『心、盗まれた?』
病気が話に出てきますが、具体的ではありません。
とりあえずは、病気は病気ということで。
ちょっと不思議不思議が入っています。
今日で五か月家からは出ていない。
俺はだいぶ見飽きた高度な調度品を眺め続けていた。
それらは全部、豪華な机、豪華な床、豪華な……全部豪華。隅から隅まで豪華だった。キラキラと輝き放っている。一方で、部屋の奥の部屋には、質素だが心休まる部屋も用意しておいた。
俺は満足はしていた。が、さらなる満足が欲しかった。
満足を超える満足。
いったいなにが足らないんだろう。
なにを盗めば良いんだろう。
俺は頭を抱えた。
業界内では天才泥棒と呼ばれていた。
なにからなにまで盗んだ。盗むことだけ目的にしていた。
だから盗んだものは一定期間騒ぎになったら、ちゃんと返していた。
これらはどうなんだって?
これらはお金持ちが飽きたころあいに買ったものだ。まあ、ほとんどは成金相手だがね。
案の定、買い替えていた。俺はちゃんと代金を置いておいた。
だからいいはず。
もう盗もうと思えるような困難な品は無かった。
次、なにを盗んだらいいんだろうか?
おれはイスからバク転し、そのままベッドに寝込む。
ふかふかのベッドが気持ちいい。
「はあ~」
ビデオ屋行って、なにか借りてくるか。
たまには外に出るのも悪くないかもしれない。
体も鈍ってきたしな。
おれはベッドから飛び降り、財布やその他もろもろ持って、玄関を出た。
ビデオ屋から出た帰り、天使の噴水像の前で、俺は幼女に足止めされていた。
なにを言ってるかわからねえが、俺も分からねえ。
でも、この幼女が放つ底知れぬ威圧に俺は一歩も動けなかった。
この幼女、何者なんだ?
しかし、警戒をし始めた瞬間、さっきの威圧が無かったように、ただの幼女になってしまった。
これはいったい……。
幼女は幼稚園帰りだった。
幼女は俺を探るように見ている。その瞳は怖かった。
泣かれたら、逃げよう。
俺はなにもしてない。本当だ。
「お前は、天才泥棒さんですね」
「!?」
なぜ知っている。
幼女は指を俺にさす。
「心配しなくていいです。通報しません」
こいつはなにを言っているんだ。
俺は聞かれたんじゃないかと、周囲を見回した。誰も居ない。
誰もいない?!
さっきまで、老人たちがゲートボールをしていたり、親子がキャッチボールしていたり、男同士が……。男同士?
まあ最後のやつらはどうでもいいか。
おかしい。
「聞いてます?」
その言葉に、思考が止まった。
肝心なのはそこじゃない。なぜ俺のことを知っているんだ。
こんな親戚、居ないぞ。親戚なんて、どろぼうになってから、縁は切ってしまった。もっとも、どろぼうだんて教えなかったが。
まさか、いとこのあの子か?
「聞いてますか」
「は、はい。なんでしょう」
幼稚園児くらいの女の子に、敬語を使わないといけないなんて。
「お前はどろぼうの天才と聞きましたが、本当ですか?」
「ああ、そうだ」
俺は胸張って言った。所有はせずとも、盗んで返すを繰り返してきた。
「お前に不可能はないのか?」
「ああ、ないぜ」
「なら、私のお姉ちゃんはどうです?」
お姉ちゃん? まさか、誘拐依頼か?
「嬢ちゃん、俺は誘拐なんかしないぜ」
誘拐はしない。主義に反する。
盗んで返すが好きな俺には、リスクも高い。
「違います。お姉ちゃんの病気を盗んで、健康を返してほしい」
「え」
病気を盗むだと。馬鹿にしてるのか? 俺は神様でもないんだぞ。
「え、ええとだな」
「まさか天才どろぼう・ゆうが、盗めないと?」
挑発されてる。でも、目は真剣だった。本気だ。
「これが私のお姉ちゃんです」
まず写真を見ろ、らしい。
幼女から写真を渡されて見た。
その女の子はやつれていて、でも必死に生きようとしていて、ひねくれた様子もない。
すごくかわいかった。
「助けて、ください」
そんな顔、するなよ。
幼女は泣きそうな顔をして言った。
「盗めるかどうか分からない。でも会ってみるよ」
会ってどうするべきか。
そもそも病気を盗むなんて、聞いたことないしな。
一応業界の友達に聞いてみるか。無駄な気がするがな。
「お願いします」
幼女はぺこりとお辞儀をして、公園の奥へ消えて行った。
突如、喧騒が戻ってくるきた。
老人も、カップルも、男達も、いつの間にか公園に戻っていた。
あれえ?
極度の集中でそうなったのか。
とりあえず、今夜その病院に侵入する手順を考えようか。
夜の静けさ、俺に興奮をもたらしてくれる。俺はこの興奮が、たまらなく好きだった。
草木のカサカサ、寝静まった人の気配、満天の星、それらに見られながら進む緊張感。
病院前に到着し、周囲を探る。
見つかることは決してない。天才だからだ。
だが、失敗したことへの覚悟や手順を決めておく。プロだからだ。
俺は行動を開始した。
……難なく、目的の病室に侵入する。
一応外から確認したが、大丈夫、彼女は寝ていた。
彼女はめぐ。あの幼女のお姉ちゃんらしい。
ぐったりしていて、だけど、幸せそうに眠っていた。
「ふむ」
この子がそうなんだな。
俺は慎重に彼女に近づいた。
病気を盗む、難題すぎる。
俺は失敬しながら、布団をめくり上げた。
そこには、物質化している病気が……てなわけないか。あり得るわけないよな。
でも、物質化していてくれなきゃ、病気を取り出しようがない。
天才泥棒もお手上げ状態である。
「ふむむ」
どうするべきか。
「ヒッ」
その時、服をつかまれた。まさか、ばれたのか?
でも、めぐという少女は目を閉じたままだった。
どうやら無意識らしい。
俺はその手をひと指ずつ引きはがし、手を手で握りしめた。
なんか気障だなあ。
若干照れつつも、俺は小声で宣言した。
「お前の病気、なんとか盗んでみるからな」
そう言って、手を離す。
俺はすぐさま病室から出て病院から出た。
そろそろ巡回が来るからだ。ここで見つかるわけにはいかない。
俺はそれから自室の布団に潜り込んで、ひたすら考えた。病気よりも、彼女のことである。
あの不思議な幼女のこともひたすら考えていた。ただし、ロリコンではない。
翌朝。昨日とは打って変わって、曇りになっていた。
どんよりとして、億劫な気持ちになる。
俺はさっそく、あの幼女の居た噴水へ向かった。
あそこなら会えるかもしれない、そう考えた。
だが、幼女にはそこで会えなかった。
いくら待っても来ない。
「ち、帰るしかないか」
あの幼女に俺はなにを期待してんだか。
俺は立ち上がりかけたとき、視界の端に紙が落ちているのを見つけた。
「やれやれ、誰か忘れたのかな」
俺はそれを拾い上げた。
そこには、俺あての手紙と、病院の紹介状が置いてあった。
ハッ
それは昨日俺が無断侵入したことに怒っているようだった。
なら、さきに紹介状を渡してほしい。
俺はさっそくそれを持って、あの病院へ向かった。
深夜の病院とは打って変わって、人の気配がたくさんあった。
待合室を素通りし、そのまま……。
って見つかった。
看護師さんが怒った顔をしてこっちに歩いてくる。
つい職業柄か、手続き忘れていたぜ。
「あの、ちょっと」
俺は紹介状を見せる。
ん、一瞬看護師のおばさんがグラッとしたぞ。大丈夫か。
「あ、はい。どうぞご自由にしてください」
看護師のおばさんは、それ以上なにも言わず、どこか行ってしまった。
おいおい、この病院大丈夫か?
そのほかの看護師さんも俺を別に気にも留めてない。
俺は首をかしげながら、目的の病室へむかった。
いったいなんだったんだ、と疑問が薄れるのを感じながら。
#
今日お客さんが私の病室に来るらしい。アポも取らずに。
いったい誰が?
