秘密戦隊ゴレンジャー　＃２

１

　海城剛、新命明、大岩大太、ペギー松山、明日香健二の五人は、国際秘密防衛機構イーグル日本ブロック各支部のメンバーであったが、黒十字軍の奇襲攻撃を受け、支部は全滅させられてしまった。
　奇跡的に生き残った五人は、謎の仮面の戦士・ゴレンジャーに転換。
　黒十字軍撃滅のために、力を合わせ戦うのである。

× × ×

　大きな岩が無数に転がる荒れた山中の一角。
　そこに、大きな機関銃のような装置を構えた白衣の若者と、ストップウォッチを手にしたスーツ姿の壮年男性がいた。
　スーツの男が口を開く。
「サンドビーム、実験開始、三十秒前」
「はい」
　若者が照準を合わせる。
　各ポイントに配置された他の白衣の男たちが、風向きなどに問題がないことを、手にした旗で伝える。
「十秒前……五秒前……照射！」
　装置のスイッチが入った。
　ほとばしる赤い光線。
　光線の直撃した岩壁が、一瞬にして砂山と化し崩れ落ちた。
「やった、博士！」
「やりましたよ！」
　口々に快哉をあげる若者たち。
　彼らにうながされ、博士と呼ばれたスーツ姿の男は光線の照射地点へと駆け寄った。
　あらためて実験の成果を確認しようと、目の前の砂山へ手を伸ばす。
　と、そこへ
「！」
　不意に突き刺さる一本の矢。
　博士たちは、驚いて矢の飛んできたほうを見た。
　彼らの視線の先――崖の上に立っていたのは、黒ずくめの覆面男たちをつれた武者装束の怪人だった。
「おめでとう、工藤博士。我々もこの日を待っていたのだ」
「なんだ、おまえたちは！」
「黒十字軍の武者仮面だ。サンドビーム装置は我々がいただく。それえっ！」
　武者仮面のかけ声と共に、黒い兵士ゾルダーたちがいっせいに襲いかかった。
「逃げろ！」
　あわてて逃げ出す工藤博士たち。
　しかし、武者仮面の放った矢が、容赦なく若者の一人の背を貫いた。
「！」
　驚き足を止めた博士と若者たちを、追いついたゾルダーが乱暴に拘束した。
　と、唯一、逃亡に成功したかに思われた若者が、
「うわあっ！」
　武者仮面が放ったサンドビーム装置の光線を受け、悲鳴をあげて倒れこむ。その身体は一瞬にして砂となり、風に吹かれて消えていった。
「なんてことを……」
　自分の作った装置によって助手の若者が死んだことに、工藤博士は悲痛の声をもらす。
　そんな博士にむかって、武者仮面は言った。
「この装置を改良して、すべての物を溶かすビームにしろ」
「そ、そんなことはできん！」
「息子が死んでもいいのか？　息子が！」
「息子……！」
　工藤博士の瞳が、大きくゆれた。

２

　スナックゴン――
　東京都心にあるこの店で、大岩大太は口いっぱいに好物のカレーライスをほおばりながら、なぜか険しい顔を見せていた。
「難しいのう……」
　そう言って、同意を求めるようにそばに座っている常連の若い女性たちの顔を見渡す大太。
　彼はいま、明日香健二とオセロをやっている最中だった。大太の表情が示すように、戦況は明らかな劣勢だ。
「マスター、もう一皿くれー」
「ほーら、腹も身の内って言うぜ。そんなに食うと黄色くなっちゃうぞ」
　そう言いつつも空の皿を受け取り、おかわりをよそうコック姿のマスター。
　周りの女の子たちもあきれて、
「もう三皿目よ？」
「身体中、胃袋なんじゃない？」
　そこへ、
「ただいま」
「あ、お帰り」
「お帰りなさい」
　店の中に入ってきたウェイトレスの陽子は、常連の女性たちに笑みを向けながらマスターへと近づいた。
　と、マスターは声をひそめ、
「どうだった？」
　陽子も笑みを消し、
「事件発生です」
　マスターに一枚の紙片を渡す。それに目を通したマスターは、
「ごくろう」
　短く言って、店の奥に消えた。
　それから数分後――
　健二の腕についている通信機のランプが明滅した。
　はっとなる健二。そして大太。
「よし」
「また、あとじゃ」
　健二と大太が席を立つ。
　二人はそのまま店の奥に向かい、秘密の通路を通って地下へと降りていった。

