ジゴクノモンバン 地獄編Ⅱ(1)

第一章 青鬼青太と赤鬼赤夫

 青鬼の子どもの青太と赤鬼の子どもの赤太が鬼の小学校での授業が終わり、家に帰ろうとしている。
「なあ、赤夫」
「なに、青太」
「なんか、俺んとこのとうちゃん、変なんや」
「青太とこも?僕のうちの、パパも変なんや」
「やっぱりそうかいな。この前、一緒に、仕事場のジゴクの門にとうちゃんを迎えに行ったやろ」
「うん。そうやった。一緒に、パパを迎えに行ったわ」
「あの後から、とうちゃん、何か、変なんや」
「そうや、そうや。僕んとこのパパも変なんや」
「なんか、おどおどしとる」
「そうや、おどおどしとる」
「特に、かあちゃんの前では、尻に敷かれとる」
「そうや。ママの前では尻に敷かれとる。待って、それは前からや」
「そうやった。それはおいといて、俺と話をするときでも敬語を使うんや」
「僕に対しても、敬語を使うわ」
「サッカーボールを蹴ろうとして、空振りするし」
「キャッチボールはグラブからボールを落とすし」
「やっぱり、おかしいで」
「うん、おかしい」
「いっぺん、確かめよ」
「どうやって?」
「ええ、方法があるんや」
「教えて、教えて」
 青太と赤夫は道端でこそこそと話をはじめた。そして、
「いこ」
「いこ、いこ」
と、家へ帰る道とは反対方向に歩いていった。

 二人の鬼がジゴクノモンの前で立っていた。
「なんや、暇ですねえ。にせ青鬼どん」
「その、にせ、言うんはやめてんか。にせ赤鬼どん」
「あんたも言うってまっせ。でも、ほんまのことですよ、にせ青鬼どん」
「もう、ええわ」
「それにしても、この、にせ鬼生活、いつまで続くんでっしゃろ」
「それはわしにもわからん」
「わたし、そろそろ、家族に疑われてきてますのんや。鬼の言葉を真似してますけど、違うんでっかいな」
「あんたもか。わしもや。やっぱり、ちょっとイントネーションが違うんやろ。嫁さんは、元々、相手にしてくれてなかったから、かまんのやけど、子どもがどうも疑うとる」
「私んとこも同じですわ。キャッチボールがへたくそや言うて、怒りますのんや」
「わしは、サッカーボールがうまいこと蹴れんと、空振りするんや」
「はよう、ほんまもんの赤鬼や青鬼に帰って来て欲しいでっせ」
「そりや、そうやけど。ほんまもんの赤鬼や青鬼が帰ってきたら、わしらジゴク行きやで」
「ジゴク行きですか?」
「ジゴク行きや。この門の中に入らなあかん」
 にせ青鬼が後ろを振り返る。
「でも、今、鬼を騙し続ける生活もジゴクでっせ」
 にせ赤鬼も続いて振り返り、門の扉をじっと見つめる。
「そりゃ、そうやな。どっちもジゴクや」

