青空に佇むほころび
ゼルダの伝説 時のオカリナ 最後のゼルダとリンクが別れた後でのシーン
場所はスカウォでも出て来たあの青空の中です
大空
蒼く清く、底が無いように眩しく、百の理を覆すほどに美しい。
永久的で破壊的。
全ての運命を司ったように見せかけた、偽りの空間。
此処は、そんな場所だ。
幾度と繰り返された出会いには飽きがつくこともなく、やはり繰り返すばかりだった。
愛しさ故に謳われた文句は私を迷わせるまでだった。
「寂しい」
彼が言ったのだ。私に。寂しいなどと、そういう、思わせぶりな文句を。
ずっと、守られている間は自惚れぬようにと気をつけ、守ってるふりをした。
彼が守ろうとしているのは私ではなく、この世界であると。
それなのに。
「寂しい」
私に向かって言ったのだ。私を想って言ってくれたのだ。
でも、
それは" 世界を救おうとする私" を、迷わせただけだった。
" 世界を救った私"は望まなかっただけだった。
そう、ゼルダは――勇者リンクを殺せなかった。
運命の糸
「ほうら、君は剣すら振るえない!」
高らかに歓びを含んだような声がゼルダを振り向かせた。
背後には言った通りだろうと、ご満悦に微笑む白い影があった。
名をギラヒム。
その白い影は優雅さを保ちつつも何処か攻撃的な仕草でゼルダに近づく。
人間離れをしたような顔立ち、そしてしなやかに動く四肢は全て女神の作り物だ。
そう。彼は人間ではない。生きてすらいない。そして、今の彼は砂塵と同義である。
彼は、かつて世界を窮地に追いこんだ「終焉の者」の傍らに居続けた、
剣である。
「…そうですね。私には貴方を振るえることが出来ませんでした。申し訳ありません。」
ゼルダは何故か低姿勢で深くお辞儀をした。
するとギラヒムは大きく腕を広げて、上を見上げた。
簡単に言えば、オーバーリアクションをとった。
そして独特な温もりのない声で
「あっははは!構わないよゼルダ君!どうせ君にはこのワタシを使えない、いや使わないと推測していたからね。君がとんでもない愚者だとしてもワタシには何も迷惑は掛かるまい!」
「…」
ゼルダは黙りこくった。
とにかくこの剣はお喋りである。そして、他人のカンに障る事をすることに関しては長けていた。
かつて自称していた魔族長も伊達では無いということだ。
「しかし、貴方の…」
「フン、余計な気を回しても無駄だよ。このギラヒム様は人のことを信用するなどと利口なことは出来ない身分でね。」
ギラヒムはまた上を見上げた。
まあ上も下も空に変わりはないのだが。
「マスターが帰還なさってもどうせ人間共は追い返そうとする。悪いけど、ずっと見てきたんだ。そんな事
くらいわきまえているよ。」
「そんな…!では約束は初めから」
「無かったみたいだね。あったとしても叶った時には君を八つ裂きだ。」
「…!!」
もちろん、砂塵となった彼にはそんな力はない。
しかし、これは照れ隠しではなく本気だ。本気とかいてマジだ。
彼の頭の中にはマスターである「終焉の者」しかいない。マスターの為ならば何でもする。実に無垢で狂気的で純粋な想いでしか彼は動かない。しかし、もう想いだけでは戦えなくなったのだ。
彼は身体や魂までもう散り散りに砕けてしまったのだった。かつての勇者によって。
そして彼は上も下も光も闇も無いこの大空のような場所で
生き溜まり続けたのだ。
「やっぱり、ワタシとリンク君を繋ぐ運命の糸はリンク君の血で染められているんだねえ…」
ギラヒムは突然独りごちた。
(運命などというものに、まだ振り回されるとは…つくづく…)
「難儀ですね。」
同情でもなくご機嫌取りでもなくゼルダは冷たく言った。
「そのような形になってさえ、運命の糸は切れない。私のような者がまたやって来てまた彼を殺そうとしなければいけない。虚無のまま、弱いまま、戦わなくてはならないのですね。」
「小娘風情にこのワタシの何がわかる!!」
パアンッと一瞬光が弾けた。
それはただ頭の中に響くような哀れに虚無的な光だった。
それに更に苛立ちはじめたギラヒムは憤怒のポーズをとった。
「世界のために人一人殺せない脆弱な小娘に何がわかる!お前が軽々しく口にしていい程俺の覚悟は安くねえ!!!」
ギラヒムの暴走は止まらない
ゼルダはそれをただ悲しげに見つめるだけだった。
「俺はマスターの為なら何だって出来る!人だって殺すし世界だって殺せる!それなのに何だお前は!どっち着かずで中途半端に俺を利用しようとしやがって!ああ構わないさ!どうせ俺はマスターにしか扱えない!マスターにしか従えない!」
「辞めてください!!」
「何だと!?」
「ええそうですよ私は人一人殺せない弱い人間です!世界だって人だって殺せませんよ!だから何だというのです!貴方は運命ではなく過去に囚われているだけではありませんか!いるかいないかでどっちつかずに生き溜まり続けるのなら、はやく素直に召されれば良いのに!」
泥沼だ。どちらも図星をつかれて正気を失っている。
暫く睨み合って負けたのは、
ギラヒムだった。
「…ワタシとしたことが失礼な物言いをしてしまったようだね。すまないゼルダ君」
「いえ。別に…」
お互い恥ずかしい思いをしたようで、気まずい空気が漂うばかりだった。
そこでギラヒムが思い出したように切り出した。
「そういえばゼルダ君はいつ帰るのかい?」
「…あっちには暫く帰りたくないですから、どうぞあなたこそ帰ってください。」
「あのねえ…へそ曲がりなことばかり」
そこでギラヒムは気づいた。
この女が目に涙を溜め込んでいることを。目の下に触れてしまったら遂に涙腺が壊れてしまいそうな程、彼女は自分の愚かさに悔やんでいるということを。
「ゼルダ君。」
ギラヒムは彼女に近づいた。
ゼルダは何事だと思い警戒をしようとした刹那。
「」
声が出なかった。
ギラヒムは彼女の頭を優しく撫でたのだ。
そして、ポンポンと軽くたしなめるように頭をたたいた。
「構わないよ。今のワタシはここにいないのも同然だ。さっさと」
「泣きたまえよ。」
今でも彼は何の気もない笑顔をかましている。
「あの、ギラヒムさ...ぶっっ!?」
彼は器用にゼルダの口を塞いだ。ついでに身動きも。
「ああ!煩いなあもう!!俺に恐怖するとかでもいいからはやく泣け!いいな!?」
とにかく必死に泣かそうとしている。
それを見ていると何だか笑えてきた。
「ふふっ...あはは」
「なっどうしてわらう...」
さらに焦るギラヒムをみて本当に笑えてきた。
すると、予期せぬ物が頬を伝った。
ギラヒムは敢えて見えないようにまた空を仰いだ。
「ほんとうに、変わらない。ねえ、マスター。」
彼は嬉しそうに静かに泣いた、
青空に佇むほころび
エピソードは随時追加していく感じで