アンチ

良い子は読まないように(笑)

passing point

「ほら、起きてよ」


日曜日の朝だと言うのに嫁と子供は早起きだ。


「小学校のバザーに行くって言いよったやん」


前の日の晩に浴びるほど飲んだ私の記憶の奥の方にピカッと光る記憶の欠片。


「そう言えば言いよったね」酒の残る体をお越し洗面所の前に立つ髪はボサボサ、無精髭。


「30過ぎりゃ、みんなこんなもんだろう」自分に言い訳しながら顔を洗い寝癖をなおすのを諦めた、朝御飯もそこそこに小学校へ向かう、車に乗り込んだ俺に嫁は、


「だいぶ、残っとうみたいやね」勿論、酒の話で匂いがするって笑ってる、子供も一緒に、「臭い、臭い」と笑ってる。


夫婦二人に、娘も二人の普通の家庭にありがちな3対1の光景、帽子をかぶった頭をゆらしながら。


「やかましいわ。あー、しんど」


小学校に着くと、子供達は走り出す、いつも遊んでいる場所で遊具の取り合いが始まる。

「コラッ、今日は先に中で買い物するんだから、遊ぶのはあと。」嫁の声が響いて、子供達が走って戻ってくる。事務室前の入口に着いた時に懐かしさが込み上げてきたが横に置いてある巨大液晶テレビを見た瞬間に「俺達の頃には無かったな」と、時代の流れを感じた、小学校のスリッパを勝手に借りて歩き出すと、


「こんなに、小さかったっけ?ちょっと縮んだんやない」と、嫁が笑って言っている、二日酔いの私は、ウンウンと、相づちだけを打つと、嫁はふてくされている。

以前、クリスマスのイルミネーションが始まったと私に言うと、


「電球に群がるのはお前と昆虫くらいやぜ(笑)」と、言って張り手が飛んで来たのでちらっと見ると鼻をクンクンしながら「カレーの匂いがするって」と走り出した子供を追いかけていた。


調理室ではカレー、うどん、ポテト等が売られていた、子供達がポテト、私は、カレー、小学校のカレーは旨いって思い込みだけでツイツイ買ってしまった、カレーを食べ終えた私は、図書室の中だけが異次元の静かさだな、と一人で図書室に入った、「オッ、ガキの頃に読んだなコレ」と、本を一冊、手に取ると開いて小さな椅子に座った。


二日酔いのせいか、目が回る。少しだけ目を閉じて瞼を押す更にクラクラするがもっとも効果的な、気がして毎回、やってる。


すると、突然。


「八神(やがみ)先生、時間ですよ」40後半であろう女性が、私に声を掛けた。


「はっ?私は竹西(たけにし)で八神なんて名前やないんですが」と声を返すと、女性は少し間をおいて、「なん、言いよんね先生。寝惚けとらんで早く行かないと、生徒が待ってますよ」と、背中を叩かれた。


良く見ると、服が変わっている、ファーの着いた革ジャンにジーパンだった俺の服は濃紺のスーツになってるし、短髪の茶髪だった髪は、これ以上無いですってほどのピッチリ中分け年は二十歳そこそこ、図書室のガラスに写った自分に愕然とする、そりゃそうだ、俺が教師、中卒の俺が。

見たことのある図書室だから岩田小学校だろう。図書室に入っただけで中卒の竹西靖((竹西やすし)が八神先生になってる、何でだ?つーか、俺の嫁と子供は、子供達が待ってる?何年なん組や?分からん、夢か握力70の俺は太ももをツネッた。

何やこの体?痛いには痛いが、手を弛めて腕を捲ると、小学校の時の俺の腕のように細い、何度握っても痛いが、痛くない。いろいろな、葛藤と戦いながら、


「とりあえず、職員室に行ったらなんとかなるやろ。」後ろ向きな考えを全否定して図書室をあとにした。


つづく…

アンチ

アンチ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted