苦いミルクキャンディー
甘いミルクキャンディーがほしい。ただ、それだけ。
「お前にとって俺は、ただの遊びなわけ?」
まだ口に含んだばかりの、大きなミルクキャンディーを舌で転がす。ほんのり甘い。
「なんで?」
ミルクキャンディーがだんだんと、溶けていくのが分かる。
まとわりつく甘さは嫌いじゃなかったのに。
「可愛くねぇ女。俺ら別れよ」
「うん」
小さくなっていくミルクキャンディー。
私は決して噛んだりしない。
私からあなたのことは嫌いにはならない。
「はぁ……泣いたり、引き止めたりしないのな」
「うん」
どうして私が泣くの? 引き止めるの?
だって私は、決してミルクキャンディーを噛んだりしないもの。
甘いままつつまれていたいでしょ?
「お前、俺のこと好きだったか?」
「……うん」
小さな間。
だって私には“好き”なんて感情は、分からないもの。
嫌いにはならない。その代わり好きにもならない。
ただ、誰かと一緒にいたいだけ。それだけの理由じゃ、いけないの?
それを好きと言っては、いけないの?
溶けることの知らない、甘い甘いミルクキャンディーを求めては、いけないの?
「もういい。じゃあな」
「うん」
溶けていくミルクキャンディー。
どんどん小さくなって……そしてなくなる。
後味が、ほんのり苦いミルクキャンディー。
じんわり広がるミルクキャンディーの苦味が、心にまで伝わる。
何度経験しても、やっぱり苦い……。
でもそんな私は、また最後は苦いと知っているミルクキャンディーに手を伸ばす。
だって知っているもの。最初は甘いって。
だって知っているもの。何回も食べればいいんだって。
そして私は、ミルクキャンディーを口に含んだ……。
今度こそ最後まで甘いミルクキャンディーに出会うために。
苦いミルクキャンディー