右手の小指
青1#池田健吾の場合
毎日は同じように始まって同じように終わっていく。
多分それが一番幸せなことだという人も多いと思う。
けれど僕にとってはあまりに退屈だ。
高校生なんてものはとりあえず授業を適当に受け、放課後は部活か、バイト。
憧れていた放課後デートや友人とのカラオケ、そんなものは全くとして存在しない。
あ、放課後デートのほうは男子校だからなおさらないのかもしれない。
僕の場合は無論帰宅部で、放課後は近所のファミレスでバイト。
バイトに同年代の女子高生なんていたら話は別だが、いるのはパートのおばちゃんと同年代の男子高生。
しかもおばちゃんたちとは仕事のこと以外では話さないし、男子高生は黙々と仕事をこなしてさっさと帰っていく。
僕は少しだけ野球部、サッカー部やバスケ部とかいう世でいう人気者の集団に身をおいていればと考える。
だか僕みたいな運動神経0のやつには到底、逆立ちしたって無理だった。
といって後者の放課後バイトを選んだものの、田舎そのものの中では近所のファミレスはある意味テーマパークのような場所に感じていた小学生だったときの記憶を信じた僕が駄目だった。
所詮は田舎だ、お客さんなんてほぼ60代過ぎのご老人ばかり、たまに小学生の子供を持つ親たちの会合的なものに使われるがそれも月に一度や二度だ。
もちろん僕が期待していた女子高生がきたなんて聞いたこともない。
僕は男子高を選んだ自分がもちろん憎い。
所詮は男子高だ、隣の家には去年まで僕と同じ男子高に通っていた先輩がいる。
その先輩は平日は女子高生と帰ってきたし、休日は必ずといっていいほど出掛けていた。
だから僕は錯覚したんだ、男子高はモテるんだと。
浅はかだった、とりあえず周りに影響を受けやすい僕自身を恨んでいる。
隣の家の先輩、かっちゃんは兄貴にしたいと心から願うほどの世にいう好青年、そして人気者の集団であるバスケ部に所属していて高身長で、並べれば並べるほど自分が惨めになるくらい僕自身とは違った。
なのになんだか中学生の僕はただただ憧れた、そして今では憧れていた男子高に通っているわけだから夢を叶えたと言っても過言ではないが、むしろこの夢は叶わなくてもよかった。
こんな田舎にも高校が三つ、四つある、その中にはもちろん共学だってあるし、なんなら女子高だってある。
男子高に入学して2ヶ月も経たないうちに自分の冒した間違いに気づき、本気で両親に共学の高校への編入を希望したがそんなことは無理に決まっていて両親にはそれはもうしっかりと断られた、両親は僕の懇願はただのわがまま程度に捉えたに違いない。
僕自身も考えることがだんだんと馬鹿馬鹿しくなり、今では普通に通っている。
でも時々隣の家のかっちゃんの妹である晴乃を見かけると無性に悔しい気持ちが込み上げてくる。
晴乃は僕と同じ小学校に通い、同じ中学校に通っていた所謂幼馴染みである。
晴乃は僕に高校も同じとこ行くと思ってたのにと僕の男子高合格が決まった日に言っていた。
むしろ今では高校も同じとこに行けば良かったと心から思っていたが、かっちゃんの影響で男子高に期待と夢だけももを膨らましていた僕にはそんな思いなんて存在すらしていなかった。
晴乃は世間一般には女子高生だ、だかかっちゃんの妹にもかかわらず可愛げもないし、優しくもないだから僕の中では女子高生ではないと分類されている。
晴乃は僕の今憧れている共学の女子の制服を着て、僕に挨拶をする。
「おはよ、健吾。」
これは僕が唯一一日で最初で最後の女子なのは言うまでもないことである。
緑1#園田 克也の場合
今思うと高校での毎日は実にすばらしいものだった。
ここで少し高校時代の話をしよう、19歳を迎えた僕にとっては最近のことと捉えるものではなくなりつつある。
高校での毎日は実にすばらしいものだったと言い切れるのにも訳がちゃんとある。
第一、僕の高校生活は順調でなおかつ安定していた。
僕は自分の両親のどこを受け継いだら、こんな完璧な完成品に至ったのかと親戚一同も驚くくらいに容姿が整っていた。
しかもこれまた誰譲りなのかが不明だか、世間一般からみても十分に世渡りが上手であった。
その二つのことを踏まえると分かると思うが、もちろん友達作りで困ったことなどないし、むしろ担任を含む校内の先生方とは無論仲が良かった。
それが効したのか成績もまずまずで、部活はバスケ部に所属し創部以来兼ねてからの夢であったインターハイ出場も二年、三年で達成をした。
高校生活では全く不満を抱くことなく、三年という短すぎる青春を過ごし、卒業した。
就職を選ぶ友人も数多くいたが、単に推薦がもらえるという理由で進学を選んだ。
推薦はもちろん軽く合格したが、この進学はあまりにも浅はかな選択だった。
勝ちっぱなしの人生を送ってきた僕にとっては初めての負ける出来事が起きた。
それは恋人との別れだ、自分自身正直言ってモテた、まあそれは今まで話したようなことがその原因であることに間違いはない。
しかも男子高生にしては珍しいが彼女を切らしたことはなかった。
一年生の時に二人と付き合ったがどちらも僕には僕に対して上部だけの付き合いをしているような感じになり、ほぼ自然消滅に近い形で終わりをつけた。
二年生からは真由美と付き合った、真由美はとりあえず僕の前で自分を飾ることはなかったし、自分の考えをしっかり
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