裏生徒会
ブラ●クサンダーを狙え
裏生徒会三か条
一、 会長の命令は絶対!
一、 会長に歯向かってはならない!
一、 会長を崇めろ!
「こんにちは~」
青嵐高校、校舎三階一番奥の部屋。太陽が当たらないため薄暗いからか、誰も近づかない。そこが僕ら裏生徒会の会室。裏生徒会は、学校から認められているわけではない。会長の独断と偏見で、創られたものだ。
「ぬぬぬ……」
またやってる。
「会長、今日は腕毛ですか?」
「おう」
会長の変な癖……。自分の体の毛を抜きたがる。理由はとても下らない。
『モテたいから』
会長の頭の中では、「毛深い男=嫌われる」「ツルツルな男=モテる」という方程式が成り立っているのだ。
会長、顔そんなに良くないのに……いわゆるぶさい……げほん。げほん。本人に言ったら僕は殺される。
「会長、今日のプロジェクトは何ですか?」
「良くぞ聞いてくれた会計くん。今回のプロジェクトは……表生徒会(学校に認められている生徒会)、会室にあるお菓子を取ってくる!」
……くだらねー。
はい。こんなことをして(遊んで)いる僕らです。
「会長まじでやるんですか?」
「会計くん? 三か条をお忘れかい?」
……あぁ、あれか……。
「はい。承知しました。ところで、後の先輩2人は?」
「今来る。つか来た」
「「ちーっす」」
会長怖ぇ。
まさかのエスパーですか。
まぁそんなことは置いといて。裏生徒会が全員集合したところで、青嵐高校、裏生徒会のメンバーを紹介したいと思います。紹介は、会計である僕が担当させていただきます。
―青嵐高校裏生徒会―
会長:星影 流生(ほしかげ りゅうせい) (三年七組)
もろ名前負け。本人に言ったら殺されるけど。
そりゃあもう変人。癖が体の毛抜きってぐらいですから。
想いを寄せている人は、表生徒会長:水瀬 奈海(みずせ なみ)さん。「奈海さんと同じレベル!」とか言って、裏生徒会を設立。もはやストーカーだと思うのは、僕だけでしょうか。今回のプロジェクトも、奈海さんに会いたいがためだと思われる。
副会長:佐川 光(さがわ ひかる)
書記:佐川 明(さがわ あかり)(三年六組)
双子の兄妹。毎日一緒にいて、息もぴったり。
会長の幼馴染で、2人とも趣味は、会長イジメ。多分その実態は、そのうち明かされると思われる。
僕は、会長よりもこの2人が怖い。……特に笑顔が。笑顔でガン見されたら、僕死ぬかもしれない。それを余裕でかわすのは会長。なんたって変人だから。
裏生徒会に入った理由は、「流生といれば、面白いことが起きるから」だそうだ。
会計:小林 純(こばやし じゅん)(二年二組)
つまり僕です。
一年のときに会長に拉致られて、何回も通う間にここに住み着きました。
やっぱり楽しいんですよね。変人の近くにいるのは。
帰宅部だったこともあり、暇だったから、裏生徒会やってます。
僕は変人じゃない。そう信じたいです。
以上4人のメンバーで、今後お送りいたします。
「光先輩、明先輩、今日のプロジェクトは、表生徒会、会室のお菓子を取ってくる。だそうです」
「あ? また表生徒会かよ」
「どうせ奈海が目当てでしょ」
あー先輩方が、不機嫌に……。
「おーい。三か条を忘れたのか? っくそー脛はいてー」
プチップチッと、今度は脛毛を抜く会長。
「「あほじゃね」」
毎度のことながら、佐川兄妹は息ぴったりですね。
「覚えてるよ。三か条くらい」
「「一、会長をイジメよう!
一、会長をけなそう!
一、会長をハゲさせよう!」」
「えー俺スキンヘッドは嫌だよ。でも脛がスキンヘッドならいいなぁ」
「会長そこですか!? しかもそれを言うなら、スキン……脛? じゃないですか!」
「「おー小林ナイスツッコミ」」
「そこで脛の英語がわからないのも、また小林らしい」
笑い続ける佐川兄妹。
何度見ても呆れてしまうこの光景にも関わらず、未だに「いてーいてー」言いながら、脛毛を抜く会長。
「さてさて、今日のプロジェクトだが」
会長は、脛毛を爪でつまみながら話す。
「「はいはい」」
軽い返事をしながら、棚をあさり始める2人。
「とりあえず取る! 以上」
「「あった」」
うわー2人とも聞いてないし。まぁ会長のことだから、ろくな計画はないと思ったけど。
「「流生、目瞑れ」」
「おー」
なんて単純なんだ。会長、言われたままに目瞑ってるよ。疑うってことを知らないのだろうか。
ピタッピタッ。
2人がニヤニヤと怪しい微笑を浮かべながら、作業を進める。
ビリッ――
「いってぇー!」
「「ガムテープ作戦大成功!」」
佐川兄妹、ガムテープを手に、なんて楽しそうなんだろう。2人とも、何もしなければ美男美女なのに。
「お前らー」
おっ会長がついに怒るのか?
「脛がすべすべ~」
「「「やっぱりアホだ」」」
しまったつい僕も声が出てしまった。
まぁこんな会長だから、佐川兄妹はいくらイジメても楽しいのだと言う。
「さぁて、脛もすべすべになったところで……行きますか」
そう言って会長は立ち上がった。会長の周りに、毛が落ちているように見えたが……見えなかったことにしよう。
ぶっちゃけ気持ち悪い。言ったら殺されるけど。
「えーこちら星影。表生徒会、会室前。応答どうぞ」
「いや会長。僕ら、会長の目の前にいますけど」
なぜか、4人が至近距離に集まる。
「えーこちら佐川兄妹。以上ありません」
こういうといき、いつも会長をバカにする2人も悪ノリをする。
このままだと絶対に見つかると思うんだけどな。だって、会室の前にしゃがんでるだけだし。
「小林隊員、小林隊員。会室内の状況確認どうぞ」
「えっ僕?」
「「声がデカイ」」
「あっすいません」
どうしてだ? 何でこんなに近いのに、3人とも手を口に当てる?
