僕の最初で最後の告白

僕の最初で最後の告白

その時、僕は見た。
オレンジに染まる空に負けないくらい、きらきらと風に靡く甘茶の髪を。
ふと頭の中を過ったことばと。

「天使は、恋をすると空に帰られなくなっちゃうんだって。何でだと思う?」

それは…

「 」


僕の最初で最後の告白


今日もまた、何もない日々が続いていく。

毎日毎日同じことの繰り返しで、何も面白くない。

他人に興味もないから、この16年間まともな友達もいないし、自分の家族も放任主義な為、あまり関わらない。

「今日もまた、つまらない。」

ぼそっと呟き、部室へ向かう。

写真部はほとんどが幽霊部員のため、まともに活動しているのは自分だけだった。

これはこれで好都合だった。

誰とも関わらないですむし、部室は自分だけの空間にできる。

部室のドアを開けると、インクと紙の混ざった匂いが広がる。

唯一の宝物であるカメラを持って、中庭に向かった。

「別に何もないな。」

中庭は撮りすぎて飽きた。

「…家に帰ろう。」

最近、写真でさえつまらない。


波の音と海鳥の声が聞こえる。

自宅が海沿いだから仕方ないが、こうも毎日同じだとさすがにイライラする。

いつもと違うことを。

そう思い、浜辺に足を向けた。

サク…サク…

浜辺にいるのは自分だけだった。

冬の風は耳が千切れるんじゃないかと思うくらい冷たい。

ふと気になり、海に向かってカメラを構える。
そこには、今までいなかったはずの少女が写り込んでいた。
ぎょっとしてカメラをおろすと、その少女はそっと振り向いて、

「天使は恋をすると空に帰られなくなっちゃうんだって。なんでだかわかる?」

そう聞いてきた。

なんて応えたらいいのかわからず黙り込んでいる僕を見て、少女は微笑みながら近づいてきた。

「大丈夫!私は人間だから!」

何とも的外れなことを言いながら僕の隣に立つ。

年は僕と同じか1つ下くらいで、
色素の薄い肌や髪、瞳が特徴的だった。身長は僕が173cmだから、150cmくらいだろうか。

きらきらとミディアムショートの髪が風に揺れて、単純に綺麗だと思った。

「私、毎日ここにいるから、また来てよ。」

そう言って彼女は眩しいくらいの笑顔を向けて、僕が来たのとは逆方向に歩いて行った。



次の日、
別にその不思議な少女に言われたからではないが、何と無く気になったので、同じ時間に浜辺に行った。
昨日と同じ場所に立って、カメラを構える。

「何撮ってるの?」

真横からの声に驚いた。

そこには、例の少女が立っていた。

「なんでカメラを持ってるの?」

彼女は問いかける。

「…カメラが好きだから。」

そう言って無造作に海を撮った。

「じゃあ、私の写真、撮って?」

彼女は海に向かって走り、振り返った。

ぱちり

撮った、はずだった。

カメラをおろすと、もうすでに彼女の姿はなく、足跡だけが海に続いていた。

狐にでも騙されているのかもしれない。

撮った写真の中にも彼女はいなかった。


が、不思議と怖い、恐ろしいとは思わず、逆に面白いと思った。

次の日も、その次の日も僕は海に行った。

「天使はいつもは人間と一緒に生活してるんだよ。」

彼女はよく、天使の話をした。


彼女と出会ってから数週間が過ぎたある日。

「ねえ、天使は恋をすると空に帰られなくなっちゃうんだけど、なんでだかわかる?」

また、同じ質問だ。

「なんでだろうな。」

僕のことばに彼女はびっくりしたように

「言葉、話せるんだ!」

と言った。

考えてみれば、この少女といる時に初めて発した言葉だった。

「話せるよ。」

僕は不意に彼女を抱きしめたくなった。

立ち上がり、彼女の横へ歩く。

「今度は、突然消えたりしなかったね。」

そう言って彼女の真横に立つ。

「消えたりはしないよ。」

彼女はまた、僕に聞く。

「ねえ、なんで…なんで天使は恋をすると空に帰られなくなっちゃうのかな?」

僕は応える。

「地上に未練が残っちゃうからとか?」

彼女は言う。

「違うよ。」

「恋をすると、心が重くなっちゃうから。飛べなくなっちゃうんだよ。」

僕はその間、彼女と出会ってからのこの数週間を思い返した。

彼女といると心が安らぐ。
穏やかで落ち着く。
何もない毎日でさえ、愛おしく思えた。


「天使は、恋をしてはいけないんだって。」

彼女が言い終わるのと同時に、僕は彼女を抱きしめた。

「いいよ、帰られなくて。一緒にいようよ。」

僕は言う。

「初めて、大切だと思えたんだよ。初めて、愛おしく思えたんだよ。」

自然と涙が零れた。

「…だめだよ。帰らなきゃ。」

彼女はそっと僕の背中に手をまわす。

「だから、ね。」

彼女は僕から離れ、

「また、ここで会おう?」

僕の身体が軽くなる。

「また、会おう。」

彼女は空に向かって手を振る。

夕焼けがとても、綺麗だった。

僕の最初で最後の告白

告白。

一緒にいたいよ。

ありがとうございました。

僕の最初で最後の告白

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-11

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