愛華
今
2年前、消えてしまった。
今日は中学校の入学式。
緊張していた私は、幼なじみの海翔と
一緒に学校へ向かった。
「愛華ー!
お前、部活なに入るー?」
「バレーかな!」
「やっぱりなー。
お前バレー好きだもんな!
俺はやっぱり…」
「バスケ!
海翔、小さい頃から習ってるからね
当たり前だよね。」
「ぴんぽーん!
絶対俺が全国1位までみんなを
連れてってやるんだ!」
そんな話をしているうちに学校についた。
教室に行ってみると海翔がいる。
8クラスもあるのに一緒だ。
「おー、愛華ー」
人見知りが激しい私も、海翔のおかげで
話しかけてくれる人がいた。
気づけば5月。
私は七海、春香と仲良くなった。
「春香ー、海翔くんかっこいーよね!」
「こらこらー
海翔くんには愛華がいるんだからー。
どーせ両想いだろーし」
七海と春香は最近いつもこう言う。
「だーかーらっ
私は海翔好きじゃないし、
海翔も絶対私なんか好きじゃない!」
「もったいないなーかっこいいのにー…」
最近そう言われすぎてなんか…
海翔と関わりにくくなった気がする。
話すのも緊張しちゃう。
目が合ったらそらしちゃう。
当たり前のことができなくなった。
そしてあまり話さないまま
クラス替えを迎えた。
別れ
2年の9月
雨が降っている。
今日は七海も春香も遅くなるから1人で帰る。
信号を渡り始めた時
「ぁー…、かぁー…!」
気のせいか…
振り向いても誰もいない。
「おい!愛華ってば!」
振り向くと海翔がいた。
「傘忘れちゃったよー…
いーれーてっ」
「う、うん…」
何ヶ月ぶりだろ?
なんか久しぶりすぎてすごく緊張する。
どうしてこんなに緊張するんだろう。
やっぱり…
海翔が好きなんだ。
やっと気づいた。
もしかして…
今、チャンスなんじゃ…
「…ね。おーい!愛華聞いてる⁇」
「え?あぁ、ごめん。考え事してた。
なんの話だっけ?」
「あーのさ…
お前彼氏とかいんの?」
「やだなーもう、いるわけないじゃんっ!」
「じゃあさ、その…好きなやつは?」
「いるよ!」
「そっか…」
あれ、これ言えそうかも…
「あのね、私、海翔好きかも…」
返事がない。
沈黙が続く。
彼の方を見ても、その目にはなにも映っていない。
何を考えているか全くよめない。
「あはっ!ごめんね変なこと言って。
忘れていいからね。ばいばーい」
私は恥ずかしくなりそこから走り去った。
はぁはぁ…
私は走り続けた。
プーー!
「うそ…」
振り向くと大型トラックが目の前に。
恐怖のあまりただただ立っていることしか
できなかった。
私、死ぬ…⁈
「愛華…ッ」
何が起きたの?
私はわからなかった。
でもすぐに何が起きたのかわかった。
海翔が倒れている。
頭から大量の血を流して。
「うそっ!うそだよね?海翔っ海翔…
なにしてるの?早く起きてよ!ねぇ!ねぇ!」
その体はぐったりとし、ピクリとも動かない。
トラックから運転手が降りてくる。
何も言わずに震えながら海翔を引きずり
助手席に乗せる。
そしてすぐにドアを閉め、行ってしまった。
あれどこに行くの…?
なかったことにする気?
