かくれんぼ

「もーいーよ。」

山奥にある村で行われている夜祭。
夕方から参加していた村の子供達は露店にも飽き、
かくれんぼを楽しんでいた。
夜とは言っても年に一度の夜祭の日。
辺りには月明かりよりも明るい灯りが煌々と並んでいる。

子供達は笛や太鼓の音がする中ひっそりと、
思い思いの場所へと隠れ鬼をやり過ごしている。
しばらくすると辺りが静かになった。

「もう帰ったんじゃないか?」

「きっとそうだ。」

「おっちゃんたちも酔ってるし俺たちも帰ろうぜ。」

鬼役だった子が誰も見つけられずに先に帰ってしまったせいで、
テンションが下がってしまった子供達は、
その子のことをほったらかして帰宅していった。

次の日になり村では捜索が始まっていた。
かくれんぼをして子供が一人行方不明になった。
近隣の人間も集め探し歩いたが、
川を探しても谷を探しても子供の姿は見つからなかった。

それが合図だったかのように村からは人が離れて行き、
その時かくれんぼをしていた子供達も皆、
散り散りとなって行った。


その年から13年の歳月が流れたある日。
就職活動も終わり明日から夏休みに入るという時のこと。
郵便物を確かめていると一通の古ぼけたハガキがあった。
表には自分の住所だがそれ以外に何もない。
そして裏を見た途端驚いてハガキを落としてしまった。
忘れもしないあの村の景色とまるで同じ風景。
鳥肌が立ってつい後ろを振り返るが誰もいるはずもない。

ハガキを拾いもう一度見ると、
遠くには灯りが見え夜祭の日の絵であると分かる。
しかしこんなイタズラをする人間がどこにいるかと考えると、
あの村で一緒に過ごした仲間たちしかいない。

連絡の取れる相手に聞いてみるが誰も知らないと言うが、
あの当時かくれんぼをしていた全員にハガキが届くという、
奇妙な出来事を受け久々に全員で会うことになった。

都会というものに慣れてしまっている。
ということもあり集まった5人はすぐに昔のように話し、
偽りのない笑顔を見せる。
週末の居酒屋ということもあり周りでも盛り上がる店中。
5人も負けずに盛り上がるがハガキの話題へ変わると、
全員が黙ってしまった。

「あの……さ?
これって本当に誰かの仕業じゃないのか?
今ならまだ冗談でしたーで済むけど。」

5人が全員周りを見ている。
誰かが手をあげることを期待していたが、
その期待は無残に散った。

「もう……いい加減にしてよね。
これじゃまるで……。」

「まるで……なんだよ?」

言いかけた本人も含め全員が生唾を飲み込んだ。

「なあ、たまには帰ってみないか。」

正常な状態ならばここで全員が賛同することはなかった。
何かに引き寄せられるかのように5人は、
あの村へと戻っていく。


都会とは違う自然の暑さは気分が良い。
体から出る汗も気持ち悪さを感じない。
村まで一台の車で向かうと途中何台かの車と、
すれ違うだけでも大変な道を2時間程度行くと、
ようやく目的地へと到着した。

「何も変わってないな。」

「昔のまんま。」

「ほんと……時が止まってるみたい。」

村には当時のことを覚えていてくれた人もあって、
歓迎してもらえた。

「今夜は夜祭の日じゃ。
せっかくだから泊まっていき!」

5人が村の中央を見ると確かに準備が進んでいる。
とても綺麗な盆提灯に露店が並んでいる。

「わー懐かしい。」

「せっかくだしお言葉に甘えますか!」

夕方になるとすっかり日も暮れて夜祭が始まる。
明るい笛や太鼓の音に合わせ踊る村人。
とは言っても盛り上がるのは最初だけ。
都会に慣れてしまった5人にとっては、
一周してしまえば後は時間が過ぎるのを待つだけ。

「そういえばハガキ持ってきたよね。
聞いてみようか?」

「持ってきてるけど何も祭りの間に聞かなくても良いだろ。
明日明日!」

「うーん。
じゃあちょっと皆の見てみたいから見せてよ!」

そう言うと全部で5枚のハガキを見比べる。

「あれ……これって?」

裏面を見て驚いた。
同じ絵だとばかり思っていた5枚はそれぞれ別の絵で、
5枚のハガキは繋がっている。
全て横向きの絵で縦に2枚横に3枚。
それで1つの絵になるようだが、
今ここには5枚しかないのだ。

「ちょっと……あと1枚誰か持ってないの?」

「持ってるわけないだろ?」

「けど……。」

よく絵を見てみると抜けている部分が、
だいたいどの辺りか見当は付いた。
5人はその場へと向かう。
夜祭の灯りのおかげもあって順調に進むと、
そこには古ぼけた井戸が隠れていた。

「まさか……な?」

一人が手を掛け開けようとした。

「ちょっと勝手に開けちゃ駄目だってば!」

止めに入ったのが間違いだった。
その反動で井戸にしてあった蓋が落ち中が見えた。

「……何も見えないじゃん。」

「真っ暗だからな。」

携帯の灯りくらいでは到底井戸の底は見えなかった。
5人は諦め朝もう一度井戸へ向かった。


そこには一人分の骨が埋まっていた。
忘れもしないあの日のこと。
かくれんぼをしていて鬼になったあの子は、
手を滑らせ井戸へ落ちてしまったのだ。
13年もの間誰にも気がつかれず寂しかったのかもしれない。
その思いがハガキとなって5人に届いた。


1週間後。

「え……嘘でしょ?」

「本当らしいよ。
井戸の中でつい最近まで生きてたんじゃないかって……。」

かくれんぼ

かくれんぼ

  • 小説
  • 掌編
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-14

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