鬼ごっこ

陽が山の向こうへと沈んでいくと、
村はあっという間に闇へと包まれる。
電気も無く灯りといえばロウソクくらいで、
普段は月明かりだけが村を照らす時間がとても長い。

虫たちも眠りに落ちていく頃聞こえてくる声がある。

「鬼さんこちら、手のなる方へ。」

その声に誘われ起き上がる子供は、
音も立てずにそろそろ歩き外へと出て行く。
手のなる方へ歩いていく子供はそれ以来姿を見せなかった。


何者かを拒むかのように高めにある家の玄関や窓。
どこまでも続く身長より倍以上高い壁は
他所から来た者の足取りを止めさせる。
クネクネと曲がっている道に高い壁。
ほんの少し遠くの様子もままならない。
奇妙な作りをしている。

そしてその壁を削って作り上げたような家々。
頑丈な作りではあるが山奥にある村で、
なぜこのような作りをしているのか、
とても不自然に思えてくる。

道に迷いこの村で厄介になっている男は、
早く村を出てしまおうと思ったが、
どうも村の雰囲気がそうさせてくれない。

村に泊まって数日。
眠れない日が続く。
夜中になると外を歩く者の音が聞こえてくる。

何をしているのかは知らないが不気味さだけは伝わってくる。
歩いていたかと思えば急に走り出したり、
そう思うと静まり返って何も聞こえなくなる。
見たいと思う気持ちを押し殺し布団をかぶって朝を待つ。


昼間には村の中を散策する。
夜とは違い不気味な音は聞こえないが、
当たり前のように圧迫感のある壁が常に緊張感を持たせる。
ゆっくりと曲がった先には人がいる。
寸前のところまでまるで気がつかない。
足音だって聞こえない。
人が見えたかと思うとビクッとする方が先で、
すれ違い際に挨拶を交わし通り過ぎていく。

何人かの人とは会話もするがとても暗い印象。
それに年寄りばかりで子供や若者がほとんどいない。
過疎化している村なんてそんなものなのだろうか。
いずれは皆いなくなり村もなくなる。
それが運命というものかもしれない。

男は考えながら歩いていると道に迷っていることに気がつく。
前を見ても後ろを見ても同じ景色。
ほぼ直線なんてないおかしな道。
いつしか遠くまで来てしまったように思えた時だった。

「そこの人。」

どこからか声がするが周囲に人はいない。
高い壁を隅々まで見ていくと奥まったところに小窓があった。
その向こう側には誰かがいる。

「誰かいるのかい?」

「今はまずい……夜にもう一度来てくれる?」

その返答には多少戸惑った。
夜と言えば毎晩聞こえる奇妙な音。
ただでさえ不気味な村だと言うのに夜に来いと言われると、
迷うことは当然とも言える。

「今じゃダメなのかい?」

「夜じゃないと皆の目がある。
夜なら見られないで済む……と思う。」

何かあるにしても食われることはないだろう。
特に夜出歩くなとも言われてはいない。
男は了承してもう一度夜にこの場へ来る約束をした。
これでおかしな形をしている村の原因にも近づけた気がした。
この場所を忘れないようにしっかりと道を覚えていくと、
一本道のように思えるほど真っ直ぐだった。


暗くなり月明かりが村を照らす頃男は外へと出る。
明るかった昼間と違い肌寒く感じられる。
何より静かで聞こえる音は風の音。
その風に乗って夜の草木の香りが漂っている。
とても穏やかな夜。

男は昼間覚えた道順をたどって約束したところへと向かう。

「待っていたよ。」

決して姿が見えることはない小窓の向こうから声だけが聞こえる。

「外から来た君にお願いがあるんだ。」

どこが入口なのかもわからないまま話は始まる。
向こう側からは男の様子が見えているのか見えていないのか、
一方的に話が進んでいく。
話がひと段落すると小さな窓から小さなお守りが、
そろりと下ろされた。

「それが貴方を守ってくれる。
……誰か来そう。
話はここまでで後はお願い。」

小窓の向こうから気配が消えると、
変わりに得体の知れない気配が漂う。
話によると夜な夜な村で亡くなった魂がさまよっている。
それが子供達を次々とさらって行きあの世へ連れて行くという。
事実かどうかはすぐに分かる。
そんな気がした。

曲がりくねった道をゆっくり進むと、
そろそろ自分の泊まっているところのはずが、
どうも道が違うらしい。
いつまで行っても入口が見えない。
次第に焦り始める男は立ち止まり耳を澄ました。

「みーつけた。」

真後ろで誰かがそう言った。
お守りなんてなんの効果もない。
これは幻想でも妄想でもない。
子供がパタパタと走ってくる。
こんな深夜にありえない。
男は全力で走るがそれよりも速く子供が迫ってくると、
足音を聞いているだけで分かる。

ふと気がつけば足音が増えている。
無数の足音が我先にと男を捕まえようと追いかけている。

「うっうわー。」

とうとう男は足がもつれその場に倒れてしまい、
子供に囲まれてしまった。

「やっとこれで交代。
つーかまえーた。」

ニヤリと笑って子供たちは次々と走り去っていき、
残された男はハメられたと今気がついた。
しかし既に遅い。
これから永遠とも言える鬼ごっこが始まるのだから……

鬼ごっこ

鬼ごっこ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-14

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