秘密戦隊ゴレンジャー #3

 人里離れた山奥――
 黒十字軍の兵士ゾルダーたちが見張りをする中、機材が大規模に組まれ、科学者とおぼしき男たちが何かの実験を行っていた。
 ロケットの中に組みこまれる謎の装置。
 そして、ロケットは、ボーリングされた穴を通って地下深くへと下ろされていく。
 最深部に到着したことを確認し、車に乗ってその場から離れるゾルダーと科学者たち。向かったのは、実験場を見下ろせる崖の上。そこには、全身を重厚な青銅の鎧で覆った怪人――青銅仮面が待っていた。
「準備完了しました」
「うむ。新火薬爆破テスト、開始!」
「はっ」
 青銅仮面の命令に従い、科学者がスイッチのレバーをオンにした。
 直後、大地を激しい震動がゆるがし、巨大な爆炎が地面を割って吹き出した。
 立ちのぼる煙は、大きなまがまがしいキノコ雲となって空に広がった。


× × ×


 黒十字軍・秘密基地――
 闇の中、巨大な十字を背にして立つ謎の人物。
 白い覆面とローブで正体を隠したその男を前に、青銅仮面は胸を張って言った。
「黒十字軍総統、お喜びください。新型爆弾のテストは成功いたしました。あとはゴレンジャーのアジトを探し出し、仕かけるのみです」
 青銅仮面の声に力がこもる。
 黄金仮面、武者仮面と、すでに二人の仲間を倒されている。
 このままにしてはおけない――! 青銅仮面は拳を強く握りしめた。


× × ×


 黒十字軍の研究所から、一人の科学者が外に出てきた。なぜか、見張りのゾルダーたちから身を隠すようにして。
 離れた場所にある林に入った彼は、一片のフィルムを伝書鳩の筒の中へと入れた。
「頼むぞ」
 そう言って彼は、鳩を空へと放した。


× × ×


 スナックゴン――
 カウンターに座り、大岩大太はいつもと同じようにカレーを食べていた。
 と、彼は、食事をしながらぶつぶつ、
「であるようでもあるし、でないようでもあるし」
「ん?」
 カウンターのむこうで新聞を読んでいたマスターが、けげんな顔で大太を見る。
「なに、じろじろ見てんだよ?」
 大太は、思案顔で視線を宙にさまよわせていた。と、そのままの体勢で空になった皿を突き出し、
「おかわり」
 マスターは、あきれながら皿を受け取る。
「おかわりもいいけどね、だいぶツケがたまってんだよ? ん?」
 近くにいたウェイトレスの陽子が、思わず吹き出す。
 そこへ、常連の若い女性二人が店に入ってきた。カレーのおかわりを受け取った大太を見て、こちらも苦笑し、
「大岩さん、いつも食べてるのね」
「そうかのう?」
 カウンターに座った二人に、マスターは笑顔を見せ、
「何にしますか?」
「これ」
 マスターの前に、折りたたまれた紙片が差し出された。
 笑顔が消え、それを広げるマスター。出てきたのは、一枚のフィルム。そして紙片には研究所とおぼしき建物の図面が描かれていた。
 マスターは何も言わずにそれを懐にしまい、店の奥へと消えた。
 その数分後、
「む!」
 腕の通信機のアラーム音を聞き、カレーを食べていた大太が顔をあげた。そのとき、彼は初めてマスターがいなくなっていることに気づく。
 そばにいる陽子に、
「マスターは?」
「さあ?」
「またツケじゃ」
 そう言うと、大太はあわてて店の奥の扉へと向かった。


× × ×


 スナックゴンのあるビルの地下深く――
「みなさん、もうおそろいで」
 大太が秘密基地に到着したとき、そこにはすでに四人の仲間たちの姿があった。
 大太にむかって「しっ」と指を口に当ててみせる明。つられて、大太も自分の口に指を当てる。
 直後、大型コンピューターに備えつけられたスピーカーから声が放たれた。
「青銅仮面が新型爆弾を開発した。その破壊力は、地底五百メートルにまでおよぶというおそるべき威力だ。研究所から、爆弾の混合発火装置を盗み出せ。これは、003から送られてきた研究所の見取り図とマイクロフィルムだ」
 コンピューターから紙片とフィルムが出てきた。剛がそれを手に取り、さっそく仲間たちと共に目を通す。
 と、大太が、スピーカーにむかって話しかけた。
「総司令官殿」
「なんだ?」
「あんた、もしかしてゴンのマスターではなかとですか?」
 大太のその言葉に、剛たちも反応する。
 それは、全員がうすうす気づいていたことだった。スナックゴンの名前をヒントに、彼らはこの秘密基地に集められた。そのマスターがゴレンジャーになんらかの関わりがあると考えるのは当然と言えた。
 しかし、いまの彼らは、黒十字軍壊滅のため、特殊な仮面とスーツを与えられた秘密の部隊。仮面の力の謎もふくめ、与えられている情報は極めてすくない。それは、戦いに敗れ敵に捕らわれたとき、情報をもらさないための措置と言えた。すでにイーグル日本支部は、壊滅的な打撃をこうむっている。これ以上の敗北は、イーグルだけでなく、日本そのものの存亡にもかかわってくる。上層部が慎重になるのも当然だった。
 案の定、スピーカーからは怒ったように、
「そんなことはどうでもよろしい!」
「ゴレンジャーにまで正体を隠すことはなかとでしょう、水くさい。のう」
 仲間たちに同意を求める大太。
 しかし、彼らはすでに任務のほうへと意識を戻していた。
「よし、いい手がある」
 剛がそう言って、大太を見た。
「手を貸してくれ」
「あいな」
 総司令官のことをあっさり忘れ、剛と共に基地を出ていく大太。
 それを見送りながら、明はやれやれと笑みをこぼした。

 黒十字軍・研究所――
 夜になっても厳重な警備態勢が敷かれている建物。そのすぐ近くの林に、剛と大太は身をひそめていた。
「よし、行こう」
「あいな」
 剛たちは警備の一瞬の隙をつき、建物の中へと入った。
 薄暗い廊下を進んでいくと、
「やばい!」
 近づいてくる足音に気づき、二人はすばやく壁にはりつく。
「暗幕」
「はいな」
 用意していた黒い布で、身体を隠す。見回りをしていたゾルダーは、何も気づくことなく二人の前を通過していった。
「行こう」
「はいな」
 再び慎重に歩みを進める。
 途中通りかかった警備司令室で警備の状況を確認し、二人は目的の物がある部屋へと向かう。
 部屋の前で見張りのゾルダーを見つけるも、大太は何でもないという様子で近づき、
「やあ、ごくろうさん」
 気楽に返事をして、その脇を通り過ぎる。
 一瞬あぜんとなるゾルダーだったが、すぐ我に返り、
「おい、ちょっと待て!」
「なんか用ですか?」
 大太がふり返る。
 直後、後ろから近付いていた剛のパンチがゾルダーを一撃。これを気絶させた。
 チームを結成して間もないとは思えない絶妙のコンビネーションを見せつつ、二人は先へと向かう。
 と、
「待った!」
 剛が大太を止めた。
 指さした先の壁面――ちょうどひざくらいの高さに、赤外線の警報装置とおぼしき機械が設置されていた。
 剛が慎重に赤外線の上をまたぐ。大太も続こうとして、しかしすぐに気づく。自分の足の短さではまたげない……。すると、剛が下を指さす。大太はすぐにわかったという顔になり、あおむけで床に身体をこすりながら赤外線の下を抜けた。
 次の曲がり角に差しかかったとき、そこにはまたも見張りの姿があった。
 目配せする剛と大太。
 大太は、カバンからネズミのおもちゃを取り出し、見張りに向かって走らせた。
「ん?」
 おもちゃに気づいたゾルダーが、何事かと近づいていく。そこへ剛が飛び出し、一撃をくらわせ昏倒させた。
「バカじゃのう」
 大太が笑みをもらし、二人は順調に先へと進んでいく。
 と、再び剛が大太を止める。
 指さした先にあったのは、監視カメラだ。
「妨害だ」
「ほい」
 荷物の中から、機材を取り出す大太。
 特殊な電波で一時映像を遮断しているうちに、剛が素早く映写機でニセモノの映像を壁に映し出す。監視カメラからは、まったく異常なしに見えるように。
 そして二人は、ついに目的の金庫の前にたどり着いた。
 剛が警報とつながったケーブルを遮断し、大太が金庫のダイヤルを回す。
「見張りは三分おきだ。急げ」
 と、しばらくして、
「開いた」
 重々しい音をたてて、鋼鉄の扉が開く。そこには、
「あった!」
 目的の発火装置を見つけ、快哉をあげる大太。剛が慎重にそれを手に取る。
 任務を達成し、二人は足早に来た道を戻った。
 しかし、
「しもぉた!」
 ランプが赤く明滅し、警報音が鳴り響く。行きはぎりぎりですり抜けた赤外線に、一刻も早く脱出しようとあせっていた大太が引っかかってしまったのだ。
 二人はあわててその場から走り出した。
 装置を大太に預け、立ちはだかるゾルダーたちを次々と叩き伏せる剛。
 しかし、研究所の外に出たところで、二人ではとても相手しきれない数のゾルダーたちに囲まれてしまった。
 さらに、
「待てい!」
 勇ましい声と共に、月明かりに青い鎧を光らせた不気味な怪人――青銅仮面が、屋根の上に姿を現した。
「ジタバタしても無駄だ、ゴレンジャー!」
 大太の顔色が変わる。青銅仮面こそ、彼の所属していたイーグル九州支部の仲間たちを血祭りに上げた張本人なのだ。
「二人とも死ねい!」
 青銅仮面の手にした機関銃が火を噴く。
「逃げろ!」
 銃弾を避けようと、林に向かって走る剛と大太。
 しかし、二人の行く手をさえぎるように、突如として鉄条網が降りてきた。避けて行こうとするも、左右後方にも鉄条網が降り、二人は完全に閉じこめられてしまった。
「なんじゃい、こんなもの!」
 鉄条網を蹴り飛ばす大太。瞬間、火花が散り、二人は驚きのけぞる。力ずくで脱出することは不可能らしい。
「よし!」
「はいな!」
 うなずき合う剛と大太。
 その場でくるりと身をひるがえす。瞬間、二人は赤の戦士と黄色の戦士――アカレンジャーとキレンジャーに姿を変える。
「バーディー発射!」
「とうっ!」
 小型携帯飛行装置バーディーに点火し、アカとキは空中高く飛び上がった。
 そこに、上空で待機していたバリブルーンがやってくる。二人を収容したバリブルーンは、すばやく旋回した。
「ええーーーーーいっ!」
 青銅仮面が発砲するも届かない。
「あばよ」
 操縦席の明が笑顔で言い、バリブルーンは全速力で研究所を後にした。


× × ×


 翌日――
 黒十字軍研究所では、主だった警備兵や科学者たちが青銅仮面の前に集められていた。
「ゴレンジャーが、たやすく研究所に忍びこんだ。ということは、この中にスパイがいてあらかじめ金庫の写真を送っていたということだ。スパイは誰だ! 誰がやった!」
 声をはりあげ、部下たちを見渡す青銅仮面。しかし、当然と言うべきか、それに答える者は現れない。
 青銅仮面は取り乱すことなく、
「黙っていても……この笛はだませない」
 そう言って、手にした笛の先端を部下たちに順番に向けていく。
 と、科学者の一人を差した瞬間、笛の先端が警報音と共に光を放ち始めた。
「スパイはおまえだ! イーグルのスパイめ!」
 すかさず周りの者たちがその科学者を拘束する。白衣を探り、
「こんな物を持っていしました」
 小さな通信機を取り出して、青銅仮面にかかげて見せた。
「むう……」
 かすかなうなり声をもらし、通信機を手に取ろうとする青銅仮面。その場にいる全員の視線が通信機に注がれる。
 と、その一瞬の隙をつき、科学者がゾルダーを突き飛ばした。
 そのまま一目散に出口へ向かって走る。
 が、
「うっ!」
 かすかな悲鳴をあげ、硬直する科学者。
 その後頭部には、ちいさな矢が刺さっていた。青銅仮面の笛から吹き矢が飛び出したのだ。
 科学者が力なく倒れる。その顔が青銅仮面のような青黒い色に変わり、そのまま彼は絶命した。
 あらためて通信機を手に取る青銅仮面。
 そして、冷酷非情なる怪人は高らかに宣言した。
「この通信機を利用し、ゴレンジャーをおびき出すのだ!」

 ゴレンジャー秘密基地――
「さわらないで」
 発火装置に触れようとした大太の手を、ペギーがぱしっと叩いた。
「三種類の火薬がここで混合され爆発する仕組みだわ。そして、その威力は三倍ではなく九倍にふくれあがるはずよ」
 ペギーの説明に、周りにいた四人からうなり声がもれる。
「敵の狙いは俺たちだな」
 明がつぶやく。
「いや、こいつを仕かけられたら、ここにいてもお陀仏だ。何しろ地下五百メートルまでこれだからな」
 と言って、手で爆炎があがるさまを模してみせる。
「003のおかげだ」
「そうじゃのう」
 剛の言葉に、大太もうなずく。
「無事に逃げ出してくれれば……」
 そう剛が言った直後、
「!」
 非常通信を知らせるアラーム音が鳴り、一同に緊張が走る。
 通信機のヘッドホンに耳を当てた健二が言った。
「003から緊急連絡です」
 四人は、一斉に通信機に近づいた。


× × ×


 遠くに高層ビルを望む公園――
 大太は、落ち着かない様子で、園内をうろついていた。
「たしか003は、このあたりと言ったんじゃが……おかしいのう……」
 腕時計を確認する。待ち合わせの時間はとっくに過ぎている。
「どこ行ったんじゃい……難しいのう……」
 と――
 そんな大太を、近くのビルの屋上から見つめている人影があった。
 青銅仮面だった。
 青銅仮面は、手にした笛を口もとに当て、軽やかに吹き鳴らした。
 直後、公園の近くに停まっていた車が動き出す。車は、スパイ003と会うのをあきらめ公園を出た大太を、ゆっくりと尾行し始めた。


× × ×


 スナックゴンの前まで戻ってきた大太。
 と、店の中から、ウェイトレスの陽子の弟・太郎が姿を現す。
「大岩さん!」
「おう、太郎くん。なんじゃい?」
「ねーねーねー。パパがいやがるくだものなーんだ?」
「パパがいやがるくだもの……なんじゃろか? なんじゃろかのう……」
 首をひねりながら、大太は太郎と一緒に店に入った。
「なんじゃろかのう……? 太郎くん、教えてくんしゃい」
「パパがいやがるんだからさぁー、そりゃー、パパイヤ」
「なるほど! 太郎くんは賢いのう!」
 大きな手で太郎の頭をなでた大太は、カウンターに座り、
「マスター! カレーライス大盛りじゃ!」
 と、いつものメニューを注文する。
 マスターはあきれ顔になり、
「おい、カレーなんか食ってていいのかねえ」
「!」
 その言葉に敏感に反応する大太。いま大太が『カレーなんか食ってる場合じゃない』ことをマスターは知らないはずだ。
「マスター。あんた、やっぱり……」
「ハハ……冗談じゃありませんよ」
 大太の疑惑の目を、マスターは軽い調子で笑い飛ばした。
 と、そこへ、男女二人ずつの四人の客が入ってきた。
「いらっしゃい」
 そう声をかけたマスターの目が、不意にするどくなる。
 そこへ、健二、ペギー、明、剛も入ってきた。
「何になさいます?」
 先に来た四人の客に水を出し、陽子が注文を聞いた。
 そのときだ。
 四人が、何の前ぶれもなく拳銃を取り出した。
「!」
 店にいた一同に緊張が走る。
「動くな!」
「太郎!」
 男の一人が近くにいた太郎を引き寄せ、口元にハンカチを当てた。麻酔薬が仕こんであったらしく、太郎はすぐさま意識を失った。
「子どもに暴力をふるうとは許せん!」
 大太が怒りの声をあげる。
 すると、マスターも、
「そうだ。いま世間をさわがせている黒十字軍でも、そんな悪さはしねえぞ」
 マスターの言葉に、男がにやりと笑い、
「お察しの通り……我々は青銅仮面軍団!」
 言うなり身をひるがえす四人の男女。彼らは一瞬にして黒覆面の兵士・ゾルダーへと姿を変えた。
「しまった……!」
 大太が顔をしかめる。
「おいどんがつけてこられたんじゃ……。すいません!」
 マスターにむかって勢いよく頭を下げる。しかし、すべては後の祭りだ。
 ゾルダーが、剛に拳銃をつきつける。
「盗んだ物を返してもらいたい」
「そんな物は捨ててしまった」
「アジトへ案内してもらおうか。案内しろ!」
「……わかった」
 そう言って、店の奥へと歩き出す剛。ゾルダーがそのあとに続く。
 と、そのとき、
「ホイッ!?」
 悲鳴をあげ、首をおさえるゾルダー。なんと、マスターが包丁を投げつけ、それが見事に命中したのだ。
 動揺する他のゾルダー。その隙を見逃す剛たちではなかった。
 ペギーが、近くにいたゾルダーに手刀を叩きこむ。
 あわてて剣で斬りかかってきたゾルダーには明が立ち向かい、すばやく顔面に拳をくらわせる。そこへペギーが膝蹴りをくらわし、とどめをさした。
 と、剛が顔をあげる。
 不利を悟ったゾルダーが、太郎をつれて店を飛び出したのだ。
「キ! 逃がすな!」
「はい!」
 マスターの言葉を受け、すぐさま走り出す大太――
 が、扉を出ようとしたところでふり返り、
「マスター……やっぱりあんたは……」
「バカ! 急げ!」
「はい!」
 ひときわ大きな声で返事をし、大太は外に向かって走っていった。
 マスターは剛たちを見渡し、
「全員出動しろ! 太郎くんを無事助け出すんだ!」
「総司令……」
 剛のつぶやきに、一瞬しまったという顔になるマスター。しかし、いまはそれどころではないと、声を張り上げる。
「ボヤボヤするな!」
「はい!」
 四人は、早足に店の奥へと向かった。


× × ×


「待てーーー! 待たんかーーーーーい!」
 ゾルダーたちの乗った車を、大太は必死の形相で追いかけていた。
「とぉーーーーーーーっ!」
 気合と共にジャンプ! その姿が黄色の戦士・キレンジャーへと変わる。
 キレンジャーは、腰の小型飛行装置バーディーに点火し、空を飛んで一気に車との距離をつめた。
 と、洋風の大きな家の前で車が止まった。
 太郎をつれて、家に入っていくゾルダーたち。警戒しつつ、キレンジャーも後を追って中へ突入する。
「青銅仮面! 太郎くんはどこじゃーい!」
 広い家の中を見渡し、声を張り上げるキレンジャー。
「ん……?」
 応接間を見たキレンジャーが足を止めた。
 なんと、テーブルに大盛りのカレーライスが乗っていたのだ。
「こりゃ、うまそうなカレーたい……」
 ふらふらとテーブルの前に引き寄せられるキレンジャー。変身をとき、カレーの皿へ鼻を近づける。
「うまそうなにおいたい……」
 テーブルの前に座り、皿の横に置かれていたスプーンを手に取る。
「いただきまーす」
 太郎を探していることも忘れ、大太はカレーを豪快にかきこみ始めた。
「うん、うまい……」
「お口にあって、私もうれしい」
「!」
 何の警戒もなく姿を現した青銅仮面に、大太は顔色を変えた。しかし、スプーンを動かす手は止めず、
「太郎くんはどこじゃい!」
「ここにはいない」
「なにぃ……?」
 おそらく、カレーに気をとられている隙に裏口から連れ去られたのだろう。
「太郎がほしくば、混合点火装置を持ってこい! 場所はここだ!」
 そう言って、青銅仮面は一枚の地図を大太に渡した。
「よいか? 三十分以内に持ってこなければ、子どもの命はないものと思え!」
「ぬぅぅぅぅ……!」
 青銅仮面をにらみつける大太。
 最後の名残とばかりに、カレーをかきこみ、
「わかっとるわい! 待っちょれい!」
 いまはとりあえず引くしかない。大太は無念の想いで青銅仮面に背を向けた。

 富士山の裾野――
 人里離れたその荒野で、青銅仮面の指揮のもと、人の背丈の二倍ほどの長さのロケットが地面に据えつけられていた。
 そこへ、
「青銅仮面!」
 勇ましい声と共に、キレンジャーが姿を現す。
 その腕にかかえているのは、研究所から必死の思いで奪取した混合発火装置だ。
「約束通り持ってきたばい!」
 油断なくキレンジャーをにらみながら、青銅仮面はそばにいた科学者をうながす。
「受け取れ」
「はっ」
 キレンジャーから発火装置を受け取った科学者は、それが本物かどうか確認しながら青銅仮面のもとへ戻る。
「まちがいありません」
 その言葉にうなずく青銅仮面。
 キレンジャーが一歩前に踏みだし、
「太郎くんを渡してもらおうかの!」
「よし。小僧はあそこだ」
 青銅仮面が、後ろに停めてあった幌付きトラックを見る。その助手席に、ぐったりと動かない太郎の姿があった。
「太郎くん!」
 あわててトラックに駆け寄るキレンジャー。
 しかし、助手席をあけてすぐに気づく。太郎だと思った人影が、ただの人形だということに。
「だましたのう!」
「爆弾はいただいておく! 死ねえ!」
 青銅仮面が、手にした笛から吹き矢を飛ばす。
 かろうじてそれを人形で防御するキレンジャー。しかし、そこへすぐさまゾルダーたちが襲いかかった。
「てやあっ!」
 キレンジャーはひるむことなく、次々とゾルダーを打ち倒していった。
「爆弾をしかけろ!」
 青銅仮面の命令に、発火装置を持った科学者が走り出す。
「おいは阿蘇山たーい! 怒ればでっかい噴火山たーーい!」
 気合の声をはりあげ、ゾルダー相手に無双の強さを見せつけるキレンジャー。
 そこへ槍を持った青銅仮面が襲いかかる。ゾルダーとは格の違う仮面怪人の攻撃に、さすがのキレンジャーも防戦一方となる。
 と、そこに、
「といやーーーーーーーーっ!」
 裂帛の気合と共に現れる四つの影。
 キレンジャーも宙を跳び、着地と同時に五人の戦士が並び立つ。
「ぬうっ!?」
 ひるむ青銅仮面。
 五人は、いっせいに右の手のひらを前に突き出し、
「アカ!」
「キ!」
「アオ!」
「モモ!」
「ミド!」
 勇ましく名乗りをあげる。
「こしゃくなぁ……!」
 こちらも負けじと並び立つ青銅仮面とゾルダーたち。
 しかし、五人の戦士はひるむことなく、
「五人そろって……」

「ゴレンジャー!!!」

 ロケットを間にはさんで、ゴレンジャーと青銅仮面軍団がにらみ合う。
「太郎くんはどこだ!?」
 アカレンジャーの言葉に、青銅仮面が答える。
「この中だ!」
「!?」
 驚いてロケットを見るゴレンジャー。その中には、
「こわいよー! 助けてくれー!」
「太郎くん!」
 キレンジャーが身を乗り出す。
 それを制するように、
「あと5分で爆発する! できるものなら助けてみろ! かかれぇっ!」
 青銅仮面の号令一下、ゾルダーたちがゴレンジャーにむかって走った。ゴレンジャーたちも走り出し、敵を真っ向から迎え撃つ。
「てやあっ!」
「といやっ!」
 気合の声を放ち、ゾルダーたちを叩き伏せるアカレンジャーとモモレンジャー。
「モモ! 爆弾の解体だ!」
「オーケー!」
 アカの指示にうなずき、モモがロケットへと走る。そして、先行して爆弾を止めようとしていたキレンジャーに、
「ここは私にまかせて!」
「頼むばい!」
 爆弾に関しては、モモのほうがプロフェッショナルだ。太郎の救出を彼女に任せ、その代わりとばかりにキはゾルダーたちに突進していく。
 アオレンジャーとミドレンジャーも、敵を次々になぎ倒す。
「ブルーチェリー!」
 アオレンジャーが矢を放ち、一人また一人とゾルダーを仕留め、
「ミドメラン!」
 ミドレンジャーはブーメランを投げ、大勢のゾルダーを一気に吹き飛ばす。
 激戦がくり広げられる中、ミサイル爆発のタイムリミットは刻一刻と近づいていた。
「時間があまりないわ……」
 あせりを見せるモモレンジャー。そこに、キレンジャーが戻ってくる。
「まだ、はずれんのかい?」
「ええ……。……!」
 モモレンジャーが驚きに息をのむ。
 どこからともなく笛の音が聞こえた瞬間、爆破解除のためのダイヤルが勝手に動き出したのだ。
「ダイヤルが戻ってしまう……」
「なんじゃと……!」
 そこへ駆けつけるアカ、アオ、ミド。
 五人が目を向けた先には、無骨な鎧姿ながら繊細な指さばきで笛を吹き鳴らしている青銅仮面の姿があった。
「あの笛の音で、爆弾がロックされたんだ」
 アオレンジャーが、仮面怪人の不可思議な能力を見抜く。
「あと一分で、貴様らはこっぱみじんだ!」
 勝ち誇る青銅仮面。
 そうはさせじと、アカレンジャーが前に踏み出す。
「よし! 行くぞ!」
「おう!」
 アカを先頭に、アオ、ミド、キが突撃する。
「撃てぇぇーーーーーっ!」
 バズーカ砲を構えたゾルダーが、アカレンジャーたちに向かって砲撃する。爆炎を受けながらも、四人はひるむことなく突き進む。
「とぉーーーっ!」
 大きくジャンプするアオレンジャーとミドレンジャー。
「ダブルキーック!」
 ミドレンジャーが、バズーカを持ったゾルダーたちを蹴り飛ばす。
 アオレンジャーは青銅仮面に肉薄。青銅のナイフで斬りかかってくる青銅仮面。アオはあざやかにかわし、駆け寄ってきたアカレンジャーとの連携で青銅仮面を翻弄する。
 さらに、
「肩車たーーーい!」
「うおおっ!」
 突進してきたキレンジャーが青銅仮面をつかみあげ、怪力で遠くへ投げ飛ばす。
「ブルーチェリー!」
 そこへとどめとばかりに矢を放つアオレンジャー。しかし、
「ハッ!」
 魔法のように青銅の盾を出現させる青銅仮面。必殺の矢が盾に弾かれる。
「俺にまかせろ!」
 続けて、ミドレンジャーの手からミドメランが放たれる。
 すると驚くことに、青銅仮面はその姿を大きな青銅の鐘へと変化させた。
 魔法? それとも幻覚か!? だが、死角を狙ったミドメランはあっさりとはね返される。
「おいどんにまかせんしゃい!」
 キレンジャーが青銅の鐘に組みつく。姿を変えただけでなく重量さえ増したそれを、しかし、キレンジャーは渾身の力をこめて持ち上げる。
「おどば……阿蘇山たーい……!」
 チャンスだ! あの姿のままでは、青銅仮面は逃げることはできない。
 アカレンジャーはすかさず、
「モモ! ゴレンジャーストームだ!」
「オーケー!」
 爆弾解除をしていたモモレンジャーが、バレーボール型爆弾を取り出す。
「でやあっ!」
 気合と共に、空高く青銅の鐘を投げ飛ばすキレンジャー。
「ゴレンジャーストーム!」
 モモがボールをキックする。
「ミド!」
 キレンジャーがヘディングし、
「アオ!」
 ミドレンジャーがパスをつなげ、
「よーし……アカ!」
 アオレンジャーが最適な高さにボールを蹴りあげる。
「とりゃあーーっ!」
 ボール目がけて跳び上がるアカレンジャー。
「フィニッシュ!」
 シュートされたボールが、空中の鐘を直撃。爆発四散させた。
「く……う……」
 やはり、鐘への変貌は幻覚だったのか? もとの姿に戻り、地面をふらふらと歩く青銅仮面。しかし、五人の力がこめられたゴレンジャーストームは、その真の姿にもダメージを与えていた。
「ぐ……あぁ……ぐあぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!」
 倒れこむと同時にあがる爆炎。
 青銅仮面の最期だった。

