記憶喪失少年

街の外れに降り立った少年は記憶喪失だった。自分の名前の他には、能力が使えることしか覚えていない少年、そんなとき出会ったのは、小さな少女。

冬の冷たい風が吹き荒れ、雪が降っている平地にその少年は立っていた。
その少年の顔にはまだ幼さが残っていた。背は百五十を少し超えるほどだろう。
少年は周りを少し見渡し、機械の塊を発見した。
元はきちんとした形をしていたのだろうが、今では見るも無残なただの鉄の塊へと変化していた。
「……」
少年は鉄の塊を一目見ると、光であふれている街へと足を向けた。

十数分ほどで街に出た。
人がすごく多く、イルミネーションで店という店が飾られている。人々の会話から、男はこの国ではクリスマスなのだということを知った。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
少年はどこからか声をかけられた。
いったい誰だろうと周りを見渡しても誰もいない。
「お兄ちゃん」
ズボンの裾を引っ張られたことで、少年は足もとで誰かが呼んでいることに気付いた。
「やっときづいてくれた。エミリさっきからよんでいたのに」
少年を呼んでいたのは、まだ小学校に上がるか上がらないかくらいの幼い少女であった。
「お兄ちゃん、大きいね。どうしたらそんなに大きくなるかエミリに教えてほしいな」
「……知らない人に声をかけちゃだめだって教わらなかったのか?」
「うん、ママが言っていたの。だけどね、お兄ちゃんわるい人にみえないもん」
「……そうか」
「ところで、お兄ちゃんどこから来たの? なまえはなんていうの?」
「かなり遠い場所さ。名前は……カルナ」少年は少し考えてそう言った。
「カルナ、カルナ。いいなまえだね!」
エミリは少年の名前を何度も繰り返した。
「ねえ、カルナ。おうちはどこ?」
「さあ。今ごろ燃やされているか、壊されているかも知れないな」
「えー! そうなの! うーん、それじゃーねー、エミリのおうちに来る?」
「君のママに怒られないか?」
「大丈夫だよ、ママいつも言っているもん。困っている人には厳しくしなさいって……あれ?」
「それを言うなら、困っている人には優しくするだ」
「それそれ! カルナ物知りだねー」
エミリはカルナの周りを飛び跳ねるようにぐるぐるまわった。
「それじゃ、エミリのおうちに向かってしゅっぱーつ!」
そう言って、エミリはカルナの手を引っ張って自分の家に向かって歩き始めた。
その歩みは小さいが、この手の温もりは忘れられないだろうなとカルナは思ったのだった。

