流星群~番外編~
番外編ということでちょっとした小話を置いています
ブラック先生
あたしのお母さんは、ホグワーツで『天文学』の教授をしている。
あのクールな態度で、一部の生徒に怖がられているみたい。
あたしはお父さん似らしくて、あんまり“似てるね”とか言われない。
「スピカ、私の顔に何か付いてるかしら?」
しまった、今は惑星の観察中だった。
「…若づくりの術の勉強してただけ」
「変身術の応用だって、何度も言ってるでしょ!」
控えめなクスクス笑いが広がったけど、グリフィンドールは5点マイナスされた。
(あたしを贔屓したり、しないんだもんなぁ)
だからこそ、普通に授業を受けられる。
そう、別に贔屓してほしいわけじゃないんだ。
*
「ねぇ、お母さん」
「…何?さっきのが冗談だっていうのは、わかってるわよ?」
授業が終わってから、あたしは教壇に駆け寄った。
「うん。でも、天文学じゃなくて変身術の授業を受け持てばいいのに、って思ってた」
「何よ、今更?変身術は得意だけど…感覚的だから、教えるのは難しくて…」
「ふぅん、そうなの?――って、その話じゃなくて。…上手く言えないんだけど」
「私、リーマスじゃないから、言わなきゃわからないわ」
ルーピン先生って呼ばない時点で、プライベートな話題だってのはわかってるくせに。
「…あたし、お母さんみたいに、クールな女の人になりたいって、思わないことも…ないからね?」
「…?…何が言いたいのかはわからないけど、貴女がクールですって?」
「ちょっ、そこじゃないでしょ!」
お母さんはフフッと笑った。
「知ってるわよ。私みたいになりたいって、そう思ってくれてること」
「…開心術?」
「いいえ。──スピカが最初に変身したのは、私だったでしょう?」
「…そう、だったっけ?」
そうよ、と言われて思い返す。
「私、あまり子供好きってわけじゃないの」
「それ、教師としてどうかと思うよ」
「…学校に通うより、もっと幼い頃が苦手で」
ふぅん、と相槌を打つ。
「相談してたリリーは殺され、愛する主人は捕まり、女手一つで育てることになって…私は教育者なのに、どうすればいいかわからなくなった」
「大変…だったね、お母さん」
「ええ。…でも、それを恩着せがましく言うつもりはないわよ?親の義務だもの」
教室は親子二人だけの空間みたいになってる。
「ただね…貴女の育て方が、合ってたかどうか、不安になるときがあるのよ」
「ちょっ、何それ?そんなこと、言わないでよね…」
「あぁ、違うの。ごめんなさい、貴女がどうこうじゃなくて…これは子を持つ親なら、誰しも思うことらしいわ」
「あたし…育て方に、正解とかないと思うけど」
「…そう、その通りなのにね」
お母さんの長い睫毛が、綺麗な青い目に影を落とした。
「だから──話、最初に戻るけど…さっきの言葉は嬉しかった」
「へっ?…あ」
「小さいときはずっと“お父さんみたいになりたい”って言ってたから。…あの人の話ばかり聞かせてたものね」
「お父さんのこと…大好きだよ」
そう、と寂しそうに笑うお母さん。
「…でも、あたしの性格ってお父さん似みたいだし?どっちになりたいかって聞かれると、お母さんかな」
「スピカ…ふふっ、貴女って子は。そういう素直じゃない所、どっちに似たのかしらね」
…どっちもだと思うけど、それは黙っててあげよっと。
この笑顔、お母さんのことを勘違いしてる奴らに見せてやりたい、なんて思った。
ルーピン先生
『闇の魔術に対する防衛術』の教授リーマス・ルーピンは、あたしの名付け親――つまり後見人らしい。
とても健康には見えないが、雰囲気も言動も優しい人。
「ルーピン先生」
「なんだい?スピカ」
「なーんでもない♪」
学校では──ルーピン先生の部屋を除いて──“リーマスおじさん”とは呼ばないことにしている。
お母さんのことは、学校でもお母さんって呼ぶけど。
「こら。気になるじゃないか」
「あたし、ルーピン先生みたいな人と結婚したいなって」
「おや、それは嬉しいが…黒くて大きな犬が怒りそうだ」
「そうかな?」
黒くて大きな犬──お父さんは、怒るというより拗ねそうだと思った。
「今、何してるんだい?」
「自由時間です。先生は?」
