願った思い。
強く願い、叶えてしまった少年と、それを支えた少女の物語。
事故
ドカッ!
ーーこのまま、消えれば……
強い衝撃と鈍い痛み、遠退く意識の中ただそれだけを願った。
***
「……はー」
(誰……だろ……?)
何もない暗い世界の中、聞こえた声に耳を傾ける。
「あー、……ぱ…………かー」
(なつかしい……)
何もわからなかったがそう思った。世界が段々白く明るくなっていく。
「おき……」
(……?)
「……寂しいよ」
ただその言葉だけがくっきりと聞こえ、ゆっくりと目を開く。そこには、可愛いとも綺麗とも見える女性の横顔が見え……
「ーーっ!?」
目があった。とたんに彼女は近くのスイッチのようなものを押し、急いで出口らしき扉から部屋を去っていった。
ぼんやりとした頭を何とか動かし今いるところを見渡した。どうやらベットに横のなってるらしく、白を基調とした部屋にレースのようなふんわりとしたカーテン、窓に目をやると青く高い空が見え、消毒液のような何とも言えない匂いがツンとした。
どうやらここは病院の一室らしい。他に人は居らず、部屋の大きさから察するに一人部屋だろう。
ここで、さっきの女性が戻ってきた。
「ただいま! 今先生呼んできたよ。具合どう?」
「……」
「あ、まだ喋れないよね……ごめん。ゆっくりでいいからね?」
話せないでいると彼女が何かを察したのか話を切り上げた。そのあとすぐに先生らしき白衣を着た男性とナース服を着た女性がやって来て、何かと話し掛けながら血圧や体温を計り終わり、出ていく間際に心配そうな顔で見ていた先程の女性に
「今のところ大丈夫そうですので、また何かありましたらお声かけください」
とだけ告げて去っていった。当たり前のように部屋に残ったのは自分と彼女だけだった。
数秒くらい自分も彼女も黙っていたら、しびれを切らしたのか彼女のほうから話し掛けてきた。
「……こうきくんさ、わからないだろうけど……車に跳ねられてたんだよ……? 私も現場に居合わせた訳じゃないからさ、話だけなんだけど……何かあったの……?」
「……ごめん……わからない」
「……そっか」
いくらか思い出そうとしたが……
ーー何も思い出せなかった。
そう、“何も”思い出せなかったのだ。事故の事も彼女の事も、挙げ句には自分のことすらも。
「……あのさ……ごめん」
覚えてないことがなんだか申し訳なくなり、そう言葉を発していた。
「……え? 何を、謝ってるの?」
彼女の言葉に素直に答える。
「……何も思い出せない。ごめん」
そう言った瞬間、何故か自分の目から雫が垂れた。
「嘘……だよね?」
「……」
彼女の言葉に無言になる、自分でも何がなんだかわからなかった。彼女はどういった女性なのかもわからずに、ただただ胸が締め付けられるようだった。
「……えっと、自分の事も……?」
その質問に彼女の目を見ながらそっとゆっくり頷いた。
「そっか……気付いてあげられなくてごめん。君は須川弘輝“すがわ こうき"私の幼馴染みだよ? そして、私は久藤絵梨“くどう えり"こう見えて私たち付き合ってるんだよ?」
「……そう、だったんだ」
「やっぱり……思い出せない?」
「…………うん」
「……だよね」
どう返していいのかわからないと言うように、彼女は少しだけ苦笑いしながら答え
「……ごめん」
とだけ言い残し部屋からまた去っていった。出ていく彼女の姿は、さっきとは違って暗く重い背中だった。
願った思い。
この作品に出てくる全ての人物,団体はフィクションで、100%勝手な妄想です。もし、自分がこうなったらどうなるだろうと言う思い付きで書きました。まだまだ途中ですが、次書くかは未定だったりします。