Marionette's Heart
ファルベ大陸に住むすべての種族はマリオネットを操ると力を持っている。
ラルフは、そんな中でもマリオネットをうまく操れない少年だった。そのためまわりから馬鹿にされ孤独を感じていた。
そんな彼の前に現れたのは、マリオネットマスターのエルと獣人の少女シャルロッテだった。
ここからマリオネットとマスターの絆の話が始まる
登場人物
新キャラが現れるごとに増えていきます。
エル:主人公の一人。クーフィーヤをかぶった女性で男装している。精神力が強く三体以上のマリオネットを操っている。パートナーは、ザシャ。そのほかにベンノやヤンがいる
ザシャ:エルのパートナー。蜥蜴の獣人のマリオネット。単純で熱血そしてどこか抜けてる。本人いわく伝説級のマリオネットらしい。
シャルロッテ:エルと一緒に行動する犬の獣人の女の子。少々世間知らずなところもあるが子供ながらもしっかりしている面も。パートナーは、いない。イチイチの実が好物
ラルフ:ゴルトヴィレッジ出身の少年。マリオネットの知識はあるもマリオネットをうまく操れず孤独を感じていた。だが、エルからヤンを譲り受け少しずつ成長していく。まじめで一途なので臨機応変ができないタイプ
ヤン:カルガモのマリオネット。口が悪く生意気。よくラルフをに悪態をつく。だが少しずつ成長してゆく彼を見て少しずつ相棒として認めていく。
ベンノ:世にも珍し乗り物型のマリオネット、亀の姿をしている。心優しく真面目。戦闘は不向きだが防御力は長けている。
用語集
マスター:マリオネットを操る人たちの事を言う。精神力が強ければ強いほど大きなマリオネットや二体以上のマリオネットを扱うことができる。逆に小さなマリオネットを数体操ることも可能
マリオネット:マスターたちの使うパートナー(一部では武器や道具としても扱われる)種類は様々だが、皆特徴として目の下に一本の線が入り、体の一部にコアを取り付けている。現在は、人間型、動物型、獣人型の三種類のマリオネットがある。
コア:マリオネットたちの魂、特殊な宝石。このコアが壊れることはマリオネットの死を表す。これを直すことができるのは特殊な力を持つコア師だけだが直っても記憶障害を持つことがある。
糸:マリオネットを操る糸。マスターの力が強ければ強いほど遠くまで糸を伸ばし操ることができる。
イチイチの実:赤か青のハートの形をした小さな果物。甘酸っぱくめったに見つからない果物なのでかなり貴重。シャルロッテが育てている。
禁術:死んだ人間をマリオネットとして甦らせる術。これを行うにはいろいろ対価が必要。対価によって人間に近くなることがある。
調べの球:人間に使用する。持っている人間が念じることによって相性の良いマリオネットのタイプを見極める。通常は透明だが、人型のマリオネットだと赤、動物型だと青、獣人型だと緑糸の光を発する。また才能がないときは何の色も示さない。
第1体:運命の糸(前編)
大きな太陽がじりじりと黄金の砂漠を照らしている。そんな中、巨大な亀は涼しそうな顔でその砂漠を走っていた。しかしその亀は亀でも、その正体はマリオネット。
巨大な亀のマリオネット『ベンノ』は、なかに人を連れていた。小さな犬の少女とクーフィーヤをかぶった若い青年が中にいた。若い青年の方は器用に指に絡みついた糸を動かしながらベンノを運転していた。
「エルー!次の街まだ?暑いよー!」
少女は運転しているエルに向かってそう言うと、エルは優しい笑みを浮かべながら振り向いた。
「シャルロッテ、もうちょっと待っててね、そろそろ見えてくるから」
「うん・・・ロッテ待つよ・・・」
「うん、いい子だね」
シャルロッテと呼ばれた少女はちょこんっとソファーに座りそのまま横に倒れこんだ。一応冷房を聞かせているとはいえ慣れない暑さに彼女はへとへとになっているようだ。
「ベンノ。そろそろ町が見えてくるころなんだけど・・・」
「ハイ、コノ先ニゴルトヴィレッジト呼バレル村ガアリマス。モウ少シデ着キマス」
ベンノと呼ばれたマリオネットが丁寧な口調でエルに向かって答えた。
「そっか、じゃぁ早く行くことにしよう。私たちのかわいいお姫様に水を飲ませてあげないとね」
*****
ゴルトヴィレッジでは、年に一度のマリオネット大会が行われていた。自分達の持つマリオネットを戦わせ村一番を競う大会だった、もちろん外部からの参加も可能だった。村中に飾り付けが施され、屋台で溢れかえっていた。そんな中、広場の一部で子供たちが集まって何やら喧嘩をしているようだ。
「うわっ!」
片方の、メガネの少年が突き飛ばされしりもちをついた。巨体の少年とその友達は彼の周りを囲んでにやにやと笑っている。