「カルナはどうしてこの町にきたの?」
「……気づいたらこの街の近くにいた。それまでどこにいたとか、何をしていたか全く思い出せない」
「うーん、エミリにはむずかしくてよくわかんない。だけどママなら知っているかも」
「……そうか」
「あっ! 見えてきた! あれがエミリとママのおうちだよ!」
 エミリが指差すほうを見ると、マンションがあった。マンションというよりは、団地といったほうが近かった。
「ママは、今とおくにお出かけしているの。だから今エミリひとりなの」
「寂しくないのか」
「さびしいよ。だけど今日はカルナがいるからさびしくないもん!」
「そうか」カルナはニコッと笑いながら言った。
 しばらく歩くと、団地の前に辿り着いた。
「ここがね、エミリとママのおうちのまえだよ」
「何階だ?」
「えーとね、4かい!」エミリは右手の指を4本立てて言った。
「それじゃ行くか」
「うん!」
 二人は階段を上がって行った。途中でエミリが先に上がって、「カルナ、早くー!」と言ったりしていたが、座りこんでしまった。
「どうした、あと少しで部屋に入れるぞ」
「入りたくない」エミリは小さな声で言った。
「それはなぜなんだ」不思議に思いながらも声を小さくしながら聞いた。
「へやにあの人がいるの。エミリとママをいつもなぐるの」
「その人は君のパパじゃないのか」
「ううん、ちがうよ」エミリは小さな声で言いながら、首を横に振った。
「そうか……。なら一緒に入ろう」
「えー! カルナなぐられちゃうよ!」
「大丈夫。何とかなるから」
 そう言ってカルナは玄関に向かっていった。
「ま、待ってよー!」カルナの後ろでエミリは言った。
 扉を開けたカルナは顔をしかめた。酒の強烈なにおいと、タバコのにおいがしたからだ。
「よー、遅かったな。待ちくたびれたぜ。さあ、早くだしな」
 部屋の中にいた男はカルナをエミリの母親と勘違いしたようで、テレビに顔を向けながら、手だけをカルナの方へ向けた。まるで催促するかのように。
「残念ながら、俺はあんたが待っている人とは違う」カルナが言葉を発して初めて男はカルナの方を向いた。
「……あんた誰だ。人の家に勝手に踏み込んではいけねぇって教わらなかったか」
「そういう自分だってかってにあがりこんでいるくせに!」
「おお、エミリか。久しぶりだな」男はそう言ってエミリに近づこうとした。
「あんたはこの子の父親か?」カルナは男に聞いた。
「ああ? そうだが」
「エミリ、本当か?」カルナはエミリに聞いた。
「ううん! ちがう!」エミリは首を大きく横に振った。
「と言っているが」カルナが男のほうへ向いたとき、男の顔は真っ赤になっていた。
「この小娘が! いったい誰のおかげでこの世界に生まれてきたと思っている!」男はエミリに向かって拳を振りかざした。エミリは痛みに備えて眼をギュッと閉じた。が痛みはやってこない。恐る恐る目を開けてみると、カルナが男の拳を握っていた。
「おい、小さい子に手を出すとは男として最低だな、あんた」
「は、放せ!」男はわめいていたがカルナは拳を握ったままだった。
「放せと言って放す馬鹿がどこにいる」その瞬間、カルナの頭に痛みが走った。
「ひぃ! な、なんだよこれ!」
カルナが握っている男の拳がどんどん氷っていっていた。
「二度とこの子に手を出すな...!」
痛みと戦いながらカルナは言った。
「わ、わかった! 出さないし、ここには来ない! だから、放してくれ!」その言葉を聞いて、カルナはやっと手を放した。
男は氷ってしまった自分の拳を見てカルナを見て、部屋を足早に出ていった。
「カルナ! 大丈夫?」男が出ていったあと、エミリはカルナに近寄った。
「ああ、大丈夫だ」カルナは頭を押さえながら答えた。
「よかった......」
「心配かけたな、すまなかった」
「ほんとうによがっだよ!」エミリは泣きながらカルナに抱きついた。エミリの様子を見て、カルナは頭を撫でた。
しばらく頭を撫でていると、いつの間にかエミリは寝てしまっていた。
「......俺が守らないとな」
カルナはそう呟くと、部屋の中へ入っていった。

「ふぅ! 全くあいつったら無茶するんだから」
カルナがエミリと会う前に立っていた場所にに女の子が立っていた。年齢と身長はエミリより少し上のように見える。
「......だけど、まさかこうなるとは思ってもみなかったな」女の子は自分の姿を見下ろしながら呟いた。
「あいつにも何か症状が出てるんだろうなー。大丈夫かな」
女の子は暫く考えていたようだが、
「まっ、いいか。なるようになるし。取り敢えずはどこかに身を寄せないとね」と言ってどこかへ去ろうとした。が、
「こいつは焼き消しとかないとね」と言って、鉄の塊に手をかざした。すると、それは跡形もなく文字通り焼き消えた。消えたのを確認した女の子は、満足そうにどこかへと去っていった。

「所長! 大変です!」
「わかってる、大声を出すな」所長と呼ばれた男が部下らしき男に言った。
「例の書類が消えた。だがそれはあくまでも一部のみ。全て揃っていなければ意味がないのさ」
「それに加えて、実験途中だった飛行船まで消えました」
「あれは失敗作だ。廃棄処分にするところだったのだが、ちょうどよかった」所長は部下と逆の方向に向いた。そこには大きな鉄格子が嵌まっていた。部屋のなかには男が一人鎖で手足を固定されていた。
「聞いていたか」
「ああ。書類がアイツと一緒に消えたんだろ。あれがそんなに大切なものだとはな知らなかったけどな」
「……どこまで知っている」
「さぁ、どうだろうな。ところでいつになったら、こいつを解いてくれるんだ。俺はそろそろ、この生活にも飽きたんだが」
「安心しろ、すぐ出られる。ようやく、アレの準備が整った」
「やっとか」
男はニヤリと笑いながら言った。

