うさぎの神主様

暑さの絶頂期とも言える文月を迎える。
てっぺんを超えた時間帯に鳥居の前で自転車を降りると、
お神酒を持って階段を上っていく。
神主様がいるはずの境内を見渡すがどこにもいない。
1.8Lあるお神酒が重たくどこかに置きたくなると、
勝手に上がり室内へ置く。

「はあー重たかった。」

肩をぽんぽん叩くとお神酒が喋った。

「こらこら勝手にそんなところへ置くでない。」

ギョッとするのと同時にふらついてお神酒を倒してしまった。

「おやおやこぼれちゃってるよ。
もったいない。」

すると倒れたお神酒の横に手のひらサイズのうさぎがいた。
喋ったのとサイズが小さいのと、
こぼれてしまったお神酒を飲んでいるの、
3つにまず驚かされてしまった。
最近なら服を着させている人もよく見かけるものだが、
そのうさぎはまさかの和服。
一瞬で4度も驚いてしまい圧倒されていたが、
服装には見覚えがあった。

「もしかして神主様……?」

ぺろぺろ飲んでいた動作が止まるとうさぎはこっちを見てきた。

「うさぎが神主で何か問題でも。」

その赤い目がギョロッとしているが全く怖くはない。
むしろとても愛くるしく可愛い。

それに問題があるのかと問われると、
特に問題があるとは思えない。
業務を行っているのなら人であろうとうさぎであろうと、
どちらでも構わない。
というかこんな可愛いうさぎに文句なんて何も言えない。
ただただ口をぽかーんと開けて、
こぼれたお酒が無くなるのを待った。


いつもなら人間の形をしていはずの神主様。
それがどういう訳かうさぎの姿に戻ってしまったらしいが、
人間の姿に戻れないのなら仕方がない。
諦めたうさぎの神主様は特に気にせず日常業務へ戻ろうとする。

「ところで今日は何か用事があったのでは。」

あまりにも可愛いうさぎの神主様のおかげで、
神社へ来た理由を忘れていた。
日照りが続き畑も水田も作物が枯れようとしている。
なんとか雨を降らせてもらおうとお願いに来た。

聞くとうさぎの神主様はペタンペタンと、
今にも倒れてしまいそうな千鳥足で神楽鈴を取り出すと、
妙な踊りを踊りだす。
普段のものとは明らかに違い奇妙。
うさぎの姿に戻っているし酔っていることもあり、
不思議な踊りになってしまっているのかもしれない。
不安もあるが儀式には違いない。
途中で声を掛けることも出来ずに見守ることにした。

「これで大丈夫……なはず。」

もううさぎの神主様も限界。
ふらふらと横になると、
お神酒を抱いたまま眠りに落ちてしまった。

外へ出てみるとそれまで強かった日差しが急に曇ると、
雨が降り始めた。
まさに恵みの雨。
降り続く雨は大地に潤いをもたらし、
作物も次第に大きく実っていった。


涼しくなり始めた神無月。
鳥居をくぐると未だにうさぎの姿をしている神主様がいる。

慣れてしまったこともあり誰もそのことで驚くことはない。
今日はうさぎの神主様のおかげで収穫できた、
米で作ったおにぎりを持ってきた。

中身は種を取って食べやすくしてある梅干。
それをむしゃむしゃと食べている仕草はやはり可愛らしい。
とても神主様とは思えない。
普通のうさぎ。
いや普通よりもふたまわり小さいくらいかもしれない。

持ってきた3つのおにぎりを、
あっという間にたいらげてしまうと、
小さかったうさぎの体から元のというべきか、
人の姿へと変わっていった。

うさぎの神主様

お題 【うさぎ てのひら 神社 おにぎり さけ】

うさぎの神主様

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-18

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