秘密戦隊ゴレンジャー #1

 一九七五年。
 長きに渡った国際戦争が終結し、かつての覇権国の保守党に初の女性党首が生まれ、冷戦の続く二大国の宇宙船が初の国際ドッキングに成功した年である。
 多国間における種々の駆け引きは消えないながらも、わずかながら平穏の兆しが見え始めたこの年――それとは真逆な状況に陥りつつある一つの国があった。
 日本である。
 戦後、驚異的な経済成長を遂げた日本経済に、一昨年、冷や水をあびせるようにして起こった第一次オイルショック。狂乱物価と呼ばれた日常品の急激な値上がりや、経済活動の鈍化に伴う企業の倒産も相次いでいたが、脅威はそれらとは別のところで密かに進行していた。
 この年、日本の人々は、その存在をはっきりと認識することになる。

 黒十字軍の存在を――


× × ×


「フフハハハハハ……フ ァハハハハハハ……」
 海城剛の耳に、それは死神の哄笑に聞こえた。
 銃声、そして爆音。
 ほんの数分前まで仲間たちとサッカーに興じていたグラウンドは、見るも無残な地獄絵図と化していた。
 そして、まだ地獄は続いている。
 耳にこびりつく笑い声。爆風によって吹き飛ばされた剛は、憎しみをこめて崖の上を見上げた。
 銃を手にずらりと並んだ黒服の兵隊たち。その中に一人異彩を放つ存在があった。
 黄金仮面――
 陽光を受け輝くその仮面に、しかし神々しさは欠片もなく、仮面の下の人物の心を表すかのようにぎらぎらと不気味な光を放っている。
 仮面怪人。それは、剛の所属する国際秘密防衛機構イーグルにおいて、恐怖をもって語られてきた存在だ。各々が異なる意匠をほどこされた仮面をかぶり、時に人間とは思えない恐るべき力をふるうと言われる驚異の超人。
 彼らが、なぜそのような力を使えるのかは解明されていない。仮面に内蔵された機械により脳の潜在能力を引き出し、さらに顔を隠すことによる自己催眠効果で身体能力を極限まで高めているという説が有力だが、それだけでは説明のできない魔法じみたことも彼らはやってのける。とにかく、得体の知れない怪奇の集団。
 そんな彼らの組織こそ、黒十字軍だった。
 イーグルは近年、黒十字軍の存在を知り、その内偵を進めていた。しかし、わかったことは皆無に等しい。
 本拠地、所属人員、共に不明。判明しているのは、総統と呼ばれる人物のもとに絶対の規律を持って統率されている組織であること。世界各地において密かに軍備を保有していること。幹部として、特殊能力を持つ仮面怪人たちを有しているということくらいだ。
 剛の所属するイーグル日本ブロック関東支部も、この謎の組織・黒十字軍には警戒をしていた。
 しかし、今回の襲撃は、あまりにも突然のことだった。
「くそっ……大川……相田……」
 明らかに息がないとわかる仲間たちを見て、剛は悔しさに唇をかむ。立ち向かっていきたかった。たった一人でも、あの黄金の仮面をつけた怪人に一矢報いたかった。しかし、爆風によって全身を打ちつけたためか、剛の身体はどうしても思うように動いてくれなかった。
 そして、
「!」
 新たなる爆音に、剛は目を見開く。
「な……!」
 剛は信じられないものを見た。イーグル日本ブロックの要である関東支部の建物が、立て続けに起こる爆炎に飲みこまれていったのだ。
 さらに響き渡る仮面怪人の哄笑。
 真っ白になる剛の頭。
 無意識の衝動が限界に達していたはずの彼の身体を動かし、剛は炎に包まれた建物に向かって走り出した。

「分隊長!」
「つ……剛か……」
 関東支部・作戦司令室。
 至るところで爆炎が広がり、すでに崩壊を避けられない建物の最奥。そこで剛は、瀕死の重傷を負って倒れている上司の姿を発見した。
「奇襲された! 黒十字軍だ!」
 分隊長を抱え上げ、声をはりあげる剛。
 もはや視界もはっきりしないのか、彼は視線を宙にさ迷わせながら、
「頼む……戦え……」
 それが最後の言葉だった。
「……兄貴?」
 信じられない……そんな声が剛の口からもれる。イーグル関東支部分隊長は、剛の上司であると同時に血のつながった実の兄でもあった。
「兄貴! 兄貴―――っ!」
 必死に呼びかける剛。しかし、兄の目が再び開くことはなかった。
 と、
「!」
 近くで聞こえた銃声に、剛は顔を上げる。
 やつらだ! 黒十字軍の兵隊が、建物の中にまで侵入してきたのだ。爆破だけではあきたらず、イーグルの隊員たちを確実に仕留めようと。
「フファハハハハハハハ……」
 その声を忘れるはずもない。グラウンドで仲間たちを屠った怪人の笑い声を。
「黄金仮面!」
 黒服の兵隊を率いて現れた黄金仮面は、手にした鎌を振りかざし高らかに宣言した。
「問答無用!」
 兵士たちの銃がいっせいに火を噴いた。
 奇襲に混乱していたイーグル隊員たちは、なすすべもなく銃弾に倒れていく。
「おのれぇーーーっ!」
 仲間を、そして兄を殺された怒りに全身をふるわせ、剛は黒服の兵士たちに飛びかかっていった。
 一人、また一人。関東支部で猛者としてならした剛の拳が、黒い覆面の兵士たちをなぎ倒していく。
 しかし、
「うあっ!」
 銃弾が剛をとらえた。武装した兵士を相手に、徒手空拳ではあまりに無力だった。
「ハーーーーッハッハッハッハ……」
 黄金仮面の笑い声がこだまする中、剛は血だまりへと倒れ伏した。

 こうして――
 国際秘密防衛機構イーグル日本ブロック関東支部は、黒十字軍の黄金仮面軍団に奇襲され全滅した。

 ただ一人をのぞいて――


× × ×


 雪の積もった東北山中。
「伏せっ!」
 するどい声を受け、隊列を組んだ男たちが一斉に雪上にしゃがみこんだ。
「ようし行くぞ……前進!」
 リーダーを務める新命明の号令のもと、イーグル東北支部のレンジャー服に身を包んだ隊員たちが、雪をかきわけ匍匐前進を始める。
 そんな、いつもと変わらない厳しい実戦訓練の最中、
「ファッハッハッハッハ……」
「!」
 勇猛さに老獪さの入りまじった不気味な笑い声に、明は顔をあげた。
 行く先に立っていたのは、戦国武者のような甲冑に身を包んだ不気味な人物だった。両脇には黒服で身を包んだ覆面の男たちが並び、背後に掲げられていたのは――
「あの旗……黒十字軍!」
「やれぇっ!」
 武者の仮面をつけた男が、勇ましい鬨の声をあげる。
 黒服の兵隊たちが、いっせいに手にした爆弾を投げた。
「伏せろぉーーーっ!」
 これは訓練ではない! 必死の声が明の口からほとばしる。
 だが、その叫びもむなしく、爆風をまともにくらった仲間たちが次々に吹き飛ばされていった。
「みんな! 大丈夫か!」
 周りへ呼びかけると同時に、明は立ち上がった。黒十字軍の兵士たちが、刃物を抜き斬りかかってきたのだ。仲間たちを守るため、いまはとにかく戦うしかない!
「ホイッ!」
「ホイッ!」
 ゾルダー――仮面怪人のもとで戦うために特殊な訓練を受けた強化兵士たちが、不気味な奇声をあげ飛びかかってくる。
「くそぉーーーっ!」
「この化け物がぁーーーっ!」
 手持ちの拳銃で、必死にゾルダーを迎え撃つ隊員たち。しかし、不意をつかれた動揺もあり、次々と刃を受け倒れていく。さらに、
「エイヤァーーーーーッ!」
 雪を震わせる裂帛の気合。武者仮面の刀が、隊員たちを一人また一人と情け容赦なく斬り捨てていく。
「くっ……」
 拳銃と、雪山仕込みの体術で必死に応戦する明。しかし気づけば、彼以外の全員が雪の上に倒れ伏し、そしてただ一人残った明にも、
「うおおおーーーーーーっ!」
 とどめとばかりに大量の爆弾が投げつけられ、明はなすすべなくその爆炎の中に消えていった。

 こうして――
 冬山でトレーニング中だったイーグル東北支部の精鋭たちは、武者仮面とその軍団に襲われ全滅した。

 ただ一人をのぞいて――


× × ×


「おっしゃーーーい!」
「おらーーーっ!」
「うっしゃーーーーーっ!」
 気合と共に、目まぐるしく畳に叩きつけられる男たち。イーグル九州支部の柔道場は、今日も鍛錬に励む隊員たちの活気に満ちていた。
 その中でも、特に目立っていたのは、
「よっしゃー! もう一本こんねー!」
 力強いが、どこか愛嬌のあるその青年――大岩大太は、疲れを知らないかのように次々と仲間たちに稽古を挑んでいった。
 と、そのときだった。
「のわっ!」
「!?」
 不意に建物を襲った大きな振動に、隊員たちが驚いて稽古の手を止める。
「あ、あっちじゃーっ!」
 建物の外に向かって一斉に駆け出す隊員たち。
「!」
 響く銃声。隊員の白い道着に、赤い血の花が咲く。
「じ、銃撃じゃと!? みんな、こっちじゃーーーっ!」
 何者かに襲撃を受けている! いち早く状況を察した大太は、仲間たちを物陰へと導いた。しかし、
「ホイッ!」
「ホイーーーッ!」
 不気味な奇声と共に投げつけられる爆弾。そこでも大太の判断は早かった。
「こっちじゃーーーっ! 早ぉーーーーーーーーーっ!」
 必死の叫びもむなしく、逃げ遅れた隊員たちが建物と共に爆炎に飲みこまれた。
「お、おのれ……なんということを……」
 次々と投げつけられる爆弾によって、無残に崩壊していくイーグル九州支部。しかし、歯噛みしている余裕はなかった。
「大丈夫かーっ!」
 かろうじて襲撃から逃れた仲間たちを気遣う大太。しかし、そこにも、
「ホイッ!」
「ホイーーッ!」
 止まることのない爆弾の嵐。仲間たちと共に爆風に翻弄されながら、大太は悟る。敵は自分たちを殲滅するつもりなのだ。
「伏せろーーーっ!」
 必死の叫びもむなしく、爆弾、そして銃撃に倒れていく仲間たち。
 そんな生死の境で、大太は見た。
「フヘハハハハハハ……」
 耳ざわりな笑い声を響かせる存在――鉄塔の上に立つ不気味な青銅色の怪人を。
「青銅……仮面……」
 つぶやく大太。その直後、
「それーーーーい!」
 青銅仮面の合図を受け、剣を抜いたゾルダーたちが、柔道着姿の隊員たちに襲いかかった。武器を持たない彼らは、なすすべなく刃のもとに倒れていった。
 しかし、大太は、
「っしゃあーーーーー! おらあーーーーーーっ!」
 こんなところで殺されてたまるか! 生来の負けん気に力を与えられ、斬りかかってきたゾルダーの腕をつかみ、得意の腕力で逆に羽交い締めをくらわせる。
「おいば阿蘇山たーーい!」
 気合の言葉を口にし、さらに自分を奮い立たせる大太。
 だが、そこへ、
「あうっ!」
 別のゾルダーが、無防備な大太の背中を斬りつけた。不意打ちに大太の身体から力が抜け、ずるずるとその場に倒れ伏す。
「よぉし! ひけーっ!」
 芒の茂る荒野。隊員たちがすべて倒れたことを確認した青銅仮面は、ゾルダーたちに退却の指示を出した。これで終わりではない。引き続きイーグル九州本部を徹底的に叩かなければならないのだ。
 殺戮は、まだ始まったばかりだった。

 こうして――
 イーグル九州支部を襲った青銅仮面とその軍団によって、精鋭ぞろいの隊員たちは壊滅させられた。

 ただ一人をのぞいて――


× × ×


 イーグル北海道支部――
 広大な自然の中で、若き隊員たちが鍛錬に励む中、ひときわ目立つ一人の女性の姿があった。
さっそうと馬を乗りこなす彼女――ペギー松山は、今日も凛々しく己を鍛えていた。
 そんな日常を、不意のエンジン音が切り裂く。
 そして、銃声。
「それ行けーーーっ! やれーーーーーーっ!」
 ゾルダーたちと共にバギーに乗って突っこんできたのは、七色のマントをまといゴツゴツとした翡翠の仮面をかぶった怪人物――ヒスイ仮面だった。
 突然の襲撃に、動揺する隊員たち。
 しかし、ペギーを筆頭に、彼らの反応は素早かった。
「ホイッ!」
「ホイーーッ!」
 馬場の柵を飛び越え、襲いかかってくるゾルダーたち。イーグル隊員たちは、銃を抜いてそれに応戦する。
 しかし、訓練中の彼らと、殲滅を目的として武装してきた黒十字軍との戦力差はあまりにも大きかった。
「きゃーーーーーーーーーっ!」
 投げつけられた爆弾がすぐそばで炸裂し、ペギーは成すすべなく吹き飛ばされた。

 こうして――
 イーグル北海道支部を襲ったヒスイ仮面とその軍団は、訓練中の隊員を皮切りに、支部のメンバーすべてを容赦なく血祭りに上げた。

 ただ一人をのぞいて――


× × ×


 鉄壁の防備を誇る堅牢な建物。
 イーグル関西支部の旗がたなびく屋上の一角で、非常連絡用に飼育されている伝書鳩の面倒を楽しそうに見ている青年がいた。
「ほらほら、あわてるな。ちゃんとエサはあるから」
 明るく人の好さそうな彼の名は、明日香健二。彼もまた、イーグルの将来を担う優秀な隊員の一人だった。
 心優しい彼にとって、鳩とたわむれる時間は心休まるひと時だった。
 しかし、そんな時間は、突然の大声によって打ち砕かれる。
「かかれーーーーっ!」
「!」
 はっと顔をあげる健二。
 そこへすかさず、
「黒十字軍だ!」
 高所で見張りに立っていた隊員の声が響く。
 動揺は隠せないものの、日ごろの厳しい訓練の成果もあり、隊員たちは武器を手に取り果敢に飛び出していった。
 そこへ、ゾルダーたちを率いて突進してきたのは、ガスマスクのような不気味な仮面をつけた怪人だった。
「なっ……」
「なんだぁっ!?」
 仮面の口から、大量の黒煙が吐き出される。それをまともにくらった隊員たちは、断末魔の悲鳴をあげることもできず次々と倒れていった。
 毒ガス仮面――
 その殺人毒ガスに対し、イーグルの隊員たちはまったく無力だった。
 そして健二は、
「………………」
 動かなかった。動けなかった。
 下手に動けば、眼下の仲間たちのように自分も一瞬で絶命する。事実、仲間の応援に向かった見張りの隊員は、見張り塔を降りたところで毒ガスにまかれ倒れていた。
(くそっ……くそおぉぉぉっ!)
 健二は鳩小屋の陰に身を隠し、自分の無力さに歯噛みすることしかできなかった。

 こうして――
 イーグル関西支部は、毒ガス仮面とその軍団に奇襲され全滅した。

 ただ一人をのぞいて――


× × ×


 その日は、イーグル日本ブロックにとって、最悪の日として語られることになった。
 関東、東北、九州、北海道、関西の五つの支部が同時に奇襲を受け、短時間の内にすべて壊滅させられてしまったのだ。
 黒十字軍の脅威にいち早く気づき、対策を進めてきたイーグル。
 しかし、敵はその先手をとった。
 訓練を重ねてきた隊員の多くが無慈悲な先制攻撃によって倒れ、組織的な反攻が不可能なほどにイーグル日本ブロックは弱体化させられてしまった。
 一刻も早い立て直しの必要に迫られた日本ブロック。しかし、他国の隊員を補充することは難しかった。黒十字軍の戦力の一端が明らかとなったいま、下手に隊員を動かして今度はそのブロックが攻撃を受けたらどうするのかという恐怖に上層部が囚われてしまったのだ。イーグルは組織としての動きが取れない状況に陥っていた。
 すべて――彼らの目論見通りであった。


× × ×


 地下深く――
 ごつごつとした岩がむき出しになり、うっすらと白いもやが漂う洞窟の奥底に彼ら――黒十字軍の仮面怪人たちは集結していた。
 黄金仮面、武者仮面、青銅仮面、ヒスイ仮面、毒ガス仮面。
 彼らが今回の戦勝報告を行っていたのは、円錐状の覆面と白いローブで全身を覆い隠した謎の怪人物だった。その姿は、かつてアメリカで恐怖と共に語られた白人至上主義団体クー・クラックス・クランを思わせた。
 そして、怪人物の背後の闇に浮かび上がるのは――十字の光。
「くくくく……はははははは……」
 薄暗い洞窟の中に静かな――確かな狂気に満ちた笑い声が響き渡る。
「我が黒十字軍はイーグル日本ブロック各支部の奇襲作戦を遂行。大成功を収めた。これで我らの日本侵略を邪魔する者はいなくなった」
 覆面の男の宣言と共に、仮面怪人たちが立ち上がる。その後ろに控えていたゾルダーたちも立ち上がり、拳を突き上げ勝どきの声をあげた。
 男は満足そうにうなずき、言葉を続ける。
「あとは侵略あるのみだ。問答無用。襲い、殺し、奪い。我らのモットーは、破壊と殺戮だ。人間社会をすべて破壊しつくしたあとに、我ら黒十字軍の世界を」
 狂気の宣誓。
 淡々と語るその言葉が、鬼気となって周囲の岩壁をふるわせていく。
 そこに、仮面怪人とゾルダーたちの歓声が重なる。
 狂喜する悪魔たちの声は、これから日本を襲う悲劇を予兆するように、深く不気味に闇の中にこだましていった。

 荒野を走る青い風。
弓を手に走るその人物は、全身を青いボディスーツで覆っていた。
 顔を覆うのもまた青い――仮面。
 と、青ずくめのその人物の前に、突如として四人の影が立ちふさがった。彼は、迷うことなく弓に矢をつがえる。
 一本、二本、三本、四本。
 流れるような動きで放たれた矢は、一つとして外れることなく人型の的をすべて射ぬき倒した。
「お見事!」
 不意にかけられた声に、青い仮面の男がふり返る。
 一目で特殊な改造を施されているとわかるバイクに乗っていたのは、これまた全身を覆うボディスーツと仮面で正体を隠した人物だった。
 その色は燃えるような――赤。
「合格だ! アオレンジャー!」
 それだけを言い残し、赤い仮面の男はバイクで走り去っていった。
「………………」
 投げかけられ言葉の意味を確かめるように、その場に立ち尽くす青い仮面の男――アオレンジャー。
 すると、何かに気付いたようにその顔が上がる。
 射倒した的の一つへと歩み寄っていく。そこには、黒い板に白インクで書かれた文字があった。
「スナック……ゴン?」
 再び考えこむアオレンジャー。
 と、その場でくるりと横に一回転する。
 一瞬の閃光。
 光が消えたとき、そこに青い戦士の姿はなかった。代わって立っていたのは、ラフな服装に身を包んだ目鼻立ちのくっきりした青年――
 イーグル東北支部で、ただ一人生き残った隊員・新命明だった。
「……よぉし」
 覚悟を決めた顔になり、明はその場から歩き始めた。


× × ×


「どっこい……どっこい……」
 トラックが坂の砂利道をのぼっていく。エンジンはかかっていない。その車は驚くべき腕力によって引っぱりあげられていた。
 黄色い仮面とボディスーツを身にまとった一人の人物によって。
「おいは阿蘇山たい……怒ればでっかい噴火山たい……」
 苦しそうな息の中、自分を叱咤するようにつぶやく黄色い仮面の男。トラックにくくりつけられたロープを引く手に、さらなる力がこもる。
「合格だ、キレンジャー!」
「!」
 歩みを止める黄色い仮面の男。
 崖をはさんだ向こう側に、バイクに乗った赤い仮面の男の姿があった。
「あれは……アカレンジャー」
 そうつぶやく黄色い仮面――キレンジャー。
 アカレンジャーと呼ばれた赤い仮面の男は、キレンジャーの言葉に応えることなく走り去っていった。
 その背を見送るキレンジャー。
 と、不意に足もとから聞こえた犬の鳴き声にはっとなる。
「これは……」
 いつの間にかそばに来ていた一匹の犬。その首には一枚のカードがかけられていた。
 スナックゴン――そう書かれたカードが。
「よぉし」
 くるっと、その場で回転するキレンジャー。
 閃光。
 仮面の人物は消え、そこには人の好さそうな太身の青年が立っていた。イーグル九州支部ただ一人の生存者・大岩大太だ。
「スナックゴン……行ってみるか」


× × ×


 バイクを駆り、突撃してくる四人の黒ずくめの男たち。
 それを迎え撃つように一人立っていたのは、桃色のボディスーツと仮面に身を包んだ女性とおぼしき人影だった。
 彼女の手が、仮面の耳元につけられたハート型のイヤリングをつかむ。
「いいわね? いくわよ!」
 宣言した直後、イヤリングがバイクの男たちに向かって投げつけられる。
 轟音。荒野にあがる爆炎。
 男たちはバイクごと吹き飛ばされ、全員が倒れたまま動かなくなった。
 その身体からバチバチッと火花が散る。黒い男たちの正体は、実戦訓練用に作られた簡易ロボットだった。
 そこへ、あらたなバイクが走ってくる。
「!」
 すかさずふり向く桃色の戦士。
 バイクを止めた赤色の戦士・アカレンジャーは、満足そうにうなずき、
「お見事、モモレンジャー。合格だ」
 一枚のカードを、モモレンジャーと呼んだ彼女に向かって投げ放った。カードをつかみ取った彼女は、そこに書かれてある文字を読む。
「スナックゴン……?」
 不可解そうにつぶやく彼女に何も答えず、アカレンジャーは去っていった。
 その場で、一回転するモモレンジャー。
 桃色の戦士の姿が消え、代わりに現れたのはサングラスをかけた長い黒髪の強気そうな美女――
 イーグル北海道支部で、ただ一人命を取りとめた隊員・ペギー松山だった。


× × ×


 誰もいない枯野を、緑の仮面の男が走っていた。
 そこへ、無数の槍が降り注ぐ。
 地面に転がりながらそれを避ける緑の影。しかし、続けざまの槍の雨が彼を目がけて飛来する。
 彼は手にした〝武器〟を槍目がけて投げ放った。
「ミドメラン!」
 くの字に折れ曲がった投擲武器――一般にブーメランと呼ばれるそれは、しかし通常のブーメランではあり得ない破壊力で次々と槍を叩き落とした。
 だが、残った一本が緑の戦士に迫る。
「たあっ!」
 高々と跳躍する緑の戦士。
 反転してきたミドメランを空中でつかみ、気合と共に最後の槍を叩き折った。
「合格だ、ミドレンジャー!」
 ミドメランを手に着地した彼――ミドレンジャーに声がかけられる。
 すぐそばの崖の上にいた赤い人影は、それだけを言い残すとバイクに乗って風のように去っていった。
 そして、ミドレンジャーは気づく。いつの間にか、ミドメランに一枚の紙が貼られていたことに。
 そこには、こう書かれていた。
「スナックゴン……」
 つぶやき、彼はその場で一回転する。
 緑の戦士は消え、現れたのはまだ幼さを顔に残した青年――イーグル関西支部で幸運にも命をとりとめた隊員・明日香健二だった。


× × ×


 長い鉄橋の上を走る――赤い仮面の戦士・アカレンジャー。
 その姿が変化する。
 現れた素顔は、イーグル東京支部で、爆発炎上する基地の中からただ一人奇跡的に生存した隊員・海城剛のものだった。
 彼の口もとには、笑みが浮かんでいた。
「頼もしいやつばかりだ」
 つぶやいた彼の目に、熱い炎が燃え上がる。
 反攻の時は来た――
 剛は、特殊バイク・レッドマシーンのアクセルに力をこめた。

 東京都内――
 明日香健二は、慣れない街の風景を見渡していた。
「あ」
 目的のものが見つかり、そこへと駆け寄る。
「スナックゴン……よし!」
 看板に軽く手をかけ、健二は店のあるビルの地下へと下りていった。
「あ、いらっしゃい」
 最初に声をかけてきたのは、カウンターの向こうで皿をふいているコック姿の中年男性だった。おそらく、この店のマスターだろう。
 ウェイトレスらしき女性も「いらっしゃい」と言って、笑顔を見せた。
 健二は、それほど広くない店内をそれとなく観察しながらカウンター席に座った。そして、さりげない調子で、
「コーヒー」
「あ、コーヒーね」
 健二の注文にうなずくマスター。
 と、壁際の席に座っていた二人連れの若い女性たちも、
「陽子、私もコーヒーちょうだい」
「私はアイスクリーム」
 陽子と呼ばれたウェイトレスは笑顔で応え、カウンターへ注文を伝える。
 すると、そこへ、
「ごめん!」
 道場破りのような荒々しい声と共に、丸い身体つきの青年――大岩大太が店の中へと入ってきた。
 大太は、明日香の横の席に座るなり、
「カレーライス、大盛りで四枚!」
「え……?」
 目を丸くするマスター。
「言っちゃあ悪いけどね、あんた……うちの大盛りは、正真正銘の大盛りなんだよ? 四枚なんて、とても食えたもんじゃないな。二枚にしときな」
 と、指を二本立て笑ってみせる。
 しかし、大太は、
「いいや。四枚お頼み申す」
 と、真剣な顔で、指を四本突き出してみせた。
 マスターはあきれ顔になり、
「ガンコだね、あんたも。本当に食べるね?」
「ああ、食べるたい」
 そのまま、しばらくにらみあう二人。
 やがて、
「よぉし!」
 どうなっても知らないぞ! そう言いたそうな顔でマスターは奥の厨房に向かった。大太は満足そうな笑みをもらす。
 そしてすぐに、大盛りのカレーライスが四皿並べられた。
「おいしそうなにおいじゃのう……いただきます!」
 待ちきれないというように皿とスプーンを手に取り、大太は勢いよくカレーライスをかきこみ始めた。
「あむっ……まぐっ……むぅ……うまいうまい……」
 口の中をいっぱいにしながら、大太はこの上なく幸せそうな笑顔を見せる。
「おいしいのう……はぐはぐはぐ」
「はぁ……」
 そんな大太を見て、マスターはもうため息しか出てこない。
 ふた皿があっという間に空になり、止まることなく大太が三つ目の皿に手をのばしたところで、
「あ、いらっしゃい」
 店に入ってきた白いベストの美女に気づき、マスターが声をかける。
 彼女――ペギー松山もまたカウンター席に座り、
「アイスクリームください」
 と、魅力的な笑顔を見せた。
 そこに、
「お姉ちゃん!」
 小学生に見えるヤンチャそうな男の子が店に入ってきた。
「なぁに?」
 ウェイトレスの陽子は、目線を合わせるようにその子の前にしゃがみこみ、
「おこづかいでしょ?」
「うん」
「こいつぅ」
 笑いながら、弟の太郎のおでこをツンとつつく。そして、その小さな手に、百円玉を握らせる。
「ありがとう!」
 笑顔で、店の外に出ていく太郎。
 と、それと入れ替わるように、凛々しい顔つきの青年が入ってきた。
「いらっしゃい」
「!」
 同時に〝何か〟を感じてふり向く明日香、大太、ペギー。
 青年――剛は、親しげに三人の肩を叩きながら、カウンターの奥へ向かった。席を立ちその周りに集まる健二たち。
 四人は、それぞれ小さな金属製のアクセサリーのようなものを取り出し、カウンターの上に並べていった。
「一枚足りんですたい」
 大太が言う。
 剛はすこし思案する素振りを見せたあと、すぐ笑顔になり、
「いや、いいんだ」
 そう言って、アクセサリーを手に取り店の奥の扉へと向かった。大太たち三人も、それに続く。
 マスターは、そんな剛たちを見て、
「………………」
 何も言うことなく、拭いている皿へと視線を落とした。

 剛、大太、ペギー、健二は、無機質な白い廊下を歩いていた。
 そのまま、突き当たりのエレベーターに乗りこむ。四人を乗せたエレベーターはすぐに下降を始めた。
 と、
「ねえねえ」
「ん?」
 肩を叩かれた大太がふり向く。
 場の緊張した空気をやわらげようとするように、健二は明るい声で、
「火をつけて困るランプ、なーんだ?」
「火をつけて困るランプ?」
「うん」
「うーん……」
 考えこむ大太。しかし、まるでわからず、
「なんじゃろ?」
 隣にいる剛に聞く。しかし剛は、
「なんじゃろ?」
 同じ言葉を返し、笑ってみせる。
「冷たいのう、おぬし……」
 大太はがっかりと肩を落とした。
 そんなやりとりをしている間に、エレベーターは目的の階に到着した。
「なんじゃろかのう……」
 エレベーターを降りても考え続ける大太。
 四人は、タンクや配管がはりめぐらされた広い部屋を通過する。
「のうのう、教えてくんしゃい」
「なんじゃろ?」
 大太の問いかけに、とぼけてみせる健二。大太はさらに難しい顔になって首をひねる。
「なんじゃろかのう……」
 四人は別のエレベーターに乗り、さらに地下へと向かう。
 そして、
「……っ」
 エレベーターの扉が開いた瞬間、四人ははっと顔をあげた。
 そこには、白いギターを鳴らすテンガロンハットの男が待ち構えていた。
 顔を見合わせる大太、ペギー、健二。一方、剛は、ためらうことなくギターの男へと近づいていく。
 男が帽子のつばをあげる。
 口もとに笑みを浮かべているその顔は――新命明。
「おう」
「おう」
 簡単にあいさつを交わす明と剛。
 剛が先ほど上で見せたアクセサリーを取り出すと、明も似た形のアクセサリーをかかげてみせた。
 大太、ペギー、健二も同じ物を手にする。
 そして五人は、目の前の扉の中央にある溝に、それぞれのアクセサリーをはめこんでいった。
 五つのアクセサリーがはまった瞬間、扉は機械的な音を立てて開いた。
 一同は、剛を先頭に中へと入っていく。
 その部屋には、最新式と思われるコンピューターを始めとした電子機器が所せましと並べられていた。平凡な上のスナックとは、まるで別空間だった。
「ゴレンジャールームだ。俺たち五人の基地だ」
 剛が言う。感心しながら部屋を見渡す大太たち。
 そこに、アラーム音が鳴り響いた。続いて、スピーカーから威厳ある壮年男性の声が放たれる。
『私はゴレンジャー総司令官だ。ゴレンジャー諸君、ただちに出動せよ。黄金仮面軍団が火薬工場を襲った』
 剛の顔色が変わる。
「黄金仮面か……」
『やつらは幼稚園児を人質にして侵入した。園児たちが危険にさらされている。諸君らの任務は、園児たちを無事救出して、黄金仮面を倒すことにある。以上』
 音声が途切れた。
 険しい表情を見せる一同。
 と、無数の計器が並ぶ電子機器の前に立った剛が、スイッチの一つをオンにした。
 近くにあった丸い扉が開く。その先にあったのは、
「ああっ!」
 四人が驚きの声をあげる。
 格納庫とおぼしきその部屋には、特別な改造を施された三台のバイクが置かれていた。さらにその奥には――
「新命、バリブルーンを頼む」
「おう。あいつは俺にまかせろ」
「おいどんも一緒に行くたい」
「よーし、行こう」
 大太の肩を叩き、共に格納庫の奥へ向かう明。
 一方、剛は、健二とペギーにヘルメットを投げて、
「明日香とペギーは、俺と来い!」
「はい!」
 勇ましく答え、バイクにまたがる健二。そのサイドカーに乗るペギー。
 剛も『1』のマークが描かれたバイク・レッドマシーンに乗り、凛々しくヘルメットをかぶった。


× × ×


 ビル街の上空に浮上する、特異な形をした飛行兵器。
 秘密の地下基地から飛び立ったそれこそ、剛が明に操縦をまかせた空の戦艦バリブルーンだった。
「よーし、大ちゃん」
「はいな」
「準備オッケー?」
「ラジャー」
「ゴー!」
 コクピットに座る明と大太の、まるで長年の友人同士のようなやり取りの後、バリブルーンは目的地に向かって前進を始めた。
 その眼下では、バイクに乗った剛たちが負けじと地上を疾駆している。
 と、大太が明に聞いた。
「のう、新命どん。火をつけて困るランプはなんじゃろ?」

 日本火薬工場――
 工場を占拠した黒十字軍のゾルダーたちか、大量の火薬を倉庫の一つに集めていく。そして、外のジープに乗った黄金仮面が狂気の指令を下した。
「子どもたちを倉庫に閉じこめろ! 火薬もろとも吹っ飛ばすのだ! フハハハハハハハハハ……」
 と、
「ム……!」
 顔をあげる黄金仮面。
 ジャイロ音と共に空から迫ってきたのは、空の戦艦バリブルーンだった。
 しかし、一足遅く、子どもたちの乗ったバスが倉庫の中へと入れられる。必死に助けを求める子どもたち。先生とおぼしき女性が止めようとするが、抵抗もむなしくゾルダーに当て身をくらい昏倒させられた。
 わずかに残っていた警備員たちも、ゾルダーの銃撃を受け次々と倒れていく。
「引きあげろ!」
 黄金仮面の号令一下、剛たちの到着と入れ替わるようにして黒十字軍は工場から逃げ去っていった。
「む!」
 剛が、倒れている女性に気づく。
「大丈夫ですか!」
 ペギー、健二と共に女性のそばへと駆け寄る剛。彼女は息を吹き返し、
「子どもたちが倉庫の中に! 爆弾を仕掛けられました! もうすぐ爆発します!」
 剛は息をのみ、
「よし、行こう!」
 女性をペギーにまかせ、健二をつれて倉庫の扉へと走る。
 懸命に扉を開けようとする剛と健二。しかし、鍵のかかった頑丈な扉はびくともしなかった。
 剛は、手首に装着した無線機に向かって声を張り上げる。
「新命、ここだ! 倉庫が爆発する!」
 そして、位置を知らせるためのレーダー発信ボタンを押す。
「ドアが開かないんだ! 急げ!」
 通信を受け取った明は、
「大ちゃん」
「あいな」
 大太と共にバリブルーンを操縦し、目的の倉庫上空へと降下していった。
 倉庫の中から、助けを求める子どもたちの声が剛に届く。
「新命、急いでくれ!」
 バリブルーンの機体先端が割れ、中から出てきた鋼鉄のクレーンが倉庫の屋根目がけて落とされた。
 二度、三度。
 屋根が突き破られ、クレーンが倉庫の中へと侵入した。
 そのまま大太の巧みな操作でバスをつかみ、倉庫の外へと持ち上げる。
 爆発が起こったのは、その直後だった。
 無事に助け出されたバスを見あげ、地上の剛たちは笑みをこぼした。
「よし、頼むぞ!」
 剛の声を受け、バリブルーンの窓越しにOKサインを返す明。
 そして、剛たちは、すぐさまその場から走り出した。すでに生存者の避難は完了させていた。あとは自分たちが脱出するだけだ。
「ふせろ!」
 工場から離れたところで、剛は一緒に逃げた女性教師をその場に伏せさせた。
 大きな爆炎をあげ工場全体が吹き飛んだのは、その直後だった。
「黄金仮面……許さんぞ」
 東京支部の仲間たちが殺されたときと同じ――
 非情なる黒十字軍のやり方を再び目にした剛は、爆発に負けじと怒りの炎を燃え上がらせていた。


× × ×


 人気のない荒れ地――
「ぶっとばせェ!」
 黄金仮面の命令が響き渡る。
 トラックの幌から顔を出したゾルダーたちが、次々と後方に向かって手投げ弾を投げつけた。
 追ってくるのは、特殊バイク・レッドマシーンに乗った剛だ。
 工場を爆破した黄金仮面たちを逃がすまいと、全速力でここまで追い上げたのだ。
 爆風を次々と回避する剛。だが、すべてを避けることはできず、ついにバイクから吹き飛ばされてしまう。
 それでも、かろうじて剛は着地を決める。
 だが、そんな剛を、車から降りた黄金仮面と彼の率いるゾルダーたちが取り囲んだ。
「ホイッ」
「ホイッ」
 奇声をあげ斬りかかってくるゾルダーたちを、剛は力強く叩き伏せる。
 そこへ、黄金仮面が大鎌を投げつけた。
 危ういところでかわす剛だったが、鎌はブーメランのように戻り、それをキャッチした黄金仮面が直接斬りつけてくる。
 体勢が崩れたところを狙われ、剛は逃げることができない。
 しかし、そこへ、
「待て待てぇっ!」
 勇ましい声と共に現れる青い影。
 そのそばには、黄色い影の姿もあった。
「むぅっ!?」
 青と黄色。二人の仮面の戦士の登場に動揺を見せる黄金仮面。
 と、新たな気配を感じふり返る。
 その視線の先にいたのは、桃色の仮面。
 さらに、緑の仮面をつけた男も立っていた。
「ゴーっ!」
 黄金仮面の隙をつき、気合の声をあげ宙に飛び上がる剛。そのまま、常人を超える運動能力で空中回転を決める。
 地上に降り立ったとき――その姿は赤い仮面の戦士へと変わっていた。
「貴様たちは何者だ!?」
 動揺する黄金仮面に向かって、赤い戦士は凛々しく構えを取り、
「アカレンジャー!」
 さらに、青と黄の戦士も、
「アオレンジャー!」
「キレンジャー!」
 桃と緑の戦士も、
「モモレンジャー!」
「ミドレンジャー!」
 名乗りを上げる五人の戦士。
 そして、赤い戦士・アカレンジャーが高らかに叫ぶ。
「五人そろって!」
 いっせいにジャンプするアオ、キ、モモ、ミド。
 アカレンジャーの横に並び立ち、五人一緒に手のひらを突き出して声を張り上げる。

