それだけじゃない……
いつものバスに乗れば、微かな夕日が
落ちる海岸。
一度きりの機会は、灰色ビルの隙間に
予感を照り返す。
わずかな艶のないオレンジ色と濃い影。
いつものなら、家路へ薄紫の風が誘う。
きょうは、ひとつ前のバス停で
降りてみるかな。
間もなく、陰も光も溶け合うだろう。
たまにはいいかも。
きょうだけ途中下車。
珈琲カップの縁を舐めながら、
あなたに逢えない涙、隠そうか。
いつものバスに揺られながら、勇気を
握り締める。
夕焼けのなぐさめは、諦めに変わり、
風の匂いは、色を失い、
星が微かに瞬くには、あと少し。
予感するのは、思い出したくない別れ。
もう終わった、たぶん終わった。
たぶんわたし、アナタに求めすぎた。
アナタはわたしを大事にし過ぎた。たぶん。
だから、たぶん、きょうは途中下車。
珈琲カップの縁、冷ましながら、
あなたの珈琲、盗み見る。
あやまらないから、ゆるして。
きょうは、白いカップは二つだから。
それだけじゃない……