「マリオネットも操れないラルフ!お前なんかが大会に出ても負けるのは目に見えてるぜ!」
「くそー!」
ラルフと呼ばれた少年は巨体の少年を睨みつけた。彼の傍らにには大人の人間サイズのマリオネットが転がっていた。
「悔しいならそれを動かしてみろよ!俺みたいにさ!」
巨体の少年はそういうと、自分のゴリラのようなマリオネットを操って見せた。ゴリラのマリオネットは腕を回したあと自分の雄々しい胸板を太鼓を鳴らすように叩いた。
「さすがツェザール!」
「かっこいいぜ!」
ラルフは悔しそうに自分のマリオネットを見た。彼の用に指を動かしても魔r5位オネットは動き出してくれない。それを見たツェザールと仲間たちはまた笑い出した。
「感心しないね、いじめとか」
ふと聞こえた声に彼ら振り向いた。
エルとシャルロッテが立っていた。
「いーけないんだ!いじめってかっこ悪いわよ!」
シャルロッテは腰に手を当てて指を指してそういうとツェザールは怒ったような顔をしながらシャルロッテを見た。
「なんだこいつ犬の獣人か?」
「あら、あなたは猿の獣人じゃないの?」
「俺は人間だコノヤロウ!!」
ツェザールは、太い指を動かし、ゴリラのマリオネットを動かしシャルロッテに向かって拳を振り下ろさせた。
「あ、危ない!!」
ラルフが叫んだ、だが、二人の間にエルが入り込み、ゴリラの拳を素手で受け止めた。
「え、えぇ!?」
「やれやれ、君の親は人に向けてマリオネットを攻撃させてはいけないと教わらなかったのかい?」
「な、なんで…俺のコングコングのパンチは強いのに!」
「君が子供だからだよ…とっととどこかに行かないと今度は私のマリオネットで君にコングコング君を木端微塵にするよ」
最初は笑みを浮かべていたエルが真顔になり一睨みすると、ツェザールとその友達は震え上がり慌てて広場を後にした。そんな小さな争いをラルフだけはぽかーんっとした顔でエルを凝視し、一部始終を見ていた村の大人たちが大慌てで彼らの所へ走ってきた。
「旅の方大丈夫ですか!?」
「大丈夫ですよ。子供の操るマリオネットですしね」
エルは笑顔を浮かべるとシャルロッテのほうを見た。
「ロッテだめじゃないか、相手を怒らせるようなことを言っては」
顔つきは優しかったが口調は強く彼女に言い聞かせるように言葉を繰り出した。
「ごめんなさーい、でも弱い者いじめって大嫌いなの」
「気持ちはわかるけどね…そういえば…」
エルはラルフのほうを見た。
「大丈夫かい?」
エルが彼に手を差し伸べた。ラルフははっとすると頼んでもいないのに助けてくれたことが嫌だったのかその手を払いのけ自分のマリオネットを持って走り去っていった。
「これ、ラルフ!!」
「やれやれ…」
「エル…大丈夫?」
「大丈夫だよロッテ…」
エルはにこりと微笑みシャルロッテの頭を撫でてゴルトヴィレッジを全体見た。小さな争いが終わると村人達は、せっせと闘技場の周りを飾り付け、賞品を運び込んでいた。エルはその賞品の一つを見ると口端を少しだけあげた。
「ここならあるかもしれない」
*****
「・・・えい!!えい!!」
ラルフは何度も指を動かし目の前人形に命を吹き込もうと頑張っている。だが、指からは出るべき糸すら出てこない。
「なんで動いてくれないんだよ!コアだってちゃんと入ってるのに!」
「一つは相性の問題だね」
突然聞こえた声にラルフは話てて振り向いた。エルが相変わらずのにこやかな笑顔を浮かべながら近づいてくるのが見えた。
彼は先ほどの出来事ですこしだけエルに敵意を向けているようなのか表情がこわばっているのがすぐに分かった。本来なら虫をするのだが気になる言葉を言っていたので自分でもその言葉をオウムのように繰り返してみた。
「…相性?」
「うん、マリオネットの種類によって相性が変わるんだよ。ラルフ君、だっけ?この世で何種類のマリオネットがあるかわかる?」
「…ざっと分ければ三種類だろ?人間型、獣人型、獣型の三種類だろう?子供でも知ってる常識だよ?」
「そうだね…人によっては三種類全部操れる人もいればどれも操れないっていうのもある」
エルはポケットから透明の水晶玉を出した。太陽の光が反射しキラキラと光っていた。
「それは?」
「これはね、調べの球っていうんだ。これを持つとその人に合うマリオネットの種類を教えてくれるんだ。」
「え、初めて聞いたそれ」
「まぁ、たいていの人はすぐに相性の会うマリオネットを手に入れるからね…君はどうやって今のマリオネットを手に入れたんだい?」
「…死んだ父さんの形見なんだこれ…」
ラルフが地面に力なく倒れている人間型のマリオネットを悲しそうな目で見た。