「ゴレンジャー!!!」

「ゴレンジャー!?」
 驚きの声をあげる黄金仮面。周りにいるゾルダーたちもひるんだ様子を見せる。
 五人の戦士が跳んだ。
 いまだ動揺の覚めない黒十字軍に向かい、それぞれ果敢に攻めかかる。
 右手を己の仮面に当てるアカレンジャー。仮面から分離したパーツが、まるで魔法のように一条のムチへと変化する。
「行け! レッドビュート!」
 ゾルダーたちに向かってムチ――レッドビュートをふるうアカレンジャー。目にも止まらぬ速さで、凪ぎ、払い、さらに首に巻きつけ、次々とゾルダーたちを戦闘不能へと追いこんでいく。
 他の四人も、それぞれの武器で敵に戦いを挑む。
 アオの仮面から現れたのは弓。
 ミドの仮面から現れたのはブーメラン。
 キとモモは、格闘戦の構えを見せる。
「えーい、やれやれ! やれぇっ!」
 黄金仮面の号令一下、ゾルダーたちが四色の戦士に襲いかかっていく。
 弓を刀のようにふるい、ゾルダーを斬り裂くアオレンジャー。そして、高々と宙に飛びあがり、
「アーチェリー!」
 弓につがえた矢が放たれ、ゾルダーたちをあざやかに射抜く。
 腕力のみでゾルダーたちをねじふせていくキレンジャー。
 そして、ミドレンジャーは、手にしたブーメランを勢いよく投げつける。
「ミドメラン!」
 ゾルダーを直撃したブーメランは、そのまま宙を飛んでミドの手へと戻った。
「むぅ……!」
 次々と部下がやられるのを見て、黄金仮面は動揺を隠せない。残ったゾルダーたちも、アカとモモによって沈黙させられていく。
 と、キレンジャーが、はがいじめにしたゾルダーに、
「火をつけて困るランプはなんじゃい!」
「それは簡単。トランプだ」
「トランプかー。なるほどー。よーし!」
 謎がとけてすっきりしたキレンジャーは、答えたゾルダーの身体を引き回し、
「ごっつぁーん!」
 勢いよく地面へと叩きつけた。
 さらに、アオレンジャーも、
「といやっ!」
 ゾルダーを蹴り飛ばし、続けざまに、
「アーチェリー!」
 一発必中。確実に矢で仕留めていく。
 そこへ、モモとアカも加わり、無数にいたゾルダーのほとんどが叩き伏せられた。
「えーいっ!」
 このままでは部隊が全滅する――
 そうはさせまいと、大鎌をふりあげて襲いかかってきた黄金仮面に、
「ちょい待ち!」
 待ったをかけるモモレンジャー。
 その手を己の仮面に当て、
「モモミラー!」
 仮面から分離したパーツが、鏡に変わる。
 特殊な鏡面から反射され増幅された光が黄金仮面を直撃する。
「ぐああああああっ!」
 黄金仮面がひるんだ隙に、モモは残ったゾルダーを仕留めていった。
「アカ!」
 崖の上にいたアカレンジャーにも声をかけ、彼の後ろに迫っていたゾルダーを撃退させる。
 ミド、アオも負けじと敵を倒していく。
 そして、残ったのはついに黄金仮面だけとなった。
「逃がさんぞ、黄金仮面!」
 強い想いのこもった声をはりあげるアカレンジャー。黄金仮面こそ、彼の兄を殺した憎き仇なのだ。
「こしゃくなぁ……!」
 悔しそうな声をもらしつつも、黄金仮面は不利を悟って逃走を始める。
 とにかく、このことを総統に報告しなければ! 自分たち黒十字軍以外にも、仮面の力を使う存在が現れたことを。
 黄金仮面を追うアカレンジャーたち。
 アカレンジャーを先頭に、五色の戦士が一列に並び立つ。
「モモ、ゴレンジャーストームだ!」
「オーケー!」
 アカの指示と同時に、五人が高々と右手をあげる。
「ゴー!」
 五人がいっせいに走り出す。
 最後尾にいたモモが、バレーボールの形をした爆弾を取り出した。
「ゴレンジャーストーム!」
 それを地面に置き、
「行くわよ! ミドぉー!」
 高々と宙に蹴りあげる。
「オーケー! キぃー!」
 飛んできたボールを、さらに蹴りあげるミド。
「まかせんしゃーい! アオぉー!」
 ヘディングでボールを飛ばすキ。
「よーし! アカぁー!」
 アカの頭上へ高々とボールを蹴りあげるアオ。
「てやあーーっ!」
 頭上のボールに向かってまっすぐに跳び上がるアカレンジャー。
「ていっ!」
 力をこめてボールを蹴りつける。
 ボールは狙いを外れることなく黄金仮面を直撃した。
「ぐあぁっ! ぐぅぅぅ……」
 高速で飛来したボールを受け、その場に倒れこむ黄金仮面。
 直後、爆弾のスイッチが入り、仮面の怪人は爆炎の中へと消えていった。


× × ×


 光の差さない暗い洞窟の奥――
 黒十字軍の秘密基地。
 黄金仮面敗死の報告を受けた黒十字総統は、怒りにふるえていた。
「おのれ、ゴレンジャー! 我が黒十字軍に刃向かうとは身の程知らずなやつらだ」
 目の前にひざまずいた仮面怪人たちに向かい、
「誰か五人のことを片付けてまいれ!」
 すかさず武者仮面が立ち上がり、
「その役目は、ぜひわたしめに!」
 負けじと青銅仮面も、
「あんなやつら、俺が一ひねりしてくれるわ!」
 さらに、毒ガス仮面も、
「ぜひ、わたくしめに!」
 ヒスイ仮面も語気を強め、
「いや、俺がやる! 俺がやるんだ!」
「わたしめに!」
「いや、俺に!」
 次々と自分が出撃することを訴え、譲ろうとしない仮面怪人たち。誰一人として、突如現れ黄金仮面を倒した五人の戦士たちを恐れる者はいない。
 黒十字総統は満足そうにうなずいて言った。
「よぉし……やれ!」


× × ×


 ゴレンジャー対黒十字軍の戦いの火ぶたは切って落とされた。
 黒十字軍の仮面の力に対抗するため、同じく仮面の力を手に入れた五色の戦士。
 彼ら――襲撃されたイーグル五人の生き残りがなぜその力を託されたのか、そして仮面の力をどのようにして手に入れたのか、すべては謎に包まれている。
 まさに、秘密の戦隊。
 だが、ただ一つだけ確かなことがある。
 彼らがこれからも、世界征服を狙う黒十字軍と戦い続けるということ――

 負けるな、ゴレンジャー! 戦えゴレンジャー!
 五つの力を一つに集め、世界を守れ――

 ゴレンジャー!!!

秘密戦隊ゴレンジャー #1

秘密戦隊ゴレンジャー #1

  • 小説
  • 短編
  • アクション
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-17

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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