「先輩、その手の意味は?」
「「「バカヤロー!」」」
「通信機に決まってるだろ」
「事件は会議室で起きてるんじゃない。現場で起きてるんだ!!」
「リアルを目指すんだろ?」
「「「だから面白い!」」」
「あっはい……」
3人はなぜか、こんなときだけ息が合う。
ってか、本当の意味は名言を言いたかっただけじゃないだろうか。
「小林さっさと確認!」
僕はしぶしぶ顔を上げて、会室の中をのぞく。
「だっ誰もいないです」
「「バカヤローお菓子だよ」」「なんだ奈海さんいないのか」
えっえー!?
やっぱり変人集団じゃんか。
僕はまた、腰を上げる。
じろじろ。
「先輩ありました! ブラ●クサンダーです」
「「「ちっ」」」
3人で舌打ち!? あのー僕、怖いんですけど。
「生徒会のくせに、ブラ●クサンダー?」
「「ショボ」」「金持ちだな」
「「「は!?」」」
三人で顔を見合わせる。僕はこの空気に入っていけない。
「「ダセーだろ」」
「なんでだよ。俺なんてうま○棒だぞ?」
「「それはうま○棒に、失礼だろ」」
「あーそうだよな。うま○棒も美味いよな」
「「うんうん」」
ずっずれている。いや、3人の中では噛み合っているのだろうか。
僕には理解できない。まだまだ修行不足だな。
「さぁ気を取り直して。こちら星影、こちら星影。突入準備入ります、どうぞ」
「「佐川兄妹ラジャー」」
「えー小林も了解です」
廊下の端にしゃがんで、4人で敬礼って……痛々しい光景だな。
「それでは……」
4人で顔を見合わせる。
「「「「とっつnew~!」」」」
ガラッ――
4人の視線の先……ブラ●クサンダー!
「ブラ●クサンダー位置を確認」
「やっぱり奈海さんいない」
「「「いやいやいやいや」」」
「会長、奈海さんがいたら、プロジェクト失敗だから」
うん。どうしてここまでアホなんだろう。まぁ言わないでおくけどさ。
「ブラ●クサンダーで我慢するか」
「「おいおい、それはブラ●クサンダーに失礼だろ」」
「ブラ●クサンダーだって一生懸命にそこにいるんだ」
「ブラ●クサンダーも美味しく食べられたいんだよ」
2人とも、さっき「ショボ」って言ってた気がするんですけど。
「悪かった、ブラ●クサンダー」
これは、この空気変えなくちゃな。
「先輩、これなんですか?」
「「「金庫!」」」
先輩方、目が輝きすぎです。ブラ●クサンダーが可哀想です。
しかしながら、これは犯罪にならないのでしょうか。
今は気にしないようにしましょう。
「あっけよーぜ!」
そう言って会長が金庫に近づき、暗証番号付きの鍵に手をかける。
「えっと奈海さんの誕生日は……」
「「「キッモッ」」」
やば。また僕までつい、口に出てしまった。
「ダメだー。誕生日じゃねー」
「こういうときは荒療治だろ」
光先輩? 笑顔が怖いですよ?
ガターン!
「いってぇー!」
背中と頭を同時に押さえながら、悶える会長。光先輩が蹴った勢いで、頭から金庫に突っ込んだのだ。
そりゃあ、痛いだろうな。
「「ふっ」」
佐川兄妹、だから怖いって!
「ハゲるよー」
「ハゲさせるの目的。なんたって三か条の一つだし」
「脛もハゲるかもよ?」
「まじ? 脛ハゲる? ならいいや」
嘘だろ……。どこまで単純なんだ!
「ちょっとかーしーてー」
明先輩が鍵を手に取る。
カチャ……
「「「開いた!?」」」
明先輩恐るべし。
「先輩何で番号知ってるんですか?」
「いやだって……」
「嘘だろー!」
「「うるさい流生」」
「だって……だって……」
崩れ落ちていく会長。すすり泣く声。
「何入ってたんですか?」
僕はちらっと金庫の中を見た。たくさんの資料が重なる横に貼ってあった、一枚の写真。
「奈海さんと……高田先輩だ。やっぱりお似合いだなぁ」
写真には仲良さげに寄り添う2人の姿。
「番号は2人の記念日」
「奈海と明は友達だしな」
そんな僕らの会話を、呆然と聞き続ける会長。
「お……お前ら……まさか、知って……」
「「うん」」「はい」
会長は、驚いたような、ショックを受けたような顔をしている。うん。可哀想だ。
「嘘だろ。嘘だろ……何で言わなかった!?」
「だって、なぁ」
お互いの顔を見る僕ら。
「「「面白いから」」」
「裏切り者ー!」
机の上においてあったブラ●クサンダーを手にして、会室を飛び出す会長。
「やけ食いだー!」
廊下へ出た会長の後を、追ってみる。
「うおー!」
叫びながら、ブラ●クサンダーに噛り付きながら、廊下を爆走する会長。
ドテッ……。
「「「うわーだせぇ」」」
顔面から、大の字になりながら転んだ。まさに我ら会長にふさわしい姿。
「帰って毛抜きだー!」
ソッコー立ち上がり、また走り出す会長は、面白いにもほどがあった。
消えていく会長の姿。
「「「バカめ……」」」
りゃっ略奪!?
僕は、今日もまた薄暗い裏生徒会会室へ向かう。
でもなんだか今日は、足が重い。
だって絶対めんどくさい会長がいるから。
「こんにちはー……」
「うっうっうっ……」
はぁ……やっぱり。
僕の目の前に現れたのは、すすり泣きながら、肘の毛を抜く会長。
「うー奈海さんー」
会長は最近失恋をした。
それから毎日この調子だ。
ずっとすすり泣きながら、身体の毛を抜く。
会長の「毛がない男はモテる」という、無駄な勘違いは健在だった。
「こっ小林ぃぃぃ!!!!」
会長、その顔はヤバいかと。
男泣きですか?
光先輩~明先輩~早く来て下さい!!
僕はもう限界です!!
「2人が来るよ~」
いっ以心伝心!?
「「ちーっす」」
会長地味に怖いんだよな……。
そんなことはともかく僕は佐川兄妹に「先輩助けて!!」という眼差しを送る。
「「はぁ……」」
ニヤリ。
先輩方!!笑顔が怖いよー!!
「流生ー泣くなよ~」
「まだ諦めるな!!」
嘘だ!!
佐川兄妹が優しい言葉を発するなんて……嘘だ!!
なんて言ったら絶対殺される。
笑顔で……。
「おっお前らー!!」
抱きつこうとする会長。
それを軽くスルーし、言葉を続ける。
「「つーことで、流生略奪しようか」」
今日も佐川兄妹は息ぴったり!!
そして何か企んでいました。
それはもう凍りつくような笑顔で。
「俺今は無理だよ。だって今夏だよ!?毛が生えるの早いんだよ!?」
いやいやそれは関係ないから。
人は体毛で人を選んだりしないから!!だぶん!
高田先輩だって体毛生えてるよ!?ぼーぼーだよ!? たぶん!
とか言っても、信じなさそうだから言わない。
「チ○ルチョコやるから頑張ろうぜ」
「ちっチ○ルチョコだと!?光、お前金持ちだな」
さっきまで泣いていた会長の目が輝いている。
※会長は貧乏なわけでなく、何故かお菓子に対してだけ倹約家(佐川兄妹情報)
「ブラ●クサンダーのが良かったか?」
「いや。うま○棒よりは、全然豪華だ」
先輩方……何十円の世界だよ。
とか言ったら殺されるから、僕は言わない。
なんと空気の読める人間なんだ、僕は!!
「「今回のプロジェクト……奈海を略奪せよ!!」」
「おっおう……」
自信なさげだなー会長。
佐川兄妹はめっちゃ楽しそうだし。
趣味である会長イジメを満喫してるな。
でも僕は絶対2人は、もっと企んでいることがあると思う。
大人の勘ってやつだ。
プチップチッ――
指の毛を抜く会長。
抜く毛も地味になっている!!
そこまでテンションが落ちているということなのか!?
「まず高田から調べるか。明よろしく」
「はいはい」
明先輩はほとんどの生徒の、データを持っているらしい。
……じゃあ僕のも!?
聞くのは怖いからやめておこう。
聞かないほうがいいこともあるさ。
「三年二組、高田悠(タカダ ユウ)バスケ部部長。爽やかかつ硬派。勉強は、学年1位とまではいかないが、トップクラス。性格は、優しくリーダーシップがあり、活発。まぁみんなに好かれるタイプ。レベルで言えば、上の中くらい。私から言わせてもらえば、非の打ちどころがなくて、つまらないヤツかな」
うわーそんな人いるんだ。
僕には縁がなさそうな人だ。
「一応、会長は……?」
「一言で言うと、全てにおいて中の下」
めっちゃ省略された!!
しかもビミョーすぎる。
チラッ――
そっと会長を見てみる。
ずーん……。
くっ暗い!!
暗すぎるよ会長!!
もはや足の指の毛を抜いているし。
会長、そんなとこ抜いても、靴下履くから見えないよ!?
「会長大丈夫です!! 高田先輩、テストはトップではないですよ!?」
じー。
会長なんでそんなに、佐川兄妹を睨むんだろう。
「「俺(私)がトップ」」
さっさすが……まさに上の上。
もうさ、会長勝てなくないですか?
諦めたらいいんじゃないですかね!
「「ちなみに小林は中の中」」
「なんで僕の言うんですか!?」
わかってるよ。どうせ僕が中の中、よくもなければ悪くもない。なんともいえない位置にいることはなんてとっくの昔から知ってたよ!
「この際みんな暴露だろ」
「小林は本当につまらんな」
かっ悲しすぎる。
俺の立場って悲しすぎるだろ!!
「ド・ン・マ・イ」
会長なんですかその笑顔は!?
会長にだけは言われたくねー!!
つか僕、会長には勝ってるし!!
「会長、高田先輩に勝てるんですか?」
「勝て「「勝てない」」……る」
会長の声が薄れていく。
「そんなにきっぱり言わなくてもいいじゃん」
「あー会長?兄の指の毛を抜くのは、やめましょう?まだ何か手はあるはずです」
「本当か?」
……多分。
「「コクれ!!」」
光先輩、明先輩それは、唐突すぎるでしょ。
「俺には無理だよー」
会長そういうの、弱気なんだよな、なぜか。
「奈海の隣にいたくないか?」
「奈海を奪いたくないか?」
奈海さんの隣に会長?
似合わねー。
とか言ったら、きっと殺される。
俺はいったい脳内で何度先輩方に殺されているのだろう。
「俺、頑張るよ」
えっまじ?
頑張っちゃうの!?
「「おう!!頑張れ」」
先輩方のせちゃダメだって。
まさかこれも狙いですか!?なにか企んでいるんですね!僕は察しましたよ!
「「いってこい」」
「流生、いっきまーす!!」
ガン○ム風!?