× × ×

　健二と大太が秘密基地に到着したとき、そこにはすでに海城剛、新命明、ペギー松山の姿があった。
　三人は、スピーカーから流れる声に耳を傾けていた。
「もう一度くり返す。物質変転光線サンドビームを発明した工藤博士は、実験中に武者仮面に襲われ拉致された。ゴレンジャー諸君、工藤博士を救出し、敵の陰謀を粉砕せよ。さらに、家族の博士に危険がおよばぬよう保護せよ。以上」
　通信が切れた。
　剛は、腕組みをして難しい顔を見せた。
　事は複雑だ。黒十字軍にさらわれた博士を救出するだけでなく、その家族も守らなければならないのだから。
　イーグルの一般隊員の協力は得られない。先日の黒十字軍の奇襲攻撃によって、日本の五つの主力支部は壊滅させられている。かといって、警察やその他の機関にも安易に助力を求めることはできない。相手は、黒十字軍なのだ。
　困難な状況。しかし、こうして悩んでいても何も始まらない。
　剛は、同じように難しい顔をしている明に目配せする。明は剛の考えを察し、すぐにうなずいてみせた。
「よし、行こう！」
　剛の言葉を受け、いっせいに動き出す五人。
　それぞれ、格納庫に停められている特殊改造バイク・ゴレンジャーマシーンへと乗りこむ。
　と、
「待ってくんしゃい」
「どうした？」
　大太の声に、準備をしながら応じる剛。
「こんなところにドアがあるたい」
　そう言って、大太は格納庫の奥にある赤い扉へ近づく。
「……開かん。いったい何のためのドアじゃ」
「そんなのは後でいい」
「あっそ」
　確かにいまは出動の前だ。大太は扉の前から離れ、出動準備に戻った。

× × ×

「しまった！」
「ちきしょう！」
　工藤博士の家に到着した大太と健二が見たのは、一足違いで走り去っていくゾルダーたちの姿だった。
　そして家から、工藤博士の妻と思われる女性が飛び出してくる。
「子どもだけは……ああっ！」
「奥さん！」
「しっかり！　しっかりしてくんしゃい！」
「幸一を！　幸一を……」
「幸一君は！？」
「公園……」
　どうやら子どもはまだ無事なようだ。さらう予定だった子どもが家にいなかったため、ゾルダーたちはすぐさま引き上げたのだろう。
「公園を探すんじゃ！」
「よし！」
　工藤博士の妻を大太にまかせ、健二はその場から走り出した。
「幸一ぃぃぃ……！」
　母の悲痛な声が、健二の背中をふるわせた。