 ゴレンジャー基地――
 青銅仮面との戦いを終えた五人は、基地へと帰還していた。
「いやぁー、あいつをやっつけるのがあと五秒遅かったら、太郎くんも我々も危なかったな」
「そうじゃのう」
 剛の言葉にうなずく大太。
 と、格納庫へ通じる扉が不意に開いた。
 そこに立っていたのは、
「出た……」
 いつものコック姿から一変し、凛々しい制服に身を包んだスナックゴンのマスター。後ろには、ウェイトレスの陽子と常連の女性二人の姿もあった。
「ゴレンジャー諸君、ご苦労」
 マスターが、にこやかに口を開く。その声は、スピーカー越しに聞いていたのと同じものだった。
「やっぱり……」
「総司令なんだ……」
 納得したというようにうなずくペギーと健二。
 大太は、陽子たちを指さし、
「総司令殿。後ろの人は?」
「紹介しよう。私のボディガード兼連絡係だ」
 陽子たちが前に進み出る。
「イーグル本部007、加藤陽子です」
「008の林友子です」
「009、中村春子です」
 剛が納得したようにうなずく。
「なるほど。どうりで強いわけだ」
 おどけて明が頭を下げる。
「いや、これからもお手柔らかに」
 総司令としての正体を明かしたマスターは、しかし、いつもの調子で大太に、
「おい、キ。ツケがだいぶたまってるぞ。あとで払いに来いよ」
「あ、あ、あとで必ず払いますが……すこし食べ過ぎたかのう」
 その言葉に、周りから笑い声がはじけた。


× × ×


 青銅仮面のゴレンジャー殲滅作戦は、危機一髪、阻止することができた。
 黒十字軍は、次にどんな陰謀をめぐらせるのであろうか?
 五つの力を一つに集め、世界を守れ――

 ゴレンジャー!!!

秘密戦隊ゴレンジャー #3

秘密戦隊ゴレンジャー #3

  • 小説
  • 短編
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-22

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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