立ち上がり会長は、裏生徒会会室を出て行った。
立ち上がれ~♪ 立ち上がれ~♪ りゅうせい~♪
廊下の方で「ガタンッ!!」という音がしたが、聞こえなかったことにしよう。
「先輩方、大丈夫なんですか?本当にコクったりしちゃったら……」
「「そんな勇気はない!!」」
いっ言い切った……。
「さてと。見に行くか~」
「面白い光景が見れるぞ、小林♪」
「はっはぁ……」
一階、自動販売機前――
「あっ会長いた。……なんか顔がキモい」
ニヤニヤとしながら、ジュースを眺める会長。
「「と・な・り」」
「えっ?」と思いながら、隠していた身体を少し前に出す。
「なっ奈海さん!?」
会長の隣にはちゃっかりと、というかしっかり奈海さんの姿が……。
チラッ――
やっべ。
会長と目が合った。
「「「キモッ」」」
会長……もう略奪は無理だよ。
なにあの顔! なにあの笑顔!
でれでれというより、もはやぐちゃぐちゃなあの顔!!!
「みーんーなーっ。みてたっ?みてたっ?」
どっどうしよう。
会長の周りに花が見えるよ。
「じゃじゃーん! 奈海さんの隣、ゲットしました!!」
光先輩、明先輩がドン引きし過ぎて、言葉が出ない?
敬礼してニコニコしていれ会長は、アホオーラを出しまくっていた。
「あの……会長?」
「「よくやった流生!!」」
えっ?
「あともう一押しじゃないか」
「頑張れ頑張れ」
せっ先輩!?
またドン引きしたいんですか?
またあの顔を見させられるんですか……。
「ラジャー!!」
まぁ会長楽しそうだし、実際僕も楽しいし、いっか。
プロジェクト成功させないとな~100%無理だけど♪
って僕、最近黒くなってないか?
まぁ気にせずいこう!!
「流生もっと高度な、隣を目指そうじゃないか!!」
「もっもっと隣か……」
「頑張れ流生!!」
「頑張って下さい会長!!」
僕も合わせてみる。
「よしっラジャー!!」
2週間後――
会長の教室、確か七組だよな~。
僕はちょっと会長に用事があったため、会長のクラスへ向かっていた。
あっ。
「光先輩~明先輩~」
「「小林ちーっす」」
「何やってるんですか?」
「「流生観測」」
そんな天体観測とか、植物観測みたいに言われても。
「ねぇ聞いてー最近隣の席の人が気持ち悪いの」
「えっなんで?いい人そうじゃん」
「なんか、ずっと笑ってるんだよね」
僕と先輩方の後ろを、話ながら通ったのは、間違いない。
奈海さんだ!!
「先輩、嫌な予感がします……」
「「ウケる、まじウケる」」
来ましたよ。出ちゃいましたよ。
佐川兄妹の微笑みが。
絶対めちゃくちゃ楽しんでるよ。
会長、何もしなかったらいい人そうなのになぁ。
なんて残念な人なんだ。
「僕また落ち込む会長、慰めるの嫌ですよ」
「「いいんじゃね?言わなくて」」
「奈海が気持ち悪いって言ってたことばれなきゃいいんだからさ」
「もうしばらくあの気持ち悪い笑顔見ていたいじゃん?」
せっ先輩方怖いよー。助けてー!!
チラッ――
ニヤニヤ。
やっぱり。
奈海さん、会長と同じクラスだ。
やっぱり。
会長の隣の席、奈海さんだ!!
「「「可哀想ー奈海(さん)」」」
会長ではないことを、キツく言っておきます。
決して会長が可哀想なのではありません。
奈海さんが、可哀想なんです。
そこんとこ、ご理解いただきたい。
「会長ー」
「おぉ!!みんな来たか!!」
会長は会室以外では、毛を抜かない。
奈海さんがこれ以上気持ち悪くさせないで、本当に良かった。
本当に良かったと、心から思う。
「見ろ!!隣だ」
「「「うん(はい)良かった(です)ね」」」
「おう!!」
はぁ。
僕は願います。
早く席替えが行われることを。
「「「ドンマイ」」」
「え?」
「「「いや。なんでもない(です)」」」
僕らは最初からわかっていましたよ。
今回のプロジェクトが成功しないことを。
でもまさか犠牲者が出るとは……。
僕らは今回のプロジェクトで大きな後悔と罪悪感を知ったのであった。
奈海さん、負けないで!!
確かに変人です。ものすごく変人です。
でもいいところがあるかも知れない!!(多分)
だから奈海さん、諦めないで!!
僕ら裏生徒会一同(会長を除く)は、奈海さんと高田先輩が、末永く仲良しでいることを、心から願っています。
でないと……大変なことに、なりますよ?
突撃!!会長の休日
「「おはよーございます」」
「おっおはようございます」
※早朝ドッキリではございません。
佐川兄妹から、朝の8時に呼び出された僕。
今日は休日だから、ゆっくり寝てたかったんだけどな。
逆らえないのです……はい。
ちなみに待ち合わせ場所は、会長の自宅前。
なんか来たら2人して隠れてるし。
これは絶対に何かを企んでいます。
これも佐川兄妹の暇潰しなのです。
皆様どうか僕らにお付き合い下さい。
大丈夫です皆様に変なことはしません。ではお楽しみ下さい。
「今回、リポート&アフレコを担当します。佐川兄こと光です」
「佐川妹こと明が、解説&アフレコを担当させていただきます」
「「そしてゲストは、中の中で有名な小林純くんです!!」」
「どもです」
中の中……それけっこうトラウマなんですけど……泣
この状況を簡単に説明すると、今回のプロジェクトは「会長の休日をリポートせよ!!」なわけで。
佐川兄妹の急な思いつきで、会長の休日を観察することとなりました。
※もちろん会長はこのことを知りません。
「それでは、ローマの休日のごとく……」
「「会長の休日スタート!!」」
「おっ、おー!!」
8時半――
ガチャ。
「さぁ流生選手、家を出ましたよ。どこへ向かうのでしょう」
選手?
