ドラえもん最終回『宿題は、終わったのかい?』(ご)

(ご)

時代は進み、野比 のび太16才の秋の事である。



[東京都立藤子高等学園]
月期テスト

1.野比 のび太 498点
2.出木杉 英才 475点
3.野尻 大輔  450点
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月期テスト上位の結果表が校内の掲示板に張り出され、踊り場には沢山の生徒で賑わっていた。


所々で喜びや落胆の声が飛び交っていたり、全くの興味も示さず素通りする者など色々である。


のび太はドラえもんが止まったあの日……自分自身に誓ったあの時から今日まで、まるで人が変わった様に猛勉強を続けていた。


そのかいもあってか、中学に上がってからの成績は学年上位クラス、そして高校に入学してから今日まで常に一番という成績を取り続けている。


そしてそれプラス、元々持ち前の人当たりの良さとちょっとドジな部分がのび太の人柄をより引き立て、学年問わずの人気者となっていた。


今や学内でのび太を知らない者はいないほどであり、のび太を見掛けるや否や女子生徒から、野比さん野比さんと黄色い声が飛び交っているほどだ。



今もまさに、のび太の近くにいる女子生徒に黄色い声援を掛けられており、のび太は苦笑しつつも慣れた態度でそれに対応していた。



「のび太さーん!」



さらに別の方からも呼び掛けが聞こえてくる。


その呼び掛けに対し一瞬またかとも思ったが、すぐにその声の主が誰だか分かり、内心ほっと胸を撫で下ろした。


声がした方に振り向くと、手を振りながら駆け寄って来る女の子の姿があった。


彼女は髪の毛をゴムでポニーテールの形に結わえており、その髪を右に左に踊らせながら走り寄って来る。


彼女はとても平和的な性格の持ち主なのだが、いざと云うときは自分を犠牲にしてでも自分の意思に添う事が出来る強い心を持っている。


成績、スポーツ等も良好で、笑顔がとても良く似合う可愛い女の子だ。



「やあ、しずかちゃん。」



のび太は軽く手を上げて応えた。



「のび太さん、すごいわ! また一番よ」



「野比くん、おめでとう。 もう君には敵わないなぁ」



しずかの後から言葉を被せてきたのは出木杉であった。


『出木杉 英才』


この名前はのび太にとって雲の上の存在であった。


頭脳明晰、スポーツ万能、性格も良く、タイプ問わず全ての人に慕われる完璧人間であり、のび太が逆立ちしたって敵わない者であった。


のび太は小学生の頃、密かにライバル心を持っていた事があり、何かことある度に嫉妬していたものである。


だけど今、それほどの者に「もう君には敵わない」とまで言われた。


本来、これ以上の喜びはない。


だが、今ののび太にはそんな出木杉の言葉やその他の人の賛美に対しても、何の喜びや優越感もなかった。



「ありがとう。 でもボクが欲しいのは成績や点数じゃなくて知識なんだ。 もっと勉強してまだまだ頑張らなくちゃ」



のび太は静かにそう答えた。


その言葉は、決して人を見下していたり自惚れから出た言葉ではない。


それはのび太の目標とする場所、目指している部分が通常のそれとは大分違っているからであり、今言った事ものび太自身本気でそう思っているからこそ素直に出て来た言葉であった。



「根を詰めすぎると体に良くないわ。 久しぶりにウラ山へピクニックに行かない?」



しずかはそんな無理するのび太を心配し、気分転換をした方がいいんではないかと誘ってみた。



「ありがとう、しずかちゃん。 でもこれからまだ調べたい事があるからまた今度に」



のび太は軽くそう言うと、先を急ぐ様にその場を去って行った。



キャー
野比さんよ!
野比さーん!
キャー!



しずかと出木杉は女の子の声援を受けながら、少し寂しそうに歩くのび太の背中をただ眺めていた。



「のび太君……変わったね」



出木杉はだれに言う分けでもなく、そうポツリと呟く。



「……変わってないわ」



しずかはその呟きに応える様に言葉を続けた。



「のび太さんっておっちょこちょいで不真面目で、すぐにお風呂を覗くエッチだけど、いつも一生懸命だった……。 周りに気をつかって、びんぼうクジ引いて……。 それでも……それでも笑って居られる強い人だったわ…………」



「ドラちゃんが居なくなってから何も言わないけど、ずっと無理してる。 わたしには分かるの! のび太さんは!……のび太さんはッ!!」



出木杉はそんなしずかの突然の豹変ぶりに、目を丸くして驚いた。



「しずか……さん…………!?」



しずかは出木杉の言葉にハッと我に還り赤面する。


いつの間にか自分で気が付かない内に、熱くなって話していた事に気が付いたからだ。


別にのび太の事を、自分が語る事が恥ずかしかった訳ではない。


のび太の為に、周りが見えなくなるぐらい熱くなっていた自分に戸惑いを感じたからであった。



「やっぱりピクニックに誘うわ。 いいえ、首に縄を着けても連れていく!」



「のび太さーん!!」



しずかは強くそう言うと、出木杉を置いてのび太の後を追う様に走り出した。




しずかのその行動は、出木杉に赤面した自分の顔を見られたくなかった為なのか、それとも、のび太の事がほっとけないだけの理由なのかは分からない。


しずか本人も、きっと分かっていなであろう。


今分かっていることは、のび太を追い掛ける自分の心に、今までになかった不思議な感覚が溢れて来ており、自分自身その変化に気付き戸惑っていることであった。




わたしはのび太さんの事はもちろん好きだけど……でも、それは……



(つづく)

ドラえもん最終回『宿題は、終わったのかい?』(ご)

ドラえもん最終回『宿題は、終わったのかい?』(ご)

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-12-01

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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