琥珀

どうして人の時は短いの?


お前を置いて行くのは辛い。
だが私の時は今終わろうとしている。
いいかい、お前はこうして何度も人の終わりを見るだろう。
その度にお前は泣くだろう。
けっしてこの悲しみに慣れてはいけないよ。
人に寄り添って生きるのなら、優しさを、悲しみを、忘れてはいけないからね。


おいてかないで!
やだよひとりぼっちにしないで!
待って……



深い山。
青い空。
たくさんの動物達が暮らすこの森は、僕の家。
白い花がたくさん降る季節までは、木の実や色とりどりの花が咲き乱れる美しい山。
白い花が降ってからも、山は顔を変えて美しくなる。
川が氷って中の水がきらきら輝き、白く彩られた木々は静かに森を見守る。
主のような姿の生き物が全くいない僕の家は、昔からの生き物の住処だった。





琥珀!今日はもう花をつみに行ったのかい⁈

あ!いけない忘れてた!
煤け提灯さん行ってきまーす!

慌てて井戸水を汲むのをやめると、琥珀は森へ駆け出した。
まったく…と腕を組むと、煤け提灯は小さく笑った。
琥珀は、化け狐の子どもだ。
人間と狐のあいだに生まれた琥珀は、生みの親のいる村から追い出され、
山を彷徨っているところを主に拾われてきたのだった。
主は自らが親となり、まだ歩くのも危なっかしい琥珀に色んなことを教えてやった。
新入りが山に来たと聞きつけた住人達は、すぐに主の所へ集まって
泣いてばかりいる琥珀を離れたところから見ていた。
狐など珍しくもなかったが、人間との間の狐となれば話は別だ。
ここは人ではないものの山。
どうやって迷い込んだのか。
不幸を招く悪い物なのではないのか。
様々なことを囁く住人達に主は言ったのだ。

この子はただの小さくて泣き虫な子狐。
そのように悪い目で見てやるな。
お前達までそう騒いでは、この子はどこへ行くと言うのだ。
見た目がどうした。大事なのは外見ではないだろう。
泣き虫な子狐を、今日この時から家族として迎えようではないか。


それから小さくて泣き虫な子狐は 琥珀 と名付けられ、
様々な外見の家族達に大事に育てられた。
転んでは泣き、木登りが上手く行かなくて泣き、上手く思いを伝えられずに泣き、
女の姿の者に抱きしめられては泣き。
とにかくよく泣く子だった。

かあ様を思い出すの。
顔もわからないけど、柔らかいにおいとかあったかい温もり…

夜が怖いと泣いた時は、女共で代わり番こに眠るまで抱きしめてやった。
母性が働いたのか、ほっとけないのだった。

琥珀

琥珀

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-24

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