まぁ気にせず。
「流生の1日を考えると、あそこしか思いつきませんね」
「どこですか?」
「「ここ」」
そこは歩いて1分のコンビニだった。
「さぁ流生選手、コンビニに入りました!!ちなみに今後、アフレコの場合"*"が付きます」
「我々も突入しますか」
僕らはコンビニに入り、雑誌コーナーへ行き、立ち読みを始めた。
普通なら気づくだろう。
だがさすが我らが会長!!
全く気づかない!!
*「やっぱり朝は、これから始めないとなー」
ニヤニヤ。
……えっ!?
成人向け雑誌コーナー!?
世で言うエ○本ですか会長!?朝からエ○本!?
会長どんだけ盛ってんですか!?
*「朝は……ミルクティでしょう」
「流生一目散にドリンクコーナーへ向かいます」
ほっ。
なんかこれじゃあ、僕が盛ってるみたいじゃないですか。
お恥ずかしい。
*「今日はどのミルクティにするかなぁ~」
*「今日は調子がいいから、奮発するかなぁ~」
*「いやでもー」
ミルクティとにらめっこをする会長。
優柔不断にも程がある。
*「これだー!!」
素早くドリンクの扉を開ける会長。
「流生選手、満面の笑みで二本同時買いです!!」
「余程機嫌がいいのでしょう」
絶対奈海さんの隣の席になったからだ。
お菓子に対しては、どケチなのに……。
「先輩、終わりですが?」
「いやいや、まだ続くぞ」
「流生選手、続いて剃刀の前に!?」
「剃刀に向かって、ガンを飛ばしています」
「ちなみに……新商品だ!!」
*「なっ何!?剃り味抜群!?これであなたもツルツルだと!?」
*「これで俺もツルツルに……そしてモテモテに……」
ニヤニヤ。
「先輩そんなアフレコ、会長可哀想ですよ」
「「流生の好感度を下げるためだ」」
先輩方そんなんじゃ2人の好感度も……。
まぁ2人には、顔がありますもんね。
なんて不公平な世界。
どうせ僕は中の中……泣
「好感度って」
「聞くんだ小林!!」
『会長面白い~』
『会長好きかも』
「などと思っている読者様がいたらどぉする!?」
「目を覚ましてさしあげなくては」
会長……今回だけは、今回だけは同情します。
「さてさて、明さん、未だに流生は何かと葛藤している模様です」
「光さんー剃刀をガンつけして葛藤なんて、流生は頭がおかしいです」
会長!!早く決めて下さい!!
どんどん会長の変人度が上がってきています!!
*「ツルツル、モテモテ」
*「いやでも俺は、自分の手で抜くというポリシーが……」
アフレコと同時に、首を振る会長。
3人の息は、今日もぴったりです。素晴らしい!!100点!!
って僕は何をしているんだ。
*「俺はポリシーを貫くんだー!!」
「おっ何かを手にして、レジへと向かいました」
「あれは……流生のお気に入り、うま○棒コーンポタージュ味!!」
「何故か優越感に浸っているような、顔をしているのは気のせいでしょうか」
きっと会長は、何かに勝ったんだ!!
「さてさて流生選手、コンビニを出ましたよ。どこへ向かうのでしょう」
「流生のことだ、変なところへ向かうに決まってる」
テクテクと、ゆっくり歩く会長。
……止まった?
「「「近っ!!」」」
会長が来たのは、コンビニの隣にある公園だった。
ほとんど動いてない。
なんか、おじいさんの隣に座ってるし。
一息ついた会長は、ミルクティを飲み始めた。
*「若いの、何しとるんじゃ?」
おじいさんが話し始めた!?
*「ミルクティ飲んでます。おじいさんも飲みます?」
いやいや会長。
絶対そんなこと聞いたんじゃないです。
ミルクティ飲んでるとか、見ればわかるじゃないですか。
*「わしゃそんな洒落たものは飲まん!!」
サクッ――サクッ――
うま○棒を頬張りながら、おじいさんと話す会長。
「なんか、和んでますな」
「先輩方、全然不自然に見えないのは、僕だけですか?」
「自然過ぎて怖いな……」
木の後ろに隠れながら、会長の観察を続ける。
「今度は鳩が集まって来ましたね」
「会長は動物に好かれるタイプなのか」
「人間には好かれないけどな」
アハハ……否定はしない。
「なんか流生、ポケットから何か取り出したけど」
……。
「「「食パン!?」」」
「おもむろに鳩に餌をやり始めたー!!」
*「ほらーいっぱいお食べー」
パクっ。
「今度は自分で食パンを食べたー!!」
*「そしてミルクティで流す!!」
*「おじいさんもどうですかー?」
*「わしゃそんな喉につまりそうな物は、食わん!!」
ずいぶん頑固なおじいさんだなぁ……。
*「おたべー」
パクッ。
*「おたべー」
パクッ。
もはや鳩より、会長の方がたくさん食べている気がする。
……。
「あれ?会長の手が止まりましたよ」
「あれあれ」
明先輩が指示す方向を見る。
「奈海さん!?」
*「なっ奈海さんだ!!」
あたふたしだす会長。
*「あっ挨拶した方がいいのかな。奈海さんミルクティ飲むかな」
会長!!ダメです!!
もうミルクティには、会長の口がついています!!
そんな奈海さんを汚すようなこと、してはいけません!!
……。
「また会長止まりましたね」
「ほら」
今度は光先輩が見ている方向を見る。
「あっ高田先輩だ。これはもしや……いやもしもしなくても」
「「「デートだ!!」」」
仲良さげに、幸せそうに歩く2人。
「皆の衆!!流生に注目だ!!」
「「「……」」」
うわ……。
食パンやけ食いしてるし。
それ鳩の餌じゃないわけ?
*「うおー!!」
*「どうした若いの」
*「食パン食べています。おじいさんも食べますか?」
*「だからそれは食わん!!若いのわしより耳と頭が悪いのか?」
*「はい!!」
いやいや会長。
もう頭パニック状態じゃないですか。
もともと頭は、おかしいのかも知れないけど
鳩が会長を見てますよ!?
食パンが欲しいって見てますよ!?
このままじゃあ会長が、食べられちゃいますよ!?
……いやそれはないか。
会長美味しそうには、見えないし。
パクパク、ガブガブ。
食パンを頬張り、ミルクティで流し込む。
もはやただの食事じゃないですか。
「あーあ会長、食パン食終わっちゃった」
餌がなくなったことを、察したのか、飛び去って行く鳩たち。
本当にドンマイな鳩。
この餌が無くなりつつある、ご時世にさ。
野生の世界は大変だろうに……。
今後も頑張って、生きるんだぞ!!
僕は心の中で、鳩にエールを送る。
*「それじゃあ、おじいさん。また今度」
*「達者でな」
立ち上がる会長。
「さてさて流生選手、続いてどこへ向かうのでしょう」
「またコンビニの方へ、向かいましたね」
テクテクと歩く会長。
その背中はどこか悲しげだった。
「あのーここって」
「「家だね」」
「えっ終了!?」
「「終了」」
えー会長近いよー。
行動範囲、狭すぎだよー。
つか、食って終わりじゃん。何もしてないじゃん。
佐川兄妹のアフレコが、面白かっただけじゃん。
なんか会長がもっといろんなとこ行くの、見なかったんですけど。
わざわざ朝早く起きて、来たんですけど。僕の睡眠時間返して下さいよ!!
「それでは皆さん」
「「またお会いしましょう!!さようなら~」」
「さっさようなら」
また……あるんだ。
それにしても華がない番組だなぁ。
いや、佐川兄妹がいるから華はあるのか。
じゃあ僕の役割は、何だったんだ?
ただついて来ただけ……。やっぱり僕は、まだまだだな。
だからと言って、会長とか佐川兄妹みなくなりたいわけじゃないけどね。
「「小林お疲れ!!」」
「お疲れ様でした」
「また学校でな~」
「サボるなよ~」
ははは……。サボりませんよ。
「さようならです」
「「じゃあな~」」
そして僕は、とぼとぼと家へ帰る。
クソー!!絶対残りの時間をエンジョイしてやる!!
次の月曜日――
会長が、
「いや~コンビニで~剃刀が……公園で~鳩とおじいさんが……そんで奈海さんが……」
と、話し始めたのは言うまでもない。
ついでに言うと、僕の休日も、課題を終わらすという、なんともつまらない日になってしまったわけで……。
あれですよ。どうせ僕は、中の中ですから。
映像提供:裏生徒会
監督:佐川光
脚本:佐川明
主演:星影流生
出演:
おじいさん
鳩
水瀬奈海
高田悠
コンビニの店員
通行人A・B
素晴らしくも残念な思いつき
皆さん。今日は僕の最近の悩みを聞いて下さい。
実は……どうしても、頭から会長が離れないんです。
助けて下さい!!
僕に会長が、ずっと付いて来るのです。いつでも会長が僕の脳裏にいるんです。
コンビニへ行き、ブラッ●サンダー、うま○棒を見る度に……会長。
公園へ行き、鳩を見る度に……会長。
最近になっては、自分の身体の毛を見るだけでも、会長は現れるのです。
これは病気なのでしょうか?
もし解決法を知ってる方がいましたら、こちらへ連絡をくれるとありがたいです。
↓↓↓↓
〒000-0000
○○県×××市△△町……
「はぁ」
治まることを知らない悩みに振り回されながら、僕は今日も裏生徒会会室へと向かう。
頭の中に住み着く、会長がいるせいか足どりは重い。
「こんにちは」
「ぬぬぬ……」
また毛を抜いて……ん?
会長の目の前には、何冊かの雑誌が積んである。
「会長これなんですかー?」
僕はペラペラと、雑誌をめくってみる。
「……は?……え?」
「俺はハエじゃねー」
会長のことはスルーして。
「ファッション雑誌!?」
あの会長が!?
この会長が!?
……ファッション!?
僕、会長の制服とジャージ姿しか、見たことないんですけど。休日もジャージだったはず。
「小林、俺、芸能人になろうと思うんだ」
「はっはぃい!?」
その顔で!?
って危ない危ない。
会長、真面目な顔、真面目な口調なのに、太ももの毛を抜きながらだとちょっと……。
「冗談やめて下さいよー」
「俺は本気だ」
確かに目は本気なんですけどね……爪で毛を摘まんでる分、冗談にしか聞こえない。
「来るぞ」
目をギラギラさせながら、佐川兄妹が来ることを知らされても、リアクションに困る。
「「ちーっす」」
このエスパーに慣れてしまった自分が怖い。
「光、明、話がある」
「なんだよー」
「どぉせ下らないことでしょ」
2人はだらだらと会長に近づく。
「「で?」」
「俺、芸能人になる」
「えっ?ポ○ョ、人間になる?」
「それは無理でしょ。ポ○ョ魚だし」
「あれはジ○リだから可能なんだよ」
なんか、会長可哀想。
『それは無理!!』ということを、あからさまかつ侮辱的に、表現しなくても。
会長、取り残されてるし。
「ねぇト○ロって何?」
「怪物?」
「ソ○ィーって人間?」
「魔女?」
もはや会長、放置プレイ!!