部屋の中に朝日が射し込んでいる。部屋の壁に掛けられた時計の針はまもなく7時を指そうとしていた。7時になると同時に部屋の扉がノックされた。
「……起きているか?」
部屋の主であるエミリはベッドに敷かれた布団から上半身だけを起こして、
「……起きてるよ」と答えた。
「そうか。ご飯は出来ている。なるべく早めに着替えな」
「……うん」エミリはまだ眠たそうな目を擦りながら答えた。
扉の向こうの人物は、部屋の前から去っていったようだ。エミリはくぐーっと伸びをすると、布団の中から出てきた。季節は冬。この部屋に二人で住むようになってから8回目の冬だ。

エミリがリビングに行くと、カルナが台所に立っていた。そこで彼女は音を立てないようにそーっと歩くと、カルナに後ろから抱きついた。
「おはよう! カルナ!」
「おはよう。今朝は珍しいな早起きなんて」カルナは動じずに挨拶を返した。
「むー、少しは反応してほしいかな」エミリは頬を膨らませて言った。
「気配を消しているつもりか? 残念だったな。最初からお見通しだ」
「えっ?」
「あそこ」カルナが指差した方を見てみると、
「氷の鏡……」
「綺麗だろ?」
「綺麗だけどさ、何であんなの作ったの?」
「……何となくだ」カルナは皿を持ちながら答えた。
「さぁ、ご飯の時間だ」

リビングの真ん中に置かれた机の上には、パンとスープが置いてあった。二人は向き合うように椅子に座り、パンに手を伸ばし始めた。
「そう言えば」
「どうした?」
パンもほとんどなくなり、残りはスープのみといったところで、エミリはカルナに質問をした。
「カルナはさ、学校行かないでいいの?」
「……学校か。確かこの国には学園というものが存在していたな」
「そっ。でカルナはもう17位でしょ? 学校行かないで大丈夫かなって思って」
「……」カルナは少し考えこう答えた。
「考えておこう」
「うん!」エミリは勢いよく返事をした。