「私もだよ。じゃあ、遊びに来るかい?」
「やった♪」
こんなに素直なリアクション、彼にしかしないと思う。
*
先生の部屋に入ったら、いつもホッとする。
「コーヒー淹れるから、好きにしてて」
「うん」
本棚を眺めてから、椅子に座った。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、リーマスおじさん」
「君は何か…聞きたいことが、あるようだね」
「わかったの?流石だね!」
おじさんは開心術が得意だって、前にお母さんが言ってた。
「別に、大したことない…昔話なんだけど」
「いいよ、何でも聞きなさい」
「じゃあ聞くね。ハリーの名付け親はあたしのお父さんなのに、なんであたしの名付け親はリーマスおじさんなの?」
「…すまない。私では不服だったろう」
「えっ、なんでそうなるの?!そんなわけない!」
なんか勘違いしてる?ちょっと説明不足だったかも。
「えっと…違うよ。ごめん、あたしってばストレートすぎて」
「いや、なんだかシリウスを思い出したよ」
微笑むおじさんを一瞥して、コーヒーとは言えない甘い飲み物を流し込んだ。
「…ジェームズおじさんの子供は、お父さんが名前を付けたでしょ?だから、お父さんの子供には、ジェームズおじさんが名前を付けたいって…言ったんじゃないかと思って」
「…言ってたよ。懐かしいね」
コーヒーを口に含んで、昔を思い出してるみたい。
「ジェームズは当然、そのつもりだった。でも、シリウスは私にこう言ったんだ。“この子の名付け親になってくれないか?”ってね」
「…ジェームズおじさん、残念がったんじゃない?」
「ああ。残念そうだったけど、すぐに納得してくれたよ」
どうして?って顔をして話を促す。
「シリウスが、私を好きだったからさ」
「……へぇ」
「ははっ!冗談に決まってるじゃないか」
「…面白くない冗談だね…」
リーマスおじさんはマグカップを見つめた。
「スピカは覚えてないだろうけど…ミラク以外で君を最初に泣き止ませたのは、なんと私だったんだよ」
「そう、なの?」
「あれは…そう、ミラクとリリーは確か、食事を準備してたんだ。だからその間、子供を見ててくれって言われて」
「あぁ…あたし、抱っこしてないと寝ない子だったって、お母さんに聞いた」
そう、とリーマスおじさんが笑った。
「私はもちろん、赤ん坊の扱いなんてわからないから、抱っこするのも断ったんだ。でも、シリウスやジェームズが抱っこしたら、何故かすごく泣いてしまってね」
「リーマスおじさん、嬉しそうだね」
「だって、嬉しかった…嬉しかったよ。幸せな思い出だよ」
おいで、と手を広げるおじさんに驚きつつ、その胸に飛び込んだ。
「私も家族が欲しくなった」
「家族、みたいなもんじゃない」
「…ありがとう、大好きだよ、スピカ」
リーマスおじさんに抱き締められるのは初めてだけど、すっごく落ち着く。
「──あぁ、もうこんな時間か」
「あ、ホント!あたし、行かなきゃ」
「スピカ、またいつでもおいで」
「はーい、ルーピン先生」
お言葉に甘えて、絶対またすぐ来るよ!
次の授業中も、あたしの顔は緩みっぱなしだった。
ブラック夫妻
「──お父さんとお母さんって、ホントに愛し合ってたの?」
ルーピン先生の部屋を訪ねて、第一声がこれだ。
「なっ、何を言っているの、この子は…!」
「あ、お母さん…」
ちゃんと確認すればよかった…。
「…えーっと、スピカ?まずは落ち着こうか」
「あたしは落ち着いてるもん」
「いきなりどうしたんだい?」
「ねぇ、お見合い結婚じゃないよね?」
リーマスおじさんの問いかけをスルーして、お母さんに質問をぶつけた。
「私とシリウスは恋愛結婚よ。…なんだか恥ずかしいわね」
「恋愛、結婚…良かった~」
「両親の結婚までの過程って…そんなに大事、なのかな?」
「なんとなく“お見合い結婚”っていう響きが嫌じゃない?誰かが“うちの両親はラブラブだ”って自慢してたから…」
説明しているうちに、我ながら馬鹿らしくなってきた。
「私達が仲良くしてる記憶がないのよね。ごめんなさい…」
「その言い方、まるで離婚したように聞こえるよ」
「あ、そもそもシリウスのことを覚えてないんだものね…」
流星群~番外編~