ジ○リの話で盛り上がっているのか。
やたら伏せ字が多いな。
「目立たない人間は、ただの人間だ!!」
おっ!!会長頑張れ!!
「えっ?飛べない豚は、ただの豚だ?」
「豚って飛んでもただの豚だょねー」
「そのうち絶対いい匂いしちゃうよー」
「「あははははは」」
もはや笑えない……。
佐川兄妹怖いし。
ジ○リファンの皆様、まことにすいません。何も言えなくなってる会長は、涙目だし。
「「つーことで流生は無理!!」」
「カッコよくないしー」
「バカだしー」
「変人だしー」
「髪ボサボサだしー」
「私服ダサいしー」
「センスゼロだしー」
その後5分、会長に対する悪口?は続いた。
「うっうっう……いいもんいいもん」
会長!!足の指の毛を抜きながら、泣くのは止めて下さい。
あなたはダダをこねる、幼稚園児ですか?
いや……幼稚園児でもこんなダダのこねかたしないか。
あれ?この光景どこかで見たことあるぞ?
まさかのデジャブ!?
しかし改めて考えると、僕は凄い人に囲まれて生活しているな。
いつしかこれが当たり前に。
そして頭の中には会長が……。
僕はどうすればいいんだ!!
恐ろしい……恐ろしすぎる。
「よしよし」
僕はしばらくの間(仕方なく)、会長の背中を擦ってあげた。
この人、僕の先輩だよな。僕、後輩だよね?
「会長、大丈夫ですか?」
もはや要介護ってヤツですか?僕、この年で介護福祉師になれると思っていませんでした。
「なぁ流生?試してみるか?」
ふっ不敵な笑み!!
「なんだよー光ー」
「大実験!!流生はスカウトされるのか!?」
「裏大実験!!どれだけ流生はダサいのか!?」
佐川兄妹…絶対「裏」のが本物だ。
「そうか!!」
いやいや会長何がですか?
「お前らにはわからないだけだ!!みんなには俺の良さがわかるに決まってる!!」
会長…そんなに目、キラキラされても。
それに「裏」の方聞いてました!?
「芸能人になるためにまずはスカウト…うん。悪くない!」
って会長本当にスカウトされるって思ってるんですか!?
自分のことカッコい…これ以上言わないようにしよう。
なんが僕がバカらしくなってくる。
「さぁて。そうと決まれば~」
プチップチッ。
そこ毛抜きかよっ!!
カッコいい制服の着こなしするんじゃないの!?
今どきの髪型にするんじゃないの!?
会長…僕には会長の名前のような輝きは、見えません。
お願いします。
ニコニコ気持ち悪く笑ながら、毛抜きをしないで下さい。
また…またまたまた、僕の頭から離れなくなるんです。
魔の連鎖…誰か、助けて下さい。
SOS!!
セカ○ュー並みに叫びます。
助けて下さい!!!!!!
だが叫んでも一生抜け出せない。会長の毛ほど浅い穴には入ってないんだ!
そう思うのは僕だけでしょうか?
誰か僕に励ましのお手紙を下さい。
「「小林どれにいくら?」」
「はっはい?」
「賭けだよ。賭ーけ」
「先輩そんな会長が、スカウトされるわけないじゃないですかー」
みんな「スカウトされない」に賭けるんだから、意味がない。
「「当たり前だろ」」
やっぱり即答ですか。
あれ?じゃあ何を賭けるんだ?
「俺か明、んでスペシャルゲスト誰が一番スカウトされるか」
「「さぁ!!誰に賭ける!?」」
そうか…これが裏大実験の方ね。
それにしても2人は、スカウトされる前提なんだな。
「そうゆうことですか」
僕が入ってないことが少し悲しいですが。
まぁ言っても恥をかくだけなので、言いません。
「「さぁ誰!?」」
「あのースペシャルゲストって誰ですか?」
未だに不敵な笑みの佐川兄妹。
「「秘密」」
秘密って。でも2人と並ぶってことだよな?
期待出来るよな?
たまには中の中、普通の世界から抜け出せ!!小林純!!
「スペシャルゲストに1000円!!」
「「了解。お楽しみに」」
こっ怖い。
駅前周辺――
「先輩、スペシャルゲストって誰ですか?」
ルンルンしている会長を横目に、僕は尋ねた。
賑わっている駅前の中で美形が2人。もちろん注目の的だ。
「「もうすぐ来…」」
「響輝が来る!!」
響輝?
尋ねるように、僕は首をかしげた。
「あぁ、流生の弟ね」
「それで、スペシャルゲスト」
えぇ!?会長の弟!?
かっ勝てるわけがない!
あぁ…僕の1000円がぁ…。
今にも泣きそうです。佐川兄妹に騙された…。
僕の悲しみをよそに、佐川兄妹は誰かと話をしていた。
2人とも、もうスカウトされたのか。
ちらっ。良かった。
会長気づいてない。
「おい。兄貴」
つっついに弟の登場?
一体どれくらい「変人」なのだろう。
「おっ響輝。あっ、小林ははじめましてだよな?」
ゴクリ…。会長の弟…。
僕は恐る恐る、会長の方へ振り返った。
「えぇ!?本当に会長の弟!?佐川兄妹の弟ではなくて!?」
「俺に似てイケメンだろ?」
僕の目の前に立っていたのは、会長の100倍…いや1000倍カッコいい男の子だった。
これは…勝てる!!