「父さんはこの村一番のマリオネット使いだったんだ。でも、ある時、ふらりと出かけたまま二度と帰ってこなかったんだ…このマリオネットを置いて」
「そうだったんだね…」
「だから、毎年マリオネット大会に出るときは父さんのマリオネットを使って出場したかったんだけど…どうしても動いてくれなかった」
「そっか」
エルは、ラルフと一緒に地面に胡坐をかくように座ると調べの球を渡した。
「どうやってこれ使うの?」
「それを握って念じればいいんだ。ただそれだけだよ」
「ふうん…」
ラルフは、半分うさん臭さを感じるも言われたとおり調べの球を握った。するとそれは淡い光を発し掌に温かみを送り込んできた。その心地よい暖かさからか自然とそれを額に持っていき目を瞑った。
(なんだろう…すごく温かい…俺の…相性のいいマリオネットってどれなんだろ…もし本当にこれでわかるのなら…どうか教えてください)
「…へぇ…」
ほんの数秒の時間がたつと、エルが呟きラルフの手を取った。彼からそっと調べの球を受け取ると先ほどまで透明だった球は青みを帯びた光を発していた。当の本人は長い時間をかけて念じていたように感じまだ頭がぼーっとしているようだった。エルは微笑むと彼の前に調べの玉を突き付けた。
「この色から察するに…君の得意なマリオネットは獣型だね。どうりで人間型が使えないわけだ」
その言葉を聞くとラルフはがっかりと言わんばかりに肩を落とした。どうしても父親ののこした人間型のマリオネットを操りたかったのだ。そんな彼の気持ちを察してかエルは優しく彼の頭を撫でてやると人差し指をたてて助言した。
「ラルフ少年、諦めることはないよ。君が成長すればいつかきっと君のお父さんのマリオネットを操れるようになるよ。」
エルは、ニコリと笑いラルフのマリオネットの右目からコアを取り出した。ルビーの丸い球体がきらりと太陽の光を反射させたそして、その光がある部分を照らすとエルは顔色を変え、またそのコアを元の場所に戻した。
「君のお父さんが出て行った時マリオネットは、出しっぱなしだった?」
「うん、だから毎日練習してたんだ」
「そうか…」
エルは、複雑そうな笑みを浮かべると緑色のコアを渡された。コアは、宝石をバリオン・カットに似た形でカットされている。
「君にこれを上げるよ」
エルがしっかりとラルフにコアを握らせた。
「これは?」
「動物系のマリオネットが入ったコアだよ。今日の大会はこれで参加すればいい。」
「でも、俺は!」
「お父さんのマリオネットで参加したいのはわかるよ・・・でもね、残念だけど君のお父さんのマリオネットはもう使えないんだよ」
「え?」
ラルフは目を見開き、一瞬自分以外の音が聞こえない感覚に陥った。突然の言葉に胸の鼓動は高鳴り不快な感覚を残していく。
「どう…いうこと?」
「まずは…君のお父さんが子のマリオネットを出しっぱなしにした時点できっとマリオネットは壊れていたと思うよ。マリオネットは使わないときは自動的にコアの中に戻るからね。そして…このコアだ」
「コア…?」
エルは再びマリオネットからコアを引き抜くとラルフの手にそれを乗せ指を指した。
「ここ、ひびが入ってるでしょ?」
「あ!!」
今まで気づかなかったのかエルのいった通り、コアには小さな亀裂が中心部に向かって突き進んでいた。
「コアはマリオネットの心臓、人間と同じようにそれが壊れたら動くはずがないんだよ…」
「そんな…あんなに大事にしてたのに…」
ラルフの目から涙が流れコアの上に落ちた。いつこんな傷をつけてしまったのだろう。落とさないように大事に大事にしていたはずなのに気づかないうちに傷をつけてしまったのだろうか?い大好きな父親の大事な相棒を壊してしまったことに彼は心を痛めた。
「お、俺、父さんの大事な相棒をっ…」
「いや、君のせいじゃないよこれは」
「だ、だって!」
「寿命もあるんだよ。きっと長い年月君のお父さんと戦ってきたんだね、このマリオネットは」
エルは優しい笑みを浮かべマリオネットを抱きかかえた。エルはマリオネットをじっと見た。人型のマリオネットで耳がとがっている。おそらくエルフの型を使っているのだろうと瞬時に思った。しゃくりあげる彼を見ていて何を思ったのかエルは相手に近づくとそっと耳打ちをした。
「ラルフ、このマリオネットを蘇らせたい?」
「え!?」
ラルフが顔を上げるとエルは笑顔を浮かべた。
「で、でもマリオネットのコアって一度壊れたら治らないって…」
「むずかしいけどひとつだけ方法があるんだ…」
エルは、ラルフに向かってウインクをすると続けて言葉をつないだ。
「ただし…それには、僕のお願い聞いてくれるかな?」
Marionette's Heart