沈黙の音


町を歩く。
わずかな電灯が深い闇を切り裂いていた。
潮の臭いが鼻をつく。

路地を歩く自分の足音や布の擦れる音がこだまして町の沈黙を引き立てている。自分の心音が民家の、住人を起こすのではないかと不安になるほど静まっている。
強くなる潮の香。
道をまっすぐ進んだ。風はなく生ぬるい空気が首筋をなめた。

波の音がはっきり聞こえた。
姿の見えない波が静かに静かに打ち寄せていた。
あぁ、帰ってきた。

波の音以外何も聞こえることはなく、それがかえって静けさを目立たせていた。
そのまま、浜を歩く。砂浜の感触を確かめながら音だけを頼りに海に近寄る。
濡れた。足首に波が、届いた。
少し冷たい。自然に涙がでた。気づけば膝まで浸かってる。
あぁ心地いい。このまま行こう。
真っ暗な海。何も見えない。ただ海は私を受け入れてくれた。

沈黙の音

沈黙の音

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted