鑑賞記録-映画「ある戦慄」より
1967年、ラリー・ピアーズ監督。チンピラを演ずるは、トニー・ムサンテとマーティン・シーン。
こうしたある限定された空間において、濃密に掘り下げられるドラマは、小手先でなく体当たり勝負になるからよい。下手な設定や表面的でしかない展開に気をとられることなく、人間と人間が出会うことによって事態は変化をみせる。脚本がドラマを生むのではなく、場に存在する人間こそがドラマを生むのだという確信が与えられるようだ。
本作を非常に気に入ったが、しかしこれを現代に置き換え、何らかの作品として発表するにしても、なかなかに困難だろう。そもそも“密室”が有する魅惑的なドラマは、想像以上に成立しにくい。現実問題、インターネットがあれば「いつ」「誰とでも」「どこでも」瞬時に繋がりあうことが可能な時代。“密室”という空間、“隔離”という状況そのものが、幻想の中に埋没し、ほとんど過去の産物と化している。進歩によって便利を獲得すればするほど、我々が当たり前に有していたドラマ<闇>は消滅していくのである。
しかし、もしこれら利便を、上手く条件として排除することに成功したらどうなるか。想像するだけでも恐ろしい。我々は自らの身を自らの手で守らねばならず、科学に比べ人間自体はさほど進化をとげていないことを痛いくらいに思い知らされるだろう。
鑑賞記録-映画「ある戦慄」より