、心から喜び励まし合った。



「みんな……ありがとう……」



のび太は溢れる涙を拭いながら、みんなの友情に心から感謝する。



「おらっ、のび太! いつまでも泣いてんじゃねえって!」



そう言いながらジャイアンは指で鼻を一すすりし、のび太の背中を叩く。



「あれーっ? そう言うジャイアンも泣いてんじゃないの?」



スネ夫はからかう様に言う。



「るせぇ! 俺様はいいんだよッ!!」



ゴンッ!



お約束のげんこつに、みんなが笑う。



「痛ったいなー! ホントにもう! それよりもジャイアン! のび太にアレ渡すんじゃないの!!」



スネ夫は少し怒り気味にいう。



「おおっ、そうだった! すっかり忘れてたぜ! 今スネ夫と一緒に行って買ってきたんだけどよ……」



そう言うとジャイアンはジャケットのポケットから小さな包みを取り出し、のび太に手渡した。


それは片手に収まる程の小さな紙袋。


のび太はジャイアンの顔を見る。



「まあ、いいから開けてみろよ」



「……うん」



のび太はジャイアンに勧められる通り袋を開け、中身を手のひらに落とした。


チリン


それは透き通る様な音色を奏で出し、一円玉程の大きさの黄色い鈴の付いたストラップであった。



「これは……?」



ジャイアンはニヤリと笑うと、別のポケットから3つの色違いな紐のストラップを取って見せ、スネ夫、静香にも手渡した。



「これはな、俺達が命を掛けて創ってきた友情の証だ!」



「俺様は燃える赤、

スネ夫はスカした(クール)青、

しずかちゃんは可愛いピンク、

のび太は天然(自然)の緑、

そしてこの黄色い鈴が俺達のドラえもんだ!」



「本来はいつまでもグジグジとドラえもんから逃げ回っているのび太に活を入れる意味もあったんだが、今ののび太には必要無かったみたいだな」



ジャイアンは得意気にみんなの顔を見渡す。


のび太は手に落としたストラップを見つめた。


ジャイアンの気持ちが……みんなの友情が嬉しくて、うつ向いた顔を上げる事が出来なかった。

「のび太さん、みんなが何処に居ようとも私達はいつも一緒よ」



静香はそんなのび太の手を包む様に閉じさせ、その上から優しく包みこんだ。

「のび太、それ無くすなよ!」



スネ夫はチリンと鈴を鳴らして見せると、静香の手の上から自分の手を合わせた。



「そうだぜ、のび太! お前が何処に行こうとも俺達の友情は永遠だぜ!」



最後に力強くガッシリと握り込む。



「みんな……本当にありがとう。 僕、頑張るよ」



のび太はグシッと涙を拭う。



「よしっ! じゃあ行ってこい、のび太!」



ジャイアンは力強くのび太の背中を叩くと、のび太はその勢いで一歩前へよろめく。


ジャイアンはのび太の機内持ち込み様の荷物を拾い上げると、そのまま先行して歩き出した。


スネ夫もその後を追う。



「ふふふっ! さすが武さんね。 なんだかんだ言っても、のび太さんの事を一番気に掛けてるわ」



「うん」



のび太はジャイアンの真っ直ぐな優しさを肌で感じていた。



「じゃあ、のび太さん。 私達も行きましょう」



静香も二人を追うように歩き出した。



「あっ、しずかちゃん! ちょっと待って!」



「ん? どうかしたの?」



静香はその歩みを止めて振り返る。



「いや……あの……僕がアメリカに行く前にどうしてもしずかちゃんに言っときたい事があって……」



「あのね……・・・」







「んーっ! いい天気だッ!!」



ジャイアンは大きく伸びをしながら、真っ青に広がる大空を仰ぎ見た。



「って言うか、少し良すぎだね。 暑すぎだよ!」



スネ夫は手の平を太陽に向けて眩しそうにすると、周囲を見渡し日陰部分を探す。


三人は出発ロビーでのび太を見送った後、展望デッキに上がっていた。


最後にのび太が乗る飛行機を見送ろうという事になったのだ。



「おっ!? スネ夫! のび太が乗ってる飛行機が動いてるぜ!」



ジャイアンはゆっくりと動き始めた一機の飛行機を指差す。



「違うよ、ジャイアン。 のび太が乗ってるのは、あっち」



スネ夫はジャイアンとは全く違う方向の飛行機を指差す。



「……も、もちろん分かってるぜ! 今、あっちの飛行機を指してたんだ」



スネ夫はハァと溜め息を漏らす。



「まったくジャイアンは……。  いつも適当なんだから」



「だから分かってたっつってんだろ!」



ジャイアンは牙を剥き、拳を上げながらスネ夫に向かって行く。



「ま、待った待ったッ! ごめん! ジャイアンが正し──」



ゴンッ!



頭を抱えながら、うずくまるスネ夫。


勝ち誇るジャイアン。



「もう! いちいち殴らなくてもいいじゃないかッ!!」



スネ夫は本気で怒る。


しかし、ジャイアンはそんなスネ夫をまったく気にする様子はない。



「んなことより、しずかちゃん。 さっき最後にのび太となんか話してなかったか?」



「えっ! う、うん……で、でも別にたいした事じゃないわ」



静香は突然振られたその言葉に、シドロモドロになっていた。



「?」



スネ夫とジャイアンは顔を見合わす。



「ほんとに……何でもないの…………」



静香は、のび太の乗っている飛行機に視線を移すと、さっき最後にのび太が言っていた言葉を思い出す。







「僕がアメリカに行く前に、どうしてもしずかちゃんに言っときたい事があるんだ」



「今、この場でこんなこと言っても多分、しずかちゃんを困らせるだけだと思うんだけど……あのね…………」



「?」



「その…………」



……言葉が出てこない。



「どうしたの、のび太さん? あのとか、そのじゃ何を言いたいのか全然分からないわ……?」



のび太は中々切り出すことが出来ない不甲斐ない自分に、活を入れる様に両手で両頬を思い切り叩(はた)いた。



「よしっ!」



「の、のび太さん!?」



突然ののび太の行動に静香は驚く。



「しずかちゃんッ!!」



「は、はいッ!?」



「僕がアメリカから帰って来たら、僕と……僕と結婚してほしいッ!!」



「……!!!?」



静香はのび太の余りにも突然の告白に、目を丸くして驚いた。



「あ、あの……のび太……さん!?」



「突然でホントにごめん。 でもアメリカに発つ前にこれだけはどうしても伝えて置きたくて……」



「もちろん今すぐに返事を貰わなくてもいい! 僕が帰って来た時に……もし覚えていてくれたらでいいから……その時に…………でも………………」



のび太は強くそう話し出すも、その声は段々小さくなっていった。


のび太の言葉が終わると、そのまま二人の間に沈黙が襲う。


静香もまた、余りに突然すぎて何も言葉が出ない。


凍り付いてしまったこの空気に、二人はどうして良いのか分からなくなっていた。


しかしそんな時、先に行ったジャイアン達から声が掛かる。



「おーい、のび太! 何してんだ! 早く行かねえと間に合わねえぞ!」



その言葉に固まった空気がふっと溶かれた。



「うん、今行く!」



のび太は軽く手を振ってジャイアン達に応えると、そのまま歩を進めた。


困惑する静香の脇を抜ける際、のび太はポツリと言葉を洩らす。



「突然でごめん……でも僕は本気なんだ」



「のび……!?」



しずかはのび太の最後の言葉に驚き振り返えるも、それ以上言葉が出てこなかった。


先行くのび太の後ろ姿を見つめる……


ただただ、それしか出来なかった……






私は今まで……のび太さんの事は、ただの友達だと思っていた。



だけどのび太さんは……



私は…………




のび太からの突然の告白……


それを聞いたしずかの困惑……


二人の気持ちはまだ擦れ違ったままだが、のび太の一つ一つの行動が静香の心を少しづつ、そして確実に揺れ動かしていた──



(つづく)

ドラえもん最終回『Trace of memores~思い出の軌跡~』(3)

ドラえもん最終回『Trace of memores~思い出の軌跡~』(3)

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-03

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二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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