 その話を門の柱に隠れて聞いていた青太と赤夫。
「やっぱり、にせものか」
「よくも騙したな」
と、にせの青鬼とにせの赤鬼に飛びかかった。
 相手は子どもでも、鬼。力は強い。にせ青鬼とにせ赤鬼は簡単に組み敷かれてしまった。
「とうちゃんはどこへ行ったんや」
「パパを返せ」
 馬乗りになって頭を小突きあげる。
「すまん、すまん、騙すつもりじゃなかったんや」
 にせ青鬼が謝る。
「わたしらも、あんたらのパパに命令されたんや」
 にせ赤鬼が泣き声を上げる。
「それ、どう言うことや」
「うまげに言うてもいかんで」
 にせ青鬼やにせ赤鬼は、青太と赤夫にかくかくしかじかと理由を説明した。
「ほんまかいな」
「また、騙すんとちゃうか」
 信じない二人の鬼の子ども。
「ほんまのことです」
「信じてください」
 土下座をするにせ鬼たち。
 ようやくにせ鬼の話を信じた鬼の子どもたち。
「よし。とうちゃんを捜しに行こう」
「うん。パパを見つけよう。でも、どうやって?」
「このおっさんらが言うには、とうちゃんたちは竜巻に巻き込まれたんや。そやから、竜巻を探したらええんや。俺らも竜巻に巻き込まれるんや」
「竜巻?」
「そうや、竜巻や」
「その竜巻って、どこに?」
「ほら、1日に1回、この門の中で、空気の渦が舞うんを見たことがあるやろ」
「うん、見たことがある」
「それが竜巻や。その時に、この門の中に入って、竜巻に巻き込まれるんや」
「怖あないんかいな」
「そうせな、とうちゃんに会えんで。会えんでもええんか」
「パパに会いたい」
「ほな、竜巻に巻き込まれなあかんのや」
「でも、どうやって、門の中に入るの?こどもは門の中に入れんで。それに、鍵はないし」
「鍵なら、このおっさんらが持ってるはずや。なあ、おっさん」
 青太がおっさんに尋ねた。
「はい、持ってます」と、懐から鍵を見せるおっさんたち。
「ちょっと、門を開けてえなあ」
「開けてえなあ」
 鬼の子たちがだだをこねる。
「いやあ。これは、ジゴクに落ちてきた人間たちを門の中に入れる以外には、使えないんです」
「使えないんです」
「それを破ったら、あんたらのとうちゃんたちに怒られる」
「そう、怒られるんですわ」
にせ鬼たちが断る、
「それなら、にせものの鬼の、人間のあんたたちが門の中に入るんか」
「入るんか」
 脅す青太たち。
「そ、そ、それだけは勘弁してください」
「ご勘弁を」
 土下座して、お願いするにせ鬼たち。
「それなら、門を開けろよ。あんたたちの秘密は黙っておいてやるよ」
「やるよ」
 青太たちの提案に、互いに顔を見合すにせ鬼たち。
「ちょっ、ちょっと、相談させてください」
にせ青鬼が立ち上がり、
「にせ赤鬼どん、こっち、こっちと」
ジゴクの門の柱の前に手招きする。
「にせや言わんといてえなあ、にせ青鬼どん」
と、にせ赤鬼はにせ青鬼の方に近づく。
「なあ、どうする?」
「どうしまっか」
「相手は子どもやけど、やっぱり鬼や。力ではかなわんわ」
「かないませんね」
「言うこと聞かなあかんわな」
「あきまへんな」
「それでも、あの青鬼や赤鬼が戻って来て、こどもたちを門の中に入れたことがわかれば、わしら、ジゴク行きやで」
「ジゴク行きですね」
「それでも、このままほっといても、ジゴク行きやな」
「ジゴク行きですね」
「早いか、遅いかや」
「そう。遅いか、早いかでっせ」
「ほな、遅い方にしようか」
「そうでんね、先送りにしましょ」
「何でも、問題は先送りや」
「私も、人間界ではそうしてきました」
 意見が一致したにせ鬼たちは、鬼の子どもたちに向かって叫ぶ。
「鬼さん、こちら」
「手のなる方へ」
 青太たちが門に近づく。
「なんや、話は終わったんかいな」
「門は開けるんやな」
「はい。門は開けます」
「門を開けます」
 青太たちに催促されて、にせ鬼たちが門の鍵を開けた。
 ガラガラガラ。
 仁王門が大きく開いた。
「わあ、すごい」
「すごい」
 青太たちが叫ぶ。
「門の中はこんなんやったんか。じっくり見たんは初めてや」
「いつも隙間からしか覗いていませんでしたからね」
「怖うて、見とうなかっただけやけどな」
「その通りでっせ」
「自動販売機があるで」
「人間たちが切符を買ってまっせ」
「あそこが入場口かいな」
「金がなかったら入れんのですかいな」
 にせ鬼たちも立ち尽くす。
「ほな、行ってくるわ。バイバイ」
「後はよろしく。バイバイ」
 青太たちは、にせ鬼たちに手を振ると、ジゴクノ中に入っていった。
 ギギギギギ
 にせ鬼たちは、ジゴクの門を閉めた。
「鬼や言うても、やっぱりこどもや。可愛いもんや」
「そうですね。手を振るなんて可愛いでんな」
 その時、
「わあああああ」と言う叫び声の中に「きゃああああ」と子どもたちの声がした。
にせ鬼たちが空を見上げると、門の中では竜巻が舞い上がっている。
「あいつら、大丈夫やろか。鬼の子どもやけど、わずかの間、一緒に暮らしとったんやから、情が沸くな」
「そうでんな。キャッチボールしたことが、つい、昨日のことのように思われますわ」
「いつ、キャッチボールしたんや?」
「昨日ですわ」
「そりゃ、当り前や」
「すんまへん」

 青太と赤夫は、竜巻の中に巻き込まれていた。
「あっ、俺のポケットからお小遣いが落ちていく」
「僕もや」
「かあちゃんから、今朝、もらったばかりやのに」
「週刊鬼ジャンが今日発売でっせ」
「そうやったんかいな。忘れていたわ」
「覚えとっても、もう買えやしませんわ」
「エンマ様、返してえなあ」
「こんな子どもからまで、お金をまきあげんでもええのに」
「ジゴクも苦しいんかいな」
「パパの給料が下がることはあっても、上がらんとママが言ってましたわ」
「ああああああ」
「いいいいいい」
青 太たちは、人間たちと一緒に人間界に落ちていった。

ジゴクノモンバン 地獄編Ⅱ(1)

ジゴクノモンバン 地獄編Ⅱ(1)

第一章 青鬼青太と赤鬼赤夫

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-09

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