目の前の少女を

終わりの始まり

 僕が目を覚ましたのは、自分の部屋だった。重いまなこを擦りながら視界に広がったのはいつも見る真っ白な天井だ。窓際にベッドを置いているので、カーテンから光が眩しいほど射しこんでいるのがわかる。
 そして今日の朝が静かなことに気づいた。毎日騒がしい目覚まし時計が鳴っていないのだ。今まで僕は目覚まし時計がないと起きた試しがないのでセットし忘れたことはなかった。ということは僕は昨日なにをしていたのだろう。そう言えば、昨日の記憶が全くないのだ。もしかすると昨日一日中眠っていたから、眠りすぎて起きてしまったのかもしれない。そうすると一昨日はなにをしていたのだろう。その前の日はなにをしていたのだろう。それほど疲れるようなことをしたのだろうか。しかし、僕は記憶がないという出来事は経験したことがなかったために思い出す方法がわからない。昨日のどこまで憶えているかと問われれば僕はなにひとつ答えることもできない。まるでいままでのことが全て夢だったかのように有耶無耶なのである。
 なにはさておき、ずっと思索していても埒が明かないので携帯電話で日にちと時間を確認し、月曜の朝七時であることがわかった。つまり学校に行かなくてはならない時間だ。僕は思い出すことをやめて登校する準備を始めた。僕は必ず朝食を食べる。それは物心がついたときからずっと変わらない習慣であり、母の手作り料理が絶品なのだ。
 そこで僕はあることに気がついてしまった。リビングから母の声と料理の匂いがしていないのである。いつもはキッチンで食材を包丁で切る音や、母の鼻唄が聞こえてきたりする。僕は学校の準備を急いで済ませたあと、恐る恐る階段をおり、リビングに向かった。
 すると母の姿は案の定なかった。母の部屋はなく、リビングのソファで寝るのが日課なのでリビングにいないとなると、手洗い場かごみ出ししかない。
 手洗い場に行ってみたけれど扉は開いていたし、二階の窓から辺りを見回してもごみ出しのところには誰もいなかった。きっとどこかへ出掛けたのだろうと思い込み、僕は気を取り直した。
 時計を見ると針が二十分近くを指していた。遅かれ早かれ、学校に行かなくてはならない。言いようのない不安が僕を苦しめているのが居心地悪かった。

 兎に角、外に出ればなにかわかるかもしれないと思った僕は、騒ぐ心臓の音を聞きながら鞄を掴んだ。そして激しく玄関の扉を開けた。

目の前の少女を

目の前の少女を

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-26

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