不思議な日記
「……眩しいわ!」
目を覚ますと既に日中になっている。
カーテンの隙間から溢れる日差しが目を直撃し、
かなりの高さまで太陽が昇っていることがわかる。
昨日朝方まで遊びまわっていたせいもあり、
部屋の中はあれこれと悩んだ服や小物類が散乱している。
ベッドで眠っている本人も昨日帰ったまま寝てしまい、
服はくしゃくしゃ。
せっかく綺麗に整えた髪も爆発している。
「あっつ……。」
窓も締め切ったままにクーラーは付いていない。
室温は30度をゆうに超えている。
手を伸ばしてベッドの下に転がっている、
腕時計を拾おうとしたがもう一歩のところで届かない。
無理をして更に手を伸ばし届いた瞬間、
ベッドからひっくり返ってしまった。
「いたたっ。
ったく止まってんじゃん!」
せっかく拾った腕時計は朝の時間で止まっていたことを、
文字盤を見た時思い出した。
なんだか動くのも面倒で落ちた位置から、
やっとのことでベッドの上へと戻ると、
今度はクーラーのリモコンを探す。
いつもならベッドのどこかにある。
もぞもぞ暑い中布団をどけずに潜り込むと、
一人我慢比べでもしている気分へと誘われる。
いい加減限界と掛布団を床へどさっと置くが、
リモコンは見つからない。
「……まさかね。」
ありえないことはない。
そう思ってバッグの中へ手を突っ込んだ。
ピッという音と共に涼しい風が部屋を満たしていく。
「そう言えば何かくれたんだっけ。」
昨日は幼馴染で、
生まれてから高校3年まで一緒にいる仲。
運が良いのか悪いのかクラスまでずっと一緒という、
ありえないくらい切っても切れそうにない関係の、
姉妹のように見えてしまう二人で遊んでいた。
「誕生日だからって毎年くだらないものばっかくれるんだから。」
ブツブツ言いながらバッグの中身をひっくり返し、
貰ったプレゼントを開けると……、
「日記帳?」
ピンク色を基調として高価そうな金色の金具が周りについていて、
宝石のように輝くものまでいくつも付いている。
それに鍵まで掛かる立派な日記帳。
一目惚れとはこういうことかもしれない。
日記なんて3日も続いたことがないというのに、
なかなか複雑なプレゼントとなってしまった。
すっかり目も覚め起き上がると、
ごちゃごちゃになっている机の上の小物を、
机の奥へ避けると日記帳を開いた。
「来週が誕生日だから今日は29日だっけ。」
指を折りながら日付を確認しようとするがわからない。
そしてしばらく考えるが思い出せない。
夏休みに入って数日のことではあるが、
不規則な生活のせいもあり日にち感覚がなくなっている。
誕生日プレゼントを貰ったが昨日がその日ではない。
「一日くらいずれても良いや。」
日付を入れるところに7月29日と入れ、
昨日あったことを細かく書いた。
目が覚めたこともあってようやく部屋の状況が見えてきた。
いい加減掃除をしないと何がどこにあるのかすら、
自分でも判断できなくなりかけていることもあり、
汗だくになることを覚悟して一気に掃除を始めた。
1時間ほど集中して掃除をすると、
だいたいのものは元の場所へと戻すことができ、
満足すると部屋から出て風呂場へと直行した。
「ふぅーさっぱりした。」
お風呂から上がると誰からか電話らしい。
きちんと服も着れていないまま、
母親から受話器を受け取った。
「もしもーし?」
「もしもしじゃないよ!
もう約束の時間過ぎてるんだけどもしかして今起きたの?」
声で誰かはすぐに分かる。
幼馴染のあいつだ。
しかし昨日約束をしていて今日も会う約束など、
しているはずもない。
そもそも今日も会うのであればプレゼントは今日で良かった。
「昨日?何言ってるの?
そんなことより早く来てよね、待ってるんだから!」
しぶしぶ行くことに決めたが明らかにおかしい。
まさかあれが夢だったとでも言うのだろうか。
首をかしげながら服を選び、
結局あの服装に着替えると急いで出かけた。
「……。」
やはり昨日と同じ行動を取っている。
予知夢でも見たかのように1から10まで、
ずっと覚えている行動である。
深夜に入るとカラオケに行って朝まで歌い続ける。
始発の時間になるとようやく開放され帰宅する。
まるっきり同じ一日を二度も体験した気分だった。
しかし疲れきったこともあってそんなことよりも、
ベッドに倒れ眠りに落ちることのほうが先だった。
次の日も同じ行動をとっていた。
「あれ……。」
日記を書いている途中でふと我に返る。
昨日も同じことをしている。
そう感じながらも日記を書き終えると、
昨日と同じように出かける。
そして幼馴染と楽しい時間を過ごす。
昨日と違う点と言えば眠気が来ないこと。
深夜になりカラオケへ行っても、
二人が帰ろうと言い出すことはなく、
そのまま幼馴染の家へ遊びに行くこととなった。
朝方になり家へと着くと当然のように家の中は静か。
まだ寝ている雰囲気がしていた。
二人がこっそり家に入り部屋を目指す途中のことだった。
誰だかわからない男が現れ斬りかかってきた。
「!?」
強盗。
それが分かってもどう対処すべきかはわからない。
バッグで叩いたところで男は顔を見られたこともあり、
二人に襲いかかってくる。
「逃げて!」
気がつくと男と取っ組み合いになっている。
「でも!!」
「良いからさっさと警察呼んで来て!」
「分かった。」
隣の家へ必死に走って警察を呼んでもらう。
すぐに家へと戻ってみるが既に遅かった。
そこには血まみれになっている幼馴染の姿があった。
一気に力が抜けへたりこむ。
「そんな……。」
ふとバッグからプレゼントが見えた。
「日記帳……。」
何かが変わる。
警察の静止を振り切って自宅へと戻ると、
そう願って再び同じ日付で日記を書いた。
もう一度電話がかかってくる。
そう期待して。
不思議な日記
日記 友情 命
1990年代前半程度を浮かべて