× × ×

　剛、明、ペギーの三人は、工藤博士がさらわれた山中へと来ていた。
　バイクを降り、何か手がかりはないかと、実験が行われていた岩場を見渡す。
　そこに、
「ホイッ！」
「ホイッ！」
　どこからともなく現れたゾルダーたちが、剛たちを取り囲んだ。
　そして高台に、全身を武者鎧で包んだ怪人が現れる。
「フハハハハハハハ……」
　怪人――武者仮面を見た明の顔色が変わった。
「武者仮面……俺の支部を襲ったやつか」
「やれえっ！」
　武者仮面の声を受け、ゾルダーたちが包囲をせばめていく。
　と、剛が跳んだ。
「とおっ！」
　空中でその姿が赤い仮面の戦士――アカレンジャーへと変わる。
　明、ペギーもそれに続き、アオレンジャー、モモレンジャーへと変転する。
「かかれえっ！」
　武者仮面が叱咤の声を放つ。
　剣で斬りかかってくるゾルダーたちに、三人の戦士はひるむことなく立ち向かった。
「レッドビュート！」
　アカレンジャーの仮面から分離したパーツが鞭と化す。打ち、叩き、絡みつき、次々とゾルダーたちを倒していく。モモレンジャーとアオレンジャーも、仮面と特殊スーツによって強化された身体能力を駆使し、群がるゾルダーたちを蹴散らしていく。
　と、アオレンジャーのすぐそばに矢が突き立った。
　武者仮面が続けざまに放つ音速の矢を、かろうじてかわすアオレンジャー。が、運悪く足が岩の隙間にはまりこむ。
「死ねえっ」
　動けないアオレンジャーの肩に、武者仮面の矢が突き刺さった。
「ぐあっ！」
　さらに武者仮面は、アカレンジャーにも弓を向ける。
　狙われていることに気づいたアカは、周りにいるゾルダーたちをなぎ払い、高々と宙に跳びあがった。
　崖の上にいる武者仮面のそばに着地し、その首にレッドビュートを巻きつける。
「ぐ……ぐぅぅっ……」
「トイヤぁっ！」
　気合と共に武者仮面を投げ飛ばすアカレンジャー。武者仮面はなすすべなく地面に叩きつけられる。
　しかし、レッドビュートをふりほどいた武者仮面は、すぐさま腰の刀を抜いてアカレンジャーに斬りかかった。ひるむことなく立ち向かうアカレンジャー。
　するとそこへ、
「アカーっ！」
　モモレンジャーが声をはりあげる。
「いいわね！」
「よし！」
　武者仮面から距離をあけるアカレンジャー。
「いくわよ！」
　モモレンジャーが仮面のイヤリングを外し、武者仮面に向かって投げつけた。
　大きな爆炎があがり、武者仮面をのみこむ。
　しかし、
「ふはははははははは……ははははははははは……」
　どこからともなく響く笑い声。
　爆炎が消えたとき、そこに武者仮面の姿はなかった。一体どのようにして姿を消したのか……？　まさに怪人と言うべき離れ業だった。
　武者仮面たちが撤退したことを確認し、アカレンジャーとモモレンジャーは、負傷したアオレンジャーのもとへ駆け寄った。
「大丈夫？」
「ああ」
　モモレンジャーにうなずいてみせるアオレンジャー。
「武者仮面め……」
「行きましょう」
　悔しがるアオに肩を貸し、アカとモモが歩き出す。
　と、その足が止まった。
「あれ、何かしら？」
　視線の先にあったのは、地面に残った黒い人型のようなもの。
「サンドビームにやられた人間に違いない……」
　アカレンジャーの言葉に、二人は重苦しく沈黙した。

３

　スナックゴン――
「僕、もう、おうちへ帰りたい！」
　男の子が声をはりあげ、カウンター席から立ち上がった。周りにいた健二、大太、そして陽子たちがあわててそれを止める。健二と大太は、工藤博士の息子・幸一が公園にいたところを保護し、こうしてスナックゴンにつれてきていたのだ。
「幸一くん、このカレーはおいしいんじゃぞ」
　そう言って、カレーをおいしそうに頬張る大太。しかし、慣れない場所で見知らぬ大人に囲まれ、もう我慢の限界な幸一は見向きもしない。
「食べんのか？　おいしいのにのう、マスター」
「てめえが食いたがってんじゃねぇか、バーロー」
　マスターはあきれ顔で言った。

× × ×

　スナックゴン地下・秘密基地――
「しばらく、おとなしくしていることね」
　そう言って、包帯を巻き終えるペギー。
　手当てを受けていた明は、強気そうに鼻を鳴らし、
「へっ。なんだ、このくらいの傷。武者仮面は必ず俺が捕える」
「まあ、落ち着け」
　力む明に、剛が声をかける。
「俺たちの任務は、工藤博士を無事に救い出すことだ。なっ」
「うあっ！」
　手当てされたばかりの肩をたたかれ、明はたまらず悲鳴をあげた。

× × ×

　険しい山の間を縫うようにして伸びる高速道路。
　それを見下ろす高台に、サンドビーム装置の発射準備を進める武者仮面とゾルダーたちの姿があった。
「組み立て、完了しました」
「よぉし」
　ゾルダーの報告にうなずく武者仮面。照準を確認したあと、わずかのためらいもなく装置のボタンを押す。
　放たれた赤い光線が、高速道の高架を直撃する。
　数秒と経たず、鉄筋コンクリートで作られた高架がおよそ五百メートルにわたって砂と化し、上を走っていた車ごと崩れて大爆発を起こした。
「うーむ。期待にたがわぬ威力だ」
　武者仮面は、満足そうにうなずいた。目の前で失われた多くの人命のことなど、歯牙にもかけることなく。