「そらっ! 次いくぞ!」
二人は朝食の後、団地の外にある公園に来ていた。まだ早い時間であると同時に、気温が低いため外に出ているのは彼ら二人だけであった。そこでカルナは右手を上に突き上げていた。真っ正面にいるエミリはと言うと、
「……」
両目を瞑っていた。
とその時、エミリの頭上に氷の槍が産み出された。槍は重力に従って、真下に落下していった。
エミリは相変わらず、目をつぶったままだったが、槍がぶつかる寸前に左へと避けた。槍はそのまま地面にぶつかり、粉々にくだけ散った。
「うん。いい感じ」エミリは目を瞑ったまま呟いた。
彼女の能力は「先読み」。言葉が示す通り未来を読み通すことができる。ただし、五秒先までしか見えず、必ず目を瞑らなければならないが。
「油断は禁物だけどな」
カルナは左手を地面へと置きながら言った。すると、地面から氷の手が出てきた。手だけではない。そのあとから、顔、体、足の順番に巨人が出てきた。
「アイスゴーレム」
カルナの能力は「創造~氷~」。先ほどの行動からわかる通り、彼は氷でありとあらゆる物を作り上げる。
この国の住民は全員が生まれつき能力を所持している。水、炎、風、土と言った自然を使う能力を持つ者もいれば、自身の身体能力強化をする能力を持つ者もいる。そして、カルナのように何かを造り出す能力を持つ者もいる。ただし、無限に能力を使用できるかと言えばそうでもない。
「はぁ……はぁ……」
「……やはり体力の消耗が激しいか」カルナはそう呟くと、目の前のゴーレムの動きを止めた。
「ま、まだ戦え……る。だから、止め……ない……で」
「息するのもしんどそうな人が何をいってるんだ。一先ず休憩だ」
ゴーレムに見張りをさせて、カルナとエミリは近くのベンチで休憩することになった。
「体力もっとつけないといけないかな……?」
「……どうだろうな。能力は十分使えているからそこまで体力をつけなくても問題ないと思うぞ」
「……うん。そうだよね」エミリは力なくうなずいた。
その時だ。見張り役のゴーレムが突如溶け始めた。
「あのゴーレムの体が、溶けることなんて初めてだぞ……」
「ふーん、こんな面倒なもの造り出すなんて、アンタも成長したってことかね、カルナ」ゴーレムの向こう側から女の声が聞こえてきた。
「面倒だ。少し温度をあげさせてもらうよ!」そう言うが早いか、ゴーレムの体が溶けるスピードが上がった。そして、ものの五分も立たない内に、ゴーレムは完全にその姿を水へと変えた。
「久しぶりだね、カルナ」ゴーレムの向こう側に立っていた女はカルナに軽く手を振った。
「……誰だ、お前は」
「あれー? 覚えてないんだ? あー、ってことはアンタの症状は記憶喪失か……。また厄介だね」
「知り合い?」エミリがカルナに聞くが、カルナは首を横に振るだけだった。
「まっ、いいか。カルナ、アンタが研究所から持ち出した書類、それを渡してくれるかな」
「……書類? なんだ、それは」
「知らないとは―」
「いつまで喋っているつもりだ、ミレア」ミレアと呼ばれた女の後ろから男が現れた。
「せっかちだねぇ。そんなんじゃモテないよ、ジグ」
ミレアの後ろから現れたジグは、彼女のからかいには答えずに、目の前にいるカルナをじっと見つめた。
「……お前らは一体誰だ」
「おいおい、冷たいじゃないか。8年ぶりに再会したというのによ」
「お前の一度見たら忘れなさそうな顔なんぞ見たことないな」
「ほう、中々言うじゃないか」ジグはニヤリと笑うと胸の前で両手を合わせた。
「……何をするつもりだ」
「記憶喪失のお前にちょっとしたプレゼントさ」ジグはそう言うと、両手を前に突き出した。
「……!」突然公園の周りに植えてある木の枝がカルナに向かって凄い勢いで伸びてきた。
「カルナ!」エミリが叫ぶも時すでに遅し。カルナの両腕、両足は枝によって拘束されていた。
ジグはもう一度両手を胸の前で合わせると、右手の掌を下にして前に出した。
「ククク、懐かしいな。こうやって何度もいじくり回したな」
「くっ! 外れない……!」
「当たり前だ、俺が操っているからな。さて、与太話はここら辺でいいだろう」ジグはそう言うと、右手で握り拳を作った。と、同時に、「ガァッ! クッ……! グァァァァァ!」カルナが叫び出した。
「カルナ!!」
「相変わらずエグいわねー、アンタの能力」
「放っておけ。それよりお前はあの嬢ちゃんの相手でもしておけ。何の能力を持っているか知らんが、俺の邪魔をされては困る」
「はいはい、相変わらず人使いが荒いこと」ミレアはやれやれと首を横に振ると、エミリの方へ体を向けた。
「ハロー、お嬢ちゃん。あなたの相手はこのアタシだよ」
「あなた達は一体何者なの……! カルナをあんな目に合わせるなんて!」
「うん? ひどい? ホントにそうかな?」
「ど、どういうこと?」
「話は後にしろ。今お前がやるべきことは、話すことではないはずだ」ジグがミレアに言った。
「はいはい、そうだったね」ミレアはそう言うと、両手を胸の前で合わせた。
「一体何をするつもりなの……?」
「うん? ジグは自分の邪魔をするなって言ってたからさ、取り敢えず灰になっとけば?」そう言うと、ミレアは掌から、大きな炎の塊を生み出した。
「……!」エミリが気づいた時には、目の前に炎が迫っていた。炎が通りすぎたあとには煙が立ち込めていた。
「これで終了。あっけないねぇ」
「ケホッケホッ。本当にそうなのかな?」煙の中に人影が見えた。
「そんな、バカな! あれをかわすなんて……!」
「偶然にも、穴が空いてあって助かったよ」煙が晴れたそこには確かに穴が空いてあった。
「なるほどね、偶然に助けられたわけだ。だけど、もう二度と偶然は起きないってことを思い知らせてあげるよ!」ミレアは天に向けて両手を突き上げた。
「……」エミリは両目をつぶった。

「相変わらずしぶといやつだ。抵抗するのは諦めたらどうだ?」
「グッ! 誰が諦めるものか……!」
「両手両足動かねぇやつが粋がっても意味がないっての」
ジグは右手を前に出したままだった。
「どうせさ、あと少しでお前は変わっちまうんだ。諦めた方が楽になるってもんだぜ?」
「なぜ、さっきのようにしない」
「あぁ? 俺は痛みつけるのは好きだが、悲鳴を聞くのは好きじゃないんだ」
「なるほどね」
「一つ嬉しいお知らせだ。あと五分もしないうちにお前はお前じゃなくなる。記憶は全て消え去り、俺が見たあとに消去する。そこでだ、救済処置を与えてやろう」
「いいのか? 敵にそんなことしても」
「どのみちお前は俺の手中にある。覚えていなければ意味がない。いいか、まず最初に――」ジグは話始めたが、カルナは、
「いや、いい」話を遮った。
「救済処置はいらないと?」
「あぁ。どうせここから抜け出せるしな」
「どうやって抜け出すきだ?」
「そんなことよりも、お前の能力は一体なんだ?」
「そんなこととはなんだ、そんなこととは。まぁいい。俺の能力は「洗脳」」
「なるほど、この植物を操っているのもお前の能力というわけか」
「正解だ。それと残念なお知らせだ。もうすぐお前の洗脳が終わる」と、言った次の瞬間、カルナの両手足を縛っている木の枝が突然凍り始めたのだ。
「一体なんだ!」
「相手のことはよく調べておいたほうがいいぞ」カルナは両手足に結びついていた木の枝を振り払うと、両手を合わせた。
「まさか、自在に凍らせることが出来るとは思わなかったぜ……!」
「これまでの分、きっちりとお返しさせてもらうぜ……!」

