天からの贈り物2013

みんなにとっては楽しいクリスマス。けど・・・

「うっわ。
あのケーキ高くね?」

「クリスマスだからってぼったも良いとこだよね。」

道を行き交う人々はクリスマスムード一色。
カップルはもちろんのこと子供連れの家族や、
友達同士で楽しそうに聖夜を過ごしている中、
ひたすら売れそうにないケーキを売っている。

もちろんクリスマスケーキであるが、
既に時刻は夕食時を過ぎているせいもあって、
街角で販売しているケーキに目を向けるも、
立ち止まる人など多くいるはずもない。

今日と言う日が暇過ぎて、
割の良いと思い、
入れたバイトだが、
思うようには売れずにこんな時刻になってしまった。

バイトの内容は簡単なもので、
街頭で100個のケーキを売りつくせば終了というもの。
よって時間には無関係にお金がもらえる。
すぐに終わると思ったからこそ入れたバイトが、
これほど厄介だとは思わなかった。

人通りの多いこの道で100個のケーキを売るなんてことが、
こんなにも大変であるとは思っていなかった。
お昼から始めた販売は暗くなる前までにほとんど売れたが、
夕方以降は全く売れていないのである。

「なんで12月24日なんかに生んだんだよ…。」

とうとう今日と言う日にまで文句を言う始末であるが、
誰も何も悪くはない。
単にそんなバイトを引き受けた本人の責任である。
何もかも12月24日であることが悪いのである。

とは言っても、
ただでさえ寒い真冬の夜に立っているだけというのは、
思った以上に体が冷えてしまい、
その場で足踏みをして体を温めていても寒さが和むことはない。
次第に指先の感覚もおかしくなってきたのか、
寒さまで感じなくなってきた気がした。


たったあと3つのケーキ。
それが売れるのを待っている。
売り切ればバイト終了。
そんな時間の決まっていないノルマだけがあるバイトは今後、
絶対にしないと心に決めた瞬間だった。

さっさと売りきりたいと思って、
少しでも見てくれる人が通ると必死に声をかけるが、
それが逆効果になっているのか、
立ち止まってくれた人も、
幻想から我に返るかのように歩き出してしまう。

このまま25日になるまで、
残りが売れずにいたらどうしようとまで思ってしまった。
それでも全てのケーキの分の金額が揃わなければ、
帰宅することもできない。
ため息でも付けば事態は急転するとは思えないが、
こんな時にはついついため息が出てしまう。

「ちょうだい。」

咄嗟に残りのケーキが置いてある台を見ると…
誰もいない。
いないのだが声だけが聞こえた。
いよいよ寒さのせいもあって、
幻聴まで聴こえてきたのかもしれない。

既に効果の薄いカイロをポケットの中で握り締めるが、
ほんのり温かさが伝わる程度で、
この冷えた体に温もりが戻って来ることはない。
ただの気休めである。
それでも気分だけ温かくなればもう少しだけ、
頑張ることができる。

「いちごのケーキ?」

「!?」

再び声がした。
やはり幻聴なんかではない。
確かに。
はっきりと。
鮮明にその声は前から聴こえてきた。
慌てて台の前へ体を乗り上げると、
そこには小さな男の子が立っていた。

小さな男の子には高すぎる台。
そのせいで声は聞こえても姿が見えなかった。
遠くからケーキ販売であることは見えてのだろうけれど、
正面まで来るとケーキに手は届かないのである。

「いちごケーキだよ。
買ってくれる?」

とは言ってみたもののケーキはホールのみで、
ショートは売っていないし、
値段も高く目の前にいる小さな男の子が、
そんなお金を持ち歩いているようには見えなかった。

小さな男の子はポケットから小銭を取り出すと、
1枚1枚懸命に金額分あるかを数えているが、
数えるまでもなく足りないように思える。
そして間もなく、
小さな男の子はしょんぼりとした顔をしてしまった。

それを見ればどういう意味であるかは伝わる。
売りきってさっさと帰りたい気持ちと、
この小さな男の子にケーキを食べてもらいたい、
と思う気持ちはあるが、
お金が足りなければ売ることはできない。