もうかれこれ三年以上は出会ってない。
見捨てられた、そう思っている。
私はベッドのボタンを押して、お客さんが見える角度に変えた。
お父さんやお母さんなら、看護師さんがなにかしら言うはず。
お医者さんの様子でもなかった。
いったい誰なのでしょう。
#
「失礼しまーす」
後ろで看護師さんが目を光らせている。でも、それ以上入ってこないようだった。
「……どうぞ」
小さな声であの女の子の声が聞こえた。
その方向には、やせ細った女の子がいた。
彼女が幼女のお姉ちゃんらしい。
「あの……」
なんていおうか、考えてなかった。
「こちらへ座ってください」
警戒している。当たり前だ。
俺は昨日知っているが、彼女は昨日のことを知らない。初対面である。
「はい」
俺は言われたままに座った。
なにから話すべきか。
あ、そうだ。
「あ、あの、女の子が、めいさんをお姉ちゃんと紹介いてくれて」
「お姉ちゃん」
首をかしげる。
なにか変なことを言っただろうか。
「幼稚園ぐらいの」
めいさんはしばらく考えたあと、なにかを思い浮かんだように明るい笑顔になった。
「あ、はい」
ふぅー、良かった。
しかし、さっきの対面とは違って、笑顔可愛いな。
「あの、それでなにか」
いきなり病気を聞くのもなんだしな、とにかく雑談するか。
それからは五分ほど話した。
それだけで、病気を盗むことに関して決意が固まった。
もうこれで用はない。
「あ、すいません。そろそろ時間なので」
さりげなく時計を見る。
「あ、そうですか」
おれは立ち上がり、背を向けた。
これで充分だ。
「あの……、また来てくれませんか」
振り向かないようにしているから彼女の表情が分からない。
どういう意味で言っているのだろう。
振り返りたい。
でも、変に期待させては、こっちが重荷に感じてしまう。
「では、また機会があったら」
「……はい」
俺は病室の扉を後ろ手に閉めた。
そのままで出口へ向かう。
帰る足が重くなった気がした。
どうやって、病気を盗もう?
それから毎日病院通っては、あの噴水をうろうろしたりする日課になっていた。
最初は警戒していためぐも、いつのまにか歓迎するようになっていた。
外の世界のことを話したり、彼女から病気のことや好きな物を聞いたりしあった。
ただ、「何の仕事してるの?」という質問にはほとほと困った。
泥棒、というわけにはいかない。だからって、ニートというのは御免だ。しかたなく「秘密」と言っていた。秘密ならごまかせるはずだ。
いつこく何度も聞いてくるたびにそう言っといた。
不満そうに浮かべる顔がなんとも言えなかった。
それにしたって、あの幼女(仮)はどこいったんだろう。
姉の話を知りたいはず。
いかんしがたい。
そう考えて数日後のことだった。
今日も噴水に誰もいないところを確かめたところで、病院に向かおうとしたときだった。
「待つんじゃ」
ん、この声は。
俺は嬉しくなって、後ろへ振り替える。
「元気にしとったか」
「お、この間の幼女」
これ、周りから見たら不審者だな……。
幼女は溜息をついたあと、言った。
「幼女って言い方はもうせんで良い。わしの名前はういじゃ」
ういか。ようやく分かったぜ。
「お前のお姉ちゃん、元気そうだぞ」
今まであったことをかいつまんで話すと、満足そうに頷いていった。
「うむうむ。それでいい。して、天才泥棒よ。病気は盗めそうか?」
「それが」
一呼吸置いて、
「わからん。そもそも病気って盗めるのか?」
「……盗めるのじゃ。ほれ、これを受け取れ」
ういはカードを投げてきた。
それには住所と名前が書いてあった。
「えーと、天さん?」
「そうじゃ、そいつに聞け」
ういはそう言うと、すたこら走った。
追いかけようとしたが、すでに遠くに行ってしまってる。なんだあいつの速さ。
俺は、かなり速い方なんだが。
もう一度、カードを見る。
「よし、行くか」
俺は今日は病院を諦め、その住所に居るという天さんに会いに行った。
「こんちわーっす」
ボロボロの家の戸を慎重に開けた。
真正面には、よぼよぼの爺さんが居て、なにかしている。
これは、小さな水晶玉だ。その水晶玉をいじってる。
「お、ようやく来たか。まっておったぞ、ゆう」
な、なんで俺の名前を。
「お前が来ると分かっていたからな」
「くっ」
俺は臨戦態勢をとりながら近づいた。
「ういってやつに言われて来たんだが」
それでもなにか得られると思って近づいた。
「ういに言われたんじゃ仕方ねえ。ほれ、手を出せ」
なにかくれるのか。俺は手を伸ばす。
「もっと近づけよ」
警戒しながら、そっと近づいた。煙草の匂いに混じって、いくつかの香料の混じった匂いがしてきた。
「はあ、えい」
じじいが俺の手を取った瞬間、目の前が真っ黒にまった。
おれはめぐに近づく。
めぐは服をまくり上げ、お腹をさらす。
おれは息を飲み込み、手を近づける。
おい、やめろ……え、夢?
そして、病気を取り出していた。
病気の黒い光は陽光を浴びて、真っ白い光になっていた。
それを戻す。
「っわああああ」
手足をばたつかせて、横にころがる。
「へ、ここはどこだ?」
路地裏だった。
この路地から見える、表の通りの景色の一部から、あそこの商店街か。
てか、もう朝らしい。一日過ごしてしまったようだ。
たしか、幼女のういに促され、じじいになにかを与えられていて。
そこ以降ブラックアウトだった。
俺は直観的に、なにか能力を得たことが分かった。
これなら、めぐを治せる。
おれはういやじじいへの疑問を頭の隅に押し、とにかく目標にむかった。
「おはよう、めぐ、元気にしてたか?」
開閉一番、めぐに大きな声で言った。
おっといけねえ。すぐに後ろ手でドアを閉める。
めぐは眠気まなこで、俺を見ている。
「もう、どうして昨日来なかったの」
めぐはそれよりも、なにか話したいようだった。
「しんぱいしたんだからね!」
めぐは不満たらたらだ。
いったいなにを怒ってんだ。
「連絡の仕方も教えたでしょ。まったくぅ」
「あ、ああ。すまん。どうしても用事があってな」
「また秘密のお仕事?」
「ん、んー。まあ、そんなもんだ」
あいまいに答えておく。やっぱり言いたくないもんな。
めぐがさびしそうな顔をした。
え!? 俺はよく分からないままショックを受けた。
ちょっとそんな顔しないでほしい。このままじゃ、ここから離れられなくなる。だって、あの幼女に頼まれてだから。
単刀直入に言うか。
「すまん、今日は折り入って頼みがあるんだ。ちょっと知りたいことがあって」
「知りたいこと? なになに? ゆうの頼みなら良いよ」
俺は顔が真っ赤になるのを感じた。
「あの、その、服をまくり上げてお腹を見せてほしい」
「え、えええええええええええ」
めぐは恥ずかしそうに下を向いた。
「あの、無理にとは言わない。でも、ちょっとだけ」
「…………」
この沈黙はつらい。
もう五分はすぎたかな。いやいや早すぎ。まだ一分も経ってない。
「……うん。ゆうなら良いよ」
そういうと、めぐは服をまくり上げ、やせ細ったお腹を見せてくれた。
俺は手を近づけ、夢のイメージを繰り返した。
それを何度も繰り返す。
片目を開けてめぐの様子を見るが、別段変わった様子はなかった。
おかしい。これならできるはずだ。
しかし、一向にめぐがどうにもならず、光も出てこない。馬鹿な。
「あの、もういい?」
「あ、ああ、すまん」
めぐは複雑そうな表情でこっちを見た。
すまん。失敗だったみたいだ。
俺は恥ずかしくなった。
俺は恥ずかしさをごまかすようにめぐに近づき、いつもよりそばに近づいた。
おわびと称して、いつも以上に話を聞こう。
それからは毎日通っては、イメージをして、を繰り返した。
イメージの一向手ごたえは感じるもののめぐの様子は変化することなかった。
今日もだめか。
でも、と考える。
もし病気が治ったら、俺はここにいる理由なんてないんじゃないか?
ハッキリ言えば、どこの馬の骨みたいな男の俺なんて、居場所すらないんじゃないのか?
もし俺がこれで治せたら、もしもの話だけど。治せたら、もう俺はお払い箱なんじゃないか?
いや、違う。そもそも必要不必要の観点から病院で出会っているわけではない。
ただ、めぐに会いたいからここに来ていた気がする。
会いたいから行く。立派な理由じゃないか。
まさか、それ以上の感情が……。
おれは強引にそれ以降の思考を振り払って、めぐの病気を思い出していた。
どうして成功しないのか。そっちの方が重要なはずだ。
考えながら歩いていたら、いつのまにかあの路地についていた。
なにかヒントはないかな?