早く助けなきゃ…
でも思うように体が動かない。
私はあまりのショックで気を失ったらしい。
2度と…
私が目を覚ましたのは、あれから2日後のだった。
頭に激痛が走る。
「痛っ」
何があったんだっけ…
そうだ!あの時‼︎
「海翔ッ」
家を飛び出そうとしてお母さんに止められる。
「ちょっと愛華、どこ行くの?」
「よけてよっ、海翔が!」
「愛華‼︎落ち着きなさい!どうしたの?」
お母さんは当たり前に海翔のことを
知っていると思っていたが、知らないらしい。
「えー?海翔くんが⁇そんなはずないと思うけど…
だってあそこには愛華が1人で倒れてたのよ?」
「ちがうの。海翔が私をかばってかわりに…
それでトラックの運転手に連れて行かれたの。」
「そんなはず…」
「私、海翔の家に行ってくるね。」
心配で仕方なかった。
私は走り続けた。
ようやく海翔の家に着き、インターホンを鳴らした。
誰も出ない。
もう1度ならした。
やっぱり誰も出ない。
なんだか自分でもよくわからないけど
とてもとても嫌な予感がした。
「藤井さんなら海翔くんになんかあったらしくてね、
昨日出て行ったわよ。」
隣の家の人だ。
じゃあ海翔は…
海翔はどこにいるの?
どうしたら会えるの?
私をかばってひかれたのに、会えないなんて…
言いたいことがたくさんあるのに。
お母さんが追いかけてきた。
「愛華、帰ろうか。
ほら!そんな顔しないの!海翔くんなら
きっと大丈夫だからね。」
宿命
6日ほど経った頃だった。
海翔はとても重症でアメリカの病院へ運ばれたらしい。
しかもまだ意識がない…
もうしばらくは会えないだろう。
そう言われた。
辛い、悲しい、悔しい。
色々な感情が混ざり合う。
会えなくたっていいんだ。
生きているだけでいいんだ。
今はそう思うことしかできなかった。
私は学校へむかった。
学校なんて行くような気分じゃないけど、海翔がせっかく助けてくれたんだ。
今できることをしなくちゃ。
そうだよね。
きっと……
だめだ。
今この瞬間も海翔はきっと苦しんでいる。
あの時私がトラックに気づいていれば。
走っていなかったら。
想いを伝えていなかったら。
涙が止まらない。
私はしゃがみこんで泣いていた。
「大丈夫⁇遅刻しちゃうよ。」
顔を上げると見たことない人が立っていた。
誰…?
「俺ね、3年の斎藤駿。秋雨中だよね⁇
俺もだから心配で声かけちゃった。ごめんね。」
「あ、ごめんなさいっ。大丈夫です。
もう行きますね。」
「待って!名前。」
「高橋愛華です。」
「なぁ愛華。今日はサボっちゃおーぜ!」
「え、でも…」
「だーいじょぶっ!いいから来い!」
そう言うと駿先輩は私の手を掴み、走り出した。
一瞬
はぁはぁ…
「愛華、疲れたなー。」
着いたところは誰もいない公園。
「座るか!」
駿先輩が指さすベンチに私たちは座った。
「あーのさ…こんな事聞いちゃ駄目なのかもしれないけど、失恋したの?」
「・・・。」
「あー!ごめんっ。忘れて。」
「駿先輩…」
「…?」
「どうしてあんなにすぐに好きになった人の事も、忘れるのはこんなに難しいんですか?」
「んー、どうしてだろうね。俺にもわからない。」
「どうしたら忘れられるんですかね?」
「他の人を好きになればいいんだよ。」
「え?」
駿先輩の手が私の頬に触れる。
「俺さ、本当は前から愛華の事知ってて、好きだったんだ。」
「や、やだなぁー、駿先輩!本気にしちゃいますよー」
「本気にしてよ。俺は本気だよ?」
離れたいのに、いや、離れなきゃ行けないのに動けない。
目が離せない。
どうしてだろう。
私おかしい!
「駿先輩…」
私は駿先輩の頬に触れる。
「ごめん。」
駿先輩は私の手を自分の頬からそっと離し、私の頬に触れる手を離した。
「愛華好きな人いるのにこんなことするとか最低だよね。」
私はどうしたらいいのかわからなかった。
「帰ろっか。」
「あ、はい!ありがとうございましたー!」
私はわざとらしく明るくそう言って、急いでその場を立ち去った。
駿
「はぁ…。」
鞄を投げ捨て、ベッドに倒れ込む。
「愛華にひどいことしたな…。」
ていうか。
愛華の好きなやつって誰なんだろう。
しかも愛華を泣かせるなんて…。
俺が少しでも笑顔にできたら。
だからもう一度ちゃんと気持ちを伝えよう。
そう決めた。
愛華