緑の生彩

私が、今この時よりも尚一層に生活の纏う心理的な機微を賦活する事が出来たのであれば、私が森に住む事は無かったであろう。

生活の中で私が慎ましく行うべきである、社会的要請によって生じた義務。
それは私から見て非常に奇妙な物であった。
労働、清潔、整理、自律。

これら全てを主観的な厭いにより投げ出す事こそ、私の魂が強く訴える事であり、その訴求力は日増しに膨らんでいた。
そして終ぞ魂の訴えが拡散し、一瞬の光を纏ったその時、私は早急にこの森への移住を決めた。

森には静寂と鎮静が満ちていて、そこから私は維持に伴う要領の良さという物を得た。
食事と睡眠を生活の凡そ殆どとして活用し、残りを瞑想に当てた。

ある日の事だった、瞑想を行い、私の脳内に素早く構築されたとある構図、家の中で瞑想を行う私を中心とし、鳥瞰の視点で森が広がり、俗世に通じる。
中心である私は力も作用も持たず、構築された周囲は私とは一切の関係性を見出せないかの如くに、有機物と無機物の各々は自在な振る舞いを描いている。
この構図を通し、「私」と「外」に境界など無い事がありのまま伝わってきた。

私はおもむろに瞑想を中止し、森に火を灯した、森の中の私は賦活など無いと思っていた、思い上がりであった。
森は、内的な賦活が沸々と滾る世界であった、私もその賦活を担う一部であった。

森が燃える、私は火の中に飛び込む、賦活への投降を行った。
皮膚も臓器も、全ての身体が灰と化し、私は死んだ。
森と社会と全てに敗北を告げる、私の最後の賦活であった。

緑の生彩

初めて小説を書いてみました。
鬱屈した気持ちをそのまま。

緑の生彩

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-01

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