うぇんずでぇい。
私が実際に夢で見たことをもとに、以前から頻繁に取り組んでいた『詩』として書いたもののイメージをさらに膨らませ、小説にしてみました。
ちなみにその詩の内容はこちらです↓
『うぇんずでぇい』
ある日の、なんでもない水曜日。いつもと変わんない帰り道。
だけど、なんとなく胸騒ぎ。してた…
車道を挟んだ反対側の歩道。
走る車の音にかき消されながらも聞こえてきた。
私の名前を呼ぶ声。多分、あなたが呼ぶ声。
ふと横を見てみると、叫ぶあなたの姿があった。
きっと夢だと思った。だって帰る方向真逆でしょ?なんで…?
そしてまたあなたが叫んだ。私の名前とは違う言葉。
「好きだー!」
私、耳を疑った。あなた、あの子が好きでしょ?と。なんか勘違いをしてた。みたい…
あまりにも嬉しすぎて、私、声も出せなかった。気づいたら車道の真ん中を走っていた。
クラクションの音も、怒鳴る大人達の声も、今の私にとっては最強のBGM。
あなたにたどり着いたとき。それが私の片思いストーリーの最後の句点。
そして、2人のストーリーのプロローグ。
プロローグ
一人は嫌いだ。
生まれてからずっと一人っ子をやっているのだから、そろそろ慣れてもいいはずだが、どうしても一人は苦手。学校にいるときも、一人でいるとどうしても寂しくなる。何よりも、周りから「友達がいない可哀想なコ」などと思われるのが嫌だった。私なんかにそんなこと、誰も思わないとはわかっていても、やっぱり周りの目が気になってしまうんだ。
でも結局、今日も一人で帰っている自分がいた。
ある日のなんでもない水曜日。いつもとなんら変わりない帰り道。いつもの景色。いつもと同じ時間に、いつもと同じスピードで歩いてた。
だけどなんとなく胸騒ぎがしていたのも事実。
まぁそれもいつものこと。毎日毎日胸騒ぎがする。「今日こそは、いつもとは違う何かが起こるんじゃないか」「特別なことが始まるのではないか」と。
でも結局何も起こらず、時間だけが過ぎていくんだ…。
いつもなら…。
けど…。
1章 胸騒ぎの原因
「桜庭!」
私のことを呼ぶ声が聞こえる…気がする…。しかもアイツの声…。
考え過ぎね。アイツがここにいるわけないもの。
「桜庭ーー!!!」
もう一度聞こえた。しかも今度ははっきりと。
ふと歩道の反対側を見ると、そこには叫ぶ、アイツの姿があった。アイツと私の通り過ぎる車の音にかき消されながらも、しっかりと、その声は私に届いてきた。
でも…なんで?帰る方向真逆でしょ?それにもう、こんなに暗くなってきているのに。
冬本番。その言葉が似合うほどに、冷たい空気。早くにおちる日。そんな中、アイツはいた。驚きと困惑で、何一つ言葉が出なかったけれど、私が気づいたこと、アイツにはわかったらしい。
「☆○※×¥%!」
アイツが、また何か叫んだ。私の名前とは違う、別の言葉。
「好きだーーー!」
私、耳を疑った。だってあの子が好きなんでしょ?私なんかじゃなくて。なんかとんでもない勘違いをしてた…みたい。
気づいたら私は走り出していた。車道のど真ん中突っ切って。アイツのもとへ。
田舎とはいえ、車の通りは比較的多いこの道。でもそんなこと忘れて、アイツのもとへ向かってた。激しく鳴るクラクション。大人の怒鳴る声。でもそれは、今の私にとって、最強で最高のBGM。
私がアイツのもとにたどり着いたとき…それは私の片思いストーリーのピリオド。
2章 つまらない生活:回想
私はいたって普通の中学生。特に何が得意って訳でもない。一応、バレー部に所属して、レギュラーとして試合に出ていたけれど、それはもう、とうに昔のことに思える。今は受験のために部活は引退した。
自分で言うのもなんだが、勉強はできるほうだ。だから地域で一番の高校に行こうと考えている…とはいっても田舎だから大したレベルではないので、それほど必死に勉強しなくても入れるだろう。
だから余計に今は何もない、つまらない毎日を送っている。部活もない、勉強に力を注ぐわけでもない。
こういうと、とても根暗な印象がするだろう。でもそんなことはない。クラスではよくはしゃぐほうだし、男子とも分け隔てなく喋る。いたって明るいキャラだ。
ただ、サバサバした性格のせいか、色恋には全く縁がない。
3章 私にとっての恋:回想
そんな私も中3になって、やっとまともな恋をした。
そりゃあ、今までだって気になる人くらいはできたことがある。でもそれはいわゆる『クラスの人気者』何人もの女子から告白されてるような人。人気者なだけあって、運動もできるし、皆に優しい。少し積極的に話しかけてみる。でもそこまで。結局は何もしないで終わる。「人気者が私になんか振り向くはずがない」そんな冷めた想いで。
それが私にとっての恋だった。今までは…。
4章 特別なアイツ:回想
でもアイツは違った。早乙女駿翔(さおとめ はやと)。
私的にはかなりの美形だと思うし、優しさもあると思う。でもほとんどの女子は寄り付かない。いかんせん『無愛想』なんである。
まず女子とはあまり話さない。話したとしても必要最低限。男友達は多いようだが、休み時間は基本的に本を読んでいる。友達が近くにいれば積極的に話すが、そばにいなければいないで別に構わない、本があるから…そんな感じだ。いつでもどこかムスっとしてて仏頂面。確かにちょっと怖い雰囲気はある。愛想笑いなんて、死んでもしないタイプだろう。
でも何故か、私と駿翔は縁がある。
くじ引きで決まる席はいつも近く。前にいるときもあれば後ろにいることもある。席が近いから当たり前なのだが、生活班もいつも一緒だ。適当に決めた校外学習の班にも駿翔はいた。
そのせいもあってか駿翔とは仲良くなった。他の女子には何も言わなくても、私には何かと言ってくるようになったし、私との会話の中では微笑んでくれることも少なくなかった。駿翔が教科書を忘れたとき、隣の女子に借りて一緒に見るのは気まずいからと、わざわざ駿翔の後ろの席だった私に、教科書を見せてくれるよう、頼んできたこともあった。
その時くらいからだ。駿翔のことが気になりだしたのは。
なんとなく他の女子とは違う態度で接してくれるのは嬉しかったし、特別な感じがした。
部活も頑張っていて、私を含め、多くの人が部活を引退するなか、駿翔の所属する陸上部はまだ大会があるからと練習を続けていた。駿翔は長距離。かなり速いのは知っていた。バレー部の基礎トレーニングとしてランニングをしていたとき、幾度となく抜かされた。サッカー部、バスケ部、テニス部…いろんな部活がランニングするなかで、駿翔はいつも速かった。どの部活の選手もあっという間に抜いていった。
そんな姿も重なって、いつの間にか、駿翔が好きになっていた。
5章 気になる噂:回想
でも駿翔には好きな人がいるという噂があった。クラスで一番可愛い子。私から見たらいわゆる『ブリっ子』でしかないのだが、男子はそんなこと、知る由もないことくらいはわかっている。
しかもその子も駿翔と同じ陸上部。実は駿翔は始め、サッカー部だった。でも入学早々、陸上部へ転部した。それはその子が好きで、同じ部活になりたかったから…というのがもっぱらの噂だった。
そんなこともあって、私はいつものように、心のどこかで冷めていた。
6章 いつもとは違う恋:回想
でも、いつものようにその気持ちが自然消滅する…というわけにはいかなかった。何をするにも駿翔が気になってしまう。授業中にもなんとなく眺めてしまうし、休み時間も駿翔が自分の席で読者をしていないと心配になって、つい目で追っていた。
こんなことは初めてだった。いつもは気になる人がいても、他の男子より、ちょっと多く喋りかけるくらいだったのに、駿翔のことは頭から離れない。話しかけようとしてもうまくいかない。そして気づかされた。これが恋なんだと。話しかけようと思っても、気持ちばかりが空回りし、他の人と話すようにうまく話せない。恋とはそういうものなんだ。歯がゆく、もどかしい、始めての感覚に戸惑った。
それでも駿翔には好きな人がいる。諦めようと、必死で自分の気持ちを抑えようとした。駿翔を嫌いになる理由を探そうと、自分でもよくわからないもがき方をしていた。
7章 不安なアイツの晴れ舞台:回想
駅伝大会。駿翔はこの大会のために受験が迫っても引退せず、練習を続けてきた。前にも言ったが駿翔は速い。陸上部では長距離のエースだ。この大会でも、重要な第一走を走る。
会場はこの私たちの町。今日ばかりはこの田舎町も道路を封鎖し、町全体が戦いのフィールドになる。いわば、町をあげての大イベントだ。
それに今年は駿翔を含め、選手の6人中3人がうちのクラスの生徒だ。だからだろう。クラスメイトは応援に行く人がほとんどだ。私も友達に誘われ、行くことにした。
この大会はこのあたりでは珍しく大規模で、百校ほどが参加する。私は第一走者である駿翔から第二走者へのバトンタッチ…その直前あたりで応援することにした。町全体での行事だということもあり、沢山の人が見にきている。
しばらくすると一位争いであろう集団が見えてきた。
でも…そのなかに駿翔の姿はなかった…。
二位集団、三位集団…たくさんの集団が目の前を通り過ぎていった。でもやはり、駿翔の姿は見あたらなかった…。
もう集団が来ることはなく、まばらに選手が通り過ぎていくだけになった。それでもなお、駿翔は来なかった…。
ひょっとしたらもう既に通り過ぎた集団の中に紛れていたのではないか。それならまだいい。
