ドラえもん最終回『Trace of memores~思い出の軌跡~』(2)

ドラえもん最終回Trace of memores(2)

Trace of memores(2)

『Attention, please.……』



フライトの館内放送が出発ロビー全体に響き渡る。


空港内は家族連れやビジネスマンといった旅行者によって、フロア全体に賑いを見せていた。


そんな中、それら旅行者とは少し異なる二人組が、フライト掲示板を心配そうな面持ちで見上げていた。



「出発まであと2時間よ。 のび太さん、まだ着いてない様だけど大丈夫かしら……」



静香はフライトの時間を見上げながら心配そうに呟いた。



「ハッハッハッ! 大丈夫だよ、しずかちゃん。 のび太だけなら怪しいもんだけど、今回はジャイアンが一緒に連れて来るって言ってたし、さすがののび太でも今日ぐらいはちゃんと来るって!」



そう笑いながら、あっけらかんと答えたのはスネ夫だ。



「それにのび太の遅刻癖は今に始まった訳でもないしね。 とりあえず椅子にでも座ってゆっくり待とうよ」



「……」



確かにその通りなのだが、それでも静香は不安を拭い切る事が出来なかった。


それはそうだろう。    飛行機は学校と違い決して待ってはくれないのだ。


しかし、だからといってここで静香がいくら心配した所でどうにか出来るものでもない。   スネ夫が言うように二人を信じて待つしかないのだ。



「……そうよね。 武さんが付いているし、きっと大丈夫よね?」



「そうそう、大丈夫大丈夫! そんな事よりノド渇かない? ジュース買ってくるけど、しずかちゃんも何か飲む?」



「ええ、ありがとう。 でも今はいいわ」



静香は多少の不安を残しつつも、とりあえずスネ夫が言うように今は二人を信じ、座席で座って待つことにした。


二人は飲み物を買い終えると、そのまま空いている席を探し腰を落ち着かせる。


二人が座った場所は、フロアの端側で眼前に大きなガラス面が広がり、滑走路の一部が閲覧出来る様になっていた。


飛行機が離着陸を繰り返すその風景は、一般の人達にとっては物珍しく、時間を潰すにはもってこいの場所であった。


スネ夫はイスに深く座り直すと、飲み物のストローに一口付ける。


静香もスネ夫の隣の席に座りながら、行きゆく飛行機を見渡した。


周りには日本人よりも外国人の方が多い様に見受けられる。


家族旅行中だろうか……?    フランス人形の様な可愛い女の子達がはしゃぐ様にジャレ合い、片やその隣ではビジネスマン風の男が英字新聞を読んでいる。   


もちろんその他、沢山の外国人が所かしこに存在し、まるで海外にでも居るかの様な錯覚におちいる。


スネ夫はこの雰囲気に慣れている様子だったが、静香はあまり落ち着くことが出来なかった。


そして、今この場にこうして座って居ると、のび太の決断が改めて凄い事だと感じて仕方なかった。



もし私がのび太さんの立場なら、海外留学する決心を持てただろうか……

もし私だったら、一人で海外に行く勇気と生活する自信が持てただろうか……と。



家族や友達からも遠く離れて、言葉も通じるかどうか分からない場所へたった一人で行くなど、自分にはとても出来ないと感じていた。


単身アメリカ留学を決意したのび太の強さに、改めて尊敬する。


また、それと同時に寂しさも込み上げてくる……。



「のび太さん……本当にアメリカへ行ってしまうのね……」



離着陸を繰り返す飛行機を、ただ漠然と眺めながら呟いた。



「まったく、あののび太がアメリカ留学とはね」



スネ夫は皮肉を込めてそう答える。



「ねえ、のび太さんはなんでアメリカに留学しようと思ったのかしら?」



「……さあね。 ただ、のび太が専攻している部門はアメリカの方が最先端だからね」



「のび太さんが理工科学系を専攻してるのは知ってるわ。 でも、みんなと別れてまでアメリカに行かなくちゃいけない事なの?」



「……どうだろうね。 実際、日本に居てもそれなりに高いレベルで勉強は出来るけど……。 どうせのび太の事だから、思い付きでアメリカに行ってみたいとか、そんな理由なんじゃないの?」



そう言うとスネ夫はジュースをズズッと飲み干した。



「のび太さん、そんなに頑張ってまで一体何がしたいのかしら……?」



「さあ? もしかしたらドラえもんでも作ろうとしてんじゃない?」



スネ夫は笑いながら言う。



「まさか、いくらなんでも……!?   それにドラちゃんが作られたのは2112年って言ってたハズよ。 今から数えたってまだ100年以上もあるわ!」



「ハッハッハッ! 冗談だって! いくらのび太のやることだからって、本気でそんな事考えてるとはボクだって思ってないよ」



「でも、だったら……」



二人がそんな話をしている中、スネ夫の携帯電話に着信が入った。


どうやらのび太達が到着したようだ。


スネ夫はお互いの居場所を確認し合うと、のび太達と合流する為席を立ち上がった。




「やあ、ゴメンゴメン! みんなお待たせ!」



のび太は腕を軽く上げて挨拶をする。



「のび太さん、来るの遅いから凄く心配しちゃったわ」



静香は声を掛ける。



「そうだぞ! のび太の癖にボクらを待たせるなんて生意気だぞ!」



そういってスネ夫も責め立てる。



「まったくだ! せっかくこの俺様が迎えに行ってやってんのに、いつまでもノロノロしてやがるから……」



ジャイアンものび太の背後から追撃する。



「だからゴメンってばー!」



「うるせぇ!! ゴメンで済んだら俺様のコブシはいらねーんだよっ……と!」



ゴンッ!



ジャイアンは笑いながら最後の鉄拳を落とした。



「痛ったー! ……もう、ひどいよジャイアン……」



スネ夫は二人のそんなやり取りを見て笑う。


静香も笑う。


頭を擦りながらふて腐れるのび太。


いつものやり取り、いつもの光景。 みんなから笑いが飛び交う。



「おっとそうだ!? こうしちゃいられねーんだ! スネ夫! ちょっと買い物に行くの付き合えや」



「えー、なんでボクが!?」



「いいから付き合えって! お前が居なきゃ誰が金払うんだよ?」



「ちょ……ちょっと待って、ジャイアン!? お金持ってきて無いの?」



「いや〜高速代払ったら金無くなっちまってな。 まあ、いいから付き合えって!」



「もう、後でちゃんと返してよね。 いつもジャイアンは……」



ジャイアンはブツクサ文句を言うスネ夫の背中に腕を回し、なかば強引に連れて行ってしまった。



「ふふふっ。 武さんも相変わらずね」



「うん。 スネ夫も大変だよ」



のび太は二人の後ろ姿を見つめながら微笑んで見せた。


しかし、静香はそんなのび太の姿が、なぜかとても寂しく感じた。


そして不思議と静香の心にも喪失感といったものが溢れる。


このまま二度と帰って来ない様な不安に駈られた。



「さてと、それじゃ出発手続きだけ済ませてくるね。 しずかちゃんは向こうのイスで待っててよ。 直ぐ済ませてくるから」



のび太はそう言うと足下の荷物をまとめ始める。



「…………ッ!」



「 の、のび太さん! 私も手伝うわ!」



静香はハッと我に帰ると、その荷物を少し焦り気味に拾い上げ、のび太よりも先に足を進めた。


静香の唐突な行動にのび太は少し驚き戸惑う。


しかし、そんな慌てる静香の後ろ姿に何かを感じてか、小さく微笑んだ。



「……ありがとう。 しずかちゃん」



のび太はそうポツリと呟くと残りの荷物を拾い上げ、静香の後を追った。



(つづく)

ドラえもん最終回『Trace of memores~思い出の軌跡~』(2)

ドラえもん最終回『Trace of memores~思い出の軌跡~』(2)

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-02

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