「はじめまして。星影響輝(ホシカゲ ヒビキ)中3です。お願いしますから、兄貴とは一緒にしないで下さい」
「小林純です。よろしくお願いします」
もちろんです!決して会長と同じなんて思ってません。
「なんだよ響輝照れちゃって」
「黙れ兄貴」
「たく…ツンデレなんだから」
いやいや会長、ツンデレの使い方おかしいから。
デレ0だから。会長、響輝くん大好きなんだな。
響輝くんは、会長のこと嫌いっぽいけど…。
それに、あの冷たい眼差し…佐川兄妹そっくりだし。
本当に兄弟なのか?
「小林、そっくりだろ?」
「えっ?えっとー」
「兄貴まじ黙れ。小林さん困ってるだろ」
たっ助けて下さい…光先輩、明先輩…ってまたスカウトされてる。
「あのーすいません」
「はっはい」
僕たち3人に、スーツを身にまとった男性が声をかけてきた。
「私、こういう物です」
そう言って僕たちに名刺を差し伸べてきた。
芸能事務所 レインボー
社員 笹本浩太郎
「「「芸能事務所!?」」」
「是非ともあなたを、私どもの事務所のモデルとしてスカウトしたいのですが」
笹本さんの眼差しの先は…
「俺ですか?」
「はい」
やっぱり、響輝くんでした。
あぁ…怖くて会長の顔が見れない。
ちらっと会長の手を見ると、その手は今にも毛を抜きたそうに見えた。
「あっ俺、そういうの興味ないんで」
あっさりと断る響輝くん。
「話だけでも…」
「俺が聞きます!!兄が代わりじゃダメですか?」
いやいや会長。
「お兄さんでしたか。って、嘘はいけませんよ」
笹本さん!?
わかります。そう思われるのもわかります。
でも一応…一応兄弟なんです。
ほら、あの、その…。どうしよう…似ているところが見つからない。
「あっあなた、私どもの事務所で芸人としてデビューしませんか?」
「「「げっ芸人!?」」」
「はい。このルックス、そしてこの面白さを味方につけたようなオーラ…あなたは芸人になるべきです!!」
どっどうしよう…。笑いがこらえられない!
「「ぎゃはははは」」
「流生、芸人って…」
「「ぴったりすぎだろっ!!」」
ちょっと先輩方いつから!?
まぁ、俺がこっそり吹き出したのカモフラージュ出来ただろうし。
「あ、お二人もどうですか?」
笹本さんは、佐川兄妹にも名刺を渡す。
「あ、俺ら興味ないんで」
「それよりも…」
「「流生をよろしくお願いします!!」」
先輩方、ニヤニヤし過ぎでしょう。
「お前ら…」
あっヤベ。会長忘れてた。
「何、ニヤニヤしてんだよ!!」
「痛っ」
そう言って叩いた相手は…僕だった。
僕、ほとんどとばっちりじゃんか。
いや、そりゃー多少は笑いましたよ?
ほんの少しは、ニヤニヤしちゃいましたよ?
だからって、そこは怒るのさっきから大爆笑してる佐川兄妹でしょう。
「もーやめだ!!やめやめやめっ!!」
そう言って会長は学校への道を歩き始めた。
「あっちょっと会長?」
「そういうことなんで、すいません笹川さん」
会長と違って、礼儀正しい響輝くんは笹川さんに軽くお辞儀していた。
「流生も飽きたみたいだし帰るか」
光先輩も飽きたように見えるが…まぁ触れないでおこう。
「待って下さいよ会長」
そして僕ら4人は会長を追った。
日は既に傾いており、柔らかい光が会長を照らしていた。
「ゲームしゅーりょー!!」
僕らの方を向いたかと思うと、会長は大声でそう叫んだ。
「「「「ゲーム?」」」」
「そうさ、ゲームさ」
「「「「は?」」」」
「君たち、まだまだだね」
某人気マンガの主役にでも、なったつもりなのだろうか。
「俺が本気で芸能人にでもなろうと思ってたと思うか?」
「「「「…………」」」」
「ゲームだよ、ゲーム!!」
どうしよう。だんだん下らなくなってきた。
「題して…誰が一番モテモテ!?ゲーム!!どんどんパフパフ」
うわ。
効果音まで自分でやってるし。
「そして結果発表!!」
「今日のビリは…告白0の小林だぁぁ!!」
「は、はい!?」
もしかして…いや、もしかしなくても、
告白=スカウト
だよな…あ、確かに僕0だ。
でも会長…。
「小林さん」
僕が会長に反論しようとしたのは、響輝くんだった。
響輝くんの顔を見ると、今言ったら面倒なことになりますよ。と書かれていた。
ああ、そうか。会長の扱いが一番上手いのは、響輝くんなのか。
「小林~罰ゲームとして、ブラッ●サンダーな!!」
ちくしょー!!
自分が、芸人にしかスカウトされなかったからって。
って、抑えるんだ僕!!
ねちねち後から毛を抜かれるより、ブラッ●サンダーを渡し、ニコニコしながら毛を抜かれたほうがいいじゃないか。
そうだ!!
その方が抜かれる毛たちにも、いいに決まってる!!
はぁ…。
皆さん、僕の悩みは一生付きまとうようです。
でも今日、ひとついいことを知りました。
響輝くんという、心強い味方がいることを。
これから少し、頑張っていけそうな気がします。
会長が抜こうとしたって、僕だけは耐えてみせます。
会長が届かない、背中の毛にでもなってやります。あれ?毛にはなれないか。
って、自分が会長の身体の一部だと考えただけで悪寒が…。
やはり、僕の頭の中心は会長になってしまったのだろうか。
そんなの…いやだぁぁ!!
さて、今、僕だけスカウトされなかったというちょっとした虚しさが押し寄せているのは、ここだけの話で。
会長対策のお便りは、随時募集しております。
「はぁ」
ため息混じりの中、ブラッ●サンダーでも買いに行きますか。
会長の思いつきなど、ろくなものなどない。
それに振り回されてる僕って…。
…………何も言わないで下さい。
裏生徒会