もしかして、怪我をしたのではないか。そんな不穏な考えが、頭の中でかき混ぜられていく…。
しかし、来た。駿翔だ。
ホッとしたのもつかの間。フォームがかなり乱れている。きっと今、駿翔はキツさのピークなのだと私は悟った。
「駿翔!頑張れっ!」
そう何度も叫んだ。周りには友達もいる。もしかしたら私がこんなに必死に応援しているのを見て、驚いているかもしれない。でも今の駿翔の姿を見たら、恥ずかしさなんて忘れて、無我夢中で叫んでいた。
駿翔と目が合った。私に気づいたみたい。本当に短い時間だったけれど、確かに私と駿翔はアイコンタクトを交わした。グッと目に力を込める。ただひらすらに「頑張れ」と。
駿翔のフォームが少し整った。ラストスパートに入るようだ。距離的にそのタイミングだったのか、私の応援のかいあってなのか、それはわからない。でも確実に目つきが変わり、スピードも上がった。
私は遠ざかっていく駿翔の背中に向かって、声をかけ続けた。
8章 誇り:回想
後になって知ったのだが、駿翔は第一走者のなかで、ビリから三番目だったらしい。
カッコ悪いと思った人も多かったと思う。でも、私にはとても誇らしかった。第一走者はどこの学校もエースを出してくる。いわば精鋭ぞろい。そのなかでよく頑張ったと思う。
何よりあのラストスパート。駿翔は今までに見たことがないくらい輝いていたし、とてもカッコよかった。
だけど、駿翔はそうじゃなかったみたい。エースである自分が、チームを引っ張っていけなかったことがショックで仕方ないようだ。いつもの駿翔なら明るく話しかけてくるし、「応援ありがとう。」くらいはちゃんと言う奴だ。だけどよっぽど気にしているようで、しばらくは目を合わせてくれなかった。私もそんな駅伝大会の話題に触れるわけにもいかず、ただ見守るしかなかった。
お互いにいろいろと心残りはあったが、私も駿翔も、あとは受験を残すのみとなった。
9章 近づく不安:回想
そんななか、ついに受験が近づいてきた。駿翔とは同じ高校を受験する。それは別に驚くことではなかった。駿翔は例の駅伝大会前から、勉強でも地道に努力を重ねていた。休み時間に読んでいた小説本を参考書に持ち替え、勉強していた。おかげで駿翔への近寄り難い雰囲気は倍増し、女子は全くと言っていいほど寄り付かなくなったが、成績はグングンと上がったと聞いている。私も最終的には必死に勉強した。もちろんいくら勉強に熱中しても、駿翔のことは頭にへばりついたまま、離れることはなかったけれど…。
10章 受験当日のサプライズ:回想
そんなこんなしているうちに受験当日。受験会場に入って驚いた。隣だったのだ。駿翔と。受験席が。確かに同じ中学校だから、受験番号は近かったけれど、決して隣り合った番号なわけではなかった。それなのにも関わらず、私と駿翔の席は隣だったのだ。どこまでこいつと縁があるのだろう…と、心底びっくりしたけれど、そんなこと関係なしに受験は始まる。無我夢中でやった。それ以外の記憶は正直ない。
ただ…
「やめ」の合図のあと、解答用紙が回収された。そのときにほんの少し見えた駿翔の解答用紙。半分も埋まっていなかったように思う。とても心配になった。そして、こんな状況…自分の人生が左右されるであろう、この受験という状況で駿翔のことばかり心配している自分が、なんだかとても滑稽だった。
11章 自分よりも:回想
合格発表日。受験から合格発表までの一週間は長い長い一週間だった。その日は雨降り。傘をさした大勢の受験生が、合格者の受験番号が張り出されたボードを熱心に見つめている。たくさんの重なり合う傘のせいで、なかなか番号を確認できない。
そして私はようやく見つけた…駿翔の受験番号を。
正直、自己採点の時点で自分が受かっているだろうことは確信していた。だから自分の受験番号を確認することは、たいした目的ではなかったのだ。
駿翔が受かった…駿翔と同じ高校へ行ける…そのことが頭の中を駆け巡った。
次いで自分の番号も無事見つけることができた。その後は、特別駿翔にかける言葉も見つからなかったので、そのまま家へと帰った。
しかしその出来事が起こったのは、その合格発表からわずか3日後のことだった…。
エピローグ
そして今。
今も駿翔は私に微笑みかけてくれている。
それがこれからも続きますように。私は今も、これからも、願い続ける。
うぇんずでぇい。
いかがでしたでしょうか?
この作品は私にとって初挑戦の小説なので、試行錯誤の末、やっと投稿することができました。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。