十八代中村勘三郎襲名披露公演

この舞台は『研ぎ辰の討たれ』の前に行われた公演で、『研ぎ辰』は披露公演の一番終わりに行われた舞台だった。

7/8 『十八代目中村勘三郎襲名披露七月大歌舞伎』 大阪松竹座

勘三郎さんの襲名披露公演という事で会場はとても華やかだ!ピシッと着物を着付け綺麗に髪を結い上げた、みるからにお茶屋の女将と判るような美人の姿がアチコチに・・・(笑)

だが一方では杖を持ち足取りもおぼつかないような高齢の女性も多く見かけた。でもその方達もラメが入ってキラキラと輝くレースのスーツにイヤリングや豪華なネックレスを身に付け、お洒落をして歌舞伎を楽しんでおられる姿にチョッと感動もした!(^^)

【昼の部】

★『寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)』

工藤左衛門祐経=橋之助

曽我五郎時致=染五郎

曽我十郎祐成=勘太郎

小林妹舞鶴=孝太郎

化粧坂少将=七之助

大磯の虎=扇雀

この演目は、例えばお正月のようなお目出度い時に上演されるものだそうだ。だから寿という字が演題の頭についているし襲名披露の最初に持ってきたのかな。

でも曽我兄弟の仇討ち(あだうち)がお目出度いとも思えないのだが・・・(^^)

頼朝から総奉行に任命された工藤祐経の館では祝宴が行われ、大勢の人達が祝いに訪れている。そこへ二人の若者が工藤に目通りを許されて入ってくるが、その顔を見て工藤は昔、所領争いが元で工藤に討たれた河津三郎祐康(すけやす)に似ている事に気付く。その河津三郎の遺児曽我十郎祐成(すけなり)と弟の五郎時致(ときむね)は長年の念願が叶いようやく父の仇である工藤と対面することが出来たのだが、五郎は仇を目の前にして逸る気持を抑え切れない。そんな五郎を冷静な兄の十郎が何度も止める。皆の進言も有って工藤は兄弟に杯を与える事にするが兄の十郎は作法に従って礼儀正しく杯を受けるが五郎は杯を壊し三方を潰してしまう、このシーンが見所なのだそうだ。工藤は時節が来れば潔く打たれようと狩場の通行切手を兄弟に与え兄弟も納得する。

イヤーホンガイドによると歌舞伎では舞台の登場人物が化粧とか髪型で悪役とすぐに判るようになっているらしい。梶原兄弟の赤ら顔に髷の下から伸びた髪形が敵役の象徴だとか・・・。勘三郎さんの次男・七之助さんが化粧坂少将(けわいのさかのしょうしょう)を演じていられるが顔は小さくてとても綺麗!女形にピッタリだと思うが他のベテランの人達に比べるとやはり動きが今ひとつ・・・、まだ若いのだからしっかりと修行をして良い役者さんになってもらいたいものだ。

★『十八代目中村勘三郎襲名披露 口上』

幕が上がると勘三郎さんを中心に向かって右側に芝翫さん、左側には勘太郎さんと七之助さん以下舞台の端から端までずら?っと役者さんが並んでいた?!(笑)

いやぁ?壮観だわぁ?!さすが勘三郎さんの襲名披露の口上だと思った!

初めに芝翫さんのご挨拶があり次々口上が述べられていき、最後にご本人のご挨拶と型どおりに進んで行ったが勘三郎さんの奥さんが芝翫さんの娘さんだし福助さんも芝翫さんの息子さん、こうして見ると歌舞伎の世界はこの様な姻戚繋がりが多いんだなぁ?と改めて思った。

踊り

『現太』

坂東三津五郎

『藤娘』

中村勘三郎

この藤娘を観て女形に扮した勘三郎さんが、こんなにも踊りが上手だったなんて・・・、本当に驚いた!  顔も綺麗だし、踊る腰に揺れはないし、手つき足捌き、どれを取ってもお見事!という他はない。正面に大きな松ノ木がドーンと座りそれに絡む藤の花が松の枝の間から沢山下がっている。この松ノ木が男で藤は女をあらわしているのだという。男を恋うる女の心を藤の精と藤娘に分けて踊る勘三郎さんの姿は襲名披露公演に相応しくとても艶やかだ。