しかし、じじいの痕跡はなに一つなかった。
これじゃあだめか。
「おい、なにをしておる」
この声は、あのじじい。
「あ、じーさん。あいつの病気、一向に盗めねーんだ。どーしてくれる」
俺は振り返った勢いのままじじいに詰め寄った。
じじいは少し考え込み、言った。
「別にあの能力は、恋愛ごとだけに限定しいておらんよ。おおかた、おぬしはその女の子と別れたくないんじゃろ。……好きなんじゃろ?」
じじいはにぃと笑って言った。
なんかむかつく。
そして、じじいの言ってることは間違ってないこともむかつく。
「でもよー、俺、泥棒なんだぜ」
じじいは顎を手でこすりながら答えた。
「なら、医者になってみてはどうじゃ」
「医者?」
医者になるって、軽々しく言わないでくれ。
「でも、おぬしにはできるはずじゃ。とにかく、気持ちを整理しながら、医学について興味を持ってみなはれ」
じじいはそう言うと、手でバイバイしたあと、いつのまにか消えてしまった。早い。
おれは医学関係の本を買って、そのままイメージを繰り返しながら帰った。
俺はめぐを好きなんだろうか?
そのあとは病院行っては能力を試して、本を読んでという日課を繰り返した。
日が経つのは早く、一か月はすでに過ぎ去った。
そうだ。好きなのだ。
でも、めぐの病気、盗めないじゃないか!
あれからなんども試した。そして、自分の迷いも認めた! なんでだ!
……もしかしたら俺に、才能がないのかもしれない。
このままじゃ、めぐに申し訳ない。
めぐ!
覚悟を決めるしかない。今日一日病院に泊まって、こんどこそ盗む。
もし盗めなかったら……それ異常は考えるのをやめよう。
いつの間にか眠りに落ちていた。
頭がはっきりしない。
ここは現実?
おれは力を振り絞る。
たぶん、もうすぐ夜明けが近い。
最後の挑戦になる。
そして俺は手から手を出すようなイメージをして、めぐのお腹へ入れた。
「これだ!」
おれのイメージの手は真っ黒い球体を握りしめていた。
それは次第に黒さを失っていき、光り始めた。
「やった! 成功だ!」
おれはそれをめぐに戻した。
成功を確信した。
「どうじゃ、良い気分だろう」
「あの、幼女?」
ういという女の子が太陽を背にいつの間にか立っていた。
朝焼けでういの顔が真っ黒で、表情が分からなかった。
いろいろ言いたいことはあった。でも、これで最後な気がした。
「結局、お前ってなんなんだよ?」
不思議現象に疎い俺でもさすがにわかる。
この幼女、じつに怪しいのだ。
「それは、おぬしと同じ秘密じゃよ」
ぐぬぬ、反論できない。
「おぬし、これから医者になってはどうかね」
幼女はさらに続けた。
「もし医者になって、それでもわしを知りたいなら、答えが分かるじゃろう。どうじゃ?」
ふん、決まっているではないか。
「ああ、その時までに首を洗って待ってろよ」
「ふふ、楽しみだ」
ういはそこから跡形もなく消えさった。
よし、決めたな。
めぐの手を強く握りしめた。
「すー。すー。……ん、おはよう」
めぐがちょっと起きた。
いまのうちに、言っちゃうか。
「めぐ、好きだ」
「ん?!」
めぐの目がはっきりしてくる。今だ。
「めぐ、好きだ。俺、実は医者なんだ。こんな俺でも良いか?」
めぐはうつらうつらしながら言った。
「いいよ、好き」
そして俺たちは握りしめあった。
うう、眠い。今日からめぐの良い報告が聞けそうだ。それと、勉強も本格的にはじめないとな。
めぐは天才泥棒の俺よりも、もっと大悪党などろぼうかもしれないな。俺に泥棒をやめさせるんだから。ニッと笑って、俺は朝日を見つめ続けた。 END
『心、盗まれた?』
ようやく書けるようになってきた。
一万字もそろそろ行くかも。
ただ、まだ主人公が一人で動き回るだけで物語を進めているから、次は人間関係で持って話を進めていきたいな。
二人で動き回るお話を書きたい。