散髪

 長く乱れた髪の男が話をしている。

 目ヤニが酷く、そこにさらにホコリがついて目がかくれる程の大きさになっている。顔の作りはそれほど悪い訳では無さそうだし、年齢も30手前といった若さだ。なのに、どうしてそんな身なりのままでいるのだろうか。男はかなり饒舌で、誰の相づちもないのに床の一点を見ながら話し続ける。早口で、大きくハッキリ話したり、小さくボソボソ話したり、話し方にも内容にも統一性が無い。

 聞いているのは床屋の主人と店を手伝う娘。気付いた時には男が店内のソファーに座っており、初めはお客かと思ったが、どうもそう言う訳でも無さそうだ。主人も娘も、人を見かけで判断してはいけないと、その男の話を黙って聞き続ける。話の断片からしか内容を理解する事はできないが、どうやら誰か好きな女性がいるようだ。男は勝手に話し続ける。
 好きな人の事を話す時は少しはにかんだようになり、床屋の主人と娘は「みなりを綺麗にして告白したらどうだろう」と提案する。

 腰の辺りまであるボサボサの髪の毛。主人は、長い髪にはそれなりにこだわりがあるのだろうからと、約8センチ間隔で短くしていった。

 「もう少し切ってもいいね」

 「もうちょい行ってみようか」

 肩甲骨あたりまで短くした頃には、男はもう何も話さなくなっていた。話をしている時に時折見せたわずかな表情は失われ、まったくの無表情になってしまった。主人と娘はさっぱりして行く姿を喜び、本人の顔色には気付かない。

 男は髪が短かくなる度にボソボソと聞き取れない程の声で何かをつぶやく。顔は緊張している。肩の辺りまで短くし、目ヤニをとって綺麗にしてやると、思ったより見栄えがよくなる。主人と娘はテンションが上がって来た。そこでまた、男は先ほどよりほんの少し大きな声で何かしらをつぶやいた。彼にとっては力を込め、はっきりと大きな声で言ったつもりのようだけど、実際にはささやく程にしか声は出ていなかった。
 
 主人と娘は髪型の事で盛り上がっている。シャギーを入れて、ウルフっぽく仕上げることにしたようだ。
 もともと顔のパーツが整っていた事もあるのか、とてもいい感じに仕上がった。男は、この一つ前の長さの時にちゃんと忠告していた。

 「これ以上短くしたら殺す」

 
 男は、精一杯勇気を振り絞って、あんなに頑張って訴えたのに、主人と娘は髪を切った。その行為にハッキリとした悪意を感じ、男は敵意をむき出して2人を殺した。

散髪

散髪

せわしなく、要点も無く饒舌な汚らしい身なりの男。長い髪の毛が短くなる度何かをつぶやいている。

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-21

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