× × ×

　黒十字軍・地下アジト――
　うっすらともやの漂う不気味な洞窟の最奥部。サンドビーム装置の実験に成功した武者仮面は、誇らしげに装置の詳細を主に報告していた。
「なに？　すべてのものを砂に」
　全身を白装束で覆った正体不明の人物――黒十字総統が報告に興味を示す。
　武者仮面はすかさず、
「はっ！　ビームに包まれたら最後、すべてのものが砂になります」
「よし。さっそくにも地球砂漠化計画にかかれ。地球上の一切を砂と化し、しかるのち我が黒十字軍の世界を築き上げるのだ。人間と、人間の作ったすべてのものを地上から抹殺するのだ」
　恐怖の命令が、闇深い洞窟に不気味にこだました。

× × ×

「幸一くーーん！」
　血相を変えた大太が、大声をあげてスナックゴンのあるビルから飛び出してきた。
「幸一くーーん！　幸一くーーーーん！」
　声をはりあげながら、必死に辺りを見渡す。
　そこへ健二と陽子、そして常連の女性客たちも出てくる。
　彼らがほんのすこし目を離した隙に、いつの間にか幸一が店内から姿を消してしまったのだ。
「トイレに行く真似して逃げたんだよ！」
「えーっ」
　健二の言葉に、陽子たちが顔を見合わせる。
「あの子は大事なあずかりもんじゃ！　みんな、探してくれ！」
「わかった！」
　大太の頼みを受け、健二だけでなく陽子たちも四方に散っていった。
　しかし――
　そのとき、幸一は大太たちのすぐそばにいた。ビルの集合郵便受けの陰に身をひそめていたのだ。
　それに気づかなかった大太は、
「どこ行ったんじゃ……幸一くーーん！」
　ビルの周りを走り回りながら、懸命に声をあげ続ける。
　そして幸一は、近くに誰もいなくなったことを確認すると、郵便受けの陰から素早く飛び出した。
　と、それを、店から出てきたマスターが目撃する。
「おい、キ！」
　反対側を見ていた大太を大声で呼び、
「あっちだ」
「あっちか！　よーし！」
　すぐさま、マスターの指さした方向へ走り出す大太。
　と、その足が止まる。
「……？」
　あることに気づいた大太は、けげんそうな顔でマスターへと歩み寄り、
「おいどんのことを、いまなんと呼んだ？」
「は？」
「キ。たしか、そう呼んだのう」
　大太の問いかけに、マスターは笑みを見せ、
「なに言ってんだよ。岩さんのイワって言ったんだよ」
「そうかぁ？　たしか、キに聞こえたんだがのぅ」
「そらぁ、聞き違いだよ」
　マスターは幸一の走り去ったほうをあごで差し、
「ほら、急げ」
「むぅ……あやしいオヤジたい」
　釈然としない顔で頬をかいていた大太だったが、いまは幸一をつかまえるほうが先だとその場から走り出した。
　そして――
　大太は、前方を行く幸一の姿を発見した。
「幸一くーん！　待ってくんしゃーい！」
　声をはりあげたそのとき、幸一のすぐそばに一台の車が止まった。
　中から飛び出してきたゾルダーたちが、幸一をつかまえ車内につれこんだ。ドアが閉じる間もなく車はすぐに走り出した。
「ああっ！」
　大太は、あわてて車を追いかける。
「こらーーーっ！　幸一くんをどうするんじゃーい！」
　窓から身を乗り出したゾルダーが、大太に向かって銃弾を放つ。
　地面に転がって、かろうじてそれを避ける大太。その間に、車は追いつけないほど遠くまで走り去っていた。
「ええーいっ！」
　道路へ拳を打ちつける大太。
　そこへ、健二が駆けつける。
「大岩さん、大丈夫ですか！」
「明日香！　幸一くんがさらわれたんじゃい！」
「っ……ちくしょお……」
　健二と大太は、車の消えた方角を悔しそうににらみつけた。

× × ×

「なに！？」
　監禁されていた工藤博士が、驚きに目を見開く。
「人工衛星にサンドビームをセットする！？」
「そうだ」
　おもむろにうなずく武者仮面。
「世界中を砂漠にするつもりか！」
「そうだ！」
「そんなことはできん！　そんなことはできない！」
　とっさに逃げ出そうとして、博士はそばにいたゾルダーたちに取り押さえられた。
　と、武者仮面が近くの扉を開ける。
「見ろ！」
「！」
　捕えられた息子・幸一の姿に、博士の身体がふるえる。
「お父さん！」
「幸一……」
　つぶやく博士の顔が、苦しみにゆがんだ。