「あーあ、やっぱりそうなったか。まぁ、カルナはジグに任せておいてお嬢ちゃんの相手はこのアタシだよ!」
「……!」
エミリがいた場所に炎の塊が通りすぎる。
「ふぅん、あれを避けるなんて流石だねぇ。それと、余所見している暇はないよ……!」そう言って、ミレアは大量の炎の塊を生み出した。
「……流石にこれだけの量は厳しいかも」
「だろうね。それじゃ、カルナの足手まといだね!」
「足手まとい……」
「あぁ、カルナはああ見えて昔は厳しい男だったからねぇ」
炎の塊の一つが飛んで行く。エミリは両目を瞑ったまま、それを避ける。
「この際だ、教えてあげるよ! カルナは、昔から足手まといのやつは全員邪魔扱いしていたんだよ! お嬢ちゃんもいつか邪魔扱いになるかもしれないね!」
「……」
「おやおや、だんまりかい? まぁ、そっちの方がやり易いのだけれどね」ミレアはそう言うと、全身に炎を纏った。
「炎の鎧」
(確かに今の私じゃカルナの足手まといになるかもしれない……。だけど、私は……私は……!)
「絶対に足手まといになんかならない!」
「決心はいいけど、反応が遅い!」
エミリの目の前に炎の塊が迫っていた。
「この炎の鎧を装着したアタシに敵はいない! 全ての炎を自在に操り、炎の質、大きさ全てが大幅にアップする!」
「私は負けない! 足手まといにならないために!」エミリは右手をつきだした。次の瞬間、炎の塊は消えた。
「一体何が……!」

「ほう、あの嬢ちゃん新しい能力を開花させたか」
「新しい能力だと……?」カルナは氷の槍を作り出しながら言った。
「能力は一人一つじゃないのか」
「確かに、今のところ能力は一人一つだ。しかし、時々能力をもう一つ開花させる者もいる。それにもう一つ、能力覚醒させる者もいる」 ジグは自分の目の前に木の枝で作った盾を展開させながら言った。
「……これでは埒があかないな。ミレア!」
「はいよ!」ミレアはそう言うと、ジグの元に戻った。
「エミリ、大丈夫か!」
「うん! 私は大丈夫」
「これで、お互いパートナーがいるわけだ。ここからは、手加減なしの本気でお互い潰しにかかるぞ!」
そうして四人はぶつかる。

「取り敢えず、こいつでも喰らいな!」
ミレアはそう言うと、炎の塊を空からカルナへ向けて落とした。
「ここは私に任せて!」エミリはそう言うと、右手をつきだした。次の瞬間、炎の塊は消えた。
「……成長したな」
「カルナの足手まといになりたくないからね!」
「体力に気をつけながら戦うんだな」そう言うと、カルナは氷の槍を手に持ち直して、構えた。

「……厄介な能力だな」
「へぇー、アンタが弱気になるなんて珍しい」
「それほど、面倒な相手というわけだ」
「そうなんだよね。私の攻撃も防がれちゃったし」
「……! 来る!」
「えっ? 何も来てないけど」
次の瞬間、二人の回りに黒い穴が現れた。
「なるほど、これが嬢ちゃん能力の正体か」
次の瞬間、全ての黒い穴から炎が噴き出した。

「……終わったな」
「うん。だけど、私はあの人たち生きてると思う」
「偶然だな。俺もそう思う」
「……ねぇ、カルナ」
「どうした?」
「私足手まといにならなかった?」
「全然そんなことなかったぞ」
カルナは少し歩いてエミリと距離をとったあとにこう言った。
「これからもよろしくな、相棒」

記憶喪失少年

記憶喪失少年

  • 小説
  • 短編
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-21

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