雑草の主張


えっへん!オイラは雑草さ!
みんな、オイラのこと知ってるかい?
オイラたちは、みんながいつも通っている道のそこかしこにいるんだけど。
と言っても、とくべつ目をひくわけじゃないから、注目もされないんだけどさ。
むしろオイラたち、邪魔もの扱いされることの方が多いんだ。
オイラたちってばすごい早さで成長するもんだから、他の草花の成長を邪魔しちゃうこともあるんだ。
だからどうなるかって言うと、人の手で刈られるのさ。他の花みたいに、大事にされることはない。
でもそれが悲しいってわけじゃないんだ。オイラたちはしぶとくて、またすぐに生えてきちゃうんだから。
それに注目されるってのも、何かと大変みたいだからね。
オイラたちがわんさか生えてるそのすぐ隣に、桜の木がいるんだ。
その桜の声がさ、この前、高いところから降ってきたんだよ。
「さっき私を見た人ってばこんなこと言ってたのよ。“桜って、咲いたと思ったらすぐ散っちゃうのね。もっと私たちを楽しませてくれてもいいの
に。”ですって!ちょっと、私たちは誰かを楽しませるために咲いているわけじゃないのよ。みんな、気持ちよく咲いていたいだけ。ただせいいっ
ぱい生きているだけなのに。
それなのに勝手に注目しておいて、もう散った、なんて言われたら、いい気はしないわね。」
そう言うと桜の木は、静かに花びらを風に預けた。
それを聞いたオイラたちは、互いに顔を合わせて苦笑いしたもんさ。
それから、向こう側の家の庭に咲いてるバラの花。赤やピンクや白のバラたちが、緑の間からたくさん顔を出してさ。
それはきれいで、オイラたちもうっとりしてたんだ。
けど、やっと咲いたと思ったら、すぐ人の手で切られてどっかに持ってかれちゃうんだ。
きっと、部屋に飾られたり、人にプレゼントしたりするんだろう。
でも、太陽の光を浴びたり、空気を吸い込む自由が奪われる。なにより、切られた花の生涯は短い。
あと、そうそう、バラがいる庭と反対の方の家の花壇には、赤いチューリップがいるんだけどさ。
その赤いチューリップも、最初はいせいがよかったんだ。
「オッホッホ、わたくしはこの花壇のどの花たちよりも立派で、ご主人さまもみんなに自慢してくださるのよ。」
だけど、少ししたら、そのチューリップよりもっと立派できれいな赤いチューリップが花壇に咲いてさ。
・・・あとは言わなくてもわかるよね。その時のチューリップの落胆ようときたらなかったよ。
どんなに自分がきれいに咲いても、自分よりすごい花なんてたくさんいるんだ。
誰かと比べる人生って楽しいのかな?自分よりすごい花が出てきたら、自分はダメな花になってしまうのかな。
オイラならいやだな、そんなのは。
人に注目されたり、切られて持ってかれたり、比べられたりするのは、きれいな花だからさ。
オイラたちにはそんなことは無縁さ。ほかのみんなと比べられることもない。
オイラたちは、人があまり手を加えない地面を見つけては、こっそり侵入する。
世話なんていらない。むしろ、ほったらかしにされてた方が自由に生きれるってもんさ。
そう、オイラたちにいちばん必要なのは、自由なんだ。
誰かのために、注目を浴びるために、競争に勝つために生きるんじゃない。
ただ、思いっきり、思った方向に自由に伸びる。それがオイラたちの強さの秘訣さ。
・・・おっと、言っとくけど、オイラたちだって役には立ってるんだぜ。
オイラを作物と一緒にさせておけば、虫たちはオイラを食べるってわけだから、作物の被害は少なくなるんだ。
それに、みんな・・・。
“雑草のようにしぶとく生きろ”って言うだろ。あれ、オイラたちにとって最高の誉め言葉なのさ!

と、まぁ、ふだんは全然主張なんかしないオイラだけど、実はいつも、こんなこと思って生きてるってわけ。
もの言わぬ雑草の、ものめずらしい主張。たまにはそんなのも・・・ありだよね!


おしまい

雑草の主張

雑草の主張

雑草。 ただ黙って太陽に伸びる、雑草。 そんな雑草は普段こんなことを思っています。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-11

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