４

　バイクに乗った剛とペギーは、武者仮面と激闘をくり広げた岩場へと戻ってきた。
　姿を消した怪人たちの手がかりが何か残っていないかと、かすかな希望を抱いてやってきたのだが、
「いないな……」
「足跡ひとつ見つからないわ」
「一体どこへ隠れやがったんだ……」
　そのときだ。剛の腕の通信機からアラームが鳴り響く。
「イーグルのコールサインだ」
「二キロ以内よ」
「よし！」
　仲間からの連絡に笑みを見せ、剛はすかさずバイクを走らせた。
　やがて、彼らの前方に人影が見えてきた。
「あれだ！」
　よろよろと歩いてきたのはゾルダーだった。
　バイクが近くに停まると同時に倒れこむゾルダー。その背中には、一本の矢が深々と突き刺さっていた。
「おい！」
　あわててバイクから降り、駆け寄る剛たち。
　ゾルダーは、必死に声をしぼり出し、
「南東……三キロの地点に……アジト……」
「南東三キロ？」
「ロケット……星……さ……砂漠……。………………」
「おい！」
　剛がゾルダーの身体をゆさぶる。すでに彼は息絶えていた。
　そして剛は、彼が『００２』とナンバーの彫られた鷹の形のペンダントを握っていることに気づく。
「イーグルの秘密工作員……００２だ」
「私たちの元隊員……」
「ああ」
　おそらくは、支部の壊滅前から黒十字軍に潜入していた数少ないイーグル隊員の生き残りだったのだろう。
　と、そのとき、
「！」
　どこからともなく現れたゾルダーたちが、剛とペギーを取り囲んだ。
　すかさず戦闘態勢を取る剛とペギー。
　しかし、そこに、
「待てい！」
　顔をあげた剛は、はっと目を見開いた。
　崖の上に立つ武者仮面。その脇には、台座に取りつけられた銃のような機械があった。
「ペギー、やめろ」
　あわててペギーを止める剛。彼は、武者仮面がこちらに向けているのが、サンドビーム発生装置だと見抜いていた。そんなものを撃たれたら、自分たち二人だけではどうしようもない。
「くっ……」
　唇をかむ剛とペギーに、ゾルダーたちがゆっくりと近づいてきた。

× × ×

　拘束された剛とペギーが連れてこられたのは、黒十字軍の研究所の一つと思われる施設だった。
「！」
　通り過ぎた部屋の窓ごしに、剛は写真で見た工藤博士の姿を確認した。向こうもこちらに気づいたようだったが、それ以上とどまることは許されず、二人はそのまま施設の奥にある牢屋へと押しこまれた。
　鉄格子の中の剛たちを見て、武者仮面は満足そうにうなずいた。
　そして、言い放つ。
「泣きわめくがいい。そうすれば貴様らの仲間が助けに来てくれるぞ。フハハハハ……ハーッハッハッハッハ……」
　不気味な笑い声を響かせ、武者仮面は去っていった。
　それを悔しげに見送りながら、剛がつぶやく。
「みんなを集めてサンドビームを使うつもりだ」
「！」
　息をのむペギー。
「なぜ、おとなしくつかまったのよ！」
「星、ロケット……そして砂漠の意味が知りたかった」
「人工衛星にサンドビームを仕こんで打ち上げるつもりじゃないかしら？」
「ああ。やつらはこの地球を砂漠にするつもりだ」
　おそらく間違いないであろう推測に二人が戦慄した――そのとき、
「っ……く……」
「！？」
　背後から聞こえてきたすすり泣きに、二人は驚きふり向いた。

× × ×

　大太と健二は、歩道橋の上に立って辺りを見渡していた。
　都心の大通りには多くの車が行きかい、歩道にもたくさんの人間が歩いている。たった一人の子どもが容易に見つかるはずもなかった。
「どこ行ったんじゃい……」
「一度帰ろうよ。これじゃ探しようがないぜ」
　健二の言葉に、しかし大太は首をふり、
「おいどん、帰らんたい。幸一くんを捜すまでは帰れんたい」
　声に悔しさをにじませ、大太はその場から走り出した。

× × ×

「なんて卑劣でしょう」
　牢屋の隅で泣いていた幸一を抱きしめ、ペギーは怒りにふるえていた。
「子どもを囮にして親を脅迫するなんて」
「キとミドのやつら……あれほどしっかり守れと言っていたのに。なあ」
　おどけて幸一に声をかける剛。
　と、そこへ足音が近づいてきた。
　武者仮面と共にやってきたゾルダーたちが、剛たちを乱暴に牢の外へ引きずり出す。
「三人とも出ろ。処刑の時間が来たぞ」

