放棄


 遮光カーテンによって自室まで届かない太陽の光
もう何年、見ていないだろう。
伸びきって黄ばんだ爪、鼻にかかるまで伸びきった前髪
とうにまともな人としての生き方を投げ出した自分に、嫌でも生きていることを実感させるいらない成長に、僕は舌打ちをした。
油でべたついた髪をかきあげると、その拍子に舞ったフケで目がしみる。
熱を覚まそうと、ファンが耳障りな音を立てて回るパソコンの画面が、涙で滲んだ。

 どうしてこうなってしまったんだろう。
僕一人じゃ答えのでない疑問を、心の中で反芻する。
何度も何度も反芻する。
どうしてどうしてどうしてどうして。

窓を隔てた向こう側から聞こえる、小学生たちの下校する足音と楽しげな声。
その時、僕の中で何かがプツリと切れてしまった。
台所のシンクで、無造作に倒れている包丁を手に取る。
窓の向こう側では相変わらず楽しそうな声が聞こえる。
自室では立ち上げたままのパソコンからファンの回る音がする。
プツン プツン プツン
切れていく
何かが切れていく。
あんなに嫌だった外出も今なら不思議と怖くない。

久しぶりに会う太陽の色は、形はどんな風だろう。
扉を開けながら、そんなことを考える。

放棄

放棄

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-08

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