★『伊賀越道中双六(いがごえどうちゅうすごろく)』  沼津

雲助平作=勘三郎

娘お米=福助

呉服屋十兵衛=仁左衛門

東海道沼津の宿近くで呉服屋の十兵衛は忘た用を思い出し出し、荷を担いでいた供の安兵衛を戻らせた所へ年老いた平作が現れ荷物を担がせて欲しい頼むが、これが七十の老人と有って荷物を担ぐのもやっとの事、足元はヨロヨロとして躓いて爪を剥がしてしまう。そこで十兵衛は持っていた印籠から薬を取り出して手当てをし、おまけに自分の荷物を担いだ上駄賃まで与える。そこへ平作の娘お米がやってきて父がお世話になったお礼がしたいと家へ招くがこれが大変なあばら家で・・・(^^ゞ 薦めに応じて一夜の宿を借りる事にした十兵衛はお米の美しさに惹かれて結婚を申し込むが夫ある身だと断られてしまう。平作の傷を治した薬が欲しいお米は夜中に十兵衛の布団の下から薬の入った印籠を盗もうとして十兵衛に見つかってしまう。十兵衛は金ではなく何故印籠なのかと問いただすと、自分の為に負傷した夫・和田志津馬の傷を治したいとの事、だが訳を聞いた十兵衛にはそれを受け入れられない事情があった。志津馬を唆し志津馬の父親を殺した股五郎は十兵衛が出入りしている沢井城五郎の従兄弟に当り、十兵衛はその股五郎を九州へ逃すように頼まれていたのだ。そういう事情が有って力になれない十兵衛は他に頼れる人はいないのかと尋ねると平作が二歳の時に養子に出した平三郎という息子が居ると明かした。なんとその平三郎が実は十兵衛だったのだ!だが沢井への義理から名乗る事も出来ず石塔の寄進に事寄せてお金を置いて出発するが見送ったお米は、印籠を見つけ、しかもそれが夫が狙う仇・沢井の持ち物だと知る。又平作もお金に添えられていた臍の緒書から十兵衛が養子に出した平三郎だとわかり十兵衛の後を追う。千本松原の宿はずれで追いついた平作は実子とわかった心情と娘夫婦の苦労を訴え股五郎の居場所を教えて欲しいと頼むが十兵衛は恩義が有ると明かさない。そして傷を治すようにと印籠を差し出すが平作は十兵衛の脇差で自分の腹を切り娘の為に命を懸けて股五郎の居場所を尋ねる。ついに十兵衛は「沢井股五郎が落ちていく先は九州相良」と明かし親子の名乗りをするが平作は二人に抱かれて静かに息を引き取る。

この作品では勘三郎さんは見事な老人になっていた(^^) パンフを読むとこの役は父の十七代勘三郎さんが60才を過ぎてから初めて演じた役だそうだが、新勘三郎さんはもう4年前に演じられているという。最後の場面の親子の愛に義理を断ち切る十兵衛と平作のやり取りに思わず涙がこぼれた。とぼけた動作で見事な老人を演じられた勘三郎さん、人情厚い十兵衛そのままの仁左衛門さん、娘のお米の福助さん、3人共とても良かった! 歌舞伎を観て涙がこぼれたのは初めての経験だった?(^^ゞ

【夜の部】

★『宮島のだんまり』 大薩摩連中

幕が上がると舞台中央に花魁の格好をした芝翫さんを挟んで両側に侍姿の勘三郎さんと仁左衛門さんが居て、昼公演の口上を観られなかった観客の為だと思うが、ミニ口上が有って新勘三郎さんを宜しくとのご挨拶があった。

「だんまり」とは歌舞伎独特の動きで腰をかがめ手で辺りを探る仕草をしながら暗闇の中を動く動作を言うのだそうだ。

場所は宮島だから平家に関わる人物が大勢登場し役者さん一人一人に役名は付いているのだが台詞は全く無くて、言わば出演者が総出演の顔見世のようなものらしい。全員がそれぞれの目にも鮮やかな衣装をつけ、舞台のアチコチをだんまりの仕草で動き回る。この舞台の見所は芝翫さんが花魁姿の傾城浮舟太夫で登場したが、実は盗賊袈裟太郎だったという、その変り様らしいのだが、残念なことに夜の公演の席が前から4列目では有ったが花道の後ろ側に当り、花道で客席に向かって見得を切る場面は全部後姿で・・・、目の前には芝翫さん分厚い草履を履いた足だけが見えていた?(笑)

台詞がない分お囃子が素晴らしく、まるで津軽三味線かと思わせるような見事な撥捌きも見られたし、長唄と常磐津の掛け合いなども楽しく、見ていて飽きない出し物だった。

★『大津絵道成寺(おおつえどうじょうじ)』

鴈治郎五変化

藤娘・鷹匠・座頭・藤娘・船頭・大津絵の鬼

これは五変化となっているが実際は六変化で鴈次郎さんの早変わりが見所の作品、その変りようの早さには本当に驚かされた!唯一最後の鐘の中から大津絵の鬼として現れる場面ではメーキャップもガラリと変る為かかなりの時間がかかっていた様だ。人間国宝・鴈次郎さんの踊りは素晴らしいが、時折顔が細かく左右に振れる事が有ってやっぱりお年かなぁ?と感じた(^^) でも座った姿勢で後ろにググーッと反る身体の柔らかさは流石?!唯私の好みから言えば勘三郎さんの藤娘の方が好きだし、素晴らしかったように思う(^^)

十八代中村勘三郎襲名披露公演

十八代中村勘三郎襲名披露公演

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-09-19

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