× × ×

　剛たちが連れてこられたのは、研究所近くの岩場だった。
　そこにはすでに、
「お父さん！」
「幸一……」
　杭に縛りつけた工藤博士が目を見開く。
　そこへ、武者仮面が非情な命令を下す。
「全員くくりつけろ！」
　工藤博士は驚いて、
「約束が違うじゃないか！　子どもは助けると言ったはずだ！　だから私は……」
「我が基地に立ち入った人間は、生きては返さぬ！」
「頼む！　子どもだけは……」
「うるさい！」
　武者仮面が、手にした弓で博士を殴りつける。
「お父さん！」
「許してくれ……幸一……」
　博士の目に涙がにじむ。
　そんな親子の姿に武者仮面やゾルダーたちの注意がそれた――そのときだった。剛の腕の通信機が、密かに明滅を始めたのは。

× × ×

「よぉし……」
　ゴレンジャーの秘密基地――
　剛からの通信をキャッチした明は、すぐさま格納庫へむけて走り出した。
「バリブルーン、出動要請！」

× × ×

　並んで柱に縛りつけられた剛たち。
　その前に、サンドビーム発生装置が据えつけられる。
　武者仮面自らが最終チェックを行い、満足そうに部下のゾルダーに命令を下す。
「よぅし、撃て！」
　そのときだった。
　風を切るプロペラの音と共に、ゴレンジャーの空の戦艦・バリブルーンが山向こうから姿を現した。
「う、撃てえっ！」
　あわててサンドビームを上空のバリブルーンに向けさせる武者仮面。
　彼らの動揺した隙をつき、剛は隠し持っていたナイフで自分の縄を切ると、ペギーや博士たちも次々と戒めから解き放っていった。
「早く！」
　博士と幸一をその場から逃がす剛。
　それに気づいた武者仮面が、部下を押し退けサンドビームの発射口を剛たちに向ける。　放たれるサンドビーム。しかし、あせっていたためか照準がはずれ、剛たちの手前の地面に命中し砂ぼこりを巻き上げる。
「かかれえっ！」
　サンドビームだけでは、剛たち全員を狙うことはできない。武者仮面は、遅ればせながらゾルダーたちに攻撃命令を下した。
「危ないっ！」
　博士たちをかばう剛。二人が逃げる時間を稼ぐため、こちらからゾルダーに立ち向かっていく。
　そこに降下してくるバリブルーン。
　犬の顔を模した船首が割れ、中から緊急乗降用のチューブが下ろされる。チューブの中に入った工藤博士と幸一は、一瞬でバリブルーンの中へと収容された。
「新命さーん！」
　ペギーの呼びかけに、笑みで応えるコクピットの明。
　博士たちを安全圏に運ぶべく、バリブルーンは素早く飛び去っていった。
　と、
「危ない！」
　剛が、ペギーの肩を抱いてその場から飛び退る。
　着弾するサンドビーム。
　博士を取り返された悔しさをぶつけるように、武者仮面は剛たち目がけてサンドビームを連射した。
　立ちこめる砂ぼこりが晴れた――
　そこに、
「！」
　現れたのは、赤いスーツと桃色のスーツに身を包んだ二人の戦士。
　さらに崖の上に、青、黄、緑の戦士が現れる。
「バーディー！」
　赤と桃、二人の戦士のベルトから、小型ジェット装置・バーディーが飛び出し、二人は空高く舞い上がった。
　そして、崖の上に着地し、五人そろって並び立つ。
「何者だ！？」
　大声をあげる武者仮面。
　五色の戦士は、凛々しく手を突き出し、
「アカレンジャー！」
「アオレンジャー！」
「キレンジャー！」
「モモレンジャー！」
「ミドレンジャー！」
「五人そろって……」
　アカレンジャーの声に続き、五人の戦士の声が重なる。