複雑な気持ちを抱えつつ、
何か声を掛けようと思ったが、
掛ける言葉も見つからないまま小さな男の子は、
名残惜しそうにケーキを諦めて、
悲しい顔をしたまま走って行ってしまった。

それからケーキは1つ売れ、
残りは2つとなったが、
さっきまで感じていた視線はなくなってしまった。
こんな時間になってまでケーキを買う人はそうそういない。

たまに注がれる視線は冷たさを感じてしまう。
こんな日にまでバイトをしてるよっていう哀れみの視線と、
こんな時間までケーキ売ってても誰も買わないだろという、
冷やかしの視線である。
なんだかもうどうにでもなれと思ってしまう。

ボーッと人の流れを見つめていると、
全員が楽しそうにしていることに苛立ってきた。
本気で他人のことを祝おうなんてしている奴は、
この場所には誰もいない。
ただ便乗して自分が楽しめればそれで良いんだ。
クリスマスなんて…。


突然ケーキの積んである台から千円札がニョキッと顔を出す。

「ちょうだい。」

「!?」

「こら!
ケーキ1つ下さい。
でしょ!」

びっくりしているとすぐに後ろから、
息を切らせた女の子が現れ言った。
身を乗り出して見てみるとさっきの小さな男の子がそこにいた。
どうやらお姉ちゃんと合流して一緒に戻ってきたらしく、
さっきの沢山の小銭はお姉ちゃんが持っている。

ぴったりと金額分を受け取ると小さな男の子にケーキを手渡した。
その時の笑顔と言ったら心の底から喜んでいるように見え、
そんな無垢な笑顔に答えポツリと言ってしまった。

「メリークリスマス。」

ふたりには聞こえていたのかわからないが、
一度こっちの方を向いてニコニコした顔で手を振ってくれるが、
ぎこちなく笑顔を作り手旗信号のように手を振った。
あんな小さな子らには今日が何の日かなんてこと、
どうでも良いのかもしれない。

分かっていて都合よくイベントを楽しんでいるわけでなく、
ただ単にケーキを思いっきりお腹いっぱいに食べられる。
そんな日なんだ。
それに朝にはサンタさんからプレゼントがもらえる。
これほどまでに特別な日は他には誕生日くらいのものだろう。
そんな子供たちであるならば、
素直に今日という日を楽しんでも良いのかもしれない。

ふと、空からは真っ白な雪が舞い降りている。
どおりで寒いわけだが今だけは温かく感じられた。


残り1つだけになったところで完売の札を出し、
最後の1つは自分で購入することにした。

ケーキを手に帰路に着くと交差点のところで、
さっきの姉弟が泣いている。
足元にはケーキの箱が無残な姿で落ちている。
どうやら滑って転んでしまったようだ。

お姉ちゃんが必死に弟を慰めようとしているが、
もらい泣きしてしまっている。
遠い日の思い出を思い出す。
たったふたりきりの兄弟を亡くしたあの日のこと。
この悲しみは癒されない。

真っ直ぐその姉弟のところへ向かうと、
笑顔で自分の持っているケーキを泣いているふたりへと手渡した。

「ありがとう。」

笑顔で手を振りながら気をつけるように言って別れると、
そのまま真っ暗で灯りの付いていない家へと帰った。
忙しい両親はたまに帰ってくるがすぐに出て行くほどに、
家族のことなど何も考えていない。
今日だってこんな大切な日を忘れ自宅にはいないのだ。

さっさと自分の部屋へ行きドアを開け、
部屋の電気を付けると足が止まった。
目の前にある小さなテーブルの上に、
小さなケーキの箱と、
見るからに子供騙しのようなプレゼントが乗っている。
更に小さなカードが箱の上に乗せられていて、
手書きで雑に一言だけ書かれていた。

【Happy Birthday】

ほんの少しだけ分けてもらった幸せに感謝した。

天からの贈り物2013

無邪気な姉弟を見ていると遠い日を思い出す。
自分にもあったあの頃。
良い思い出も悪い思い出も全てはこの日。
12月24日。
兄弟を亡くした日でもあり自分の誕生日でもある。
そんな複雑な日でも両親は忘れてなんかいなかった。

主人公の性別年齢はあえてわからないようにしてあります。
誰にでも当てはまるように考えました。

天からの贈り物2013

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2013-11-06

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