「ゴレンジャー！」

「ゴレンジャーだと！？」
　その名を忘れるはずもない。黄金仮面を倒した謎の五人の戦士。最初の戦いでそれに気づかなかった自分のうかつさに、怪人は仮面の奥で歯ぎしりする。
　一斉に断崖から跳躍するゴレンジャー。
　武者仮面は刀を抜き、ゾルダーたちを引き連れ五色の戦士に襲いかかった。
「てやあっ！」
　レッドビュートをふるい、次々とゾルダーをなぎ払っていくアカレンジャー。
　そして、
「ミド！」
　アカの声にうなずき、ミドレンジャーは仮面のパーツを武器に変形させる。
「ミドメラン！」
　レッドビュートで首をしめられ放り投げられたゾルダーを、ミドの放った特殊ブーメラン・ミドメランが斬り裂いた。
　さらに、キレンジャー、モモレンジャー、アオレンジャーたちも、スーツによって強化された身体能力を存分に活かし、ゾルダーたちを叩き伏せていく。
「む！」
　目を見張る武者仮面。その前に、アカとアオが並び立つ。
　あわてて斬りかかるも刀は軽々と避けられ、逆にアカとアオの拳を交互にくらい、崖の上から叩き落とされる。
「う、撃てぇーっ！」
　地面を這いずりながら、必死にゾルダーに命令を下す武者仮面。しかし、ゾルダーたちがサンドビーム発射装置に手をかけた瞬間、
「行くわよ！」
　モモがイヤリング型爆弾を投げつけ、サンドビーム発生装置はゾルダーごと爆発。二度と悪魔の光線を放てないよう破壊された。
　さらに、残ったゾルダーたちも次々と五人に倒されていく。
　一人きりになった武者仮面も、続けざまにくり出されるアオレンジャーの拳や蹴りを受けてふらふらの状態だ。
　そこに、
「アオ！」
「おう！」
　跳躍して、アカの隣に並び立つアオ。キ、モモ、ミドも集合する。
「ゴレンジャーアタック！」
　アカの言葉に、うなずく四人。
「ゴー！」
　かけ声と共に、五人が駆け出す。
　モモレンジャーがボール型爆弾を取り出し、
「ゴレンジャーストーム！　ミド！」
　ミドレンジャーに向かって投げ渡す。さらに、
「オーケー！　キ！」
「まかせんしゃい！　アオ！」
「おう！　アカ！」
　戦士たちの間でリレーされた爆弾が、アカの頭上へ高々と投げ上げられる。
　そのボールに向かって、アカは跳躍し、
「フィニーーーーーッシュ！！！」
　勢いよく蹴られたボールが、逃げ出そうとしていた武者仮面を直撃。
「うおわっ！」
　わずかな悲鳴の直後、武者仮面は爆炎の中へと消えた。
　しかし、
「ハハッ！　わしはまだ死んでおらんぞ！」
　爆炎のむこうから響く不気味な声。間違いなく武者仮面のものだ。
「ゴレンジャー諸君！　宇宙から砂漠の歌を聞かせてやろう！　さらば！　フアッハッハッハッハ……」
　声が途切れると同時に、大地が揺れ始める。
　地面が裂け、そこからせり出してきたのは黒十字軍のマークを印した巨大なロケットだった。
　アカは、取り乱すことなくモモにむかって、
「高性能小型ミサイル」
「これよ」
「よーし、まかせろ」
　アオがモモから小型ミサイルを受け取る。
　直後、巨大ロケットのエンジンが点火され、空にむかってまっすぐ飛翔し始める。
　そこへ、
「ブルーアーチェリー！」
　小型ミサイルを先端につけた矢が、ロケットのジェット噴射口に命中した。ミサイルは内部で爆発を起こし、ロケットを破壊した。
「ぐあああああああああああああああああああああああああっ！！！」
　爆発音と共にこだまする武者仮面の悲鳴。
　作戦の失敗と同時に、怪人もまた消滅したことをゴレンジャーたちは感じ取った。
「黒十字軍……」
　仲間たちの仇を討ったアオレンジャー――明の顔に、しかし笑顔はなかった。
　倒したと思った怪人が、ロケットにまとわりつく怨念のようになって復活。目の当たりにしたその超常的な現象に、彼はあらためて思い知らされていたのだ。
　自分たちの相手が――計り知れない謎の力を持った驚異の集団であることを。

× × ×

　武者仮面軍団の恐るべき地球砂漠化計画は、ゴレンジャーの活躍で防ぐことができた。
　だが、黒十字軍は、さらに恐怖の計画を進めているのだ。

　負けるな、ゴレンジャー！　戦えゴレンジャー！
　五つの力を一つに集め、世界を守れ――

　ゴレンジャー！！！